新年度である4月を迎え、昇進、部署異動などで新たな役割に挑戦される方もたくさんいらっしゃるでしょう。この大切な期初のタイミングだからこそ、多くの企業で存在する役割であり、売上に大きなインパクトをもたらす「営業」について、深掘りしていきたく思います。

皆さんは「営業」についてどのような印象をお持ちでしょうか。「再現性」をテーマとして、大手企業や成長ベンチャーの企業様を中心に、営業の研修やコンサルティングを提供するTORiX株式会社の代表を務める私、高橋 浩一はこれまで、3万人以上の営業の方々とお仕事でご一緒してきました。多くの営業組織から日々聞かれるのは、「一部のスーパー営業マンに頼りきりで、どうしても営業が属人的になってしまう」「KPI管理の仕組みを入れようと、SFAを導入したが、うまく使いこなすのが難しい」といった声です。

 

営業が属人的だったり、KPI管理の仕組みが機能しないとどうなるかというと、「売れる力を持った人が何とかする」ということになりがちです。

いわゆる3K(勘・経験・気合い)による営業マネジメントでは、営業組織の成長過程において、無理が生じてきます。

そこで、この連載では皆さんと一緒に、営業現場の脱・3Kにより、効果的なKPIマネジメントをしていくにはどうしたらよいかを考えていきたいと思います。

まず、この初回でお伝えしたいのは、勘・経験・気合いによる営業マネジメントはなぜ起こるのか?についてです。

安定した目標達成がなかなかできない営業現場で、繰り返される光景というのがあります。冒頭でお伝えした通り、本連載が開始されるこの4月は、多くの会社では年度や四半期のスタートと重なるでしょう。

 


 

年度や四半期のスタートというのは、マネジャーもメンバーも、営業の数字目標に対して、「さあこれからやってやるぞ!」と意気揚々の状態です。

マネージャーがメンバーに聞きます。「どう、目標、いきそう?」そうすると、メンバーの方は、まだ余裕がある状態ですから、「いけます!大丈夫です!」という頼もしい答えが返ってきます。

ただ、徐々に期末が迫ってくると、こんな場面が見られます。

「お客様側の要因で数件落ちてしまい、目標達成がもしかしたら難しいかもしれません・・・」というメンバーからの報告。こういうとき、「お客様側の予算が確保されずに」「お客様社内の組織体制や方針が変わり」といった言葉はよく出てきますが、「営業の要因で」という言葉はあまり出てきません。

さて、望ましくない報告を受けたマネジャーは当然、「本当?それはどういうこと?もう少し詳しく聞かせてくれないかな」と確認します。

そんなときにメンバーから出てきがちなのは「正確な意思決定ルートを聞けていなかったので・・・」といった声。営業マネジャーの皆さんは心の中で突っ込まれると思います。それは「聞けていなかった」のではなく、「聞いていなかった」のではないかと。

こういったよくない報告が聞こえてくる前に、その予兆を察知できるような大事な情報というのが営業管理の仕組みにきちんと入力されていれば、もしかしたら悪い報告は未然に防げたかもしれません。

しかし、ありがちなのは、「大事な情報に限って、入力がされていない」ということだったりします。

営業支援システムに大事な情報が入っていないと、結局、マネジャーは自身の勘や経験に基づいて判断し、メンバーとコミュニケーションを取っていきます。

あるいは、気合いで自ら顧客訪問し、大型の案件を受注することによって数字を作っていきます。

昨今、SFAはどんどん進化し、営業支援システムによってできることは飛躍的に増えました。

しかし、SFAの浸透とは裏腹に、「せっかくのシステムをうまく使いこなせていない」という声が聞かれるのも実情です。

 


 

本来、属人的なマネジメントを脱し、安定的に営業管理を行っていくためのツールが手元にあるにも関わらず、なぜ、うまく使いこなすのは難しいのでしょうか。

私は多くの会社で色々な営業会議、部下指導の場面に同席させて頂くのですが、例えばこんな場面によく遭遇します。

受注目標を達成するためにはこのぐらい見積もりを積んでおかないといけないという指標は、「ヨミ」や「提案金額」「見積提示額」などの呼称によって管理されていますが、あるメンバーについて、「本来積まれているべき提案金額が18%足りていない」ということが発生しています。

こんなとき、多くのマネジャーがメンバーにおっしゃる台詞は「提案金額が18%足りてないよ」というものです。画面上に表示されている数字をそのまま伝えています。

しかし、メンバーの方はそれがどうにかならないから困っています。そこで、困っているメンバーに対して、「提案金額を増やすためには、そうだね、私の経験からすると・・・」などと、営業マネジャーが過去の個人的な経験からのアドバイスが入ります。

マネジャーの個人的な経験からのアドバイスは、もちろん功を奏するときもありますが、最近よく色々な会社様でお聞きするのは、「メンバーが困っていることに対して、マネジャーのアドバイスや指導がピタッとはまらない」ということです。

ここ数年、スマートフォンの普及やAIの台頭など、ビジネスの状況は目まぐるしく変化しています。数年前まで「バリバリ現役のプレイヤー」だった営業マネジャーの成功体験でも、「今、困っている若手メンバーが置かれている状況」に対して、そのまま当てはめるのは難しいことが増えてきています。

さらに、近年の働き方改革推進によって、「より短い時間で成果を出さなければいけない」というプレッシャーはどんどん強くなっていきます。

もはや、今のメンバーが置かれている状況に対して、過去のアドバイスが通用する「賞味期限」が、どんどん切れかかってきているのです。

 


 

大手企業の方々とお話をしていると、若手営業の離職という問題が切実だと言う話をお聞きします。ただ、若手営業の方々ご本人から離職の原因を聞いていくと、かなり多くの割合を占めるのが、「自分が困っている状況に対してマネジャーが的確なアドバイスや指導してくれない」という不満です。

これは、賞味期限という問題だけではありません。もともと現場のエースだったトッププレイヤーが管理職になった場合に、「成果が上がらないメンバーと、元エースの管理職とで生じる感覚ギャップ」という問題もあります。

この間もある会社様で、新規開拓営業においてアポの件数が増えないということが話題になりました。成果が上がらないメンバーは「全然、アポが取れない」ということに悩んでいる状況です。そこに居合わせた元エースの営業マネジャーは、「そんなの、ふらっと行って、ちょっとお話しましょうって感じでいいんだよ」とアドバイスをされていました。

アポの件数が増えないメンバーは「それができないので困っている」わけですが、「できない人が感じている壁」というのは、元エースのマネジャーにとってはどうしても体感覚で理解しづらいのです。

元エースのマネジャーは考えます。「こんな簡単なことがなぜできないのか?」「こうすればうまくいくじゃないか」と。

いわゆる「できる人」はキャパシティーが広いので、営業マネジャーからは沢山のアイデアと具体的な指示が飛びます。しかし、現場(特に、成果の上がらないメンバー)はそんなに実行しきれないのでなかなか結果出ないという構造に陥りがちです。

実はお恥ずかしい話、私も遡ること十数年前、こんな構造に陥っていた時期がありました。毎日、朝早く会社に来て、これやってくれ、こうしてみたらどうか、と、五月雨式に指示を出していました。

「高橋さん、毎朝指示出されても、そんなにできません」という声が聞こえて、この構造をなんとか変えなければと思い、アクションを絞りました。このとき、「いつもこの画面を見て、状況がどうなっているかをウォッチしよう」という、数字の状況をモニタリングするツールを管理部のメンバーと一緒に作りました。

当時は今ほど高機能なSFAがない時代でしたので、手作りではありましたが、「いつもこの画面を見て、状況がどうなっているかをウォッチする。そして、その状況に応じた最低限の指示だけ伝えるようにする」という発想に切り替えたことが大きな転換点でした。

私は現在、毎日のように、「営業支援システムを導入した、あるいは導入したいが、思うように進まない」というお客様と、どうやったら効果的な営業マネジメントができるかについて議論を重ねています。

そこで鍵になってくるのは、

  • マネジャーがどの画面を見て、誰とどんなコミュニケーションをするか
  • メンバーにとって、情報を入力するメリットは何か
  • 情報がきちんと入るように、入力の習慣とルールをどう設計するか

この3つが明確にして営業管理の仕組みを設計していくことです。

次回のブログでは、営業の仕組み化について具体的に解説していきます。Vol.2「仕組み化を支えるプロセスマネジメントの5W1H」はこちら