現在、インターネット上で集客を行っている事業者であれば、おそらく、SEOやPPC広告などの手法に多くのマーケティング予算が割かれ、売上に繋げるための戦略が日々練られていることだろう。だが、洗練されたオンラインビジネスの担当者であれば、徐々にそれらの成果も先細りつつあることに気づき始めているはずだ。
例えば、PPC広告であれば年を追うごとにライバルの競合会社は増え、キーワードの入札単価は年々高騰してゆく一方だし、SEO面でも最近のgoogle社のペンギンアップデートなどの影響を受け、今後SEOでどういう対応をすればよいかが分からない、といった担当者からの悲鳴も聞こえてくる。
一方では、twitterやfacebookなど、いわゆるソーシャルメディアを使ったマーケティングが声高に叫ばれているが、果たして、投資に見合った成果は出ているだろうか。ほとんどの事業者では、「これからのメディアだから・・・」と、先行投資と割り切って、成果の見えないコストをかけているだけではないだろうか。エンゲージメントを高める、という崇高なお題目を掲げながら、facebook上のファン数、コメント数、リーチ数などをKPI(事業評価指標)として取り組んではみたものの、いつまでたっても成果が出ずに、途中でしびれを切らしてしまい、ソーシャルマーケティング自体から撤退してしまった事業者も少なくないはずだ。
ここで、あるコンシューマ向けサイト(語学スクール)のアクセス解析による計測結果をご覧いただきたい。この企業は、当社でオンラインマーケティング全般を担当しているが、ここ2年ほどはfacebookが好調だ。もともと、ソーシャルメディアへの取り組みは約6年ほど行ってきたが、facebookに関しては数あるマーケティング施策の中でも集客では上位に位置しており、既に、Adwords(google/cpc)や、Yahooリスティング(Yahoo/cpc)といった最も効率の良いPPC広告からの流入を、すでにfacebookが追い越している。また、収益についても、全マーケティング施策のうち、約20%前後を占めつつある。
機密保持契約上、その全ての数値をお見せすることはできないが、クライアントから了解を得た範囲でも十分にその成果を確認することができる。こうした、来校・来店といったビジネス形態以外にも、物販のオンラインコマースや、営業用の見積もり取得などのサイトでも成果が確認できている。ソーシャルメディアを上手く活用すれば、実際に「収益」という成果を上げることは可能なのである。ここで投じられた広告コストは、他のコストの実に10分の1以下である。また、この数字は単にここ最近のものではない。ソーシャルメディアに取り組みはじめ、すでに2年が経っているが、今でもその成果を永続的に上昇させている。いわば、確立された新たな広告収益モデルといえるだろう。
だが、このような成果はどのサイトでもすぐに出せるわけでは無い。それなりにソーシャルメディアに対応したサイトの作りや、それをビジネスの成果に転換できるだけの優れたコンテンツ、また高い精度でのサイト自体のチューンナップも必要だ。例えば、これはごく基本的なことだが、あなたのサイト上で、ソーシャルメディアと連携した会話は生まれているだろうか。またそれらがどう収益に結びついているのか、多面的に計測できているだろうか。
事業者自体が、ソーシャルメディアに理解を示し、そのスタンスが備わっていなければ、前述のような成果も生まれることはない。ただ単に、やれソーシャルだ、ツイッターだ、と、ゴールも成果も明確にしないまま流行りに便乗するくらいなら、ソーシャルメディア・マーケティングなどやめておいた方が良いだろう。PPCやSEOですら成果が得られていないのなら、そちらを優先的にサイト全体をチューンナップすることをオススメする。ソーシャルメディアによる収益といっても、現時点では、コンシューマ向けサイトで言えば、既存のマーケティング手法で得られる成果のせいぜい25%前後だ。すぐにすべてを解決してくれるような「新しい魔法の杖の登場」ではない、ということをまず理解しておくべきだろう。
だがしかし、もしあなたが、今後マス広告に依存しない収益モデルを構築して、他社との成果に差をつけたいと考える、先進的なweb担当者なら、すぐにでも取り組む価値はある。
ベストセラーにもなったので、読まれた方も多いと思うが、スティーブン・R・コーヴィー氏の著書に『7つの習慣』というビジネス書がある。単に短期間で成功した人の事例を7つ集めたといった類のものでは無く、長期間にわたって継続して成功している人々の行動から共通する7つの習慣をピックアップしている。中でも3つめの習慣として紹介されている「時間管理のマトリックス」は興味深い。
つまり、時間の使い方を、重要か緊急かで4つのカテゴリにわけ、どの作業を優先すべきかを明らかにしている。例えば、一般的に多忙なビジネスマンは、重要かつ緊急な仕事に追われがちだと指摘する。目の前で鳴るクレームの電話を対応したり、〆切まぎわの業務対応に追われている、などだ。一方、重要だが緊急でない事に十分な時間を割くのが、人生に成功している人達の共通した習慣だという。例えば、健康管理であったり、人間関係づくり、英会話を身につける、などである。
ではこれを、マーケティングに置き換えてみよう。
どうだろうか、間違っても賢明な読者であれば、重要でもないし緊急でもない領域にうつつを抜かすようなことはしていないと思うが(あ、この記事は最後まで読んでくださいね)、往々にして緊急かつ重要なマーケティングだけに時間を割いていないだろうか。マーケティングにおいても、成功者が取り組んでいるように、重要だが緊急ではない領域に一定の時間を割くことが重要だ。いわばソーシャルメディア・マーケティングへの取り組みは、そうした領域の業務となる。
だから成果を焦ってもいけないし、それなりの計画性も必要となることを理解しておいて欲しい。
では、本題に入る前に、「ソーシャル・メディア」とはどんなサービスなのかを整理しておきたい。一口にソーシャルメディアといっても、facebookやtwitterなどの海外発のサービスばかりではない。優秀なオンラインビジネス担当者であれば、古くから国内のソーシャルメディアをチェックし、自社のマーケティングに十分活用していることだろう。ここではまず、国内で利用されている主なソーシャルメディアを分類して整理してみる。
国内で利用されている主なソーシャルメディア
SNS系 | mixi | ||||
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ミニブログ系 | Plurk | ||||
ブログ系 | アメーバ | Yahooブログ | ココログ | Blogger | FC2 |
Q&Aサイト系 | Yahoo!知恵袋 | OKWave | 教えて!goo | ||
動画サイト系 | Youtube | ニコニコ動画 | |||
まとめサイト系 | Naver | ||||
ブックマーク系 | はてなブックマーク | Yahoo!ブックマーク | |||
画像共有系 | Tumblr | ||||
あとで読む系 | Instapaper | Read It Later | |||
番外編 | 2ch |
これでもずいぶんと割愛したほうだが、自分が使ったことが無いからといって、こうしたメディアを無視してはいけない。過去、数々の炎上の火ダネが発生し、また、思いがけない高評価の口コミが生まれ出たのはこうしたサービス達からであり、まさにユーザの声のルツボといえる。また、最近では、「コンテンツ・マーケティング」や「インバウンド・マーケティング」といった言葉が日本でも注目されつつあるが、どんなにそのしくみを理解したところで、ユーザにとって魅力的なコンテンツを提供できなければ、そうしたマーケティングは失敗する。ソーシャルメディアマーケティングなどは、まさにその典型だ。自分たちの事業に対して、ユーザが今、どんなコンテンツを欲しているのか、また、事業者はどのようなコンテンツを提供すれば良い反応が得られるのかは、こうしたサイトを常にチェックし、耳を傾けてさえいれば、容易に把握することができる。
こうしたユーザの声に耳を傾けることが、ソーシャルメディア・マーケティングの第一歩と言える。ペンギンで騒がしいSEO界隈だが、早くからホワイトハットSEOを心がけていたサイトであれば、こうしたサイトからの評価を得ることこそが、最大のSEO効果を生むことは十分承知しているだろう。
いずれにせよ、facebookを含むソーシャル・メディアは、単体では収益を生むことは少ない。すでに取り組んでいるSEOやPPC広告と密接に複合的に関わりあいながら、はじめてその効果を現し始める。
購入やサイト来訪のきっかけが「友達が、いいね、といっていたから。」といった現象は、facebookによってもたらされた現象だ。
twitterなどでも口コミは起きるが、こうした口コミを加速させる「facebook広告」はさらに強力である。また、ユーザが登録した情報で細かく配信設定できることもfacebookならではの魅力だ。
また、これらはまだまだ実験的であるが、facebookには、無料で使える来店クーポン機能や、スマートフォンなどで店舗を紹介してもらう「チェックイン」機能、ブランドと連動したソーシャルゲームなど、モバイル対応も進んでいる。今まで大きな課題となっていたモバイル向けの広告もつい先日にはリリースされ、より幅広く、大きな効果が期待できるようになった。facebook広告をうまく活用することができれば、いわゆるコンテンツマーケティングといったやや実験的な取り組みでも、いち早く検証が可能となる。また、facebookは他のツールと比べて、「プラットフォーム」としての要素が強く、自社サイトと他のソーシャルメディアとの橋渡しも容易である。こうした理由からfacebookに取り組むと言うことをご理解頂きたい。
本連載では、「なにを投稿すればよいのか分からない」「どのくらいコストを投じればよいのか」「炎上は心配ないのか」など、ソーシャルメディアを始めたいという事業者が抱く疑問に答えながら、収益モデルの導入を順に追って紹介しながら、誰もがソーシャルメディアで「収益」という成果をあげられるだけのベースを準備するところまでをゴールとしたい。
今回はまず初回と言うこともあり、これからソーシャルメディアで収益化をめざす事業者が、まず理解しておかなければならないことを整理しておこう。
facebookにせよ、twitterにせよ、ソーシャルメディア自体は、売るための場所としては不適切だ。そもそもソーシャルメディアとは、ユーザが親しい知人と情報を交換したり、会話を楽しむ「交流の場」である。ズケズケとビジネスの話を持ち込んだところで、場の空気を壊すばかりか、冷ややかな対応を受けるだけである。キャンペーンや診断アプリ、タイムラインをきれいなデザインで飾るなど、ソーシャルメディアを活用したビジネスへの取り組みは様々だろうが、本プロジェクトのポイントはそこではない。
今後、永続的に持ちつ持たれつの関係をファンとの間に構築し、ソーシャルの世界で、企業としての「市民性」を確立することがまず重要となる。
では、どのようなタイミングで収益は発生するのか。まず、筆者が2000年代から提唱してきた「売れるネット広告のしくみ」をみていただきたい。従来のマーケティングにおいて売れるポイントは「集める」×「売れる」×「継続する」という3つの要素に集約されてきた。
特にネットで純広が全盛だった頃には、この3つのポイントをコントロールできていたネットショップが成功できていた一方で、2007年頃からこのしくみには「陰り」も出始めてきた。この、「集める」×「売れる」×「継続する」という構造は、言い換えれば、「クリック率xコンバージョン率x継続率」という数値に置き換えられ、日々の解析により「売り場ページ(ランディングページ)」や広告バナーなどを最適化する作業に重きが置かれていた。そして、最後にコールセンターなどによる継続ユーザや友達紹介のケアがどこまで徹底できるかによって、お互いが「かけ算」で関わり合い、収益は大きく変わっていた。どれか一つでも手を抜くと、売上げや利益は大きく変わってくる。
今でもこの構造は部分的には有効であるが、このしくみのもっとも大きな損失は、100名を自社サイトやコマースサイトに集めたとしても、その90%以上は去って行くことだった。今でこそリマーケティング広告などである程度は補完できるものの、競合も多くなり、また口コミサイトなども「ステルス・マーケティング」というサクラやヤラセの横行で、その信頼性が薄らいできているのが現状である。
一方では、ソーシャルメディアを活用した「新しいしくみ」が大きな効果を上げ始めている。特に、facebook広告をうまく活用すれば、最初の100名が来訪すると、50名から80名がファンになる傾向にある。しかし、そこですぐに売ってはいけない。まず、ファンに対してプロの目線で「有益な情報」や「楽しめる情報」を提供し、ソーシャルメディアにおける「市民性」を持って、一般ユーザと「交流」する。一般ユーザは徐々にその事業者の実態を「理解」しはじめ、そうして生まれた「信頼関係」によって、「いつでも買ってもらえる」という土壌ができあがるのである。
このモデルの着想には、米国の靴オンラインショップでナンバーワンのシェアを誇る「ザッポス」社でのブログチームとの対談が大変参考になった。
その後、このモデルの検証に、当社はおそらく日本のフェイスブック広告に最もコストをかけてきた。その後、賛同を得たいくつかのクライアントでもその成果は実証され、おおよそ、100人中、50人~80人がファンになったあと、その後、購入に至るファンは5~10名前後になることも分かってきた。当然、業種やサービスによって差はあるものの、明らかに今までの広告よりも、コストを低く抑えて収益を得ることができている。
このように、オンラインビジネスの現場においては、従来のような一方通行のデータや、無味簡素な数値の管理に基づいてマーケティングが行われていた時代から、コミュニケーションという「感情」によって成果が得られる時代へと徐々にシフトし始めていることを日々痛感している。数字でしかその成果を味わえなかったマーケティング担当者も、1人1人からの反応といった「やりがい」を感じることになる。特に、人と人との関わりあいを数多く経験してきた営業マンや店舗スタッフ、あるいはカスタマーセンターの熟練者などが持つ経験やノウハウは、ソーシャル時代のマーケティングにおいて、今後より重要視されてゆくだろう。また、いわゆる大企業よりも、中小企業のほうが、こうしたソーシャルメディアへの取り組みは障壁は少ない。極論を言えば、今までデジタル・マーケティングを不得手としてきたアナログな業界の事業者こそ、ソーシャルマーケティングでより多くの成果をあげることが可能なのではないだろうか。
次回以降は、こうしたソーシャル・マーケティングを、いかに事業に組み込んで行くかというプロセスを、様々な便利なツール群も紹介しながら、具体的に説明をしてゆきたい。
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