[最終回]あなたの会社はソーシャルで生き残れるか?

ソーシャル時代の収益化のサイト構築を再考する

本プロジェクトも今回で最終回となる。ここでもう一度、どういうしくみを築いてきたのか、漏れはないかを確認した上で、最後に、ソーシャル時代で生き残るための、実践的なサイト運用方法をまとめておきたい。
本プロジェクトも2ヶ月半たち、すでにしくみとして導入されている場合は、なんらかの結果を実感出来ていると思う。たとえば、googleアナリティクス の画面から、ソーシャルメディアの役割を正当に評価するために重要な指標「アシストコンバージョン」を確認してみよう。(アシストについての詳細は本連載vol.4参照)

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本プロジェクトで取り組んできたスキルの獲得や、しくみの整備は様々だが、大きくまとめると、以下のような図となる。

  • フェイスブック広告や無料でできる施策を使ってソーシャルメディア上にファンを増やしてゆく
  • ユーザへの「印象づくり」となる良質なコンテンツを配信しつづける
  • 週に数回、フェイスブックから自社サイトへとリンクした投稿をおこない、中間コンバージョンや最終コンバージョンへのフックを作成する
  • このとき自社のブログをソーシャル化しておき、ソーシャルメディアの特性を十二分に活かせる設計としておく

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  • 1)サービスへの導線をスムーズにおこなうために、自社サイト内に設置する。SEO面でも有効となり、検索結果からの自然なユーザの入り口ともなる
  • 2)OGP設定を行い、ソーシャルなつながりが発生しやすくしておく ※参考記事
  • 3)4)いいねボタンなどのソーシャルボタンを設置しておく 「いいね!」ボタンを作成する
    ※注意:特に、2012/08/15以前に「いいね!」ボタンを設置している場合は注意が必要だ。OGP設定が無効となるバグが報告されている。再度、新しいソースを取得してサイトに反映させ直す必要がある。
  • 5)フェイスブックページ自体の紹介やリンク、「いいね!」ボックスを設置しておく (Vol.6参照)
  • 6)中間コンバージョンや最終コンバージョンに繋がるバナーを設置しておく (Vol.5参照)
  • 7)コメント欄を設置し、自社サイト上でソーシャルな交流が生まれるしくみを設置しておく (Vol.6参照)
  • 8)こうした活動がもたらす収益を、可視化できるようにgoogleAnalyticsなどの解析ツールを設置しておく (Vol.4参照)

中間コンバージョンや最終コンバージョンを発生させるためには

上図では、最終的に、売り場ではない「facebook」上では、徹底的に印象づくりに徹した上で、自社サイト上に設けたブログ上に誘導することで、ユーザに中間コンバージョンや最終コンバージョンというアクションを選んでもらう時を待つことになる。
つまり、「今すぐ購入」するユーザだけでなく、じっくりと時間をかけながら、商品やサービスを選んでもらうユーザを一人ずつ増やして行ける環境をつくっておくのだ。
こうした手法が可能になれば、BtoC事業であっても、BtoB事業と同様の大口のユーザに自社のサービスや商品を選んでもらいやすくなる。例えば、予算 を稟議に回してからでないと購入に踏み切れない、といった「半年後に購入を検討している」法人ユーザなども、顧客の対象となってくるわけだ。
例えば、法人担当者の中には、個人の購入と異なり、自分自身が決裁権を持たないケースも多くある。そうした場合は、「あいみつ」をとるためにも、「見積も り書」が必要だ。この場合も注文後すぐに商品が届くサービスが好まれるのと同じように、必要事項を入力すれば、すぐにオンラインで見積もり書が完成するよ うな「オンライン見積もりフォーム」などを設置することで、半年後の大口顧客に選んでもらえる機会ができる。こうした機能はBtoCでも有効なので、まだ 法人窓口とオンライン見積もりを持たないBtoC事業者はぜひ導入を検討してみてほしい。

「ランディングページ」全盛時代への疑問。

「ランディングページ」という一枚ペラモノの説明ページを用意し、あとはPPC広告にコストを投下する。「今すぐ買いたい」ユーザだけをふるいにか けて、焼き畑農業的に「刈り取る」という言葉で来訪者を売上数字に変えてゆく・・・、それがイマドキのwebマーケティングの「戦略」だという。
言葉の「あや」かもしれないが「戦略」とはいったい誰と戦っているのだろうか。事業者はユーザから「選んでいただく」立場にある。本来、顧客や見込み客と「仲良くつきあう」努力をすべきなのに、最初の接点が「戦う」というスタンスというのは、どうも違和感を感じる。
事実、ランディングページという手法では全く売れない商材もある。また、競合が増えてくるにつれこうした手法があまり効果を発揮せず、相談をうけるケースも多くなった。
そうした傾向からも、ここ数年「コンテンツ・マーケティング」や「インバウンド・マーケティング」といったキーワードがにぎやかだ。だが、実はこうした手 法も、従来の手法とさほど本質は変わらない。ネットの最前線で実績をあげ続けてきたウェブマスターなら、特に目新しいモノでも無いということは、すでに気 づいているだろう。ただし、昨今、ソーシャルメディアが発達したおかげで、やや様相がかわり、コンテンツ力をアップしたサイトが「より効果を生みやすく なっている」ことは、今回のプロジェクトを通じて改めて認識されたweb担当者も多いと思う。ユーザに購入後も、購入前と同じイメージで使い続けてもらう ためには、必然的にサイト上には「コンテンツ」が充実しているはずだ。(vol.2,vol3参照)
筆者が考えるに、少しウェブの手法が「ランディングページ」という言葉に毒されすぎているようにも思う。なにも、一枚ペラモノで完結させる商品説明ページ だけが、最善の方法では無い。むしろ、サイト自体をアミューズメントパーク化して、ユーザの導線をしっかり見極めて設計し、あちこちを見てもらうほうが、 事業の姿勢も理解してもらいやすく、結果的に、商品やサービスを選んでもらいやすい。コスト面でも、実質的な効率は良くなる。

ランディングページからコンテンツページへ

利益の出ないサンプル品を乱発したり、過度な安売りやポイント還元を入り口として、目先の購買だけを追う方法が、なぜこんなに普及しているのか疑問 に思うくらい、筆者は「ランディングページ」という一枚ペラモノで完結させる「今すぐ購入したい」ユーザだけを対象とする手法には懐疑的だ。よほど要望が あれば別だが、基本的には、サイト全体を見てもらうことで販売に繋げる導線設計を行ったほうがよほど効率的なのだ。いわば、「コンテンツページ」を充実さ せ、組み立ててゆく必要がある。
そのため、アクセス解析などによって、ユーザから答えやアイデアをもらう努力は必要になる。だから、ショッピングモールにしか出店していない事業者ほど、 アクセス解析ツールが導入できないために根拠が得られず、一枚ペラモノのランディングページで、「良かった・悪かった」「何件売れた」、と根拠の乏しい判 断をせざるを得ない。つまり、本来のオンラインビジネスのパフォーマンスは十分発揮できていないケースが多いのだ。
もし、あなたのサイトが1枚ペラモノのランディングページとPPC広告で収益を依存しているなら、そろそろ、そうした、「ランディングページ」を持ちなが らも、様々なコンテンツが入り口となるサイト作りに取り組んでみてはどうだろうか 。幅広い検索キーワードや、他サイトからの紹介リンクによって、多種多様なユーザの要望にマッチした入り口を用意することで、事業者の存在を知ってもら い、「選んでもらう」ためのしくみを構築すべきだ。小手先の集客方法がどうあれ、従来のマーケティング方法が先細る中、明らかに活性化してゆく「ソーシャ ルメディア」の台頭によって、こうしたサイトによる収益性は、より確実に加速されている。

チェリーピッカーと呼ばれる購買者たち

フェイスブック にも、無料で発行できるクーポン・システムがある。また、アプリを作成すればクーポン・キャンペーンも実施が可能だ。こうしてクーポンを発行すれば、数多 くのファンを獲得したり反応を得ることもできるが、利用については慎重に取り組む必要がある。ポイント10倍やポイント50%還元などであれば、インパク トもあり多くのユーザも集まりやすい「入り口」だ。だが、そうした店舗をみていると、一見売れているように見えるかもしれないが、実際には、ほとんどは利 益を圧迫している。多くの事業では、こうしたユーザではなく「注文金額が上位約20%」前後のユーザによって利益が生まれているはずだ。
こうした激安クーポンなどで購入するユーザは、チェリーピッカーとも呼ばれており、品質や商品、サービスよりも「激安」というワードで購入を選択するため、なかなか上位客には引き上げにくいのが現状だろう。

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同じ還元するのであれば、事業に利益をもたらし活力を与え、自社の商品やサービスの本質を理解してくれているファンに対してポイントを還元して行く べきだ。そうした、既に、事業を理解してくれているユーザに向けての一枚ペラモノの「ランディングページ」であれば、効果は高いと筆者は確信している。

システム設計から、ヒトの育成へ

無人化・数値化・効率化、ある一定数以上の収益を生むために、大量の受注をオンラインでこなすためには、事業者はこの3つを徹底してシステム化して いれば、ほとんどが成功していた。むしろそれこそがゴールであるかのようにほとんどのオンラインビジネスは進んできた。多くの対話はシステムに取って代わ られ、ユーザの行動は解析によって数値化され、最適なユーザビリティが構築される。事業者にとっては運用コストを下げられるし、ユーザにとっても利便性は 高い。しかし、こうしたサイトはサービスの均一化は図れても、あくまで「便利なサイト」の域を出ず、感動や共感といった「情」は生まれにくい。
おうおうにして、一生つきあえる店というのは、店と顧客が「情」でつながっている。システムでは利便性は感じられても、感動を生むことは困難だ。コンテン ツ・マーケティングにしても、そこで描かれるストーリーにはヒトが必ず介在している。特に、長期的にサービスを検討していたり、ユーザが継続利用を必要と されるサービスでは、なんらかのカタチでヒトがタッチせざるを得ない。そこにはサービスの質が問われる。それらをソーシャルメディアが加速する以上、ヒト の育成が最重要課題となってくる。

透明性を事業主自体が受け入れる

このように、サービスに携わる「ヒト」がマーケティングに登場し始めたということは、マーケティング担当者がどんなにソーシャルメディア上で孤軍奮 闘したところで、実際の商品やサービス、ふとしたメールや電話口の対応がずさんであれば、すぐにメッキが剥がれてしまう。また、そうしたマイナスイメージ もソーシャル時代にあっては、すぐに消費者によって口コミで広まって行く。
つまり、社内のだれかがソーシャル対応していればよいのではなく、事業主を筆頭に、「社内全体」がソーシャル時代に対応した資質を持ち合わせておく必要が ある。採用・研修といった教育段階だけでなく、社内評価・昇格制度にいたるまで、事業がめざすスタイルや社会性を徹頭徹尾、浸透させておく必要があるの だ。ユーザばかりがソーシャルを使っているわけではない。自社のスタッフだってソーシャルでどんな発言をするか分からない。
そうしたオープンなソーシャルメディアにおいては、いつどこを見られても恥ずかしくない、内面からも事業の方向性が伺えるような体制作りが要求されているということだ。
事業主においてもそうだ。バージン元CEOは、その自伝を読む限り、決して聖人君子などではない。欠点や弱点も公開されているが、そのかわり強烈なリーダーシップで新しい企業を率いてきた分、リアリティがある。
我々の世代が小学生のころ、図書館には必ず、野口英世の伝記が置いてあった。日本の偉人といえば、彼を連想させるが、野口英世氏自身は、そうした子供向け の伝記が出版された際に、「あれは作り話だ」と語ったという。彼が後世に残したかったのは、見せかけの栄光では無く、もっと多くの苦難や葛藤に悩みながら も乗り越えてきた事実だったのではないだろうか。
今後、facebookであろうがtwitterであろうが、どのソーシャルメディアが盛衰しようが、いったん現在のネット上に構築された「消費者が発言 する」という「事業の本質がユーザによって評価され、明るみになる」ソーシャル時代においては、「透明性」という事業者のありかたそのものを、改めて見直 す時期にあるのではないだろうか。
透明性を持つと言うことは、ともすれば、同業他社に手の内を明かすことにもなりかねない。当社もできうる限り、あまり世間に出回っていないような現場担当 者に役立つ情報をブログやフェイスブックページで公開しているが、「そんなことをしたら競合に情報が漏れるのでは無いか」という指摘をうけることもある。 だが、人類が本当に進歩してゆくためには、お互いの持てる能力や情報を開示して、「切磋琢磨」してゆくことが大切なのでは無いだろうか。一部の企業だけが ひとりで大儲けするのも一つの文化かもしれないが、技術の進化だけでなく、結局の「ヒトのココロ」が進化するために、いま「ソーシャル」という場での透明 性や公共性が企業に求められているようにも感じる。実際、社内の情報を公開することで、共感してくれた事業者と、それを上回る情報を交換させていただいた 機会にも多く恵まれている。まだまだ、実験的な段階ではあるが、公開するリスクもあるかわりに、それを上回る「共有から生まれる進化」という、十分な メリットと意義を体験している。

さて、ソーシャルでいかに収益化するか、という本プロジェクトであったが、テクニカルなしくみづくりの話もしてきた。だが、その本質は事業者や事業 に携わるヒトが、いかに社会や顧客と向き合うかを整理することにある。いわば、事業もヒトもITテクノロジーといった技術革新 の中で「踊らされていた」時代から、ようやく「快適にフィットする」生活スタンスをヒトとして見つけつつある過渡期にあるのでは無いだろうか。必然的に事 業者も適正な規模を見極める必要もあるだろうし、法人として社会に存在し続ける意義の再認識も求められる。
そこに住まう住人の文化・文明の進度をあらわす言葉に、「民度」という言葉がある。今、透明性は避けがたく存在し、オープンな姿勢が要求される「ソーシャ ルメディア時代」を迎え、事業者もネットの住人も、お互いが「ソーシャル民度」を高めてゆく事こそが、今後の「豊かな社会」を育むための大きな課題になる のではないかと、筆者は思う。

最後に

本連載の企画を立案くださった、セールスフォース社の石井様、小谷様、また、制限の多い中、サイトへの作業をくださった同社の中島様、ぎりぎりの原稿にも関わらず、コーディングやイラスト作成にご対応いただいた木附沢氏に心より感謝を申し上げます。

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