SEO効果は高まり、従来のオンライン広告が息を吹き返すなど、facebookをはじめとしたソーシャル・メディアによって得られる成果は、今や 無視できない結果をもたらしている。ちまたでは、facebookページの機能解説や、活用事例を紹介したマーケティング本やセミナーがあふれ、取り組む 環境自体は整いつつある。しかし、いざソーシャルメディアで「実際に収益に結びつける」となると、これがなかなか難しい。
書店に並んだ、facebookのマーケティングを謳う本でも、実践的なものはまだまだ少ない。単なるfacebookページの作成方法や、抽象的な理論 など、現実離れした成功事例と実際の現場とのギャップに「ソーシャル活用は一部の人のためのもの。」と、あきらめかけた方も多いだろう。特に前回でも述べ た「ソーシャルメディアは『売り場』ではない。」ということが理解できている担当者にとって「何を書けば良いのか、分からない」というのは切実な悩みであ る。
今回で二回目となる [ソーシャルメディア収益化プロジェクト]では、そうした悩みを解決するためのツールやサイトも紹介しながら、効果的な投稿とはどのようなものかを2回に わけて理解する。別段難しいことではない。どうか本記事を元に、一日も早く「収益のあげられるウェブ担当者」として現場で活躍するための「ソーシャル・ス キル」を身につけて欲しい。
「放っておくと、居酒屋とラーメン屋の写真しかアップしないんですよね、うちの社員達・・・」全社一丸となって鼻息も荒くソーシャルメディアに取り 組んでいたマーケティング担当者が、ある日疲れたように声を漏らした。「一体彼らに、なにを書かせればよいのでしょうか。」この担当者だけでなく、自社が 運営するfacebookやスタッフ・ブログが、食べ物か酔っ払いの写真で埋もれてしまう、というのは比較的よく目にする光景だ。個人で楽しむ範囲なら、 こうした投稿もご愛敬だが、ビジネス・ゴールを掲げたソーシャル・メディアの場では、マイナスイメージにもつながりかねない。
逆に、ソーシャルメディアで収益化できている事業者は「何を書くのか」より「何のために書くのか」が、実に明確だ。自分たちの投稿が、どうビジネスに結びつくかを彼らは良く把握しており、そのゴールのために投稿内容を日々厳選している。
ソーシャル・メディアで事業者がめざすべきゴールは「色々迷ったけど、やっぱりここにしよう!」と、ユーザから自社を「選んでもらう」ことにある。 選んでもらうと言っても、何も自社製品の効果や機能の数字をアピールしたり、他社と比較するわけではない。そうした活動は、売り場である自社サイト内でお こなうべきだ。例えば、短時間で購入やサービスの導入を検討しているユーザなら「PPC広告+ランディングページ」の戦略が向いている。一方で、比較や誰 かの後押しがないとすぐには決められない、といった消費者は多くいる。実際に「カカクコム」や「アマゾン」のレビューを参考に、購入を決断した読者も多い だろう。
だが、一部の口コミサイトやブログの「サクラ」や「ヤラセ」といった、いわゆる「ステルス・マーケティング」の実態がワイドショー番組などでも報道され、 ネットにあまり詳しくないユーザに対しても、そうしたサービスの信頼が薄まりつつある。それでも日々、ネットで比較をしながらお目当ての商品やサービスを 検討しているユーザ達は、事業者自身から発せられる日々の投稿や、ソーシャルメディア上のファンとの交流の様子に着目しはじめているのだ。果たして自分が 探し求めている、商品やブランド、サービス、会社、お店なのかどうかを、あなたが「一発で刈り取ろう」という思惑とは裏腹に、時間をかけてじっくりと「自 分にマッチしているかどうか」を、見極めている。
では実際に、どういった投稿ならセールスをせずに収益に結びつくのだろうか。以下は、必ずしも弊社が携わった例ばかりではないが、事例として参考に なりそうな投稿をいくつかピックアップしてみた。今回はあくまで個別の投稿単位で見ているので、ページ全体のバランスが取れているものもあれば、まだこれ から取り組んでゆく途中であろう事業者のアカウントもある。ただ、できるだけ幅広い規模の事業者でも、どう取り組めば良いのか、そのヒントとなりやすい事 例をピックアップしてみた。
部活動でも、夕暮れ時のかくれた自主練習から多くのドラマが生まれるように、各事業でも顧客へのサービス向上のため、自分自身を磨くために、スタッフが人知れず努力していることはあるはずだ。そんな一コマを見事に切り取ったのが土谷鞄製作所さんのこの投稿だ。
「美しい縫い目」を極めようと若い職人が居残りで練習しているところに先輩が温かい一声をかける。「こういう裏側を見ると買いたくなる」という、一般ユー ザからのコメントもうなずける。投稿されている文章も、短いながら、スタッフを「職人」と呼んだり、臨場感あふれるセリフによってその空間が再現されてい る。写真も、年期の入った機材がさりげなくボケみのある背景として描かれており、写真全体としての完成度も高い。
この投稿のように社内の人間関係も同時に描写することで、自社のサービス品質を、向上・維持させている「人知れず努力しているスタッフ達のワンシーン」は、製品だけでなく、その事業者自体の企業ムードまでも伝えることができる。
こうした品質レベルで、一つの投稿を作り込むことは、一般的な事業者では困難かもしれない。しかし、参考となる点は多いはずだ。宿泊業、飲食サービス業、 製造業、医療、福祉、美容院、金融業、保険業、学校、オンライン通販など、幅広い業態でお手本となる事例ではないだろうか。
この投稿のコメントを見てみると、ある程度投稿がたまった段階で、土谷鞄アカウントがお礼のコメントをしている。適切 で好感の持てる内容だが、投稿しっぱなしではなく、こうした交流をすることで、事業アカウントがひとつの「人格」としてユーザから市民権を得て行く。こう して、ソーシャルにおける事業者の市民性が保たれ、ソーシャルの住人の一員として少しずつ認められて行くのである。このお礼コメントを、対象となるユーザ がどれだけ閲覧したかは不明だが、人が介在していることを明確にしておくことは、あとから閲覧したユーザにとっても重要だ。さらに、こうした「投稿へのコ メント」の副次的効果として、再度、ファンのニュースフィードの上部に掲載され、新たなユーザに閲覧される機会が増える状態となる。
ホームページ上でビジネスを行っている事業者なら、日常的に質問や問い合わせ、中には体験談のメールが舞い込んでくる だろう。それらを記事として投稿すること自体は有効だが、そのまま単純に「●●さんから体験談をいただきましたのでご紹介します。」と、テンプレート的に 連日投稿するのは、機械的な印象がありお勧めはできない。最初は「いいね!」をしてくれていたファンも、ワンパターンすぎてそのうち反応しなくなって行く ケースを多く見かける。
また、そのまま質問や体験談をコピペするだけでは、どうしてもセールス色が強くなり、意図が見え見えだ。セール情報の投稿同様、せっかくfacebook ページに集まってくれたファンが、ファン自体をやめてしまう「解除率」も高くなりがちだ。なによりも、読むユーザからすれば、あまりメリットが感じられな い。
この投稿例では、個人の質問を一般的なユーザにも価値ある情報となるように、「ケーススタディ」として紹介することで良い反応が得られている。
社内に蓄積されたメールや電話による質問・体験談は、いわば他のユーザが求めている情報でもある。ただし、より多くのユーザにとってメリットが生まれるよう、特殊な要素はある程度整理して、汎用性を持たせることが重要だ。
ただ、こうした質疑回答によるケーススタディでも、これだけのコンテンツではユーザもそのブランドを理解することができない。上述のような裏側も定期的に織り込みながら、運用するとバランスが取れるだろう。
ピックアップしたこの投稿では、商品一覧ページへとリンクされているが、投稿記事で触れられているクールビズのコーディネイト上の注意ポイントを深掘りし た自社ブログへのリンクであれば、より公共性も高く、シェアされる確率も高まるだろう。それがなぜ収益に繋がるのかは、次回以降で解説したい。
機械的と言えば、ツイッターやブログに投稿された内容を、自動的にfacebookページに自動投稿ツールで投稿して いるケースを見かけるが、手間がかからない代わりに、「いいね!」やシェアなどの反応も得にくくなってしまうことに気づくべきだ。同じ内容のブログやツ イッターの記事をfacebookで流用するにしても、次の事例のように、ある程度コメントを付け加えるなどの手を加えて投稿しておくことが重要だ。
まず目にとまるのは、facebookページ名自体が「恋と仕事に効く英語」と、事業者の名称ではなく、そのコンセプトが掲げられている点である。スクール名や商品名ではなく、あえて広く一般ユーザに受け入れてもらいやすく、ビジネス色は前面に出していない。
運営元の英会話スクール名は基本データで少し触れられる程度で、投稿においても、本業サービスの紹介やアピールは見られず、「ソーシャルは売り場ではな い」というスタンスが明確だ。その上で、各投稿は適切に自社のブログへとリンクされており、リンク先のブログには、次回以降で説明する中間コンバージョン や最終コンバージョンへの導線がさりげなく設置されている。
投稿自体は、自社のコンセプトである「働きざかりの女性向け」という語り口で、ワンポイント・レッスン的な情報が無料で公開されている格好だが、「英会話 に触れる働く女性ユーザが、どんなコンテンツを好むのか」という傾向をよく知る、自社の人材の強みが活かされている。つまり、単純な「お役立ち情報」の提 供に終わらず、交流が容易なソーシャルメディアの特性を活かして、情緒的な面においても配慮がなされた記事内容だ。 また、こうした交流は、facebook上だけではなくリンク先のブログに設置された「いいね!」ボタンやコメント欄などの数字をみても、ニッチなユーザ 層から支持を得ている人気コンテンツが多いことがわかる。実際にコメントやシェアしているユーザもそうした女性がほとんどで、いわば、自然とターゲットが 絞り込めている好例だ。
少し変わった投稿スタイルだが、ブログへのリンクを貼り付けるのではなく、写真を投稿してその説明文としてブログへのコメントとリンクが付け加えられている。モバイルユーザがニュースフィードでも記事を見つけやすいよう工夫点は参考となるだろう。
ブログやニュースサイトへのリンクは、ブログのURLを「近況」にそのまま貼り付ければ、ブログ上の画像が表示される が、モバイル環境で閲覧した際に、ややインパクトに欠ける。写真と一緒にURLを投稿することで、目にとまりやすい記事となっている。その場合も一手間を 加えて、リンクの紹介文をワンコメントとしていれておくことで、人格が見えて親近感は得られやすい。
年商1500億円をたたき出す、ジャパネットたかたの高田社長は、商品そのものを売っていない。消費者が思い描いて いる商品やサービスの「向こう側」を実に明確にとらえて、情熱的な語り口で売られている。ソーシャルメディアで売上に繋げたいが、何を投稿すればよいか分 からない、という事業者には、普段テレビをご覧にならなくても、一度じっくりと高田社長の様子を研究いただきたい。たとえば、デジタルカメラがとても安い 金額で売られている。見ると、数年前の型落ち商品だ。だが、テレビショッピングの利用者のゴールはそこではない。どんなに最新機種の高画質のデジカメより も、子供や孫の写真を撮ることが簡単で、使い勝手がよいほうがありがたいわけだ。さらに、撮った写真がすぐプリントアウトできれば、家族中が笑顔となり、 皆の心も豊かになるだろう。そこで登場するのが「デジカメとプリンタの安価なセット」だ。
単なる「利用シーン」の説明でもない。そこから得られる家族の笑顔や心の豊かさといった、商品やサービスの「向こう側」を、ていねいに消費者に思い描かせ ることだ。商品を売り込まなくても、消費者が得られる「体験」をしっかりと伝えることで、ひいては売り手の人柄や事業者の姿勢までもが、くっきりと浮かび 上がってくる。まさに「売らずに売れる」の基本である。価格競争に巻き込まれることもなく、そのブランドから購入しようという判断が生まれる。これをど う、売り場に結びつけるかは後の回で説明するが、実際に収益をあげている事業者達は、こうした「向こう側」をfacebookの特徴を活かし写真として投 稿したり、ブログに書いて記事リンクとして投稿している。
さて、あなたの事業の「向こう側」はなんだろうか。そこに他の事業との区別化はあるだろうか。宿泊施設なら風景と溶け込んだ部屋の写真であったり、飲食店 や食料品であればシズル感の溢れる商品カット、家具や食器であれば美しい材質やフォルムの構図などが人気であろうが、さらに区別化を生むならそれらを利用 しているユーザの「向こう側」を描き、伝えられているだろうか。あなたの事業にとって、誰がユーザで、どんなシチュエーションが考えられるのか、ぜひ、過 去の投稿と向き合いながら考えてみて欲しい。
投稿記事ではなくタイムラインのカバー写真になるが、今回取り上げた「キッチングッズ柳屋・柳屋Web店」さんもそうした「向こう側」を上手く提案して、 自宅用のパスタマシーンを魅力的に見せている。facebookページ自体は最近取り組みが始まった様子だが、本サイトを見るとソーシャルなネタがたくさ んあった。こうしたシーンや、土屋鞄製作所さんのような裏側の「ストーリー」も織り交ぜながら取り組めば、今後が楽しみなfacebookページのひとつ だ。今回の説明事例としては非常に参考になる写真だったので取り上げてみた。
facebookでは、「お役立ち情報」と「癒し画像」の投稿の人気度は高い。だからといって安易にかわいい動物の投 稿ばかりして、「いいね!」やシェアなどの反応が高くても、本業に結びつかなければ意味は無い。果たして自社の商品やサービス以外に、顧客や見込み客に届 けられる「強み」や「価値」はないのだろうか。そうした点で全日空さんの運用しているfacebookページは非常に示唆に富んでいる。「安全で快適な空 の旅」を届けるために、細部にわたって普段から訓練され尽くしている。その一つが「笑顔」である。客室乗務員の笑顔の紹介だけでなく、地上スタッフの笑顔 の写真も人気を呼んでおり、他社にも社内教育の研修を手がけるレベルの「全日空」では、そこで働くスタッフの隠れた日々の努力のプロセスではなく、努力の 成果そのものがコンテンツとなっているわけだ。こうした成果がデスクワークをこなす職員にも徹底されていることが解り、その企業をよく知るきっかけにもな る。
さらに、旅慣れたパイロットや客室乗務員が紹介する、自分たちの旅行カバンの中身や、各地の隠れたお土産は、空を旅するユーザにとっては有益でもあり癒や しの画像でもある。全日空の企業そのものが規模も大きく航空業という特殊な業種なため、参考にならない、と思われるかもしれないが、その投稿内容は非常に 洗練されており、特に大きな組織だから決裁が進まずfacebookやソーシャルの導入が遅れている、という企業にはぜひ参考にして欲しい。
ソーシャルメディアの特性は、消費者が自由に発言できるところにある。なにか自社に不祥事が発生して、それを隠蔽しよ うとしても、いずれソーシャルメディア上で話題になって対応に苦労しているケースを多くみかける。むしろマイナスイメージにつながりかねない情報も、即座 に自らが発信することで、その信頼が高まったり、事情をよく知るファンによってあらぬ誤解が解けることもある。安全には十分に配慮している全日空でも不慮 の事故は起きることもある。だが、全日空は、どのメディアよりもいち早く、この事故をソーシャルメディアで報告し、その信頼を回復・維持、あるいは向上さ せた投稿があった。先日、強めの着陸が原因で、機体一部に変形が見られたという事象があった。この時、ANAのfacebookではいち早くこのことを 「お詫び」として投稿した。結果的に、ユーザのコメントはおおむね好意的な内容であったが、当然一部には、否定的な意見も見られた。しかし事情通の投稿な どで、改善の焦点は航空会社だけでなく空港会社側にもあるのではないかという、一般の人間からは分からなかった「事故の責任の所在」なども見えてきた。
このような場合も慎重なコメントで対応されているので、ソーシャルメディアを担当される方であれば、ぜひ上記リンクから、この一件の一連のコメントをチェックしていただきたい。
日頃から、ソーシャルメディアにユーザとの接点を持っていたからこそ、こうした不測の事態でも好意的な意見を得ることができ、弁明の機会も与えられる。事 業を長く継続してゆく上で、マーケティングや売上だけでなく、こうしたリスクへの対応の場所を持つことにも繋がることを、facebookへのとりくみの 意義の一つとして捉えて頂きたい、良い事例である。
2に続く。
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