テクノロジーは加速度的に進化し、私たちの社会、生活環境、業務における生産性を飛躍的に向上させてくれています。一方で、産業別にみると、それぞれ固有の課題、適応するテクノロジーはさまざまで、一概にすべての企業がテクノロジーの恩恵を受けているとはいいがたいのが現状ではないでしょうか。

2022年7月12日から15日に開催したSalesforceイベント「SALESFORCE Industries Summit 顧客とつながる業界の新しいカタチ 〜デジタルで創る変革と企業価値〜」では、製造、金融、小売・消費財、通信・メディア業における産業別のデジタル変革が数々の事例とともに紹介されました。

本稿ではDay1「製造業」プログラムの前半、Salesforceの製造業向けプロダクトの説明に加え、京セラ、ヒロセ電機、旭化成の事例セッションを紹介します。(Day1製造・後半のセッションレポートはこちら

 

Salesforceは、創業来、多くの製造業のお客様を支援してまいりました。コロナ禍を経て、デジタル体験の重視、データ・ドリブン組織への移行、新しいビジネスモデルの創出、雇用の流動化、持続可能性は、製造業のトレンドになっていくと考えられています。基調講演に登壇したセールスフォース・ジャパン 専務執行役員 エンタープライズ営業第二統括本部 統括本部長 井上 靖英は「スピーディーなビジネス課題の解決が求められていますので、我々はよりシンプルに、より早くシステムの稼働を迎えられるプラットフォームをご提供したいと思っています」と切り出しました。

Salesforce Manufacturing Cloud(以下、Manufacturing Cloud)は、顧客を中心に、製造業DXに必要な機能を盛り込んだ製造業向けクラウドプラットフォームです。営業活動のデジタル化、代理店とのエンゲージメント強化、サービス体験の変革、従業員の新しい働き方へのシフト、さまざまな社内のデータを横断的に統合し、データ・ドリブンな事業運営をサポートします。

セールスフォース・ジャパン 専務執行役員

エンタープライズ営業第二統括本部 統括本部長 井上 靖英

 

営業活動を支援するManufacturing Cloud for Salesでは、個別受注だけでなく、製造業の皆様が求めてきたリピートオーダー管理の機能も強化しています。Manufacturing Cloud for Serviceは、本イベント当日にリリースした新しいプロダクトで、サービスプロセスの自動化やパーツ需要予測、VOC収集といった機能を有しています。

 

京セラの「アメーバ経営」をデジタルで進化させる

プロダクトの説明のあと井上は「製造業のDXはシステムを導入すれば実現できるものではありません。社員の意識改革、企業文化を変革していくことが大変重要だと考えており、我々が出来る限りの力をもって、ぜひご支援をさせていただきたいと考えています」と語り、まさに変革を実行中の京セラ株式会社 執行役員 デジタルビジネス推進本部長 土器手 亘氏を迎えました。

1959年に稲盛 和夫氏が創業した京セラは、経営者マインドを持ったリーダーを中心に小さな集団でまとまりながら推進力を持ち、それが大きな組織を形作る「アメーバ経営」により成長してきました。しかし事業の変化に従って、本来持つべき自由度が失われつつあり、まずは営業情報を共有し、デジタル化やデータ活用を推進するべくSalesforceを導入しました。

営業では、担当者が訪問先ですぐに情報を入力して全体に共有、社内メンバーの連携を共同提案に活かしています。クレーム管理は速やかに品質保証部門が確認でき、内部の効率化を図ることで、顧客に対してより良い仕事ができるようになっています。資材部門では災害時の状況確認によって代替調達など先手を打った生産ができるようになりました。

土器手氏は「デジタル化の力を使ってアメーバ経営が持っていた良さが強くなればもっといい会社になれるはずです。Salesforceと一緒に新たなものを創造していければいいと思っています」と話しました。

 

京セラ株式会社 執行役員 デジタルビジネス推進本部長 土器手 亘氏

 

自部門の収益を優先するという縦割り組織の打破を課題としていた京セラでは、部門の壁を取り払い、人材の流動化を進める組織変更を行っています。さらに社長自らが社内SNSに発信するなど、上下関係の壁も取り払い、企業文化を大きく変えようとしています。

最後に土器手氏は「デジタル活用によって若い営業担当とベテラン上司の間で新しいコミュニケーションが生まれ、若手にノウハウが注入されていきます。情報武装によって社員の能力を高め、お客様に貢献して、それがビジネスの拡大につながっていくサイクルにしていきたいです。Salesforceはそのための武器としてなくてはならないものです」とコメントしました。

 

プロセス全体の可視化・効率化で高収益を促進するヒロセ電機

続いてセールスフォース・ジャパン 常務執行役員の高野 忍が登壇し、ヒロセ電機株式会社 取締役 管理本部 本部長 鎌形 伸氏と対談しました。ヒロセ電機は、高性能コネクタの開発製造販売を行なっており、業界の世界ランキングは10位の企業です。協力会社を活用した生産システムを導入し、研究開発に集中することにより新製品比率を高め、高収益を確保しています。そしてこの2022年4月にグローバルにManufacturing Cloudのカットオーバーを迎えました。

 

セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 ソリューション・エンジニアリング 統括本部 

製造ソリューション本部 本部長 兼 関西・韓国リージョン担当 高野 忍

 

導入の背景には、コロナ禍を経て需要が増したスマートフォンやウェアラブルデバイスなどのコンシューマー機器、脱炭素で注目される電気自動車、そして生産設備へのロボット導入によるスマートファクトリーといった3つの市場の開拓があります。同一製品で異なる分野・顧客にタイミングをずらしてアプローチすることで、製品のライフサイクルを長期化して効率良い投資回収を目指しています。また、海外における売上比率7割、生産比率4割というアンマッチを補うためのグローバルでの効率化も課題です。グローバルで何をいくつ作るという計画を立てるため、最初のステップとして、全世界の営業活動の可視化を目指します。

「まずは、個々の営業活動のチームで相互アドバイスできるようにすることから始め、最終的には、世界中のセールス活動が一元化・可視化されることでどの製品がどの地域でいくつ必要とされるのかを定量的に把握するために、世界中で活用できるSalesforceを採用しました」(鎌形氏)

 

ヒロセ電機株式会社 取締役 管理本部 本部長 鎌形 伸氏

「そして、ヒロセ電機が展開しているBtoBの製造業のプロセスは、顧客の需要に基づき、繰り返し受注ができる必要があります。これをシステムに毎回入力していくのは非効率です。Manufacturing Cloudはリピートオーダーに標準対応しましたので、このシステムをフル活用していくことでオぺレーション面での効率化も追求して参ります。」(鎌形氏)


今後のビジョンとして鎌形氏は「一緒に活用している代理店と、その先のエンドユーザーの発注情報との連携を検討しています。この部分が可視化されると、製品のライフサイクル全体がより詳細に見えるようになります。これにより、弊社の新製品をどのようなタイミングで提供することが最も喜ばれるかが見えてくると思います」と述べました。

 

 

オンデマンド配信中

本編では、インタビューのあとに披露されたヒロセ電機社のバリューチェーンの将来像をSalesforceが描いたデモンストレーション、また、国内でも採用実績が増えている製造業向けソリューション「Manufacturing Cloud」の導入パッケージ(Quick Start Program)を国内でサービス提供するパートナー4社の紹介もあります。

続きはオンデマンド配信でご覧ください。

豊富なノウハウを持つパートナーとグローバル一括導入を実現

ヒロセ電機株式会社 管理本部 IT統括部 情報システム企画課 副参事 田島 賢一氏のセッションでは、製造業におけるSalesforce活用の悩みや課題に対し、海外パートナーのサポートを得て2022年4月にManufacturing Cloudをグローバル同時ローンチするまでのストーリーが披露されました。

これまでヒロセ電機ではSales Cloudを利用していましたが、製造業に特有の繰り返し受注と、その販売計画管理機能をカスタマイズ開発したり、リード/活動/商談管理など標準的な機能を十分に使いこなすことに課題を抱えていました。製造業のニーズに特化したManufacturing Cloudを業務プロセスに合わせて設定し移行することで、これまでの課題を解決し、Salesforce活用の定着化を推進出来ると考えました。

ヒロセ電機株式会社 管理本部 IT統括部 情報システム企画課 副参事 田島 賢一氏

 

弊社のManufacturing Cloudはグローバルで同時ローンチする必要があり、それを支援可能なノウハウを持った導入パートナーを選定する必要がありました。 国内パートナーも選定候補に挙がりましたが、Manufacturing Cloud導入実績とBtoB製造業に対する理解を併せ持ち、導入やその後をワンストップで支援していただくことが重要と考え、製造業におけるSalesfoce導入に特化した海外パートナーを選定しました。

パートナーの導入テンプレートに従い、リード/活動管理、新規/ランレートビジネス管理、分析など、プロセスごとに用意された設問で論点を共通化するワークショップをグローバル3つのグループで展開しました。これにより、「何がしたいか?」という目的にフォーカスした議論を進め、導入のゴールを複数拠点で統一化することを狙いました。

ワークショップでの議論はオンラインコラボレーションツールを活用し、拠点を超えた参加者間でアイデアを俯瞰し議論ができるようにしました。議論内容がSalesforce 上でどう実現されるのかをその場でデモンストレーションすることで、実際の利用時のイメージを持ってもらうことも試みの一つだった、といいます。

今後について田島氏は「ここからが弊社の真のSalesforce活用のスタートだと思っています。ユーザーの期待に応えられていないところもありますので、これからもパートナーと、セールスフォースの支援をいただきながら、真の活用に向け私達のManufacturing Cloudを育てていきます」とコメントしました。

 

旭化成が実現した事業部を横断したマーケティングDX

続いての注目セッションは、創業100年、従業員4万人を超える旭化成が実現した、事業部を横断した新たなプラットフォーム「oneAK Salesforce」の導入によるマーケティングDXの事例です。旭化成は事業領域が多岐にわたり、部門間連携を伴うDXが困難なことが推測されます。旭化成株式会社 マーケティング&イノベーションセンター マーケティング企画戦略室 主査 栗林 祐介氏は「営業、マーケティング活動は製品や事業ごとに行なわれていたため、情報が事業ごとにサイロ化されており、多角化企業の強みが発揮されている状況ではありませんでした」と、Salesforce導入の背景について説明しました。

 

旭化成株式会社 マーケティング&イノベーションセンター

マーケティング企画戦略室 主査 栗林 祐介氏

 

旭化成では、事業部単位でSalesforceを利用していましたが、それでは全体のDXを迅速に進められないと危機感を覚え、営業やマーケティングを全社で展開するoneAK Salesforceのプロジェクトを2020年から開始しました。共通利用、アジャイル開発を前提として必要最低限の機能からスタートしていきます。そして2022年6月現在では1500名以上のユーザーが利用しており、技術・製造・品質領域のメンバーの参加も増えている状況となっています。部門間の障壁や手間を削減するよう、密なコミュニケーションをとり、各部門の活用事例を共有していき、顧客にまつわる情報すべてをoneAK Salesforceに統合し、全社でダイナミックな活動が展開できる基盤が整いました。

個別の事業部での導入については旭化成株式会社 ライフイノベーション事業本部 企画管理部 企画室 課長 児嶋 和生氏が説明を行いました。ライフイノベーション事業本部は、電子部品や電子材料を扱うデジタルソリューション事業領域と、繊維やサランラップなど暮らしに貢献するコンフォートライフ事業領域の2つで構成されています。児嶋氏のチームはそこでSalesforceとTableauなどをこれまで20以上の製品に導入してきました。

 

旭化成株式会社 ライフイノベーション事業本部 企画管理部 企画室 課長 児嶋 和生氏

 

導入は、事業部における業務の課題をヒアリングして、最小限の機能を導入し、フィードバックを得ながら改善していくアジャイルなアプローチで進行しました。児嶋氏は、現場の協力を得られるようワークショップを開催したり、現場で負荷のかかっている業務をSalesforceで自動化したり、議事録などの既存情報を集約するなどの工夫をしていきました。児嶋氏は「利便性を高めていくと、利用率の向上に貢献できるので、使いやすいものを目指しました」と振り返りました。

 

 

オンデマンド配信中

「oneAK Salesforce」はどこまでの機能を有しているのでしょうか?

事業部、営業担当がどのように利用されているか、詳細はオンデマンド配信でご覧ください。

Day1製造業前半の注目セッションを紹介しました。

製造業後半のレポートでは、ヤマハ発動機、日立ハイテクグループ、タキゲン製造の事例と、世界最高峰のデザインファームIDEO Tokyoの野々村健一氏をお迎えしたクロージングセッションの様子をご紹介します。