企業は、顧客と従業員の両者との長期的な関係を新たな軸とする営業評価指標を検討しています。

パンデミックは、営業活動を混乱させただけでなく、重大な変化のきっかけにもなっています。

2020年以前の営業チームは、潤沢なリードを得て、対面を中心とした営業活動を繰り返し行い、パイプラインを速やかに循環させることに終始していました。ノルマなどの成功指標は、売上目標を反映したものでした。

しかし、新型コロナウイルスの感染が広がる中、デジタル利用率が急激に上昇し、リモートでの購買活動が主流になりました。同時に、経済的な負担により、新たな収入源の開拓が急務となり、企業は苦境に陥りました。

成長の予測性を高めて、顧客がデジタルファーストでコストを抑えて製品やサービスを利用できるサブスクリプションの採用が増加しました。さらに、単発の営業活動から長期的な顧客の成功に重点を移し、顧客関係にギャップが生じないように従業員の維持にあらためて投資しました。

「それがパラダイムシフトの始まりでした」と、Death to Fluff創設者、Belal Batrawy氏は語っています。「目新しい活動の追求から脱却し、より長期的な収益サイクルの検討を始めたのです。」つまり、企業は、顧客と従業員の両者との長期的な関係を新たな軸としたということです。

こうした長期的な関係構築の成否を評価するには、どうすればいいのでしょうか?そこで、新たな営業指標が必要になります。


注目を集める新たな営業指標

売上関連の数字は短期的な予測を当てはめるために依然として重要ですが、営業リーダーの間では長期的な価値を測定するための数字が重視されるようになっています。そこでもっとも注目されている指標が、経常収益、顧客生涯価値、顧客維持率、早期警告サイン、従業員維持率です。

ここでは、これらの営業指標の「説明」と「活用される理由」について詳しく解説します。
 

1.経常収益

説明:もっとも一般的な経常収益は、サブスクリプションです。このモデルでは、企業は一定期間(通常は月単位または年単位)を区切りとして、製品機能や一定レベルのサービスへのアクセスを許可し、その見返りとして顧客に料金を請求します。

ほかにも、リース、成功報酬型販売、広告ベース収益などが経常収益に該当します。

測定方法:指標が異なれば追跡するモデルも異なりますが、使用する公式は単純です。
 

[経常収益 = 一定期間にアクティブなアカウント数 x 商品・サービスのコスト]
 

年間経常収益(ARR)と月間経常収益(MRR)はもっとも一般的な指標ですが、年間注文額(AOV)や年間契約額(ACV)なども使用されます。

活用される理由:まず、経常収益はデジタル環境で容易に管理できるため、買い手と売り手がいずれも大規模にデジタルに移行している現在の流れと一致しています。また、低コストかつ段階的な支出を望む買い手の意向に沿った流れと言えます。最後に、売り手にとっては収益を予測しやすくなり、正確な予測を容易に獲得できます。

さらに、経常収益は、長期的な顧客の成功に貢献します。「企業は、自社のサービスが顧客により良い長期的な成果をもたらすことができるかという点に注目しています」と、Salesforce成長戦略担当シニアディレクターのHeather Unruhは語っています。「つまり、単発の営業活動から、サブスクリプションやアップグレードされた体験をもたらす補完的製品へと移行しているということです」

 

顧客生涯価値を重視することで、単発営業より収益を予測しやすくなる。

 

2.顧客生涯価値

説明:顧客生涯価値は、単発の取引営業を重要視するのではなく、過去の購買行動にもとづいて、単一企業から顧客が購入する合計予想金額を想定します。

測定方法:基本的な公式は以下のとおりです。

 

[顧客生涯価値 = 平均注文額 x 平均購入額/年 x 平均維持年数]

 

この指標は、単発営業からサブスクリプション製品に移行するなど、製品サービスのシフトに応じて変化します。しかし、最終的には、企業との関係全体における各顧客の合計予想収益を算出できます。

たとえば、ホテルチェーンでは、客室ごとの収益だけでなく、ロイヤルティプログラムに参加している顧客の購買行動を評価できます。宿泊の予約とともに、ホテルバーでのドリンク消費やスパの利用など、施設全体での購買パターンにもとづいて顧客生涯価値を計算できます。

活用される理由:売り手にとっては、顧客生涯価値の最大化をアピールすることが、収益の安定を伴うビジネスの回復力(レジリエンス)を示すことになります。見込み営業や単発営業がなくなることはありませんが、ロイヤルティの高い顧客の一貫した購買行動で最終収益を支えることで、収益を予測できるようになり、より正確な予測が可能になります。

 

3.顧客維持率/離脱率

説明:顧客維持率は、アクティブに購入する顧客の割合を示します。顧客離脱率はその逆で、企業との取引を止めた顧客の割合です。いずれの指標も、顧客と企業との関係の長さを評価するために使用できます。

測定方法:維持率と離脱率は、1セットの公式で計算できます。通常は、毎月または四半期ごとに計算しますが、年1回の場合もあります。基本的な公式は以下のとおりです。
 

[顧客離脱率 = (離脱期間開始時の顧客合計数 – 離脱期間終了時の顧客合計数)/離脱期間開始時の顧客合計数 x 100]

[顧客維持率 = 100 – 顧客離脱率] 
 

たとえば、第1四半期の開始時に100人いた顧客が、終了時には90人に減っていたとします。この場合の離脱率と維持率を計算してみましょう。
 

100-90 = 10

10/100 = 0.1

0.1 x 100 = 10%の顧客離脱率

100-10 = 90%の顧客維持率
 

あらゆるビジネスの最終的な目標は、顧客基盤の離脱率をマイナスにするか、成長率をプラスにすることです。

活用される理由:顧客生涯価値があらためて注目される中、顧客維持率が鍵になっています。つまり、取引における顧客満足度にこだわるのを止め、長期的な関係構築を新たな軸としています。すでに述べたように、顧客生涯価値を評価することで成長を予測できるようになり、ビジネスのレジリエンスを示すことができます。

 

Tableauダッシュボードでは、顧客エンゲージメントとビジネス全体の健全性をいつでもリアルタイムで確認できます。

 

4.早期警告サイン

説明:この指標は顧客の購買パターンの変化を示します。顧客の製品やサービスへの関心が薄れ、予測可能な収益が危うくなったことを警告します。

測定方法:早期警告サインの追跡に使用するトリガーは、具体的な製品や顧客の普段の購買習慣に応じて大きく異なりますが、通常は製品の購入および使用習慣の変化を反映します。この指標の目的は、一定期間内に繰り返し発生した場合に収益に悪影響を及ぼす「レッドフラグ」行動を識別することです。

ここでも、ホテルの例で考えてみましょう。ロイヤルティの高い顧客は、平均3泊し、滞在中にバーのドリンクを2本飲んでいるとします。このロイヤル顧客のパターンが変化し始めた場合、たとえば、滞在日数が1泊や2泊に減ったり、バーのドリンクを飲まなくなった場合に、早期警告サインとしてフラグを適用できます。この早期警告サインが発生すると、ホテルは変化の原因を調査して、割引や特典、インセンティブを設定し、顧客のロイヤルティを再び高めるように行動できます。

活用される理由:企業が顧客生涯価値を最大限に高めるには、顧客の成功を徹底的に重視する必要があります。顧客満足度などの指標では、すでに損なわれた関係を修復するという後手に回った対応になりますが、早期警告サインでは先手を打つことができます。企業は、不満がつのって離脱に至る前に顧客のニーズを満たすことができます。

 

5.従業員維持率/離職率

説明:顧客維持率と同様に、従業員維持率は離職率と対になり、人員の在職率の指標となります。一部の企業は、これらの指標を従業員生涯価値と組み合わせて評価しています。しかし、従業員は役職や職務が前触れなく変化するため、測定するのははるかに困難です。

測定方法:顧客維持率/離脱率と同じように計算しますが、従業員のみを対象とし、通常は四半期または1年ごとに数値化します。公式は以下のとおりです。

 

[従業員離職率 = (離職期間開始時の従業員合計数 — 離職期間終了時の従業員合計数)/
離職期間開始時の従業員合計数 × 100]

[従業員維持率 = 100 – 従業員離職率]

 

活用される理由:優秀な人材は見つけるのが困難です。バーチャルチームでは、対面での連携なしで意欲を保つのに苦労しています。人材を維持し続けるのも容易ではありません。

Unruhは次のように指摘しています。「担当者は、スキルを獲得してしまえば、どこに行っても仕事ができます。彼らが離職した場合、企業には、顧客担当者による関係のギャップ、組織に関する知識の損失、新人のトレーニングコストしか残りません」

こうした環境では、従業員の維持率を重視し、従業員の満足度を高めることにより多くの力を注ぐことが鍵になります。

 

次のステップ

この新しいデジタルノーマルでは、顧客があらゆる行動の中心になります。「今後の営業は、数字を達成するだけでは不十分です」とUnruh。「顧客の成功を重視すべきです。」顧客を成功に導きながら、予測可能な成長を達成するには、優秀な人材を確保し、経常収益モデルを導入する必要があります。同様に、適切な指標を測定して成功を評価することも重要です。

新しいツールとスキルがあれば、そうした目標を達成しやすくなります。「あらゆる顧客エンゲージメントデータを統合して(CRM)ダッシュボードを作成し、成功の全体像を把握する方法を検討し始める必要があります」とBatrawy氏は語っています。 

企業に求められる次のステップは、データサイエンスに習熟したRevOps人材を雇用することです。つまり、適切なツールを見つけて、適切なダッシュボードを構築し、効果的な営業指標を示してくれる人材を確保する必要があります。このデータを明確にしたときに初めて、営業リーダーは成長に導く戦略を策定できるようになります。