現在のビジネス最前線で注目されているキーワードが「カスタマーサクセス」です。保険業界もマインドチェンジを進めてはいますが、「保険商品の販売」という発想からなかなか脱却しきれていない部分が少なくありません。保険業界にカスタマーサクセスの概念を適用すると、どのような新しいサービスや商品が生まれてくるのでしょうか?
顧客中心の事業運営や戦略立案が主流になっている現在のビジネス最前線で注目されているキーワードが「カスタマーサクセス」です。顧客の成功こそビジネスで最重要視すべきものという意味であり、企業側の都合ではなく顧客を中心に据えて事業を展開することを意味します。保険業界もマインドチェンジを進めてはいますが、「保険商品の販売」という発想からなかなか脱却しきれていない部分が少なくありません。保険業界にカスタマーサクセスの概念を適用すると、どのような新しいサービスや商品が生まれてくるのか。今回は、カスタマーサクセスを実践した際の保険業界の未来像をご紹介しましょう。
Salesforceは1999年の創業時からSaaSによるサブスクリプション型ビジネスモデルを展開しており、顧客管理システム(CRM)のグローバルリーダーとして8年連続世界No1を達成しています。
創業翌年の2000年には日本法人をいち早く設立しており、日本でのビジネスも22年目を迎えました。今年2022年2月には社名をセールスフォース・ドットコムからセールスフォース・ジャパンへと変更し、新オフィスを千代田区丸の内に開設するなど、日本へのコミットメントをさらに強化しています。
そんな私たちSalesforceが創業時から大切にしてきたコアバリューは「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等」「サステナビリティ」の5つです。
中でも今回はカスタマーサクセスにフォーカスしてみたいと思います。そもそも「カスタマーサクセス」とはどのような概念でしょうか。ビジネスにおける「カスタマーサポート」と「カスタマーサクセス」の違いから見ていきたいと思います。共に顧客サービスの一部ですが、顧客へのかかわり方には大きな違いがあります。
カスタマーサポートは顧客側に問題やトラブルが発生したときに連絡を受け迅速に解決することが主眼となります。あくまでも受動的な対応で、その作業範囲も限定的かつ一時的なものとなります。一方、カスタマーサクセスは顧客の事業における成長を後押しし、その成功を促進するために注力する能動的なかかわりです。能動的に顧客の成功を支援する点がポイントとなります。
当社はこのカスタマーサクセスのパイオニアを自負しています。カスタマーサクセス・マネージャーという役職をいち早く設けて、その第一号に創業者のマーク・ベニオフが自ら就任したことからも、その姿勢がうかがえるでしょう。日本国内でも2005年に専門組織を設置し、カスタマーサクセスという言葉の普及を早くから図ってきました。
今でこそ、カスタマーサクセスという言葉はかなり浸透し、カスタマーサクセス・マネージャーを設置するケースも増えてきました。しかし、カスタマーサクセスの概念がビジネスのベースとして機能するまではまだまだ普及しているとは言えません。私が事業推進を担当する保険業界でも、まだまだ保険商品・保険会社ありきの発想から完全には抜け出せていないのではないでしょうか。私自身、保険会社での業務経験があるため、こうした課題を肌感覚で感じてきました。
このカスタマーサクセスという考え方を保険業界に適応したらどうなるでしょうか。
これまでの保険商品は、万が一のリスクをカバーすることが主たる目的でした。たとえば、ガンになって認可されていない最新治療が必要になった場合に、ガン保険に加入していれば治療費を気にせず治療に専念できます。あるいは、自宅が火事に巻き込まれて家財を失ったときに火災保険で補償したり、自動車事故を起こしたときに自動車保険で賠償金を支払ったりするなど、万が一の際に保険の機能はとても重要です。ですが、これはあくまで受動的、カスタマーサポート的なサービスにすぎないと考えています。
保険会社はとても強い商品を持っています。そのために、「保険あるいは保険会社は何ができるか」と、保険を主語としたサービス提供になりがちです。しかし、顧客中心の視点で考えると、自動車保険は自動車を使うという人生のイベント全体ではごく一部でしかないことがわかります。
たとえば、子供が成長してきたのでセダンからワゴン車に買い換えたい顧客がいたとき、その目的は家族みんなで移動したいとか、キャンプに行きたいといった生活上の楽しみや豊かさになります。保険会社も、こうした顧客の求める目的を実現するために保険商品を含めて総合的にサポートするという発想に切り替えるべきなのです。これがカスタマーサクセスであり、いまの保険の向こう側にきっとあるはずです。保険会社は顧客のリスクやマイナスを防ぐだけでなく、より良い生活を支援しプラスを生み出すことができるはずなのです。
すでに、カスタマーサクセスの考え方に近い保険商品も登場しています。たとえば、健康増進型保険は病気などのリスクに備えるだけでなく、加入者がより健康になるために健康増進活動をスコア化し、ポイントを貯めることで保険料の割引や特典を受けられます。これからは万が一病気になった時のためではなく、「より健康な生活を送りたい、だからこの保険に加入する」といった方も増えるのではないでしょうか。また、IoTを活用したテレマティクス自動車保険では、事故に備えるだけでなく事故を未然に防ぐことを想定しています。車載用IoTセンサーによって加入者の運転をスコア化し、安全運転意識を高める操作にはポイントを付与し特典に交換できます。今後の損害保険のあり方を変革するカスタマーサクセス型商品と言えるでしょう。
こうした新商品・サービスを提供するにはクラウドとスマートフォンなどの端末を使ったシステムが必須です。また、顧客情報の管理や活用、商品の提案、見積もりから契約、さらに契約後のサポート、保険金の支払いに至るまで迅速かつ的確に実行するためのプラットフォームが必要となります。
セールスフォース・ジャパンでは金融・保険特化型の「Financial Services Cloud」をはじめとしたカスタマーサクセスを実現するためのソリューションを用意しており、スクラッチでシステムを開発するよりはるかに短期間・低コストでサービスの提供を可能にします。
健康増進型保険であれば、加入後の健康増進プログラムへの取り組みをフルデジタル・フルリモートで効率的かつ効果的にサポートできるのです。
具体的な例をあげると、保険契約完了後、自動的に契約のお礼とアプリ登録を促すメールが加入者に送信され、登録が済めば無料で利用できる付帯サービスをアプリに発信する取り組みがあります。登録が完了しなければ日次でリマインドメールが送られます。これらもすべて人手を介さずに実現できます。
アプリには加入者の健康データやステータス(健康ステージ)、ポイント数、目標などが表示され、ステータスに合わせた健康増進のためのお勧めアクティビティを示すなどシステムがパーソナライズされたアクションを提案します。こうした一連の流れを分かりやすく紹介した動画が以下にありますので、ぜひご覧ください。
保険ビジネスの変革、そしてカスタマーサクセスをSalesforceは徹底して支援してまいります。ぜひ、お気軽にご相談ください。
合わせて読みたいeBook「保険を、もっとシンプルに。デジタル変革によるアジリティとスピードの実現」
東山 勇介
株式会社セールスフォース・ジャパン
インダストリーズトランスフォーメーション事業本部
ディレクター 保険業界担当
大学卒業後、コンサルティングファームにて保険会社を中心とした企業の業務変革など、数多くのプロジェクトに参画。損害保険会社に転職後、経営統合のプログラムマネジメントや、デジタルトランスフォーメーションの社内横断タスクフォースなどに従事。セールスフォース・ジャパンではマーケティングやアライアンスを含め、国内保険業界向けのビジネス推進を担当。キャリアの原点は高校時代に経験したラーメン屋でのアルバイト。
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