Salesforceのインダストリー担当役員が、今年の公共機関のトレンドに関してそれぞれの視点で解説します。

公共機関は、住民とのつながりを強め、業務効率を向上し、コスト削減に役立つテクノロジーを求めています。

世界的に見ても、また各地域に目を向けても、人々の生活や行政機関の業務は、テクノロジーの進歩につれて常に変化しています。住民は行政機関のサービスも民間企業と同じレベルのサービスを期待します。2023年における行政機関の最大のトレンドの1つは、こうした期待に応えるために、どのように変革するのかということです。

最近では、公共機関でも、サービスの近代化が進み、同じような業務を行う民間企業と同等レベルのサービスを提供できるようになりました。とはいえ、常に改善が求められる状況に変わりはありません。新しい年が始まるにあたって、2023年に注目すべき公共機関のトレンドについて、Salesforceの4人のエグゼクティブにインタビューをしました。そこに共通するキーワードはイノベーションでした。

それでは、サステナビリティへの新たな取り組みや生産性を向上するためのコラボレーションツール、住民を中心とした設計や高度なセキュリティ対策にいたるまで、これからの1年間、公共機関のミッションを成功へと導くトレンドについて見てみましょう。

 

 

2023年のモダナイズに向けた計画を立案

テクノロジーを改善することで、サービスを受ける人々からの信頼を得ながら、サービス体験を変革し同時にコストを削減することができます。

 

あらゆる行政機関にとってサステナビリティは、最も重要な視点です

Nasi Jazayeri:Salesforce バイスプレジデント兼公共機関およびインダストリークラウド担当ゼネラルマネージャー

 

今後30年間で、地球上の二酸化炭素排出量をどれだけ削減できるかということは、人類が直面している喫緊の課題です。世界各国のリーダーは、気候変動を抑制するだけでなく元の状態に戻すために、思い切った対策を行う必要性があることを訴えています。そして、その実現には公共機関がリーダーシップを発揮し、今後数年間にわたって官民一体となった対策を行う必要があります。

政府機関が行う対策として最も直接的で有効なものは、気候変動に関わる法規を整備することです。これにより、公共機関および民間企業は、それぞれが行う炭素排出削減の取り組みの成果を測定する標準的な方法を持つことになります。

米国の環境保護庁およびエネルギー庁が他に先駆け実施したエネルギースター(英語)プログラムは、公共機関の政策が、時間とともに民間企業に与える影響の大きさを示す良い例です。さらに最近では、2021年の大統領令(英語)により、米国エネルギー庁が、気候変動や健康被害の原因の汚染物質の多くを排出する運輸、石油・天然ガス、および発電といった分野の課題解決のための提案を検討しています。

世界各国で同様の政策転換が急速に進む一方で、実際に効力のあるネットゼロへの取り組みを先導しているのは、むしろ地方自治体であるように見えます。いま、地方自治体は、持続可能な社会活動の実現に役立つ最新で高度なテクノロジー(英語)に目を向け始めています。

治安の改善にいたるまで、テクノロジーの活用が2023年における公共機関の主なトレンドになることでしょう。最新のスマートシティでは、安全で健康的、そして公平なコミュニティを構築するためのテクノロジーの導入が進められています。

 

サステナビリティへの取り組みは、公共と民間がパートナーシップを組み、ネットゼロを推進するために投資をすることから始まります。”

Nasi Jazayeri:Salesforce バイスプレジデント兼公共機関およびインダストリークラウド担当ゼネラルマネージャー

良いニュースとしては、あらゆるレベルの行政機関がネットゼロを推進するのに役立つテクノロジーを活用できるようになったことです。クラウドソリューションを導入することで、行政機関、企業、そしてエコプレナー(環境起業家)(英語)がコネクテッド・プラットフォーム、ライブデータ、および予測分析を活用して、炭素排出量をより効率的に測定できるようになります。さらに、このテクノロジーを利用して、将来的に予測される環境への影響を低減するための予防措置をとることも可能です。

これらのソリューションは、炭素排出量とコストを同時に削減するのに有効なツールとなることが実証されています。複数ソースのデータを統合できるテクノロジーを活用することで、公共機関は、炭素排出量の管理を自動化し、規制当局が求める報告のモデル化に役立つインサイトを容易に得ることができます。

このテクノロジーを導入すれば、簡単かつスピーディに、行政機関の脱炭素化と持続可能なオペレーションを実現できることでしょう。

 

 

炭素排出量とコストを同時に削減

サステナビリティへの取り組みにおいて、想定値による運用を排除する方法があります。テクノロジーを改善することで、環境データを容易に追跡・分析し、報告を行うことができるようになるのです。

 

2023年のトレンドは、コラボレーションとシンプルなユーザー体験

Rod Bremby:Salesforce 地域担当バイスプレジデント

 

世界中で緊急事態の発生頻度と深刻さが増していく中、常に試されるのは、対応策の有効性です。緊急事態において、公衆衛生と治安をどこまで確保できるかは、公共機関がコラボレーティブな対応戦略を策定できるかどうかにかかっています。そのため、ますます多くの行政機関が緊急事態対応への備えを重視し、レジリエントなシステムを構築するためにデータファーストなソリューションを採用しています。

緊急事態下においては、状況が刻々と変わることから、多くの場合リアルタイムに収集された実データに基づき、複数の行政機関と民間組織が協力して対応にあたる必要があります。有効な対応策を立案できるか、それとも、リソース配分の失敗や対応の遅れで事態をさらに悪化させるかは、効率的なコミュニケーションを行えるかどうかにかかっているのです。

行政機関がリアルタイムにデータを収集・分析し、十分な情報に基づく意思決定を行うには、デジタルツールが有効です。デジタル・コラボレーション・プラットフォームを活用すれば、たとえ緊急事態のさなかであっても、コミュニケーションを維持することが可能になります。対応にあたるすべての当事者が必要なときに正しい情報を得られるようになるのです。

こうしたコラボレーションのテクノロジーは、緊急事態に限らず、公共機関が直面する様々な事態の対応でも役立ちます。緊急事態下において、すべての行政組織が“ワンチーム”として協働する必要があるように、公共機関では、複数のタッチポイントにわたって、シームレスで相互に関連性のある体験を構築すべきです。支援活動や補助金の管理から、移民、子供、および家庭へのサービス提供にいたるまで、その可能性は無限大です。

このことは、すでに、連邦政府の優先事項となっており、地方自治体が導入に向けて取り組むべきテクノロジートレンドのひとつでもあります。

President’s Management Agenda Vision(バイデン・ハリス大統領課題解決に関するビジョン)(英語)には、次のような記述があります。
「Human-centered design(人間中心の設計)の研究は、個人と連邦政府のサービスとの関わり方についての包括的な理解を求めるFederal programs(連行政府の政策)の推進につながります。このプロセスを通じて、行政機関は、サービスを提供する上での障壁を特定し、そうした障壁があることで、米国政府がサービスを提供すべき人々(特に、十分なサービスを受けていないコミュニティ)にどれだけ不当な負担を強いているのかを明らかにすることができるでしょう」

人々が必要なサービスを受ける際に、非効率なコミュニケーションチャネル(Eメールアドレス、電話番号、ウェブサイト、地方事務所など)を案内されることが少なくありません。しかし、いまの時代は、公共機関であっても、利用しやすいサービスやスマートで迅速な対応が求められています。

これは、行政組織が最新のデジタルツールを導入する良い機会だとも言えます。最新のデジタルツールを使用すれば、直感的に操作できる連携システムを構築し、最も重要な目的である“人々の利便性”を核として、組織内の各部門、チーム、およびワークフローを統合することができるようになります。

 

 

政府機関の成功事例

デジタルHQを活用し、グローバル危機への対応を適切に調整しているTeam America Reliefの事例をご覧ください。

 

これからの公共機関業務で重要となるのはAIと自動化

Nadia Hansen:Salesforce グローバルインダストリおよびデジタルトランスフォーメーション担当エグゼクティブ 州政府および地方自治体の市場開拓戦略担当

 

Salesforceの最新のConnected Government Report(英語)によると、人々が地方自治体や行政機関と関わる際に、デジタルファーストのアプローチをとるケースが増えてきました。この傾向は、特に若い世代に顕著で、Z世代に属する回答者の25%が公的サービスに関する情報を得るための主なチャネルはソーシャルメディアだとしています。

こうした変化に対応するために、公共機関では、人々とのつながりを改善しながら、業務効率の向上とコスト削減を図れるテクノロジーが求められています。その結果、この分野で重要な役割を果たすようになったのがAIおよび自動化のソリューションです。この2つは、公共機関の業務効率を向上するのに役立つのに加えて、あらゆるチャネルを通じてパーソナライズされたサービスを提供するために必要なツールでもあります。

問題解決をセルフサービスで支援するチャットボットや、予測分析、プロセスの最適化を見つけ出すアルゴリズム、事案解決の時間を短縮する申請処理の自動化など、テクノロジーの活用事例は、AIと機械学習が公共機関のサービスを近代化するのに役立つことを示しています。

行政機関に関しては、いまだにAIと機械学習が持つポテンシャルを十分に活用しているとは言えません。AIと機械学習は、業務の効率を向上し新しいタイプの仕事を生み出すための有効なツールとなり得ます。このテクノロジーを最大限に活用するには、公共機関の職員がAIと機械学習の機能とリスクについて十分な知識を持つ必要があります。

行政機関の職員向けにAIトレーニング法案が提出されたことなど、最近の動きを見ると、職員のデジタルスキルの差を無くす必要性があること、そして近い将来、AIが行政機関の業務でこれまで以上に大きな役割を果たす可能性が高いことが分かります。

公共機関がこうした進歩を続けるためには、デジタルテクノロジーに通じた職員を育成する必要があります。また、デジタルテクノロジーを身に付けた職員が業務の効率化を図り、ミッションを達成できるよう、デジタルツールへのアクセスが必要です。

加えて、優れたデジタルスキルを開発・提供することは、公共機関の職員への公平な機会の提供と、職員間のデジタルスキルの格差是正につながります。

 

 

行政機関でのAI活用法

ビジネスニーズを満たすためにAIを使用する方法を学習します。このモジュールは、AIについて初めて学習する方に最適です。

 

公共機関がデジタル化の取り組みを成功させるには、信頼の構築が不可欠

Anand Datla:Salesforce 国防総省担当バイスプレジデント

 

住民との建設的な関係を構築するには、デジタルプラットフォームに対する信頼を確立・維持することが不可欠です。デジタルへの信頼を確立し、住民とのエンゲージメントを向上する努力を継続することで、行政機関は住民に対してパーソナライズされたプロアクティブなソリューションを提供することが可能になります。

セキュリティと信頼は不可分の関係にあります。行政機関が提供するサービスについて改善すべき点を調査したところ、最も重要な要素は透明性とセキュリティ(英語)でした。信頼を構築・維持し続けるためには、強固なセキュリティ対策とデジタルエンゲージメントに最適化されたアプローチを組み合わせることが不可欠です。

最近の調査によると、ほとんどのランサムウェアは、国内および国際的なサプライチェーンにおいて“きわめて重要な役割”を担っている、IT産業やヘルスケア産業・公共機関を攻撃対象にしていることが明らかになっています。さらに、行政機関はサイバー攻撃の対象となる産業のトップ5(英語)に入り続けるだろうと識者たちは予測しています。

サイバー攻撃の性質と頻度を考慮すると、今後も、あらゆる立場の人が危険に晒される可能性があります。そのため、多くの国の政府は、重要なインフラをサイバー攻撃の脅威から安全に守るために、これまでより積極的に対策を講じています。

しかし、強固なセキュリティを実現するためには、現在の行政機関による運用の範囲を超えるセキュリティ戦略が必要です。というのも、米国内だけでも、約85%の重要な国家インフラが民間企業の管理下(英語)にあるからです。そのため、行政機関のセキュリティを向上するためには、民間企業との協力が必要となるのです。

サイバーセキュリティの改善に関する大統領令による国家レベルの対策(英語)を契機に、公共機関は、民間企業や学術界と協力して、ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティ強化に取り組み始めています。行政機関のサイバーセキュリティの将来は、こうした取り組みを行えるかどうかにかかっています。そして、興味深いのは、こうしたイノベーションの先例となる行政機関が複数存在することです。

多くの行政組織(特に、防衛関係)は、民間企業とのパートナーシップのもと、すでに、サイバーセキュリティ対策を進めています。こうした組織では、まず、システムのコンテナ化から始まり、人の介在なしに、自動で脆弱性へのパッチを適用できる自己修復テクノロジーの探究が行われました。

また、リアルタイムな対応でセキュリティギャップを解決するテクノロジーに加えて、潜在的な脅威をプロアクティブに防止およびブロックするために、AIを活用している行政機関も数多く存在します。

見落としてはならないことは、官民のコラボレーションは、行政機関自身だけでなく、行政機関のサービスを利用する人々にもメリットがあるということです。個人データの利用が拡大し、複雑さを増し続ける中、すでに民間企業の企業は、これらの個人データを活用して、パーソナライズされた、より良いサービスや商品提案を行っています。さらに、民間企業は、NIST CSF(英語)などの行政機関のセキュリティ基準も取り入れ始めています。

同様に、行政機関がよりデータドリブンなプラットフォームへの移行を進めるにつれて、ディープデータを安全に利用して、住民と民間企業にタイムリーで価値あるサービスを提供する必要性も高まっています。そして、それがより良い行政サービスの実現につながっていきます。

いまや、データは世界で最も価値のある商品となりました。データの持つ力を引き出す鍵は、公共機関がデジタルサービスの透明性を積極的に確保することに加えて、あらゆる面においてセキュリティへのコミットメントを示し続けることが重要となります。

 

 

セキュリティの向上と信頼の構築

公共機関が日々の業務で使用するテクノロジーが、どのように行政機関と住民の信頼関係構築に役立つのか詳しく紹介します。


 

Eva Skidmore
グローバルパブリックセクターマーケティング担当

Eva Skidmoreは、Salesforceで公共機関向けビジネスのマーケティング担当のバイスプレジデントです。彼女が注力しているのは、行政機関の変革に、Salesforceがどのような協力や支援を行えるかということを考えることです。これには、行政機関が市民にサービスを提供するためのシステム構築だけでなく、データ、プロセス、および業務に必要なテクノロジーへの理解を深め、人材を育成することまでが含まれます。技術分野で20年以上の経験を持つEvaは全米都市連盟の企業評議会、市長の経済開発評議会、ボーズマン地域コミュニティ財団の理事を務めています。

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