季節の変わり目で、気温の寒暖差が見られるものの、もうすぐ夏を迎える時期ですね。皆様いかがお過ごしでしょうか。連載「営業現場の脱・3Kを考える」Vol.3では、年度や四半期のスタート時点において重要な、目標達成につなげるための計画策定についてお話をしました。今回のVol.4では、TORiX株式会社の代表を務める私、高橋 浩一が、「予実のギャップに対して適切な介入をするには?」というテーマで解説していきます。

 

目標達成につなげるための計画を立てて走り出した後は、計画に対してどう進捗をしているかをウォッチしながら、適宜メンバーの活動に介入していくのが営業マネジャーの仕事になります。

もちろん、目標達成に向けて順調に進んでいればいいのですが、実際、立てた計画に対して思うように進捗しない場合もあります。

これまで、3万人以上にのぼる営業の方々を支援させて頂いて感じるのは、いったん計画を立てた後、どのように数字を見ていくかについて「マネジメントの型」が定まっていないケースが多いということです。

SFAなどツールが進化していくと、リアルタイムに営業活動のデータが見られるようになりますが、データに対して、表示されている数字をそのままメンバーに伝えているマネジャーの方をよくお見かけします。

 

目標を達成するために、KPIとして案件数をこのぐらい積んでおかないといけないという基準があります。メンバーはそのKPIを上げるべく提案活動を進めていて、例えばその基準に対して40%届いていないとします。案件数が足りないと、よほど受注率が高くない限りは、目指す受注数に届かないですね。

ただ、「案件数が40%足りない」ことのみ指摘をされても、それだけでは、メンバーはどのように数字を作っていったらいいのかがわかりません。

今回は、このような「予実ギャップがあるときに、マネージャーがどう介入をしていくのか」を考えていきます。

まず、受注目標を達成するためには、その手前のプロセスにおいて案件数を増やしたい。これはメンバー本人も思っていることです。

しかし、「案件数を増やすために、具体的にどうすればいいのか?」が明確にならないとメンバーは苦しんでしまいます。

案件数を増やすために分解して考えると、見込み客数が増えるか案件化率を上げていかねばなりません。ここで、見込み客数が十分なのに案件化率が低いのであれば、案件化率を上げるための介入が必要ですし、案件化率はまあまあなのに見込み客数が少ないなら、見込み客数を増やすための施策を考えることになります。

ただ、往々にして起こりうるのは、「見込み客数も案件化率も、どちらも十分なレベルではない」というケースです。さてここから、どのように課題を絞り込んでメンバーに働きかけていくのがよいでしょうか。

 

見込み客数を増やすためには、マネジャーはメンバーの担当リストに対する接触状況(訪問や電話、メールなどの履歴)をざっと見ていき、「担当リストにあるけれどもまだアプローチしていない顧客がいないか?」といったことを確認し、まだアクションできそうな余地があるなら、どこにアプローチすべきかをメンバーとすり合わせることになるでしょう。もしくは、チーム内の他メンバーが「アプローチしきれないリストを抱えている」のであれば、チーム内で顧客リストのやり取りをし、見込み客数が足りないメンバーに対してリストを増やしていくと行った支援もありえます。

一方、案件化率を上げるなら、マネジャーは、メンバーの商談記録や提案状況を見て、「指導やアドバイス、もしくは同行によって案件化率を上げられないか?」といった検討が必要です。その場合マネジャーは、「接触はしているけれども案件化しないのにはどのような理由があるのか?」を確認していきます。もし、予算やニーズがありそうな顧客へ接触しているにも関わらず案件化していないのであれば、商談の状況をヒアリングしながら助言したり、あるいは同行の日程調整が必要になってきます。

ここで難しいのは、見込み客数を一時的に増やそうとすると案件化率が下がりやすく、案件化率を上げようとすると訪問先を絞る(すなわち、いたずらに見込み客数を広げない)方向にいきやすいという、トレードオフが発生することです。案件化率は、「案件数」を「見込み客数」で割って計算するわけですから。ただ、これは、単なる計算式の問題ではなく、マネジメントとしてどちらに優先順位を置くかの判断が必要になってくることを指します。もちろん、見込み客数も増えて案件化率も上がる施策がパッと思いつく可能性もありますが、現時点で「想定に対して苦戦している」営業担当ですから、一度にあれもこれもできないということは考慮に入れるべきでしょう。

営業マネジャー自身がSFAなどに入っている情報を活用できる状態になっていると、こういった判断を精度高く行うことが可能になります。

Vol.2の記事でも解説しましたが、SFAに入っている情報を、画面のカテゴリで分類すると下記のようになります。

 

A.  売上集計や着地見込/パイプライン管理:

現時点で、売上や受注が目標に対してどのぐらい積み上がっているか、このままいくと目標は達成できそうかを見るもの

B.  プロセスのKPI:

売上や受注に至るプロセスを要素分解した数字について、色々な観点から比較がされているもの。工程としての営業活動が順調かどうかを一覧化したものは「ダッシュボード」とも呼ばれる

C.  顧客リスト:

お客様の基本情報(企業、責任者、担当者に関するプロファイルなど)が格納されているもの。お客様に対する取引経緯や商品・サービスの提案状況、過去の活動概要などもここから参照できる

D.  案件/商談リスト:

受注や売上につながる案件/商談の一覧およびその詳細。いわゆるBANTCH(予算・決裁者・ニーズ・決定時期・競合・社内体制)情報や、それに類する情報がある

E.  活動履歴:

顧客リストや案件/商談リストの中にある、一つ一つの活動履歴及びその詳細。どんな会話のやり取りをしたか、どんな情報をヒアリングしたか、自社からどんな紹介をしたかなど

F.   ナレッジ:

活動において得られた情報や、提案活動に使用したファイルなど。これが、提案テンプレートやメールテンプレートなどの形で、「他のメンバーがすぐに使える」状態になっていると便利

 

先ほどの、「案件数が40%不足しており、見込み客数も案件化率も十分なレベルではない」メンバーは、SFAのダッシュボード上で、KPIが基準に対して足りていないというように表示されています。

このメンバーに対して、「見込み客数を増やすための介入」を検討するためには、顧客リストが適切にメンテナンスされている必要があります。顧客への接触状況がきちんと記録されていないと、判断やコミュニケーションがどうしても鈍ってしまいます。

また、「いまの見込み客に対して、案件化率を上げられる余地があるか」といった検討をする上では、案件/商談リストが機能していなければなりません。例えば、営業マネジメントの現場では、メンバーが「SFAにはまだ入れていませんが、実は案件があります」といった“隠し玉”が出てくることがありますが、隠し玉が多発していると、案件や商談の状態が正しく把握できません。

さらに、メンバーの案件化率が上がらないとすると、活動履歴にそのヒントが眠っているはずです。もしここで、活動の詳細が記録されていれば、「お客様に対するコミュニケーションの頻度が少ないから、Hotになる前に当社のことを忘れられているのでは?」など、課題が特定できますが、活動履歴が記載されていないと、案件化率低下の原因がぼやけてしまいます。

一方、「見込み客に対して高い確率で案件化できる」実力を備えたメンバーも、会社の中にはいるはずです。そうであれば、そういったハイパフォーマーの送っているメール文章の例や、提案書のファイルがSFA内で閲覧できるようになっていると、案件化率を上げるためのアドバイスをマネジャーがしやすくなります。「●●さんがやっていたA社の案件を参考にしたら良いよ」とアドバイスをすれば、必要な情報はSFAから引っ張り出せるわけです。

よく、SFAの活用が進まない会社様にお伺いすると、「情報を入力するメリットが見えないとSFAの活用がされない」という声を聞きますが、マネジャーがSFAを活用して、パフォーマンスの上がらないメンバーに対する介入をしていけるようになれば、自然とSFAにデータを入力するメリットを組織単位で感じやすくなるはずです。

さて、今回のVol.4では、「予実のギャップに対するマネージャーの適切な介入とは?」についてお伝えしてきました。

次回は、日々の営業現場におけるSFAを活用したマネジメントについて、もう少し細かく解説します。(Vol.5 - 日々の商談や活動を前に進める指導とは?はこちら

 

 

 

TORiX高橋連載 営業現場の脱・3Kを考える 〜いまさら聞けないKPIマネジメント〜 

   Vol.1 - 3Kはなぜ起こるのか?  

   Vol.2 - 仕組み化を支えるプロセスマネジメントの5W1H

   Vol.3 - 目標達成につなげるための計画策定とは?