コロナ禍を経て社会の価値観、お客様の行動や私たちの働き方は大きく変容しました。金融サービスの提供とともに社会的課題を解決する価値創出企業として、金融機関に対する期待もさらに高まっています。そして、国民にとって身近なサービスだからこそ安心、安全で、顧客中心とした価値が求められています。

数々の産業別DX事例が共有されたSalesforceイベント「SALESFORCE Industries Summit 顧客とつながる業界の新しいカタチ 〜デジタルで創る変革と企業価値〜」Day2(2022年7月13日)金融業界向けのプログラムでは、銀行、アセットマネジメント、保険、地域や自治体における新しい金融サービスについての取り組みが共有されました。本稿では、銀行、アセットマネジメント業界の取り組みにフォーカスし、アセットマネジメントOne、肥後銀行、静岡銀行、東京きらぼしフィナンシャルグループの事例をレポートします。(Day2 金融の保険業界セッションクロージングセッションは別途レポートします)。

 

Salesforce for Financial Servicesとは

この2年のコロナ禍に加えて、インフレ、円安、サプライチェーンの課題などが生じ、経済危機と呼ばれる状況にもなっています。セールスフォース・ジャパン 執行役員で金融・ヘルスケア業界を担当する佐藤 慶一は「Salesforceの調査「Future of Financial Services (英語)」では『金融機関が自分の経済的なニーズを充足している』と回答したお客様が全体の20%以下であるという調査結果が出ております。コロナ禍で金融機関は部分的なデジタル化を急ぐあまり、多くのデジタル体験が分断されてしまいました。金融機関と、そのお客様の間のギャップが徐々に広がりつつあるという状況です。この状況は一方で、金融機関のお客様のニーズを充足させていくことによって、金融機関がお客様からの信頼を再獲得できる、そうした絶好の機会であるとも言えます」と、金融業界への期待を示しました。

さらに佐藤は「新たに業務自動化機能を標準機能に搭載したFinancial Services Cloudを中心としたSalesforceの金融業界向け製品群Salesforce for Financial Servicesを活用することで、フロント・ミドル・バックオフィスの一気通貫のデジタルトランスフォーメーションを実現し、お客様のニーズに迅速かつ継続的に対応していくことが可能になります」と語り、Salesforceの金融業界特化のソリューションがお客様との期待とのギャップを埋めていけると紹介しました。

 

セールスフォース・ジャパン 執行役員 インダストリーズトランスフォーメーション事業本部 

金融・ヘルスケア業界担当 シニアディレクター 佐藤 慶一

 

 

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Salesforce Financial Services Cloudとは?

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データドリブン経営に、Salesforceを中心に置く

佐藤によるSalesforce for Financial Services紹介のあとは、セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部 田村 英則が、アセットマネジメントOne株式会社 常務執行役員 ITシステム・事務本部長 加藤 昌彦氏を招き、Salesforce活用についての対談を行いました。

 

セールスフォース・ジャパン 常務執行役員

エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部 田村 英則

 

加藤氏は、みずほ銀行に30年勤務し、みずほフィナンシャルグループでテクニカルオフィサーを務め、アセットマネジメントOneに入社しました。同社はみずほフィナンシャルグループと第一生命が出資する資産運用会社で、「投資の力で未来をはぐくむ」をパーパスに、個人や企業の資産をプロのノウハウで運用する事業を展開しています。

アセットマネジメントOneのDXの取り組みは、新規ビジネスを創出する「変革」、ビジネスを強化する「成長」、効率化して生産性を高める「運営」の3つを同時並行に進めています。その取り組みを支えるために、クラウドベースのデジタルプラットフォームを構築しています。加藤氏は「さらに大事なのはやはり人材の育成と組織文化の変革です。これも併せて進めています」と、Salesforceプラットフォーム採用の背景を説明しました。

デジタルプラットフォームでは、複数のクラウドサービスを活用しており、Salesforceによって連携しています。加藤氏は「連携のしやすさがSalesforceの一番の魅力です」と評価しました。サステナビリティトランスフォーメーションを推進していくには、顧客であるアセットオーナーとも従来以上にコミニュケーションする必要があり、投資先企業のサスティナビリティに関する貢献も評価しなければなりません。非常に多くの高度な情報を迅速に活用するために、Salesforceを中心としたプラットフォームを展開しているのです。

 

アセットマネジメントOne株式会社

常務執行役員 ITシステム・事務本部長 加藤 昌彦氏

 

加藤氏は「Tableauに注目していまして、経営情報ダッシュボードを作り、従業員に対しても、経営情報の開示など情報の共有をはじめます。社内情報格差解消とデータ・ドリブン経営に向けたリテラシーをさらに高めていきたいと考えています」と述べました。

2022年度はデジタルプラットフォームを導入し基礎固めを始めて、人材育成に取り組む段階で、2023年度にはそれを定着化、全社員の3割をDX人材にするという目標を掲げています。そして、デジタル変革のロードマップ策定をするコンサルティングSalesforce illuminateサービスを活用し、営業本部が顧客接点の変革のための取り組みを展開しています。

加藤氏は「DXをやりたいけど、なかなかリテラシーを上げるのは難しいという相談をユーザー部門から受けたとき、このサービスを思い出して提案したところ、今年度から本格的にこのプログラムを使わせていただいています。ツールだけでなく、このようなサービスも提供するSalesforceは本当に企業変革のパートナーだと考えています」と説明しました。

 

地域の固有性と将来性を熟慮し、Financial Services Cloudを採用

Financial Services Cloudは、地域金融機関にも採用されています。熊本県を主な営業基盤とする肥後銀行のセッションでは、法個一体営業、銀・証・信連携を実現する次世代のCRM基盤としてFinancial Services Cloudを使った事例が共有されました。

肥後銀行は2015年に鹿児島銀行グループと経営統合し、九州フィナンシャルグループに参加しました。金融サービスを超えて、地域の持続性に資する顧客価値を提供する活動が評価され、2019年に日本経営品質賞を銀行業界で初めて受賞しています。DXへの取り組みについて、肥後銀行 営業統括部の大友 潤二氏は、「2021年7月に肥後銀行DX計画を策定・公表しました。お客様への新たな体験サービスの提供と、行内のプロセス改革による生産性向上の2つを軸に、その実現のために必要な体制を整備するとともに、KPI達成に向けた多様な取り組みを展開しています」と説明しました。

 

株式会社肥後銀行 営業統括部 営業企画グループ グループ長 大友 潤二氏

 

肥後銀行では、2009年にCRMをはじめて導入し、顧客情報の蓄積と効率的な営業活動を強化してきましたが、金融の枠を超えたコンサルティングなど、顧客のニーズの多様化や、熊本地震、豪雨といった大規模災害、そしてコロナ禍による急速なデジタル化などによって顧客との接点が大きく変わってきました。そこでCRMを「営業支援主体」の機能へ更改し、地域活性を共に推進するべく、事業パートナーとしてSalesforceを選定しました。

パートナーとしてSalesforceを選んだ理由について、肥後銀行 営業統括部の下田 稔久 氏は「まず、当行が目指す次世代CRM機能の実現度が高かったことです。次に、環境変化に応じた柔軟なカスタマイズと機能拡張ができることです。そして、将来にわたり、地域DX推進のパートナーとしての期待が大きいということです。Salesforceは九州地域での周知を強化しており、九州フィナンシャルグループの目指す姿に共感をいただいていることも心強く感じています」と述べました。

 

株式会社肥後銀行 営業統括部 営業企画グループ 企画役代理 下田 稔久氏

 

 

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肥後銀行の行員はなぜSalesforceを使えるようになったのか?

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複数金融機関と共同化する継続的顧客管理プラットフォーム

マネロン対策強化に向けた当局方針を踏まえて、多くの金融機関が継続的顧客管理の高度化に取り組み始めています。静岡銀行と電通国際情報サービス(ISID)のセッションでは、金融機関と顧客双方の負担を考慮し、将来拡張性のある仕組み、および複数金融機関の共同利用を可能としたスキームをSalesforceにて構築した事例が共有されました。

マネロン・テロ資金供与に関する国際基準を策定するFATF(金融活動作業部会)は、金融機関に対して継続的な顧客管理の実施を求めています。静岡銀行 コンプライアンス部の大庭 正壽氏(2022年6月時点)は「管理対象は全顧客であり、相当数の顧客を対象に、定期的な情報の更新を行う必要があるため、いかに効率的かつ実効性の高い顧客情報の確認更新に取り組むかが大きな課題となっています」と継続的顧客管理に関する課題を示しました。

 

株式会社静岡銀行 コンプライアンス部

マネロン等金融犯罪対策統括室長(2022年6月時点) 大庭 正壽氏

 

静岡銀行の継続的顧客管理の業務は、まず顧客データベースから抽出した対象顧客にDMを郵送し、お客さまに郵送情報の確認を促します。Webまたは書面で得た解答をプラットフォームに取り込み、顧客データベースを更新します。この更新された顧客データベースをもとに、顧客リスク格付システムに連携のうえ、顧客リスク評価を実施し、取引モニタリングに活用していきます。静岡銀行では、将来の法令やガイドライン等の改正にも柔軟に対応できるようにするため、Salesforceのプラットフォームを利用し、柔軟性や拡張性の高いスキームを構築しました。

しかし、この業務を開始した当初は、いくつかの課題に直面しました。DMを発送すると、本当に銀行からの依頼なのか、あるいは自分が何か疑われているのかといった照会が多数寄せられたのです。また、アンケートの回答も十分に得られませんでした。

さらに、DM発送とコールセンターの運用アンケート回収にかかる業務委託費が高額となるため、コスト削減も課題となっていました。

そこで、お客さまが操作する回答フォームや、銀行が使用する管理画面、ならびに委託先業務を含むスキーム全体のレベルアップに取り組むとともに、同じ課題で悩む他の金融機関とプラットフォームを共同化してコスト削減およびAML/CFT態勢の更なる高度化を図ったのです。

 

 

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共同化プラットフォーム運用の仕組みとコスト削減の中身とは?続きはオンデマンド配信でご確認ください。

 

グループ連携CRM基盤で、シナジー最大化を追求

東京きらぼしフィナンシャルグループでは、東京・神奈川エリアを中心に、八千代銀行、東京都民銀行、新銀行東京が統合した、きらぼし銀行をはじめ、証券、リース、コンサルティング業務、フィンテック業務と幅広いサービスを提供しています。多様化する顧客ニーズに対応するため、「金融にも強い総合サービス業」を目指し、グループ一体となったサービス提供ができる体制構築を進めています。その体制を支えるグループ連携CRM基盤としてSalesforceのFinancial Services CloudMulesoftを採用しました。

 

株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループ デジタル戦略部長 松尾 行祥氏

 

Salesforceを採用した理由は、営業現場からCRM刷新の強い要求があったからだといいます。複数銀行合併のシステム統合が完了したあと、Salesforceのソリューション「Financial Services Cloud」を知り、自分達が求めているものだと感じました。デジタル・リアルでの展開を進めていくには、各顧客接点でデータを取得・分析してニーズを探り、提案につなげる必要があります。Salesforceの導入で、お客様の理解とお客様データの利活用がポジティブに推進されていくと考えたのです。

顧客情報を中心としたデジタルデータの収集や分析によって、グループ一体で提供するサービスの価値を最大化すべく営業体制を再構築していく東京きらぼしフィナンシャルグループ。Salesforceに対し今後求めることとして松尾氏は次のようにコメントし、期待を寄せました。

「ご提供いただく機能のアップデートはもちろんですが、私どもが目指すこのグループ一体の営業、これを実現する制度面を含めたデータ利活用のノウハウやマーケティング、リアル営業など、Salesforceが得意とする領域のノウハウもぜひプロジェクトの中でご提供いただいて、私どもが目指す世界を一緒に創るパートナーとして伴走をお願いしたいと思っています」

 

本稿ではDay2 銀行/アセットマネジメント業界事例セッションを紹介しました。

保険業界のセッションレポートでは、イーデザイン損害保険、一般社団法人 生命保険協会、チューリッヒ生命保険の事例セッションを紹介します。渋谷区 副区長CIO 澤田 伸 氏やジェーシービー 代表取締役の三宮 維光 氏をお招きした、「地域・自治体」DXに関するクロージングセッションも別途レポートします。