さて、この連載も最終回を迎えました。前回のVol.6では、「成果が上がる営業会議はどこが違うのか?」というテーマでお話をしました。今回のVol.7では、TORiX株式会社の代表を務める私、高橋 浩一 が、「データをもとにした効果的な人材育成とは?」というテーマで解説していきます。

 

前回の記事で解説したように、営業会議が機能すれば、目標を着地見込みのフォーキャストで追いかけ、見込みに対してどう進捗しているのかをなるべく手前段階でKPI管理し、受注・失注の要因をカテゴリ化して、受注の成功事例を組織に横展開しつつ、同じパターンの失注を繰り返さないようにすることができます。

ここまできたら、営業マネジャーの課題は、「それでもなかなか数字が伸びないメンバーを、どうやって育成していくか?」ということのウェイトが大きくなってきます。今回は、データをもとにした人材育成がテーマです。

「データをもとにした人材育成」とは、どのようなものでしょうか?

例えば、メンバーの状態を行動の量・行動の質でマトリクスに整理してみます。

横軸が「行動の量」(コール件数、訪問件数、提案件数など)、縦軸が「行動の質」(案件化率や受注率、平均単価など)の概念を表しています。

SFAにデータが入っていれば、メンバーの状況は、行動の質や量によって、ABCDいずれかにプロットできます。もちろん、Aが理想的ですが、そのためには、マネジャーがメンバーの状況を見ながら、時系列で追いつつ関わっていくことが重要です。

 

 

Dゾーンは、原因を見極めてスモールステップ

Dゾーンは、行動の質も量も不足しており、いちばん大変な状況にあります。まず、こういったメンバーについては、現在の状況に陥っている原因を把握するために、商談記録や日々の報告を細かめに書いてもらうなどが必要になってきます。

そして、見極めるべきは能力の問題なのか、意欲の問題なのかです。もし、これが能力の問題であるならば、ティーチング的な関わり方が必要です。ある程度達成可能な「手前の目標」を設定し、業務の優先順位をつけた上で、「直近の目標は、行動量を増やしてBゾーンを目指そう」という成長の道筋を提示していきましょう。スモールステップで、必要な行動を明示していくのがコツです。

一方、「仕事に対する意欲」の問題であるならば、コーチング的な要素が必要です。仕事に対して何か集中できない要因があるかもしれません。ここについて、面談とヒアリングをしながらつかんでいきます。

 


 

「行動量が課題」のCゾーンは、介入して行動を握る

一方、Cゾーンは、「行動の質はある程度高いが、行動量が少ない」タイプです。中堅やベテランメンバーはこの位置にきやすくなります。例えば組織で「1週間に●件は訪問する」のように、行動量に関する目標があったりすると、Cゾーンのメンバーは「結果(受注)を出せばいいのでしょう」のように、行動量の目標に対する優先度が落ちがちです。

やればできるメンバーに対しては、必要な行動量の目標について合意したり、アプローチすべき顧客リストを定めるなど、行動を可視化する必要があります。

ステップとしては、下記3段階になります。

  1. ロジカルに必要な行動量を算出し、本人と合意する
  2. リストの当たり漏れをチェックする
  3. 行動のスケジュールを可視化し、フォローする

「本来必要な行動量」や「アプローチすべき顧客」をロジカルに導き出したり、SFAに載ってこない「隠し玉」がないかどうかウォッチするなど、適度な介入が必要です。

 


 

「行動の質に課題」なBゾーンを伸ばす鍵は、決着案件分析にあり

さて、続いてBゾーンを見てみましょう。「行動の量が多いが、質が伴わない」タイプは、放っておくと危険です。なぜなら、本人はかなり頑張っているつもりなのになかなか結果が出ない人は、そのままだと心が折れてしまうからです。このBゾーンにいるメンバーについては、質が上がらない原因を、同行訪問や商談記録から見抜いて、アドバイスや指導をしてあげる必要があります。

マネジャーの個人的な経験・勘のみに頼らず、客観的に蓄積されているデータをもとに、「こうすれば結果が出る」ということを示すことができれば、Bゾーンのメンバーも信じて頑張ることができます。

ここで重要なのは、「どうすれば質が上がるのか」をきちんと提示することです。前回の記事で営業会議について触れましたが、「決着案件の分析」をすることで、接戦の受注・失注がいかにして決まるかを組織単位で学習することにより、行動の質を上げるためのヒントが抽出されてきます。

本人の失注原因分析だけでなく、他のメンバーの受注要因を掘り下げていくことで、成果を上げるためのヒントが見えてきます。そこで、「訪問件数は多いが、お客様から決定的な情報が聞けていないのではないか」など、何がボトルネックになっているかの仮説を立てた上で、その課題を解決する打ち手を実行していきましょう。例えばヒアリングのロープレをやる、上司が同行して見本を見せる、などです。

 

 

頼れるロールモデルのAゾーンには力を借りる

Aゾーンは、行動の量・質ともに優れている、いわばエースとも言える存在です。営業マネジャーがチームを切り盛りするのには大変な負荷がかかりますから、Aゾーンのメンバーには、マネジャーの右腕としてチームを支えてほしいところです。

では、どのような役割を担ってもらえるといいのでしょうか?

ここに、チームを運営する上での4つの役割を設定しました。

  • ディシジョンメーカー:意思決定をする。色々な判断基準やルールを明確にすることで、チームの皆が仕事しやすいようにする
  • コンテンツメーカー:勝ち筋を言語化する。成果に結びつくためのポイントを、他のメンバーが真似できるように資料に落としたり、ベストプラクティスを提供する
  • フレームメーカー:オペレーションを忠実に回す。情報の入力や実務面における作業が、忙しい中でも進むように支援する
  • ムードメーカー:明るく前向きな雰囲気を醸成する。課題に立ち向かうチームが、心身ともに健康な状態でいられるよう働きかける

4つの役割を一人の営業リーダーが全部負うのではなく、チーム内のメンバーと役割分担ができると望ましいです。

ディシジョンメーカーは、チームの長が引き受けるのが自然でしょうから、残りの3つの役割について、Aゾーンのメンバーを巻き込んでいきましょう(4つの役割だから4人必要だというわけではなく、一人が何役かを兼ねることになるでしょうが、一人が4つだと重たすぎる、という趣旨です)。

 


 

さて、今回の記事では、メンバーを行動の質・量によって四象限に分け、どういった方針で育成していくか(あるいは育成に力を借りるか)について解説していきました。

個人的な経験や勘に頼り切らず、データをもとに計画的な人材育成ができるようになったら、「マネジャーが現場を離れても業績が伸びる」状態が実現できます。メンバーに任せるほど会社が成長する展望が見えてくれば、「脱・属人化」まであともう一歩です。

7回にわたって、プロセスマネジメントをテーマに連載してきましたが、SFAは便利なツールと言えども「一つの手段」であり、それをどう使いこなすかはマネジャーの手腕にかかってきます。

この記事が、現場の最前線で奮闘されている営業の方々に、一人でも多く届くことを切に願っております。最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

 

 

TORiX高橋連載 営業現場の脱・3Kを考える 〜いまさら聞けないKPIマネジメント〜 

   Vol.1 - 3Kはなぜ起こるのか?  

   Vol.2 - 仕組み化を支えるプロセスマネジメントの5W1H

   Vol.3 - 目標達成につなげるための計画策定とは?

   Vol.4 - 予実のギャップに対するマネージャーの適切な介入とは?

 Vol.5 - 日々の商談や活動を前に進める指導とは?

 Vol.6 - 成果が上がる営業会議はどこが違うのか?