2022年7月12日から15日の4日間にわたり、産業別DX事例が共有されたSalesforceイベント「SALESFORCE Industries Summit 顧客とつながる業界の新しいカタチ 〜デジタルで創る変革と企業価値〜」。本稿では、新しい金融サービスの取り組みが共有されたDay2金融のプログラムから、保険業界の取り組みに焦点をあて、イーデザイン損害保険、生命保険協会、チューリッヒ生命保険の事例を紹介します。

(Day2金融の銀行/アセットマネジメントセッションクロージングセッションは別途レポートがあります)。

 

顧客・従業員体験双方の向上ー Salesforce Financial Services Cloud

Salesforceは、金融業界に特化したソリューションとしてSalesforce Financial Services Cloud(以下、Financial Services Cloud)を提供してきましたが、2020年にはVelocity社の統合によって、金融特化のミドル、バックオフィスの業務自動化に関するを加えています。セールスフォース・ジャパン 執行役員で金融・ヘルスケア業界を担当する佐藤 慶一は「一気通貫のデジタルトランスフォーメーションをご支援できるようになりました」と語りました。

 

セールスフォース・ジャパン 執行役員 インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 

金融・ヘルスケア業界担当 シニアディレクター 佐藤 慶一

 

Salesforceは約2年に一度、金融業界の顧客動向に関する調査レポート「Salesforce's Future of Financial Services(英語)」を発表しています。最新版は2022年4月に発表したもので、日本を含む全世界の消費者、そして金融機関のエグゼクティブ2250名にヒアリングした結果です。このレポートでは、金融機関のお客様のニーズが必ずしも充足されていないということがわかりました。

顧客のニーズを予測して金融機関が対応してくれると答えた顧客は13%、自分の経済状況をより良くするために金融機関が行動してくれると答えた顧客は19%、金融機関へのコンタクトに対するニーズを充足してくれていると答えた顧客は19%と、低い水準でした。

佐藤は、これらの課題を解消するSalesforceのソリューションとして、顧客が住所変更や本人確認をできるモバイルアプリの実現や、顧客の行動に寄り添ってコンタクトセンターや営業担当者が最適なアクションに移れるユースケースを紹介しました。Financial Services Cloudを中心としたソリューションによって顧客体験、従業員体験双方において満足度、業務生産性、そして売上向上に関する各項目で改善効果が確認されているのです。

佐藤は、「Salesforceはこれからもめまぐるしく変化する世界情勢、経済環境の中で、金融機関の方々が卓越したカスタマーサービスによってお客様から信頼され、また高い生産性を実現して従業員からも選ばれる、そのような金融機関であり続けることを継続的に支援いたします」と、プレゼンを締めくくりました。

 

18ヶ月で刷新、フルクラウドで究極のCXを目指す

続いて、セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部 田村 英則が、イーデザイン損害保険株式会社 取締役社長 桑原 茂雄 氏を招き、同社のSalesforce活用事例をお聞きしました。

 

セールスフォース・ジャパン 常務執行役員

エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部 田村 英則

 

イーデザイン損保は、2009年に設立されたネット型の自動車保険を扱う、東京海上グループの企業です。2021年11月に、新しいコンセプトの自動車保険「&e(アンディー)」の提供を開始しています。自動車保険としてのこれまでのサービスは、事故の際に顧客が安心して対応を任せられるというものでしたが、&e では、IoTセンサーの車載やモバイルアプリなど、デジタル技術を使うことで、日々の安全運転をサポートし、寄付プログラムによる交通インフラ整備を行うなど「事故のない世界を目指す」という一歩進んだコンセプトを実現しています。

この背景について桑原氏は「世の中の役に立つとかソーシャルグッドなものにお客さまの興味が変わってきていると感じていました。弊社の若手のクルー(社員)がSalesforceの提供するIgniteプログラム(デザイン思考のフレームワークによって、アイデアの実現や経営課題解決に取り組むイノベーションプログラム)に参加して『お客さまともっと深いところでつながりたい』といったアイデアが出てきましたので、経営とクルーの想いが合致したと思います」と述べました。

 

イーデザイン損害保険株式会社 取締役社長 桑原 茂雄氏

 

イーデザイン損保のIT基盤は、究極のCXをご提供するという観点から見直しを行い、フルクラウドでオープンなアーキテクチャへ刷新しています。MulesoftによるAPI活用によって、損害保険向けのプラットフォームGuidewireやFinancial Services CloudMarketing Cloud、データウェアハウスを連携し、Tableauなどの分析ツールも活用しています。そして顧客接点については独自開発のシステムを展開しています。随所にクラウドサービスを活用することで、18ヶ月という短期間での構築を実現しました。

今後はPDCAサイクルを回して改善していくという桑原氏は「Salesforceにおいても、世界中のクライアントの声を反映して改善されていると思います。我々はそのいいところを採用し、また我々の声も組み入れていただき、結果的にWin-Winの関係になればと思います」と期待を寄せ、田村も「銘じて進めてまいります」と応えました。

 

開発期間、開発コスト、安定稼動、セキュリティで選定

生命保険協会では、2021年7月に開始した生命保険契約照会制度の取り組みで、Salesforceのソリューションを活用しています。一般社団法人 生命保険協会 理事 駒田 勇人氏に、導入の背景や効果、今後のデジタルに関する取り組みの展望をお話しいただきました。生命保険協会は、日本で営業する生命保険会社、全42社を会員とする生命保険業界の業界団体で、生命保険業の健全な発達および信頼性の維持を図り、国民生活の向上に寄与することを目的とした組織です。

生命保険契約照会制度とは、高齢者が一人暮らしで亡くなられたり、認知症等で認知機能が低下した場合に、本人以外の家族が保険契約を把握できないといった課題を解決するセーフティーネットの取り組みです。生命保険契約の有無を照会したい人が生命保険協会に問い合わせ、生命保険協会が生命保険会社42社に照会を行い、42社からの回答を取りまとめる制度で、ここで利用される契約照会システムをSalesforceのソリューションを使って構築しました。

駒田氏は「照会の申し出から回答にかかわる一連の手続きのみならず、ご利用者様向けの回答帳票の作成や、ご利用者様からの利用料の払い込みに関しても、契約照会システムにて手続きを完了することができます」と説明を加えました。

 

一般社団法人 生命保険協会 理事 駒田 勇人氏

 

生命保険契約照会制度の前身として、2011年に発生した東日本大震災で被災された方の生命保険契約の有無の照会を受けつける制度がありました。ここでは照会者から電話で受付し、生命保険会社との連絡は簡易なシステムで対応していました。運用期間が経過し、照会件数が減るにつれ、システム利用コスト負担の関係から、管理はExcelファイルとなり、保険会社とのやりとりも電子メールに変わっていきました。

今回は平時でも利用できる制度とするため、照会件数の増加が見込まれ、照会者と生命保険協会、生命保険各社を連携するシステムの構築を求めました。

 

 

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なぜSalesforceが選ばれたのか?その理由と今後の展開についてはオンデマンドで。

 

レガシー脱却を果たしたチューリッヒ生命の奇跡

チューリッヒ生命保険が日本法人を設立したのは1996年、2013年からは保障型商品プレミアムシリーズの販売を開始し2021年には、保有契約件数126万件を突破しています。チューリッヒ生命保険株式会社 CITO 金子 稔功氏は「保有契約件数を順調に伸ばしていく中で、営業施策の推進、業務オペレーション領域などで成長の下支えをしていたのは、Salesforceでした」と語りました。

顧客にとって常にナンバーワンの存在であることを目指して2013年に開始された「企業変革プロジェクト」に向けてSalesforceを導入して以来、2019年にはレガシーシステムの脱却も実現しています。2013年からの3年間は新商品開発とオムニチャネル展開によるトップライン向上に注力し、Community Cloud(Experience Cloud)を導入。2016年からの4年間は、ITやオペレーション領域の効率化、生産性向上を推し進めるプロジェクトを展開し、Service CloudやShieldを利用します。そして2020年からは、データ分析を戦略上のテーマとして捉え、CX・DX推進をするフェーズに入っており、EinsteinやEnvision、Tableauも活用しています。

Salesforceプラットフォームによる業務アプリケーションの刷新の効果について金子氏は「得られた効果やメリットは非常に大きいものでした。顧客データを中心としたデータ管理が実現でき、部門横断的な情報共有を図ることが可能となりました。情報の遮断がなくなり、さまざまなシーンで円滑なコミュニケーションが図れるようになりました」と語りました。

 

チューリッヒ生命保険株式会社 

執行役員CITO(チーフ・インフォメーション・テクノロジー・オフィサー) 兼

情報システム本部長 金子 稔功氏

 

続いて、レガシーシステムからの脱却の詳細について、プロジェクトマネージャーを務めた チューリッヒ生命保険株式会社 情報システム本部開発部 次長 亀井 秀敏氏が説明しました。

亀井氏はレガシー脱却の工夫として、「置き換える・リプレースする」「捨てる・減らす」「調和する」の3つのアプローチがあったとしました。従来システムから置き換えられるものはSalesforceに移行し、必要ないものは削除し、COBOLの契約管理システムなど、オープン系システムは残して調和する形としたのです。

 

チューリッヒ生命保険株式会社 情報システム本部開発部 次長 亀井 秀敏 氏

 

レガシーシステムからの移行の詳細はオンデマンドでご紹介しています!

レガシーからの移行を振り返って亀井氏は「地道に工夫をしていくことにより、レガシー脱却を実現することができました。これによって、新商品開発の15%から20%の工数削減ができ、我々の強みである瞬発力をさらに伸ばすことができました。この強みを武器に、さらなるCX・DXを加速させていきたいと考えています」と語りました。

金子氏もCX・DXプロジェクト推進について触れ、「今後Salesforceにも、最先端のCX・DXの実現を支援してもらえるよう継続的なアップデートを期待しております」とコメントしました。

 

本稿では、Day2 保険業界のセッションを紹介しました。銀行/アセットマネジメント業界のセッションレポートではアセットマネジメントOne、肥後銀行、静岡銀行、東京きらぼしフィナンシャルグループの事例を紹介しています。

その他、渋谷区 副区長CIO 澤田 伸 氏やジェーシービー代表取締役の三宮 維光 氏をお招きしたクロージングセッションのレポートもあわせてご覧ください。

そして、Day1 製造業Day3 小売/消費財の開催レポートもお見逃しなく。