新型コロナウイルス(COVID-19)と従業員や事業運営への影響で、世界中のほぼすべての組織が、かつてない難題に直面しています。サービスチームがオフィスに常駐して運営する多くのコンタクトセンターは閉鎖しようとしているか、すでに閉鎖しています。そして今後数か月は閉鎖したまま再開できない恐れがあります。
私は、1日も欠かさずサービス部門のリーダーから話を聞いています。「コンタクトセンター業務を仮想環境に移行するにはどうすればいいのか」、「カスタマーサービス担当者が在宅勤務でも一貫した質の高いサービス体験を提供できるようにサポートするにはどうすればいいのか」といった質問を受けています。
そういった質問をしたくなるのもうなずけます。私たちはデジタルの世界に生きています。すべてをクラウドに保管することで、物事はシンプルになると思うのは当然です。
フロントエンドの技術面はシンプルになり得ます。デジタルチャネルを開設し、クラウドベースのソリューションを利用することで、顧客からの新たな問い合わせに対応するのは比較的容易です。しかし、そうした顧客を最終的に満足させるには、カスタマーサービスチームが業務を遂行し、要望を解決する必要があります。このようなことは新しいチャネルを開設するだけでは実現できません。さらに、従業員を満足させるには、新たなサービスの世界で従業員のサポート体制を整える必要があります。
こうした課題に対処できる組織は、現在の難局に取り組むだけでなく、世界が大きく舵を切ろうとしている、より柔軟でデジタルな仮想環境での働き方に向かって先陣を切ることができます。今こそ、より俊敏に、より顧客と従業員に重点を置いてサービスを展開できる組織に発展すべき時です。
何より、そうした組織は魅力的です。ただし、20人体制のサポートチームであれ、2万人規模のチームであれ、考慮すべき点は数多くあります。ここでは、仮想サービスセンターへの移行を大きく3段階に分けて解説するとともに、この非常時に非常手段を必要としている人々に向けた重要な検討事項についても説明していきます。
既存のチャネルやオンプレミスソリューションがロックダウンの影響を受けていて顧客が組織と容易にコミュニケーションできない場合、まずやるべきことは、チャット、SNS、メッセージング、セルフサービスなどのデジタルチャネルを開設することです。どこからでもアクセス可能で、コール数を減らす効果があり、キャパシティの課題にも有効に機能します。
顧客と大規模にコミュニケーションする能力について考えてみましょう。電話やメールで1対1の顧客対応をすることが多いですか? そのうち何割ぐらいを、1対複数の方式に変えられそうですか?
よくある単純な質問の回答が得られるオンラインナレッジベースも含めて、現時点で顧客にセルフサービスを提供していない場合は、コール数を減らし、顧客にセルフサービスを促すのに最適なスタート地点になります。
音声
多くの組織でデジタルチャネルの使用は確実に増加していますが、依然として最も多用されているチャネルは電話です。現在、サービスチャネルとして電話/音声をサポートしている場合は、次の点について考えます。
現在使用している電話ソリューションはオンプレミス型ですか、それともクラウド型ですか?
そのソリューションは「どこからでも応答できる」ソフトフォンVOIP機能を備えていますか?それとも、サービス担当者をオフィスに常駐させて、デスクの固定電話、またはローカルの物理トランクを使ったソフトフォンを使用する必要がありますか?
クラウドベースの電話ソリューション、または担当者がどこからでも応答できるVPN経由のVOIPベースのソフトフォンソリューションを導入している場合は、スムーズなスタートを切れるでしょう。この場合は、サービス担当者が自宅から電話システムにログインするために必要なものについて検討します。
担当者がコンタクトセンターに実際にいないと電話を取れないオンプレミスの電話システムの場合はややハードルが高くなります。この場合は、気軽に試せる、従量制のクラウドベースのソリューションを検討することをお勧めします。
仮想サービスセンターの大まかなイメージをつかんだところで、さらに詳しく見ていきましょう。
デジタルチャネルを開設し、顧客が任意のチャネルで容易に接続できるように環境を整備するのは正しい選択です。しかし、注意すべき点が1つあります。サービス担当者はリモート対応ができる機材を与えられていますか?
カスタマーサービスの先のシステム、プロセス、専門ツール(例:請求システム、注文システム、診断ツールなど)にアクセスして、顧客の問い合わせを解決することができますか?
一貫して効率的にサービスを提供するための知識や、生産性向上ツールは与えられていますか?それとも、そこがボトルネックになりそうですか?
この段階で克服すべき大きな課題は、ネットワーク内でしかアクセスできないオンプレミスシステムへの依存です。オンプレミスシステムが営業やサービス宛のリクエスト対応に欠かせない環境では、仮想環境でそうしたリクエストに応えるのは無理です。
また、シングルサインオン(SSO)ソリューションを導入していて、ネットワークの内側でしかアクセスできなかったり、ネットワークの外で働いているサービス担当者にIPその他で接続制限をしている場合は、さらなる課題が生まれます。
こうした状況を解決するための1つの選択肢として、次のような手段で、どこからでもアクセスできる(組織が支給する機器だけでなく、あらゆるデバイスからアクセスできる)チャネルを開設することをお勧めします。
IP制限とアクセス制限を撤廃する
インターネット経由でSSOソリューションにアクセスできるようにし、侵入やDoS攻撃を阻止する適切なセキュリティ管理機構を導入する
後工程システムを担当者のコンソールにネイティブで統合し、担当者がこうしたシステムに直接アクセスしなくても済むようにする。これは、サービス担当者の生産性向上と「たらい回し」の削減を目指すコンタクトセンターの目標とも重なります。
しかし、こうした取り組みは多くの組織にとって巨大なプロジェクトになります。膨大なITリソースを投入し、セキュリティの課題に対処しなければなりません。そこで、この場合はVPNのトンネリングを用い、担当者が企業ネットワークに接続して業務上必要なシステムにアクセスできるようにすることで、社内環境へのアクセスが可能になります。
今、多くの組織がVPN機能を導入していると思われますが、以下の点を確認する必要があります。
すべての担当者が毎日/終日接続できる十分なキャパシティを備えていますか?
VPN接続で社内の全システムにアクセスできますか?
サービス担当者が職務を十分に遂行できるレベルの帯域幅やレイテンシーが確保されていますか?
担当者はVPNにアクセスするためのテクノロジーを自宅に備えていますか?
担当者には会社からノートPCが支給されますか?それとも、コンタクトセンターにあるデスクトップマシンのみですか?後者の場合、そのデスクトップを自宅に設置できますか?
顧客の要求を満たすためには、こうした点を解決しておくことが不可欠です。解決できなければ、膨大な数の問い合わせが放置され、顧客はまったくコンタクトできない状態になり、不満は募る一方です。
すべての課題に一度に対応する必要はありません。対応すべき最も緊急性の高い要望は何でしょうか。払い戻しへの対応でしょうか。それとも注文のフォローアップでしょうか。まずは、こうしたシステムをサービス担当者に提供することを優先してください。1つずつクリアすることで、仮想コンタクトセンターの導入に近づくことができます。
影響には、技術的なものと人的なものがあり、4つの高レベルなテーマに分類できます。
契約に関する考慮事項
在宅勤務に関する考慮事項
監督と指導
変更管理
これらの考慮事項を詳しく見ていきましょう。どんなケースにも当てはまるソリューションはありません。目指す成果は同じでも、運用環境は根本的にそれぞれ異なります。
契約に関する考慮事項
コンタクトセンターはどのように人材を確保していますか?
サービス担当者は正社員ですか?派遣社員を利用していますか?国内の人材ですか、海外の人材ですか?
オフィス勤務が契約条件になっていますか?
上記すべての項目を踏まえて、人材の仮想/リモートワーク環境へのシフトがどのくらい現実的か評価してみましょう。
サービス担当者に所定の労務条件、勤務時間、テクノロジー要件を保証する労務裁定やその他の契約が適用されますか?
従業員に労働組合があり、組合との話し合いが必要ですか?
顧客情報や支払指図書などの機密データを扱う担当者を現時点でどのように管理していますか?
機密データを扱う担当者について、自宅とオフィスで対応を変える必要がありますか?
上記の項目の答えからリモートワーク環境にシフトするイメージを描き、従業員の契約条件や顧客データのセキュリティをどうすれば守れるかを検討してください。
在宅勤務の条件
サービス担当者は、自宅やリモートワークに適した他の場所で、適切なテクノロジーにアクセスして職務を効率的に遂行できるでしょうか?これには、使用するノートPCやデスクトップだけでなく、以下の条件も含まれます。
比較的気が散らない、静かなホームオフィス環境
デスクと椅子
外部モニター(必要に応じて)
適切な帯域幅を備えた十分なインターネット接続
上記の設備を用意するための給付金や手当
組織の他の部署で在宅勤務している従業員の待遇を確認しましょう。チームメンバーが一斉にリモートワークに移行した場合に活用できる既存のポリシー、ガイドライン、サポートはあるでしょうか?リモートチームとのコラボレーションや管理に必要なあなた自身のスキルを鍛える必要がありますか?
監督と指導
コンタクトセンター管理で大きな部分を占めるのが、チームが提供するサービスの品質を監視し、ワークフォースマネジメントで適切な数の担当者を適宜配置して需要の変動に対応し、スタッフのサービススキルを指導し、サービスの一貫性を確保することです。
人材が分散して活動する場合、こうした職務が新たな課題になります。この課題に対応するには、オンプレミス環境においてどのような管理タスクがあるかを洗い出し、同じ目標(成果)をリモート環境で達成するために、管理手法をどのように変える必要があるかを検討します。
こうした考慮事項の多くは以下のように人材育成に重点を置いた実践的なものにする必要があります。
担当者は人材管理プラットフォームにサインイン/サインアウトする必要がありますか?その管理プラットフォームは自宅からでも使用できますか?
スケジュールや勤務表をどのように共有しますか?
チームリーダーやスーパーバイザーは、チームを監視するのにそのつど適した物理的な手段を複数使用していますか(フロアを歩き回る、直接観察する、1対1のチャットを使うなど)?仮想的な方法でも同じ成果を達成できます。コールリスニングなどの一般的な手法を多用するとともに、ChatterやQuipなど追加のコラボレーションツール、SlackやGoogle Chatなどのメッセージングプラットフォーム、ZoomやGoogle Meetなどの会議ソリューションも活用できます。
サービス担当者がサポートを求める場合、どうやってそのことを発信しますか?隣の席の同僚に助けを求められない状況で、顧客の問い合わせをすばやく解決することができますか?この場合も、コラボレーションツール、メッセージングプラットフォーム、オンライン会議などのソリューションを使えば、オフィスにいるときと同じように担当者をリアルタイムでサポートし、タイムリーで一貫したサービスを顧客に提供することができます。
新しい人材のオンボーディングや教育はどのように行いますか?プロセスと手順を教えるためのオンライン学習ツールはありますか?
ほとんどのコンタクトセンターは、大型デジタルディスプレイを設置して、現在の待ちコール数、平均応答速度、離脱率、サービスレベルなどのパフォーマンス指標を全スタッフに向けて表示していますが、こうした指標を担当者のコンソールに組み込むことはできますか?
さらに、全員をわざわざ同じ場所に集めることなく、問題を特定して是正戦略を実施し、生産性をリアルタイムで最大化するにはどうすればいいかを考えましょう。
担当者が顧客の問い合わせを一貫した方法で解決していることを、どうやって確認しますか?
担当者が最新情報を容易に見つけることができる、集約的な単一のナレッジベースがありますか?
担当者が最新の情報を確実に利用できるよう、ナレッジリポジトリを手早くメンテナンスできるプロセスが確立されていますか?
担当者は、新たなコンテンツの草案を作成したり、フィードバックを提案したりできるオーサリングプロセスへの参加権限を与えられていますか?
変更管理
経営幹部チームが、顧客へのサービスサポートが十分でないなど、緊急性の高い問題の解決を望んでいるときは、スタッフに受け入れ準備ができているかどうかが軽視されがちです。現在のように在宅勤務を強いられたスタッフのストレスレベルが高まっている時期に、大規模な変更をどのようにして準備し、実施し、フォローするかは大きな課題です。
あらゆる変更を確実に導入するには、従業員が変更を受け入れられるように配慮しなければなりません。変更は主に人材に最大の影響を及ぼします。特に、使い慣れた通常のサポートが得られない状況では、影響は甚大になります。
従業員の負担を軽減するには、以下の手段を検討しましょう。
平時でさえ、人々は変化をそれぞれの方法で処理し、管理しています。一人ひとりの対処方法がどのようなもので、スタッフのサポートに最も適しているのは誰で、どのような方法がよいかを理解するよう努めましょう。
一人ひとりが置かれている状況を理解し、共感を示します。困難な時期には柔軟な対応が求められます。一人ひとりに適したサポートを提供することにより、スタッフの忠誠心ややる気が高まり、ビジネスにもプラスの影響があります。定期的に状況を確認し、意識的に努力して、スタッフとのつながりを保ちます。
ルール重視の文化ではなく、目的重視の文化を育てます。新しい働き方に対応するためだけでなく、貢献の価値を理解するためのツールを提供します。
変化が激しい時期は特に、経営陣の連携姿勢を積極的に発信します。従業員が現在の会社のポリシーを把握し、現在のポリシーが従業員にもたらす意味を理解し、従業員の安全性を会社がいかに優先しているか確実に伝えるようにします。さらに、従業員に対する期待や影響を表明し、どうすれば職務を円滑に遂行できるかを明確に伝えます。
感謝の姿勢を示し、意見に耳を傾けます。従業員は事業を常に前進させ、顧客と直接接しています。従業員のフィードバックは今こそ重要です。
この記事をここまで読まれた方は、仮想コンタクトセンターの構築について明確なビジョンが得られたと思います。お客様はこれまで以上に企業のサービスチームを必要としています。ただし、新たなデジタルチャネルを開設する前に、上記の課題について考慮し、その課題を克服する方法を検討するようにしましょう。
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