DX(Digital Transformation : デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタルテクノロジーを用いて、ビジネスの変化と市場の要求を満たす新しいビジネスプロセスや文化、顧客体験を生み出すことを指します。「DXの羅針盤 〜エグゼクティブに聞く変革の舵取り〜」インタビューシリーズでは、各企業でDXを進めるエグゼクティブリーダーたちを直接取材し、背景にあるビジョンや想いなど、生の声をお届けします。
第二回は、みずほフィナンシャルグループ グループ執行役員 堀内大輔さんです。
みずほフィナンシャルグループでは、お客さまにどんな価値を提供するのかを突き詰め、実現のために必要なスキルセットを整理。人材育成にも生かしています。あなたの会社にとって、DXとは何ですか?
酒井 みずほフィナンシャルグループでは、どのようなDXを進めていらっしゃるのでしょうか?
堀内 みずほフィナンシャルグループは、社会、経済、そして、お客さまに豊かな実りを提供することを経営理念に掲げています。今や、お客さまとの接点は銀行の窓口だけではありません。スマホアプリやインターネットバンキングを介し、ご自宅や通勤電車の中など、さまざまな場所で快適なサービスを提供していきたいと考えています。
酒井 DXを進める上で大切にしていることは何ですか?
堀内 DXという言葉はなるべく使わないように意識しています。
酒井 このシリーズ、「DXの羅針盤」っていうんですが(笑)
堀内 「DXで経営課題を解決します」というと、何となくいい感じがして使いたくなってしまうのですが、DXはあくまで手段に過ぎません。お客さまにどんな価値を提供したいのか、そのために私たちがすべきことは何か、きちんと突き詰めていく必要があります。
酒井 確かに、DXという言葉に満足して思考停止してはいけませんよね。もう二段三段掘り下げて、お客さまのためにできることを考えるのが出発点ということですね。
堀内 そうですね。中には、窓口でじっくりお話を聞かせていただくほうが、速やかに解決できるケースもあるでしょう。
一方で、サービスを進化させるにはテクノロジーの力が欠かせません。大事なのは、お客さまがその時々のニーズに合わせて最適な方法を選べること。デジタルかアナログか、ではなく、バランスかなと思っています。
堀内 何事も一人の力では成し得ません。みんなでアイデアを出し合って進めていくには、メンバーひとりひとりの能力を高めていく必要があります。そのため、人材育成やチームビルディングに力を入れています。
酒井 具体的には、どんな取り組みをされていらっしゃるんでしょうか?
堀内 一口にDXのスキルといっても、事業開発、プロジェクトマネジメント、コミュニケーションなど多岐に渡ります。そこで、必要なスキルセットを整理し、自分たちに必要なスキルを明確化しています。
また、それをもとに自己評価と上司の評価を掛け合わせて採点簿のようなものを作り、自分がこれからどうスキルアップしていけばいいのか、考えるための材料にしてもらっています。
酒井 なるほど。DXに必要なスキルって実は曖昧で、人事や当のDX担当者でさえ言語化できていないケースもありますよね。今の自分ができること、足りないことが明確になれば、努力の方向性もはっきりしますね。
堀内 私自身、好奇心を持っていろんなことにチャレンジしています。興味のあるアプリやサービスは片っ端から試しているので、スマホの中は常に新しいものでいっぱいです。純粋に楽しくもあり、自分たちのサービスのUI/UXを考える上でもすごく勉強になります。
酒井 新しいものに触れたときのおもしろさや感動を、メンバーに伝えることも大事ですよね。「自分の上司は新しいもの好き」となれば、みんなが臆せずチャレンジできるようになりそうです。
酒井 DXを推進するリーダーに必要なものは何ですか?
堀内 オープンマインドで、いろんな人の意見を聞いて判断することです。これってすごく大事なことで、なるべく現場で直接手を動かしている担当者の意見を聞くように意識しています。
酒井 フラットなコミュニケーションのために工夫されていることはありますか?
堀内 私は子供がちょうどZ世代なのですが、Z世代の考えていることが分かるかって言われると、ちょっと自信がありません。知りたいことは素直に聞いて教えてもらっています。
酒井 DXにはカルチャー変革、失敗を恐れずチャレンジする文化の醸成が大事だと言われていますね。みずほフィナンシャルグループさんは金融機関ということもあり、お堅いイメージがあります。
堀内 そうですね。私もそうでしたが、入社すると最初は銀行の支店に配属され、厳格なルールの中で間違いのない仕事を求められます。お金を扱っているのですから当然なのですが、それこそ「機械より正確にやる」くらいの心づもりでやっているものですから、それはもう私たちに刻み込まれたDNAのようなものですね。
よく変革に協力的でない人を「抵抗勢力」と表現することがありますが、中には長い歴史の中で培われた正しい指摘もあります。大切なのは、どちらが正しいかではなく、互いに新しい考え方、異なる考え方を受け入れ、ともに進化させていくことだと思います。
酒井 「間違いのない仕事」と「失敗を恐れずチャレンジすること」って相反する面もあると思います。どうバランスをとっているんですか?
堀内 一度も失敗せずに何かを成し遂げるのは、もう無理な時代です。新たなテクノロジーで新たな価値を生み出すには、くびきから解き放されないと難しい部分もあります。私も「もっと広い考え方を持っていいんだよ」と、チームメンバーはもちろん自分自身にも言い聞かせながらやっています。
新しい取り組みにおいて、失敗は決してネガティブなことではありません。失敗から学べることはたくさんあります。大切なのは、リスクをコントロールしながらチャレンジすることだと思います。口では「チャレンジしろ」と言うのに失敗は許さないとか、失敗すると嫌な顔をするとか、それってフェアじゃないなと思います。
酒井 絶対に超えてはいけないバーを設定した上で、「この範囲だったら自由にやっていいよ」といった砂場のようなものが必要なのかもしれませんね。
酒井 みずほフィナンシャルグループでは、Salesforceをどう使っているのですか?
堀内 私は、2017年頃、国内営業店の業績推進担当として、Salesforce CRMの導入責任者をしていました。当時の私たちは、顧客情報の管理に課題を抱えていて、社内の情報伝達手段の多くにWordやExcelを紙で印刷して、印鑑を押してから共有する古典的なフローを採っていました。
Salesforceに相談してからは速かったですね。わずか3カ月でパイロット導入ができ、7カ月で全社展開にこぎつけることができました。Salesforceによって社内の情報の流れが圧倒的に速くなり、それによってお客さまへのレスポンスも速くなりました。まさに変革が起きたんじゃないかなと思っています。
酒井 実際に使っている皆さんからは、どんな声が上がっていますか?
堀内 最初は入力が少し面倒くさいですし、情報が蓄積されるまではなかなかメリットを感じにくかったようです。でも、情報が溜まってくると本部のレスポンスが良くなって、だんだん利益を実感できるようになったようです。今は導入して良かったと言われます。
お客さまが過去にどんな悩みをお持ちで、どんな対応をしてきたのか、カルテのように一目で把握し、これによって、お客さまひとりひとりに寄り添った、よりシャープな提案をしていきたいと考えています。
酒井 みずほフィナンシャルグループのDXのゴールとは?
堀内 金融機関として、お客さまに長く納得のいくサービスを提供できるよう進化し続けることです。ですから、進化し続けることがゴールといえばゴールかもしれませんね。
酒井 そのために必要なものは何ですか?
堀内 お客さまの声に向き合うことです。私たちはVOC(Voice Of Customer)に関して、かなり先端的な取り組みをしていて、紙のアンケートやコンタクトセンターでのやり取りに加え、SNSの投稿など、なるべくたくさんの情報を収集し、多角的に分析しています。
お褒めの言葉は大変うれしいです。現場で働いているメンバーにとっても、本部で商品開発をしているメンバーにとっても、ものすごく励みになります。一方で、厳しいご指摘をいただくこともあります。例えば、私たちのスマートフォンアプリ「みずほダイレクトアプリ」は、お客さま接点として非常に濃厚です。お客さまの声をもとに、細々とかなりの修正をしています。
大切なのは、こうした声に真摯に耳を傾け、一つ一つきっちり対応していくこと。その繰り返しだと思っています。
※本記事は2023年3月時点の情報です
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「DXの羅針盤 〜エグゼクティブに聞く変革の舵取り〜」インタビューシリーズ
酒井 真弓
ノンフィクションライター
IT系ニュースサイトを運営するアイティメディアで情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年60以上のイベントを企画。2018年、フリーに転向。記者、広報、イベント企画、マネージャーとして行政から民間まで記事執筆、企画運営に奔走している。日本初Google Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu'e'r(ジャガー)」のアンバサダー。著書『ルポ 日本のDX最前線』 (集英社インターナショナル) 、『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』(日経BP)、『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)