長い連休が明け、世の中では元号も平成から令和に変わったりと、大きな変化の前触れを感じるこの頃ですね。連載「営業現場の脱・3Kを考える」Vol.2では、営業の仕組み化をどのように進めるべきかについて、5W1Hの観点からお話をしました。今回のVol.3では、TORiX株式会社の代表を務める私、高橋 浩一が、「年度や四半期のスタート時点において重要な、目標達成につなげるための計画策定」について具体的にお話をしていきます。
営業マネジメントの現場では、「目標」と「計画」が混在して使われがちですが、「目標」と「計画」の言葉については、切り分けて使うことをお勧めします。
目標というのは、日々の営業活動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準のことです。「売上目標」や「受注目標」、あるいは「プロセス目標」「行動目標」など、要は、この水準を目指しましょうというものですね。
一方、計画というのは、見込みや予測に対して実際の結果がどうだったか、そして次にどうするかといったサイクルを効果的に回すためのものです。精度の高い売上予測(フォーキャスト)ができ、実際と乖離があった場合にはその際の分析ができると、予実管理がしっかり回っているということになり、経営の舵取りがしやすくなります。
営業現場では、「目標設定」は行われていても、「計画策定」が十分でないケースが多く見受けられます。
経営からの要請としてこのぐらいの数字はやってほしい、一方で現場としてはこのぐらいいけそうだ、この数字をすり合わせて、年度や四半期、月といった単位での目標を定めていく。この「目標設定」だけで終わってしまうと、その目標を達成するためにどういった活動をすればいいかが曖昧になってしまいます。
目標を達成するための道筋を分解し、どのぐらいの活動ができていればその目標に到達するのかを具体化し、上司・部下間でコミュニケーションすることが必要です。
そこで、今回は、目標達成につなげるための「計画策定」についてお話をしていきます。
計画の立て方は、扱う商材や活動の実態によって異なってきます。ここでは、大まかに、「ルート型」と「アカウント型」というタイプ分類をしてご説明していきます。
例えば、個人あるいは個人事業主(店舗のオーナーや中小企業経営者など)を対象に、たくさんの行動量が求められるような営業は、「ルート型」に当てはまります。1件1件の提案を丁寧に時間をかけて作り込むより、どれだけ多くのお客様に対して接触していくかの「量」が前提となり、ある程度の量が積み重なることで結果が出やすくなります。
また、いわゆる「新規開拓」がメインの営業担当も、ルート型の世界観に近くなるはずです。
一方で、ターゲットが大企業であったり、複数の関係者の合意を取りながら検討が中長期化する高額商材の提案を作り込んでいくようなタイプの営業は、「アカウント型」になります。アカウント型の営業は、1件1件の提案活動に対するカスタマイズや、お客様を研究したり情報収集をしながら提案を行っていくことが求められますので、一人ひとりの担当できるお客様数や提案件数に限りがあります。
限られた数のお客様に対して、リピートや深掘り中心に活動している営業担当は、アカウント型の特徴を帯びてきます。
では、それぞれのタイプごとに、どういった計画策定が求められてくるのかを考えてみましょう。
ルート型の場合、個別のお客様の要望に事細かに対応することより、全体的な活動の量や質を俯瞰した計画が必要になってきます。例えば、8月に売上目標3,000万円となっている場合に、(商材やビジネスモデルによって異なりますが)受注から納品までにかかる期間が1ヶ月であれば、8月に必要な売上は、1ヶ月前の7月に受注をしていなければなりません。そして、7月に3,000万円の受注をするということは、1件あたりの平均受注単価が500万円なら6件の受注が必要、ということを指します。
ただし、7月にいきなり6件の受注が生まれるわけではありません。見積からクロージングまでの期間を想定して、7月より前に見積提示が必要です。ここでは、見積からクロージングまでに1ヶ月かかるような商材を扱っているとするなら、7月に受注を見込むための見積提示は6月になされていなければならない、ということになります。
すべての見積が受注に結びつくわけではありませんので、受注率を25%とするなら、6月に24件の見積提示が必要です。そして、この見積提示もすぐに生まれるわけではないので、逆算して、必要な初回訪問件数を考えます。
初回訪問から見積提示まで2ヶ月程度かかり、かつ、初回訪問しても見積提示まで到達する(案件化する)のが3件に1件なら、4月に72件の初回訪問件数が目安となります。
ここで、例えとして「見積からクロージングまでに1ヶ月かかる」であったり、「受注率を25%とする」という表現が出てきました。
近年は、SFAにデータがきちんと入力されていれば、こういった数字を算出することは比較的容易になってきています。効果的にSFAが活用されていると、こういった計画を立てる際に、必要な活動の想定を精度高く行うことができます。
データが充分に蓄積されてくるまでは、リードタイムや「率」については、経営陣や上司が仮置きして設定する形でよいかと思います。
さて、上図の縦軸に、「目標/KPIの要素分解」という言葉があります。
KPIというのは、Key Performance Indicatorの略ですが、注意しなければならない点は、縦軸の項目をすべて「(達成すべき)目標」のように定めてマネジメントしてしまうと、現場で優先順位が定まらなくなってしまうことです。
例えば、「目標平均単価はいくら」「目標受注率は何%」「目標の見積作成件数は何件」・・・というように、逐一、目標という形にしてしまうと、メンバーはどの数字に重きを置くかが見えず、とりあえず達成しやすい行動目標に走りがちです。
ですので、ここでは、売上や受注などの「結果目標」と、非常に重要な意味を持つKPIに絞った「プロセス目標」を定め、残りのKPIはあくまでも「予実管理のための基準値」ぐらいにとどめておくのがお勧めです。ここで、KPIとして何に注力してもらうかというのが、優先順位の問題、すなわち、営業戦略が反映されるところです。
さて、今度はアカウント型の場合です。
アカウント型は、営業が担当するお客様の数が限られています。また、1つ1つの案件について具体的に(必要に応じて細かく)見ていく必要があります。また、リピートやアップセルなどをいかにして効果的に獲得していくか、新規に提案するのはいつのタイミングか、などを考えます。
アカウント型の場合は、ある程度、既存のお客様や既存の案件を想定した計画になるでしょう。
どの月(あるいは四半期)にどの案件を見込むか、そしてそのためにどういった活動が必要になっていくのかのアクションプランを顧客ごとに考えていくのがアカウント型の基本です。例えば、図で言うと「A社の○○案件」で、7月に1,000万円の数字が見込まれています。
この1,000万円を実現するためには、当然ながらそのための提案活動が必要ですが、アカウント型では、行動の中身や質が大きく問われてきます。ですので、赤の枠で囲まれた「受注のために必要な活動期間」において、どういった活動をするのかを、マネジャーとメンバーの間ですり合わせていきましょう。
例えば、キーパーソンでまだ会えていない方がいらっしゃるのであれば、どの時点でキーパーソンとのディスカッションを実現するのか、そのためにはマネジャーの同行が必要、ただし、その際には、先方のキーパーソンの問題意識に響く資料が必要なので、その資料を作るための現場レベルでの情報収集などを・・・といった段取りを組んでいくことも必要になるでしょう。
段取りを組む上で、メンバーの活動リソースも限られてきますので、沢山の案件へ同時並行に取り組むよりは、「A社で8月に案件の受注を狙えそうだが、それは6月にヒアリングの場を設定する想定で、それまでは他の案件のクロージングや納品に注力しよう」といった、メリハリのきいた活動計画を立てられると望ましいです。
その際、きたるべきタイミングに忘れず行動を起こせるよう、マネジャーがリマインドできる仕組み(会議での活動確認や、SFAでのアラート機能)も活用していきましょう。
また、アカウント型の場合、「前の期で活動した結果が今期に実現する」ということが見込まれていきます。例えば、図で言う「B社の☆☆案件」は、いきなり売上が立つ形になっていますが、それは、前期における活動が実ったからということになります。
そうすると、日々の提案活動のプロセスが、ある程度SFAなどで把握できていないと、「期のスタート時点で、どのぐらい(前の期からの)貯金があるのか」が見えなくなってしまいます。逆に、お客様への提案活動プロセスが共有されていると、「どのお客様でどのぐらいの売上を見込むのか」の見込み精度が上がります。
さて、ここまで、「ルート型」「アカント型」それぞれの特性に応じた計画の立て方について解説してきました。
メンバーや部署によっては、どちらのタイプかが明確に決めきれない場合もあるかと思いますので、計画の立て方は、必要に応じて両方を活用していきましょう。
最後に、こういった受注計画を立てる際に、「標準モデル」があると非常に便利ですのでサンプルとしてご紹介しておきます。
たとえば、入社して間もないメンバーが「1人前になるまで」を、ざっくりと言語化してみます。配属後から、ある程度1人前になるまで2〜3年かかるとしたときに、それはどのような段階を経ていくのか、そして、そのレベルのメンバーは営業活動をどのぐらいのペースで進めていくのか。さらには、1人前になっていると、どのぐらいのレベルのお客様や案件を担当していることになるのかといったことまで、大まかな標準モデルがあると、計画を立てるのに便利ですし、特に新しくメンバーが増えていく局面では、戦力化までの見通しが立ちやすくなります。
受注計画に対する予実管理が効果的に回っていくと、この標準モデルがどんどんバージョンアップされていきます。こうなっていくと、「新しくメンバーを増やしても、数字の見込みが立ちやすい」状態になります。
さて、今回のVol.3では、「計画の策定」についてお伝えしてきました。
次回は、こうやって作成した計画について、どうやって日々の営業活動をウォッチしていき、予実管理につなげていくかを解説します。Vol.4はこちら。