2022年9月7日と8日に開催した「中小企業・ スタートアップ経営変革Days」。本稿Day2のレポートでは、元宮崎県知事/前衆議院議員である東国原氏による中小企業と地方自治体をテーマにした基調講演、そして中小企業が脱炭素やSDGsに取り組むべきメリットやノウハウを考察・討論したクロージングセッションの様子をレポートします!

(Day1のレポートはこちら)。

 

中小企業と地域社会、そして自治体との連携

日本企業の9割を占める地域・中小企業の成長なくして日本経済の回復はありえません。とはいえ、超高齢化、人口減少、災害への対応、インフラの老朽化など、地域・中小企業の経営には大きな課題があります。基調講演「中小企業×自治体×テクノロジー 真の地方創生の在り方を考える」では、セールスフォース・ジャパン インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 イノベーション推進部 イノベーションデザイナー 増田 拓也をホストに、元宮崎県知事/前衆議院議員である東国原 英夫氏と、財務省出身で、26歳でつくば市副市長を経験し、現在は都市経営アドバイザーの毛塚 幹人氏をお迎えし、自治体と地域企業の共創や、テクノロジー活用による地域の課題解決についての考察がなされました。

 

地方創生は、国や自治体主導のもと、既に様々な政策が講じられています。増田は、両名が取り組んだ地方創生で印象に残った取り組みと、そこで遭遇した困難について質問を投げかけました。

 

セールスフォース・ジャパン インダストリーズトランスフォーメーション事業本部

イノベーション推進部 イノベーションデザイナー 増田 拓也

 

東国原氏は、宮崎県知事時代に同県の農林水産業において、生産から食品加工、物流まで取り組む6次産業化を図るべく、宮崎の特産物であるマンゴーに光を当て大きく注目を集めました。しかしながら、マンゴーは育成に年月がかかるため、人気の加熱によって供給が追いつかなくなり、価格の高騰を招くことになりました。これは初期の目的は達成できたが、新たな課題を生んだ例といえます。

対して思わぬ効果がでた事例の一つが、東国原氏が注力した観光です。新しい箱物をつくるのは財政的に困難であったため、ゴシック建築の古い県庁舎に目をつけ、観光スポット化をします。東国原氏は「議会も職員も、庁舎を見に観光客が来るはずないと大反対でした。私がやったことといえば予備費の5万円を使って、自身の等身大パネルを作って庁舎に設置したことです。蓋を開けてみると年間150万人が訪れ、庁舎で物産品が売れるほどになりました」と、成功事例を語りました。

 

元宮崎県知事/前衆議院議員 東国原 英夫氏

 

毛塚氏は、つくば市の副市長時代を振り返りながら、地方創生はコンサルティング会社にそのまま任せるのではなく、地域で何をやりたいかの戦略をまず立てるべきだと指摘しました。そこで、つくば市の人口25万人のうち2万人が研究者という特性を活かし、研究者といっしょに政策を作るワークショップや、研究が産業に繋がるような起業家の育成を行いました。

ところが、当初イベントに参加する研究者が20名にも満たないという壁にぶつかります。毛塚氏は「地域に研究者がいても、市役所はその人たちを大切にしていなかったと感じ、研究所へ地道に営業しました」と振り返ります。

 

都市経営アドバイザー 毛塚 幹人氏

 

増田は、これらのエピソードから自治体と企業の関係が重要だと述べ、中小企業や地場の企業が地方創生に参加するにはどのような支援や連携が必要なのかを尋ねました。

東国原氏は「行政の支援はとても重要で、デジタル化も待ったなしの状況です。デジタル人材を育成し、企業の皆様に切磋琢磨いただき生産性を上げる、賃金が上がる、消費があがる、そうして景気経済の好循環が生まれます。未来のために、企業はブラッシュアップしていかなければなりません。成長産業の企業を多く育てていくために、行政は支援や連携を推進すべきだと思います」と述べました。

 

 

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競争力強化のためにも脱炭素に取り組むべき

脱炭素経営やSDGsは企業規模を問わず、これからの重要課題です。取引先から徹底を求められるケースも増えている中、「人材不足で手が回らない」「どこから取り組めばよいのか」といった課題も聞こえてきます。

Day2のクロージングセッション「中小企業のホンネ討論 ぶっちゃけ!脱炭素・SDGs対応どこまで?」では、PIVOT株式会社 チーフ・グローバルエディター 竹下 隆一郎氏をモデレーターに、脱炭素経営に取り組む旭鉄工株式会社の代表取締役社長 兼 i Smart Technologies株式会社 代表取締役社長 CEO 木村 哲也氏、そしてサステナビリティTech企業の株式会社ゼロボード 代表取締役 渡慶次 道隆氏をお迎えし、意見交換がなされました。

 

PIVOT株式会社 チーフ・グローバルエディター 竹下 隆一郎 氏

 

自動車部品を製造する旭鉄工は、IoTで工場内の電力消費を可視化し、待機電力の削減、夜間はより消費電力の低い機器を稼働させる取り組みによって、労務費4億円、電力消費22%をカットしました。また木村氏 は、そのノウハウを外部に提供するためのコンサルティング事業も展開しています。木村氏は、トヨタで21年勤務した経験から、製造現場の改善に関するマインドを培ってきたといい、「数字で確認できるようにすると、チームにそれを改善しようとする力が働き、大きな削減に繋がります」と語りました。

ゼロボードは、CO2排出量の算出・可視化や排出量の削減提案、脱炭素化コンサルテーションなど、企業向けに温室効果ガスの排出量を開示できるクラウドサービスを提供している注目の企業です。

2022年4月から、東京証券取引所のプライム市場に上場している企業は、気候変動関連の事業リスク開示が必須になりました。温室効果ガス排出量の算定と報告の世界基準であるGHGプロトコルでは、企業単体だけでなく、関係するサプライチェーン全体の数字を開示することが求められました。関係する全体の数字には3つの区分があり、化石燃料の燃焼による工業プロセスでの排出が「スコープ1(直接排出量)」、外部供給による電力・熱・蒸気などのエネルギー関連が「スコープ2(間接排出量)」、原材料の輸送、加工、廃棄など事業活動関連の「スコープ3(そのほかの排出量)」となっています。

渡慶次氏は、「温室効果ガスは、従業員の通勤や出張で排出するものまで全部カウントしなければなりません。冷蔵庫を製造・販売するなら、耐用年数の中で排出する量を出荷時に推定して報告する必要があります。金融機関などでも投資先・融資先の排出量算定が業務の一環になり、皆さま非常に苦労されています。そこで我々は、さまざまな企業の皆様に算定ソフトウェアを提供しています」と説明しました。さまざまな企業とは、上場企業のみならず、サプライヤーとして関わるすべての企業です。これは広範囲といえます。

さらに渡慶次氏は、将来的にはCO2排出量に応じた課税が発生するので、どの企業も算定・開示の対応を早期に行うべきだと示唆し「環境に配慮したブランドのイメージを得られれば、価格への消費者理解も得られやすくなるし、ブランド戦略的にも効果があります。早く取り組んだ方が間違いなく得です」と付け加えました。

木村氏は、「我々は早期に改善をしていった結果、経営的なメリットを享受できました。決して我慢をしているのではなく、楽をするために不要なものを削って効率化を実現しているのです」と説明しました。デジタル技術の発展によって、人が手をかけなくてもいろいろと可視化できるようになりました。ですから人は、より付加価値を大きくする活動に注力できます。それがSDGsに関連した多くの人の社会進出や働き方改革にもつながっていると語ります。

 

旭鉄工株式会社代表取締役社長 兼

 i Smart Technologies株式会社 代表取締役社長 CEO 木村 哲也氏

 

2015年のパリ協定以降、脱炭素に関する世界の潮流は大きく変わりました。しかし人はいまだに、暮らしの中で変わらず多くのエネルギーを消費し、温室効果ガスを排出しています。

木村氏は、脱炭素化も含め、日本企業の生産性を高めるために、これまで行ってきた改善活動のノウハウを共有できるデータベースを構築していると説明しました。改善ノウハウは競争領域ではないため、多くの企業がデータベースに参加してくれれば環境問題を解決するためのインプットの労力を減らせます。そして本来の競争領域に注力できれば、アプトプットを最大化できます。生産性はアウトプットをインプットで割ったもの。ですから、この試みで生産性を高められると考えています。

渡慶次氏は、アジア諸国は島が多く、大陸と比べて再生可能エネルギーが手に入りにくいため、脱炭素のルール作りで欧州に遅れをとっていますが、「日本企業は、世界を股にかけたサプライチェーン連携が得意ですから、脱炭素の領域でもリーダーシップを発揮できます」と、脱炭素・SDGsが日本の新しい競争力に繋がり、そのなかで中小企業の強みが生かされることを伝えました。

「最終製品メーカーがスコープ3を削減するために、脱炭素に取り組む企業から優先して調達し、消費者の皆さんも価格に転嫁されたとしても炭素排出量の低い商品を選ぶマインドになれば、中小企業の売上にもつながり、脱炭素に取り組みやすくなるはずです」(渡慶次氏)

 

株式会社ゼロボード 代表取締役 渡慶次 道隆氏

 

2日間にわたる中小企業・ スタートアップ向けのセッションはいかがでしょうか?日本企業数の9割を中小企業が占める中、日本経済の底上げは中小企業とスタートアップの成長にかかっているといっても過言ではありません。テクノロジーの進化とともに新しい未来へチャレンジする舞台が数多く用意され、すでに事例も出てきているとあらためて実感しました!

 

 

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「中小企業・ スタートアップ経営変革Days」Day1のレポートでは、青山学院大学 陸上競技部 原監督セッションをはじめ、中小企業におけるチームづくりや、成長スタートアップ企業が経験してきた困難とその克服方法、そして中小企業がリモートワークを実践するためのノウハウに関するセッションをお届けしています。ぜひこちらもご参照ください!