少子高齢化にともなう人口減少が日本の医療現場を切迫することは確実です。これまでと変わらない医療体制を維持するための対策は喫緊の課題でしょう。
この問題の解決に期待されるのが、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。本記事は、現在の医療が抱える課題と、DX推進による解決策などを解説します。
誰もが関わることになる医療。医療関係者のみならず、日本国民全員が医療現場の問題を理解しておく必要があります。
2020年時点の日本の総人口は1億2571万人です。人口は、ここから右肩下がりに減少していきます。医療現場だけでなく日本全体の問題として叫ばれるのが、まもなくやってくる「2025年問題」です。2025年に団塊の世代が75歳以上になり、超高齢化社会が到来するといわれています。国民の4人に1人が高齢者になるのです。医療技術の高まりで高齢者の寿命が伸びるなか、医療現場に担う若者は年々減少していくという恐ろしい状況が予測されています。
人口減少にともなう医療従事者の減少が避けられない以上、将来を見越した人手不足を補う仕組みの整備は急務です。まず導入するべきなのは、業務効率化システムの構築でしょう。
すでに医療現場において実績を残している医療ロボットの導入を進めるのも方法のひとつです。
デジタル化により、医療関係者の業務効率化や労働力不足の解消することが最重要課題であり、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の急務です。いまだに紙の問診表やカルテを使用し、看護師や医師を長時間勤務させる古い体質は早急に改善すべきでしょう。
あらゆるデジタルツールや技術の導入でDX推進を実現させれば、医療現場の多くの課題が解決するでしょう。
ICTの発達は医療現場のあらゆる業務にメリットをもたらしています。オンライン診療も、そのひとつです。病院から遠く離れた場所に住む高齢者や一人暮らしの高齢者をオンラインで診療することができます。医師の移動時間を短縮するだけでなく、感染リスクの軽減にもなります。コロナの影響でオンライン診療を希望する患者が急増しており、医療現場への速やかな導入が期待されています。
診察前にあらかじめWebやアプリなどで問診票を回収することができます。患者へのヒアリング時間短縮、紙保管によるスペース確保、問診票を保管する手間が省け、看護師を長時間労働から解放させるでしょう。なんといっても、患者の待ち時間を短縮させることは大きなメリットです。昨今、密集した待合室にたくさんの患者を待機させておくことはリスクです。感染リスクを少しでも減らすために導入を検討するとよいでしょう。
問診票とは違い、カルテは法的に作成が義務付けられています。正式な書類=紙という文化が根付く日本では、まだまだ導入が遅れていますが、電子カルテによるメリットは大きいです。スタッフ間のスムーズな情報伝達に役立ち、文字の読み間違いも軽減されます。医療現場での人的ミスは致命的です。情報の正確性を求める意味でも電子カルテは有効といえるでしょう。CTデータや電子データと相性がよい点も特徴です。
医療におけるDXは患者側にも大きなメリットをもたらします。その事例を紹介します。
オンライン診療は、患者側にも大きなメリットがあります。自宅にいながら診療を受けることができるため、自身が感染するリスクや感染させてしまうリスクを軽減できます。体調が悪いときに外にでる苦痛も軽減されます。外出が困難な高齢者や足腰の弱い高齢者にとってオンライン診療は積極的に取り入れたいサービスです。
介護施設、病院、薬局、自治体などが「連携」ができるようになると大幅に利便性が向上します。空きのある医療施設をオンラインで即時に把握できれば、限られたリソースを効率的に利用できます。また超高齢化社会の課題である「地域包括ケア」を推進するためにも連携は必須です。医療と介護の連携がうまくできれば、住み慣れた土地で老後を快適に過ごすことができるようになるでしょう。
製薬大手の中外製薬株式会社では、AI技術により抗体の分子配列を自動で最適な状態で取得し新薬創出の成功率を向上させ、開発期間の短縮やコスト削減などを実現しています。ほかにも、子宮内膜症の患者の痛みの度合いを可視化するなどの技術研究をおこなっています。
富士フィルムホールディングスでは、AI技術「REiLI」を活用して画像診断を半自動化するサービスを提供しています。画像AIと自然言語処理、アナリティクス技術など複合的なAI技術をかけ合わせることにより、迅速かつ正確な診断を可能にして医師の負担を軽くします。また、医療サービスへのアクセス向上を目指してクラウド経由でAI支援機能を提供する準備も進めています。
現代の医療では、病気になってから治療するのではなく、病気にならないための予防医療をが重要視されるようになりました。
AI技術やIoTなどを活用してデータを収集・分析することで日常的な健康状態を把握し、発病を予測するといった取り組みは海外をはじめ日本でも発展しつつあります。今後ますます技術研究が進んでいくでしょう。発病が予測できれば重病の患者を減らすことができ、医療のひっ迫が軽減され、医療リソースの効率化や医療費の削減にもつながります。
医療需要の増加や医療従事者の減少による医療リソースの不足は、私たち一人ひとりにとって深刻な問題です。医療のひっ迫やコストの増大に向けた対策をすぐにでも打ち出す必要があります。
AI技術をはじめとした最新テクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、限られた医療リソースを効率的に活用する大きな助けとなるものです。今後も各医療機関が連携し、ともに知恵を出し合いながら効果的なDXを実現することが期待されます。