多くのビジネスパーソンのネックとなってきた、プログラミング。

 プロダクトのアイディアを思いついても、エンジニアを雇うお金がない、自分でプログラミングを習得するには時間がかかりすぎると、挫折してしまった人も少なくないのでは。

 しかしプログラミング言語の知識がなくても、アプリやWebサイトを簡単に作れる。そんな時代がすでに、到来している。それを可能にするのが、「ノーコード/ローコード」だ。

 コード(プログラミング)不要で、どう開発するのか?今、盛り上がりを見せる理由とは?クエスチョンを追いながら、読み解いていく。

 

 

ノーコードとは、プログラミング言語から成るソースコードを書かずに、ソフトウェアやWebサイトを開発すること。

 開発工程の大半をノーコード的な開発手法で進め、コーディングが必要な箇所には従来通りのコーディングを取り入れていく場合は、ローコードと呼ばれる。

 基本的な操作は、ドラッグ&ドロップだ。

 

Webサイト制作サービスのWixの操作画面。ドラッグ&ドロップの操作でSNS共有ボタンや地図を配置し、サイトを構築していく。

 

「申し込みボタン」を作りたいなら「ボタン」パーツを、アクセスを図示したいなら「地図」パーツを、選んで置くだけ。まるでパワーポイントを操作している感覚で、アプリやWebサイトの画面をデザインできてしまうのだ。

 できるのは、デザインだけではない。ノーコードを標榜する多くのサービスが、顧客データとの連携や動作の自動化といった、バックエンド側の機能も兼ねそろえる。決済サービスと連携して、EC機能をつけることなども可能だ。

 市場も盛り上がりを見せている。

 

出典:ミック経済研究所発刊「DX実現に向けたローコードプラットフォームソリューション市場の現状と展望 2020年度版」 https://mic-r.co.jp/mr/01830/

 

 ミック経済研究所のレポートによると、ローコードのプラットフォームソリューション市場規模は年々拡大しており、2020年度は2,886億円まで増えると予測されている(対前年比117.4%)。

 

 

すでに多くの企業が、この業界に参入。だが一括りにノーコード/ローコードと言っても、各サービスが得意とする分野はさまざまだ。

 Webアプリ開発を強みとする米ニューヨーク発のbubbleのユーザー数は、すでに40万人を突破。

 フロントエンド(画面のデザインやクリック動作)やバックエンド(操作時の振る舞いやデータ処理)、データベース(データ保存やデータ取り出し)といった、Webアプリ開発に必要な全ての要素を開発できるサービスだ。

 

bubbleの操作画面。「このボタンをクリックしたら」→「自動的にメールを送る」といった動作を、フローチャートを作る感覚で設定できる。

 

 自動化に特化したサービスもある。2,000以上ものツールを繋げ、あらゆる作業を自動化するのが、Zapierだ。

 分かりやすい例で言えば、GoogleカレンダーとSlackを連携させることで、予定の10分前にSlackに通知を表示する、といった機能を作ることができる。

 

ノーコード/ローコードの主要プレイヤー。各サービスを連携させ、機能やデザインの幅を広げることも可能だ。

 

 この潮流は、日本も例外ではない。

 ネットショップ作成サービスのBASEでは、コーディング無しでネットショップ開設が可能。さらに拡張機能Appifyを使えば、最短2週間でショップ専用の公式アプリを開発できるという。

 

 

実はノーコード/ローコードの技術自体は、そこまで新しいものではない。Excelのマクロ機能も、ローコードの一種と言える。

 ではなぜ今、ノーコード/ローコードに改めて熱い視線が注がれているのだろうか。

 


日本における“nocode”の検索推移(過去5年間、Googleトレンドより抽出)。ここ1年ほどで、nocodeの検索が急増していることが読み取れる。

 

 その理由を、10年以上前からノーコード/ローコードのアプリ開発基盤を提供しているセールスフォース・ドットコムの、マーケティング本部プロダクトマーケティングマネージャーの岩永宙氏は、こう語る。

 「ノーコード界に突然、技術的な変革が起きたわけではありません。ノーコード/ローコードに対するニーズが、増えているのです

 

 

その背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れがあります。今までは、何か開発したいシステムやアプリケーションがあれば、SIer(システム開発にまつわる全ての業務を引き受ける企業)に依頼するのが主流でした。

 しかし各社でDXの必要性が叫ばれているなか、『迅速な変化に対応できる柔軟性』が重要なポイントに。

 その流れから、システムやアプリケーションの開発を内製化する動きが出てきました。SIerに丸投げしてしまうと、市場の変化に対応する際にもSIerを通す必要があり、市場の変化速度についていけなくなってしまうからです。

 ソフトウェアの内製化需要から、誰でも開発可能なノーコード/ローコードへの興味が高まっていると感じています」(岩永氏)

 日本のエンジニア不足も、その流れを加速させているという。

 

出典:転職サービス「doda」2020年9月

 

 パーソルキャリアのレポートによると、技術系(IT/通信)の転職求人倍率は6.67倍と、全職種の中で1位(2020年9月)。2030年には、60万人近くIT人材が不足しているとの予測もある(経済産業省『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果』)。

 システムやアプリケーションの内製化需要が進む一方で、エンジニアを新たに雇うのは難しい。そんな背景から、ノーコード/ローコードのニーズが高まっているようだ。

 

 

 では実際に、ノーコード/ローコードでソフトウェアを開発することに、どんなメリットがあるのだろうか。

 最大の利点は、開発時間を大幅に解決できる点だ。岩永氏は、そのインパクトをこう語る。

「特にB to Cの領域では、ユーザーの好みや要望は、目まぐるしく変わっていきます。その変化に対応するために必要なのは、何と言ってもスピード感。

 ノーコード/ローコードなら、コードを反復して書く必要もなければ、コード記述によるバグ修正の時間も節約できるため、スピーディーに開発することができます」(岩永氏)

 

 

コロナ禍でも、ノーコードの「スピード」が力を発揮している。

 セールスフォース・ドットコムは千葉県船橋市の保健所と連携し、新型コロナウイルスに関する相談記録やPCR検査の結果などの情報を、クラウド上で一元管理できるパッケージを開発。紙で全ての情報を管理していた状態から、生産性を大きく向上させた。

 このパッケージは、ノーコード/ローコードで開発し、わずか1週間程度で実現させたという。

 

千葉県船橋市の保健所向けに、セールスフォース・ドットコムが無償提供している「業務支援クラウドパッケージ」。ダッシュボード機能で市内の感染者数、相談者数の推移、年代別相談者数が把握できる。

 

 さらに、ソフトウェア開発やエンジニアの採用にかかっていた費用を抑えられる点も大きい。ノーコード/ローコードの開発ツールは、月額数千円から使えるものも多く、コストを削減できる傾向にある。

 最後に、プログラミング言語の知識が不要ということ。岩永氏は、ノーコード/ローコードが普及することで、3つのギャップを解消できると話す。

「性別、年齢、地域の3つのギャップを解消できると考えています。

 現状では、フルでコーディングできる人材には圧倒的に男性が多く、年齢も若年層に偏っています。プログラミング知識がなくても開発に携われるノーコードが普及すれば、ソフトウェア開発の世界に多様性をもたらせると考えています。

 

 

 さらに、ノーコード/ローコードは、大抵の場合Webブラウザが使える環境さえあれば良いので、それほど特別な開発環境のセットアップを必要としません。

 エンジニアがどこからでも仕事ができるようになり、地域間の格差の是正や、自由な働き方の推進にも繋がると考えています」(岩永氏)

 

 

多くのメリットがある、ノーコード/ローコード。ではこれからは、フルでコーディングできるエンジニアは、いらなくなるのだろうか。「全くそんなことはない」と岩永氏は否定する。

「ノーコード/ローコードは、複雑で大規模な開発には向きません。たとえば極端な話ですが、量子コンピューターを活用したシステム・アプリをノーコードで開発するのは、今はまださすがに無理があります。

 つまり最先端の技術、高度な柔軟性が求められる領域では、フルコーディングのほうが適していることがあります。簡単に開発できる分、ノーコードはどうしてもカスタマイズ性で劣る側面がありますから。

 同一のソフトウェアでも、変化やスピードが求められる部分はノーコードで、複雑な要件が求められる部分はフルコードで作る。そういったハイブリッド型の開発の事例も、数多く出てきています」(岩永氏)

 

 

ソフトウェアの民主化とも呼ばれる、ノーコード/ローコードの潮流。その恩恵を受けられるのは、起業家や個人事業主だけではない。

 企業内で使うビジネスアプリも、社内で最適な形にカスタマイズし、必要があれば新たに開発できるようになっているのだ。

「従来は、社内のソフトウェアの使い勝手に不満があれば、社内のIT部門に依頼し、IT部門は外部に依頼して時間とお金をかけて直してもらうか、『そういうものだから仕方ない』と諦めて我慢して使うしかありませんでした。

 ですが社内でソフトウェアを開発できるようになれば、現場で生まれた不満や課題を、その場で解決できるようになります。課題解決のプロセスを、自分たちで回せるようになり、現場の効率・スピードアップに大きく貢献すると思います」(岩永氏)

 

ribkhan / Getty Images

 

 それを可能にするのが、ビジネスアプリのノーコード/ローコード開発基盤の老舗である、セールスフォース・ドットコムだ。

 セールスフォース・ドットコムが提供するLightning Platformは、ビジネスアプリ開発のためのクラウドプラットフォームで、在庫管理や勤怠管理、タスク管理など、業務で必要なあらゆるアプリケーションを、自前で開発することができる。

 類似のプラットフォームは存在するが、Lightning Platformの強みは、顧客管理(CRM)システムとの連動性。セールスフォース・ドットコムのCRMはLightning Platform上で稼働しているため、顧客情報と紐づいたアプリケーション開発もスムーズ。

 たとえば、プロジェクトの進捗や発注を管理するアプリケーション開発も、セールスフォース・ドットコムで管理された顧客情報に紐づけて行うことが可能だ。

 

Lightning Platformの開発画面。直感的な操作で、ビジネスアプリの開発が可能だ。

 

 また現代の仕事は、1つのアプリケーションで完結させるのはもはや不可能。Lightning Platform上では、他社製品も含む多様なアプリケーションを連携させることができ、その“エコシステム”も大きな強みになっている。

「Lightning Platformの前身はForce.comというプラットフォーム。この歴史は2008年に遡り、『自分で機能を拡張したい』というお客様からの要望から生まれた側面があります 。

 Lightning Platformでは、お客様自身が開発したアプリケーションを購入できるマーケットも運営しています。ここではすでに5,000種類以上のアプリケーションが公開されていて、欲しい機能をマーケットで探し、簡単に連携できる。

 Lightning Platformを使えば、そのエコシステムの恩恵を得ることができるのです」(岩永氏)

 これまでは、エンジニアの特権だったソフトウェア開発が、ノーコード/ローコードで多くの人の手に渡るようになった。このノーコード革命は、働き方や組織のあり方、そして私たちの生き方までも変える、そんなインパクトを持っている。

 続く連載では、ノーコード/ローコードがビジネスにもたらす変革を追っていく。
ぜひご覧いただきたい。

 

(制作:NewsPicks Brand Design 執筆・編集:金井明日香、デザイン:堤香奈)

 

 

 

 

あなたもアプリが作れる ノーコード新時代

①【入門】誰でもアプリを作れる時代が来た。噂の“ノーコード”を徹底解説
②【ライバル集結】ノーコード旋風は一過性のブームか本物か
③  未経験者がアプリを3日で開発。ノーコードはどこまで使える?
④【異色エンジニア鼎談】ノーコード/ローコードで、身近な課題を解決したい
⑤【徹底分析】“toBテック”のGAFA? Salesforce 、爆速成長の「7つの秘訣」