パーソナライズによって、60日間で350万人のロイヤルティ登録者を獲得したGap Inc.社。デジタル/テクノロジー最高責任者に成功の秘訣を訊ねました。
長年、ブランドが接客する際に重要視されているのが顧客中心主義(英語)です。一部のブランドでは、このミッションを推進するエンジンとして小売のパーソナライズを実施しています。その典型的な例がGap Inc.です。同社ではパンデミック中に高品質な非医療用マスクを顧客に提供し、カーブサイド・ピックアップ(英語)やロイヤルティプログラム(英語)など、顧客の暮らしを楽にするための機能の導入・拡張を推進しました。我々のインタビューでGap Inc.のデジタル/テクノロジー最高責任者であるJohn Strain氏は、顧客中心主義を可能にするのはテクノロジーである一方で、中核にあるのは人であるとした上で、次のように述べました。
「その最たる例が、オンラインで購入して店舗で受け取る(BOPIS)(英語)、あるいはカーブサイド・ピックアップを利用するという体験です。そこではプロセスやイノベーションを支えるテクノロジーと同じくらい、それを扱う店舗スタッフが重要な役割を担っています」 。
"お客様への理解を深めれば深めるほど、サポートやエンゲージメント、特典付与の質を高めることができます"
GAP INC.のデジタル/テクノロジー最高責任者、JOHN STRAIN氏
Strain氏は、Gap Inc.の戦略、店舗、管理、テクノロジーの全チームが全ブランドにわたり協力して、拡張・向上に取り組んでいると言います。特に2020年に発生した新型コロナウイルスの危機に直面した際、その重要性が一層高まりました。たとえば、姉妹ブランドのOld NavyとAthletaは、11月に店舗内サービスハブを展開し(英語)、Old NavyではConvenience Spotを、AthletaではAt Your Serviceを設置し、急いでいる顧客がレジで並ばずにすばやく購入できるようにしました。
Gapはさらに一歩進んで、「ドアベル」機能を導入し、カーブサイド・ピックアップの顧客が店舗に電話しなくても店舗スタッフに到着を知らせることができるようにしました。それらのすべてが、買い物客に利便性、スピード、安全を提供するための取り組みです。
顧客への思いやりからスタートした取り組みが、大きなビジネスに発展しました。2020年4月以来、Gapは消費者と企業に2億2,500万ドル分のフェイスマスクを販売しました。ブランドポートフォリオに100万人以上の新規顧客を取り込むことができたのは、まさにマスクのおかげでした。
同社はその製造能力を活かし、顧客のために数百万枚の非医療用マスクを作りました。すぐに他の企業からも、社員に同じマスクを支給したいという声が届きました。この商品を提供するために、Gap Inc.ではSalesforceのCommerce CloudであるB2Bコマース向けQuick Startを使用し、デジタルトランスフォーメーション企業のCapgemini社(英語)と協力して、5週間未満でマスク向けのカスタムストアを実装し、稼働を開始しました。2社は共同で購入注文を管理し、プログラムに関する情報を企業に配信しています。
「私たちは密接なサプライチェーン関係と機敏なオペレーションを活かし、民間企業、公営企業の両方に再利用可能な高品質の非医療用布マスクを提供するソリューションをすばやく構築しました」とStrain氏は言います 。
Gap Inc.が実現する顧客体験の向上
オムニチャネル機能と拡張したオペレーションにより、Gapブランドの2020年第3四半期の売上は前年比で6%増を達成しています。また、BOPISおよびカーブサイド・ピックアップ注文の純売上高が前年比50%増を記録し、全ブランドでオンラインの純売上高が60%以上増加しています。
「オンラインビジネスの強みを活かしつつ、お客様にお好きな方法でご購入いただけるよう先進のオムニプラットフォームを活用したことがこの成果に結びついたと考えています」とStrain氏は語ります。?
"プログラムへの加入顧客が増える中、Gap Inc.ではそのデータを活用し、一度取引した顧客に複数ブランド、マルチチャネルで長期的に利用してもらいたいと考えています。"
Strain氏はデジタル変革のことを、「統合された技術的機能を活用して、実店舗とデジタルで強化されたオムニチャネルでより優れた顧客体験を提供するための方法」と表現しています。
Gap Inc.の従業員は、顧客体験をさらに向上させる機会を常に模索しています。Athletaブランドとのパイロットテストは、従業員主導のデジタル変革の好例です。「1対1のオンラインスタイリングセッションの試みにより、店舗スタッフは買い物客に対して一歩進んだ小売パーソナライズ、サービス、利便性を提供できるようになりました」とStrain氏は説明しています。
「テクノロジーはオンラインクライアンテリングを可能にし、一定の制約を取り除く一方で、店舗スタッフに商品やブランド、お客様に関する知識を新たな形で活かすチャンスを与えてくれています」
ほとんどのブランドは何らかのロイヤルティプログラム(英語)を実施しています。ロイヤルティプログラムを成功させる秘訣は、テクノロジーを使って顧客のデータとロイヤルティを管理し、顧客に特典を付与したり、やり取りをパーソナライズすることです。Gap Inc.は今年、より多くの顧客を複数のブランドやチャネルにまたがるロイヤリストに変えるということを優先課題の1つに掲げたと、Strain氏は言います。
2020年9月、Gap Inc.はメンバーシッププログラムを刷新し、買い物客がNavyist Rewards(英語)、Gap Good Rewards(英語)、Banana Republic Rewards(英語)、Athleta Rewards(英語)を使ってファミリーブランド内で特典を獲得し、利用できるようにしました。
"小売のパーソナライズを拡張することがGap Inc.の重要課題であり、2021年における顧客との関係性の新しいトレンドです。"
Gap Inc.のデジタル/テクノロジー最高責任者、John Strain氏
Strain氏は次のように述べています。「ブランドごとにスタイルは異なりますが、お客様に獲得・引換いただける特典は共通です。4ブランドすべてに共通のメンバーシップということです。なぜこの仕組みが重要かというと、お客様への理解を深めれば深めるほど、サポートやエンゲージメント、特典付与の質を高めることができるからです」
このプログラムは順調なスタートを切り、最初の2か月で350万人以上の新規ロイヤルティメンバーを獲得しました(この数はさらに増え続けています)。プログラムへの加入顧客が増える中、同社ではそのデータを活用し、一度取引した顧客に複数ブランド、マルチチャネルで長期的に利用してもらいたいと考えています。そのために、顧客のセグメント化を実施し、米国のアパレル市場全体で多くの潜在的ターゲットセグメントを抽出しました。
さらに細分化するために、過去2年分の既存の顧客ファイルにデータサイエンスを適用し、より的確な顧客のターゲット化とサービスを目指してデモグラフィック、サイコグラフィック、ジオグラフィックを調べ、各ブランドに対し2~3のターゲットセグメントを選び出しました。
Strain氏は次のように説明します。「当社では、このセグメントデータを継続的に活用して、好みのチャネル、ロイヤルティステータス、興味のある商品にもとづき、メールやオンサイトの体験をパーソナライズするなど、ターゲットに合わせたマーケティングでお客様に関連性の高いエンゲージメントを行っています。このセグメントは、製品ライフサイクルの活性化にも活かしています」
小売のパーソナライズを拡張することがGap Inc.の重要課題であり、「2021年における顧客との関係性の新しいトレンド」だとStrain氏は言います。
最後にStrain氏に「小売業を一言で表すと?」と尋ねたところ、答えは「大胆さ」でした。そして次のように続けました。「全世界で事業を展開する小売店として、当社では、お客様に卓越した体験を提供するための機会をとらえることで、敢えてリスクを負ってチャレンジしてきましたが、その姿勢を持ち続けたいと思っています。 先を行くためには、効果的にお客様の注意を引きつけ、利便性の高いパーソナライズされた体験を提供し続ける必要があります。時には、これまでの境界を押し広げ、チームを刺激して大胆に新しいものを作り出すことを意味します。常に、情熱を持って大胆なアイデアを試し、それを成功させることに専念するのです」
Rob Garfはインダストリー戦略およびインサイトを担当するVice Presidentであり、Salesforceの小売業向けクライアントアドバイザリーボードの議長を務めています。プラクショナー(Lids、Marshalls、Hit or Miss)、業界アナリスト(AMR Research)、戦略コンサルタント(IBM)、ソフトウェアリーダー(Salesforce)としてグローバルな小売業における25年の経験を持ち、業界および小売業が直面する課題を熟知しています。Robのチームは現在、インダストリーリサーチを開発し、世界中のシニアエグゼクティブに統合エンゲージメント戦略に関するアドバイスを提供しています。業界イベントの講演も頻繁に行い、NRF(全米小売業協会)のDigital Councilのメンバーでもあります。