新型コロナウイルスの感染流行がもたらした一面として、テレワークが普及し、社会全体のデジタル化、オンライン化が進みました。この間に起こった変化は働き方だけでなく、ビジネスに及び、保険業界もその渦中にあります。従来、保険加入は募集人(代理店)という人を介したチャネルが主体でしたが、デジタルを活用したダイレクトチャネルが急速に拡大しています。今後、保険業界の加入チャネルはどのように変化し、どのようにデジタル戦略を打ち出すべきでしょうか?
新型コロナウイルスによるパンデミックは私たちの働き方を大きく変え、社会のオンライン化、デジタル化、ペーパーレス化の流れを加速しました。当社の調べ(2020年5~8月)では、変化した働き方が今後も継続すると考える人の割合は69%に達します。
変わったのは働き方だけでなく、ビジネス、行政手続き、医療、ライフスタイル、教育などに影響を及ぼし、あらゆる場面をデジタルに置き換えつつあります。
保険業界も例外ではなく、デジタル化が進行しています。いわば保険業界DXの進展です。アメリカの調査では「90%の消費者がオンラインでの自動車保険契約に前向き」(※1)であり、「保険会社の経営幹部の64%がオンラインによるダイレクトチャネルの自社での拡大を期待」(※2)しています。さらに、「中小企業向けのダイレクト保険の米国市場規模は2025年までに12億ドルに達する」(※3)と予想されています。2020年の市場規模が3億ドルなので5年で4倍になるというわけです。
※1 J.D. Power, U.S. Insurance Shopping Study, 2020
※2 Harvard Business Review Analytic Services Accelerating Change in Insurance Distribution Through Technology, June 2020
※3 Novarica, Direct Online Small Commercial Insurance, 2020 Update, Mar 2020
日本でもダイレクトチャネルによるネット加入の意向は増えています。生命保険文化センターの2021年度調査(※4)によれば、「インターネットで生命保険に加入したい」と回答した人の割合は2006年の5.9%から2021年には17.4%と約3倍に増えています。
ところが、一方で実態を見てみると、2021年に実際にネットで加入した人は4%にすぎません(前出の生命保険文化センター調べ)。大多数は今も募集人(営業職員や代理店など)という人を介したチャネルを経由しているのです。
それでは、今後保険業界はどのように対応するべきなのでしょうか?人による従来チャネルを重視していけば良いのか、技術の進化でダイレクトチャネルが伸びると考えるべきなのか。当社は「二刀流」こそが採るべき道だと考えています。この「二刀流」というキーワードは、当社のCMにも出演いただいている大谷翔平選手の代名詞。Salesforceは保険業界においても、これまでにない挑戦を支援します。つまり、人とデジタルの二者択一ではなく、従来の人を介したチャネルをデジタルで強化し、さらにダイレクトチャネルのニーズにも応えていく。Salesforceならば、この両方に対応できます。
※4 生命保険に関する全国実態調査
それでは、Salesforceの保険業界向けソリューションを活用して、人を介するチャネルとダイレクトチャネルをそれぞれどのように強化できるか見ていきましょう。
最初に、人を介するチャネルでは強化のポイントが3つあります。
第1は「オムニチャネル」です。顧客と募集人(代理店)を複数のチャネルでつなぐことを指します。電話だけでなく、セルフサービス、チャットボット、LINEなどのメッセージアプリも利用可能です。オムニチャネルと言うと顧客に対するものを考えがちですが、募集人のみなさんのサポートでも重要なサービスなのです。
第2に、「データとAI」を活用してインサイトを得ることです。セールスパーソンのパフォーマンス能力の平準化は保険募集においても重要な課題ですが、データとAIがその解決に役立ちます。Salesforceに格納したデータを基に、どの顧客にどのようなタイミングでアクションを取るべきか、AIが推奨してくれます。
第3に、「シンプルでエラーのない業務プロセス」を提供します。Salesforceならば、複雑な保険契約手続きをプログラミングなしで実現できます。契約手続きだけでなく、営業成績を可視化したり報告資料を作成したりするなど、事務業務もシンプルに進めることができます。シンプル、簡単であることは代理店の皆さんにとって重要な要素であるはずです。
Salesforceを導入して、募集人の力を拡張できることを体感している顧客が世界で増えています。その中でイタリア最大手の保険会社であるGENERALIのスイス法人のデジタル戦略をご紹介しましょう。
まず同社が行ったことは、募集人の頭の中に蓄積されていた顧客情報をすべてSalesforceに集約することでした。それを踏まえてクロスセルやアップセルといった提案活動へのアドバイスや示唆の提供が可能になりました。これがデータやAIの活用です。そして、パーソナライズされたコミュニケーションを自動化し、業務をシンプル化しました。
そこで創出された時間を使って、人にしかできないことに取り組みました。パンデミック下ではありましたが、募集人から顧客へのチェックインコールを実施したのです。「お変わりないですか」「ご家族の皆さんはお元気ですか」といった顧客に寄り添う姿勢を示し、信頼関係を構築しました。最後までセールストークがなかったことで、非常に感動した顧客もいらっしゃったそうです。このように人にしかできない取り組みによって感動を作り出すことがデジタル化の本当の価値と言えるでしょう。
次にダイレクトチャネルの強化です。当社では金融特化型の「Financial Services Cloud」(FSC)という短期間・低コストで導入できるソリューションを用意しています。前述のサービスはこのプラットフォームの導入で可能ですが、さらに「Salesforce Industries for Insurance」(SFI)によってダイレクトチャネルをカバーできるようになりました。
ダイレクトチャネルというと見積り、申込み、保険金請求のデジタル化と思われがちですが、Salesforceでは顧客体験全体をフルサポートする統合ソリューションを提供しています。ダイレクトチャネルでは、たとえば、WEBやスマホは簡単に見積りができる一方、申し込みが完了する前に脱落する顧客が多いことも事実です。Salesforceなら保険業界向けソリューションに加えてマーケティングやeコマースのソリューションを組み合わせて活用することができるため、申し込み途中で脱落してしまった顧客のリマーケティングも可能になります。全方向で保険業界DXを実現することができます。
海外ではダイレクトチャネルのソリューション導入が進んでおり、マルタの代理店モデルの損害保険会社Atlasやアメリカのペット保険会社Companion Protect、ブラジルのデジタルバンクのC6 Bankなどが活用しています。これらの事例で特徴的なことは、スピーディな立ち上げを実現していることです。AtlasとCompanion Protectは4か月、C6 Bankは7か月で本番稼働させています。
Salesforceはこのようにダイレクトチャネルをスピーディにフルサポートするだけでなく、募集人チャネルでもテクノロジーを使って人の力を拡張することが可能となります。世界の保険業界で求められる“二刀流”のデジタル戦略実現に、ぜひSalesforceをご活用ください。
東山 勇介
株式会社セールスフォース・ジャパン
インダストリーズトランスフォーメーション事業本部
ディレクター 保険業界担当
大学卒業後、コンサルティングファームにて保険会社を中心とした企業の業務変革など、数多くのプロジェクトに参画。損害保険会社に転職後、経営統合のプログラムマネジメントや、デジタルトランスフォーメーションの社内横断タスクフォースなどに従事。セールスフォース・ジャパンではマーケティングやアライアンスを含め、国内保険業界向けのビジネス推進を担当。キャリアの原点は高校時代に経験したラーメン屋でのアルバイト。