本連載では、事業者の「収益」をゴールとしているので、ソーシャルメディアでよく使われる「エンゲージメント」は重要視しない。つまり「いいね!」の数やシェアの数、リーチの数などはあくまで「プロセス」にすぎず、収益がしっかりと上がっているかどうかのほうが重要なのである。だいたい、ソーシャルの取り組みの成果が「いいね」や「リーチ数」では、多くの事業者は納得しないだろう。実際、やってみると分かることだが、一般的なエンゲージメントの数値と収益との関係性はあまりあてにならない。
もちろんエンゲージメントこそゴール、という事業も存在するが、本連載では「収益」にスポットを当てているので、そうした事業者向けのソーシャル戦略については、また別の機会にでも触れたいと思う。
そもそも、ソーシャルで構築しようとしている「情緒的な関係性」までをシステムで数値化するには、もう少し時間が必要だろう。義理や習慣でポンポンと「いいね!」ボタンを押しているだけのユーザと、真剣に購入を検討しているユーザを見極めるには、やはり売り場である本サイトへ誘導してからでないと判断は付きにくい。そこで今回は、ソーシャルをやめたら売上が落ちていた…とならないように、facebookだけではなく自社サイト内で売上がしっかりと計測できるように環境を整えたい。
オンライン上の事業ゴールのことを「コンバージョン」と呼ぶ。例えば、各事業におけるコンバージョンとは以下の様なものだ。生き残りの激しい業界ではどのようなものをコンバージョンにしているのか、参考までにみていただきたい。
業態 | 最終コンバージョン |
---|---|
不動産 | 説明会参加・資料請求・来店予約 |
生命保険 | 見積もり・資料請求 |
化粧品 | 本製品購入・定期購入・電話注文 |
医療 | 初診予約・来院クーポン |
美容院 | 来店クーポン・来店予約 |
製造・建築業 | 見積もり・購入・電話問い合わせ |
こうしたコンバージョンがまだ決定していない場合は、自分たちの事業における最終ゴールを確定しておく必要がある。物販なら購入完了だし、店舗なら来店クーポン、不動産やBtoB事業なら、営業マンが商談のきっかけを作るための、資料請求や見積もりとなる。
こうしたコンバージョンを明確にできたら、これらを「いつ、何件、どこから発生させたか」を計測する。オンラインビジネスを強気に展開できない事業者のほとんどは、こうした計測ができていない。逆に言えば、どこで何が起こっているのかさえ分かれば、次に打つべき方策はたくさん浮かび上がってくる。
たとえば、あるネイルサロンで、昨日1日で、「来店予約」という種類のコンバージョンが10件発生したとする。それらの内訳が、Yahooで自社の店舗名を検索して来訪したユーザから5件、googleで「新宿 駅前 ネイルサロン」と検索したユーザが2件、PPC広告で「東京 ネイルサロン」で3件、などだった場合、「東京 ネイルサロン」でもっと売上を上げることができるかもしれないので、一日の広告予算は足りているか、広告文は適切だったか、などをチェックしながら、より自社のホームページを最適な「売り場」の状態へとチューンナップして行く事が可能だ。
そのためには、まず、グーグルアナリティクスの設置と、「目標設定」「eコマース設定」などが必要だ。
そのコンバージョンから得られる売上数値が常に一定であれば「目標設定」を使えば良い。例えば、見積もりや資料請求などから得られる平均収益が決まっていれば、それらを元に、「目標値」を設定しておく。例えば、資料請求が3件くれば平均的に3万円のオーダーが1件入るというなら、目標値は1万円と設定しておけば良い。
また、オンラインストアなどで利用しているショッピングカートなどと連携させて毎回異なる受注額を細かく計測したい場合は、「目標設定」は使わずに、eコマース機能を使った方がより細かな数値が計測できる。これで正しく、どこから訪問したユーザが、どのくらいのコンバージョンを発生させたかが計測できるようになった。
なお、万が一、上記の設定で分からない箇所がある場合は、気軽に筆者のfacebookページにご質問いただきたい。可能な限り回答することで、導入を支援したいと思う。よくある質問としては、自社サイトとカートのドメインが異なるために正しく計測ができない、と言う問題がある。この場合は、こちらを参照してみて欲しい。アマゾンなどでもグーグルアナリティクスの入門本が、最新のバージョンに対応しているものが少ないため、購入の際には注意が必要だ。良い書籍を見つけられた方はぜひ教えて欲しい。
ちなみに読者の中には、PPC広告(=CPC広告)をよく知らないユーザもいるかもしれない。今後も頻繁に出てくるキーワードなので、少しだけ触れておくと、たとえば、この原稿を書いている7月中旬は、毎年、土用の丑の日に向けてウナギの通販予約が盛んになる時期でもある。
試しに、Yahooに「うなぎ」と検索すれば、「スポンサー広告」という文字と一緒に、ここぞとばかりにうなぎのオンラインストアやリアル店舗の一覧が表示される。
彼らは1クリックあたり数十円から数百円を支払うことで広告を掲載している。基本的に、こうした広告では、上位に表示したければ、1クリックあたりの広告費を多く支払えば良い。当然、3番目よりも1番目のほうがクリックもされやすい。だが実際には、広告費を他社より安く抑えながらも上位に表示させるテクニックを駆使したり、わざと4番目になるよう広告費を落として実際には右側の1番目に表示させることでより多くのクリックを稼ぐ、といった攻防戦が繰り広げられているのがPPC広告だ。
PPCとはPay Per Click の略で、読んで字のごとく、クリック毎に課金される。同じ意味で使われる、CPCも Cost Per Click でほぼ同じ意味となる。
たとえば、こうしたPPC広告では、一般名詞の場合、100名訪問してくれれば、1名購入する、というのが一般的だ。つまり、1件販売するためには、100クリック押してもらう必要がある。1クリックが50円だとしたら、5000円かけてようやく1件の購入となる。しかし、計測のための設定を行っていれば、日々、これらが2000円かけて一件売れたのか、1万円かけても全く売れなかったのか、などがほぼリアルタイムに理解することが可能となる。
実は、オンライン集客で利益をあげるポイントは次の3つだけである。
これだけだ。この3行だけを理解すれば、確実に利益はあがる。
実は、オンラインで収益を得る時に「いくら売れたか」はあまり重要ではない。大切なのは「どれだけ利益を出せるしくみか」である。集客コストや売上額はその後からで良い。例えば、1万円の広告費を支払って、5000円の商品を売っていたのでは、赤字だ。だが、購入者の50%は、その後半年以内にリピートして、平均5万円以上購入してくれるなら、黒字と言うことになりそうだ。
実は、その事業者のオンラインでの「平均集客コスト」や「平均売上額」というのは業種によってほぼ一定で、変えようと思ってすぐに変えられるものでは無い。一方で、上記3つのポイントは、よほど洗練されたオンライン事業者で無い限り、多くの「のりしろ」が残されている。あとはそれらが実践できる体制かどうかだけの話だ。
先ほども説明したが、一般的なオンライン集客では、そのページに100人が集まって、1人が購入してくれれば、ほとんどのオンラインビジネスは成功する。例外的に、既知のブランド名などのキーワードで検索された場合は、30人に1人は購入してくれるような場合もあるが、これではビジネスの将来性が感じられない。あくまで一般名詞による集客で100名に1人前後の購入を達成することが必要だ。
こうしたポイントさえ掴んでいれば、強気での集客が可能となり、売上スピードは一気に加速できる。これで手詰まりになるなら商品を変えて再トライするしかない。
公開できる数値のみとなるが、筆者の場合はいずれも小さな会社の立ち上げから参画し、最初の事業では、0から半年後に1億5千万円の月商をつくっている。コピーも変え、サイトも作成し、広告文なども随時差し替えながら、3つのポイントを重点的にコントロールすることで、PDCAを繰り返した。今ではネット上でもすっかり有名になった、エスプリライン社の「スピードラーニング」といった英会話商材も、当時この知見でオンラインでの仕掛けを手がけ、その年は事業全体で14億円の年商にまで伸ばすことができた。また、次の事業では2年で年商8億、3年後には年商20億円となり、110億円という時価総額で、株式公開にまでいたっている。こちらも単品で5000円以内の商材である。
だが、いずれもやっていることの基本はほぼ同じである。PPC広告に特化してやるべきタスクは以下の通りとなるだろう。
だが、こうした集客方法に陰りが見えてきたのが2006~8年頃だ。PPCだけで無く、SEO、アフィリエイト、純広など、webマーケティングを極限まで「やりつくした」企業であれば、同様の感想をこの頃から感じたであろう。ホンモノかどうか分からない違和感のある「口コミ」サイトや、乱発される「ランキングサイト」など、不満や不信をかかえたユーザがmixiやtwitterなどのソーシャルメディアで活発に本音を語り合うようになったのもこの頃だ。ならば、市民性と透明性を持って、このソーシャルメディアに企業が飛び込み、ソーシャルの住人と共存してゆく術を身につけて行くべきではないだろうか、と考えた。
前回の「『売らずに売れる』投稿事例」では、いくつかの事例と根拠を上げて、ソーシャルメディアは「売り場」ではなく「印象づくり」の場であることを理解いただけたと思う。
まず、これらのコンテンツが収益に結びつく流れを簡単に整理しておこう。
ソーシャル上で、感動や共感と言った「印象」を積み重ねることで、ユーザの心理状況は「信頼」へと変わり、多くの競合の中から選び抜かれて、結果的に「購買」へとユーザの心理は自然と変化して行く。
印象を積み重ねる場所は「自社ブログ」をお薦めする。facebook上には「ノート」というブログに替わる機能もあるが、20ほどのサイトで検証してみたところ、facebook内にあるノートよりも、facebook外に設置したブログのほうが、より広いユーザから「いいね!」やコメントがもらえ、結果的により多くの興味を持った人に見てもらいやすくなる。その差は3倍~4倍となるので、例外なく実施されたほうが良い。
今回の、グーグルアナリティクスの設置によって、すべての読者が、どこからの訪問者がコンバージョンを発生させているかがよくわかるようになったと思う。例えば、グーグルアナリティクスの、トラフィック>すべてのトラフィックの画面を見れば、一目瞭然だ。
だが、ここだけを見て判断すると、大きな墓穴を掘ることになる。
「あの人からのパスはよくゴールが決まる」
「あの人が上げてくれたトスは点が決めやすい。」
どんなスポーツにも「縁の下の力持ち」がいる。直接、点を決めるわけではないが、極めて高い貢献度のプレイヤーを、「アシスト」と呼ぶことはご存じの方も多いだろう。この「アシスト」を、点を決めないからといってクビにする監督はいないだろう。だが、マーケティングの世界においては、そうした「ミスジャッジ」はあちこちで発生している。
マーケティングでは、常にいくつかの媒体が相互に関わって成約に至る。例えば、ネット以外の販促や集客のツールでは、チラシ、電話、フリーペーパーなどだが、フリーペーパーで知って、チラシで気になり、電話で注文された場合、どの媒体がどのくらい成約に貢献したか、いわゆる「アシスト効果」を正確に計測するのは困難だ。だが、これが「インターネット」となると、ほぼ完全に計測できる。
昨年頃から「アトリビューション」などとも呼ばれ、「グーグル・アナリティクス」でも、ほぼ何の手間も無く、誰もが簡単に「アシスト」効果を計測できるようになっている。2000年頃、広告の度に専用のプログラムを書いて間接効果を計測していた時代とは格段の差だ。 特に、アナリティクス上では、ソーシャル専用に計測できる画面も用意されている。まず、画面上のメニューから、トラフィック>ソーシャルを見て頂きたい。
この、アナリティクスの「ソーシャル」の画面をみれば、facebook、twitter、教えてgoo、mixiなど、ソーシャルメディアが自社の事業にどの程度の収益を発生させているのかが一目瞭然となる。だがこのツールだけでは、本当のソーシャルメディアの成果は、実際よりも低く見積もられてしまうことになる。ソーシャル>コンバージョンから、アシストと終点の分析を見て欲しい。ここでどのくらいのアシストがあり、終点コンバージョン以外にどの程度ソーシャルが貢献しているかが分かるはずだ。 さらに、アナリティクス上のメニューから
コンバージョン>マルチチャネル>コンバージョン経路
と進むと、どういったメディアを経由してコンバージョンが発生しているかを詳しく知ることができるし、また、その価値は、「アシストコンバージョン」を見れば一目瞭然だ。
これはあるクライアントから承諾を得て掲載している、facebook経由のコンバージョン値だ。「グーグル・アナリティクス」のキャプチャだが、注目して欲しいのは、最終コンバージョンよりもアシストコンバージョンとしての役割を多く果たしているという点に注目して欲しい。
なにもソーシャルメディアだけではない。PPC広告でも、ムダだと思って除外してしまっていたキーワードが実は、驚異的なアシスト効果が発揮していた、と言う例はよくある話だ。図の要領で、PPC広告ではどのキーワードがアシストしているかをチェックしてみてほしい。思わぬキーワードやキャンペーンを停止してしまっているケースが見つかるだろう。
組織に置いても、目立って成果をあげている社員の影には、必ず「縁の下の力持ち」がいるはずだ。ゴールを決めないからといって、簡単にクビにしてはいけない。多面的に成果を計測する必要がある、ということだ。
なお、現在、グーグルアナリティクス上では、まだ「Yahoo知恵袋」が、ソーシャルメディアとして登録されていないので、以下の手順で、5つのURLを追加設定しておくことをお薦めする。
Yahoo知恵袋のURL
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
m.chiebukuro.yahoo.co.jp
chiebukuro.spn.yahoo.co.jp
answer.chiebukuro.yahoo.co.jp
chiebukuro.yahoo.co.jp
今回は、サイト内のコンバージョンを決め、それらを計測できる状態にし、サイト全体の収益のポイントが、どこにあるのかを見えるようにした。だが、これだけではまだまだソーシャルでの収益が不十分で判断しにくいだろう。そこで、次回は、ソーシャルメディアを始め、全てのキャンペーン効果をより正しく判断でき、収益を最大化させる「中間コンバージョン」とそのしくみについて話をしてみたい。
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