2020年10月13日にオンラインで開催された「Pardot Trailblazer Party 2020」。Vol.1では新機能アップデートやAwardを中心に開催概要をレポートしましたが、今回はゲスト講演の内容をお届けします。講師としてご登壇いただいたのは、ベストセラー「1分で話せ」の著者として知られる伊藤 羊一氏。Yahoo!アカデミア学長やグロービス経営大学院 客員教授を務め、株式会社ウェイウェイの代表取締役でもあります。講演タイトルは「未来の顧客へ考えて伝える『極意』、マーケターが知っておくべき伝え方」。Pardotユーザーの皆さまに向けてどのような極意が紹介されたのでしょうか。
「今回のテーマは『考えて伝える』ことなのですが、以前はそれほど力を入れて教えてきませんでした。大事なのはコンテンツであり、コンテンツが良ければそれでいいと考えていたからです。しかし7~8年前に、そうではないと思うようになりました。『考えて伝える』ということは、仕事をする上での全ての土台だということに気づいたのです」。
このように語り始めた伊藤氏。『考えて伝える』スキルは、PCで言えばOSのようなものなのだと指摘します。
「皆さんは当然ながら、業務やお客様に関する知識、そして一般常識はしっかりと知識としてインプットされているはずです。しかし知識だけを入れておけば仕事ができるのか。そんなことはありません。では何が重要なのかというと、知識を活用することであり、そのためには自分で聞いて、考えて、伝えることが必要で、これがOSのようなものになります。ここがしっかり回るようになれば、担当するサービスやプロダクト、つまりアプリケーションの部分が変わったとしても、仕事がしっかりできるようになるのです」。
ではそもそも私たちは、何のために『伝える』のでしょうか。そのゴールは「聞き手に動いてもらうため」だと説明します。
「私はプレゼンの指導をすることも多いのですが、『どうすればきれいに話せるか』『どうすればうまく話せるか』ということをよく聞かれます。しかしそういうことを気にする必要はありません。きれいに話すことが目的なのではなく、聞き手に動いてもらうことが目的だからです。これは特にマーケターの方には、この点をしっかり考えていただきたいと思います」。
そしてその出発点としては「コミュニケーションは聞き手が決める」ということを、強く意識すべきだと言います。
「こちらが調子よく話していても、相手が寝ていたら聞いてもらえません。またただ聞いてもらうだけではだめで、耳を傾けてもらう必要があります。近年、私の話し方も自然と聞き手を意識したスタイルに変わっていきました。また、耳を傾けてもらったとしても、相手の知らない言語で話していたら、理解してもらえません。次に、理解してもらっても、賛成してもらえるとは限らない。更に、賛成してもらっても、きちんと腹落ちして行動しようと思ってもらえるとは限らない。きちんと腹落ちして行動しようと思ってもらえるところまで来て、初めて聞き手は動くのです。ここまでを全てきちんと行うのが、話し手の役割なのです」。
ではどうすれば相手を動かす伝え方が可能になるのでしょうか。「まず相手にどういうニーズがあるのか、何に悩んでいるのか、どうすると喜ぶのか、聞き手のことを考えることが大前提となります」と伊藤氏。これを踏まえた上で『AIDMA』を意識した伝え方をすべきなのだと語ります。
AIDMAとは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字を取った言葉であり、マーケティングプロセスの基本的な考え方です。最近では「AIDMAはもう古い」と言われることもありますが、『考えて伝える』を理解するには、AIDMAに沿って考えることが有効なのだと言います。
まずAttentionでは、大声を上げるなどして一瞬だけ注目してもらうのではなく、話している間ずっと注目されることが必要です。そのために重要なことが、聞き手を迷子にさせないことだと説明します。
「聞き手はわからないことにぶつかってしまうと、その瞬間に意識が離れてしまいます。そうならないために意識すべきなのが『スッキリ、カンタンに』ということです。「スッキリ」とは文字数少なく、文章も短く言い切ること。話し手が言いたいことを全部言おうとしないことが重要です。「カンタン」とは、中学生でもわかるように話すことです。テレビのニュース番組でも中学生にわかる内容にしないと、すぐにチャンネルを変えられてしまうと言われています。これはビジネスにおいても同じことなのです」。
次にInterestでは、「ロジカルに考えたストーリーで」語ることが重要になると指摘。ここには『ロジカル』と『考える』の2つの要素がありますが、これらの本質は何なのでしょうか。
ロジカルとは、意味がつながっていることです。これは世界で最も簡単なロジカルの定義だと思いますが、マッキンゼーのコンサルタントにこの話をしたら『そのとおり』と言われたので、多分正しいのでしょう。
「考えるに関しては、大前研一さんが素敵な定義をしています。それは『知識や情報を加工して、結論を出すこと』です。つまり何かの提案をする時には、きちんと結論を伝える必要があります。これは当たり前のようですが、実は結論のないプレゼンというのは意外に多いものです。その一方で結論には必ず根拠がありますが、根拠と結論の意味がつながっていることがロジカルです。また根拠は3つ用意すべきです。1~2個では簡単に否定される可能性があり、4つ以上になると聞き手が覚えられないからです」。
ここまでで聞き手に「理解してもらう」ことができました。しかしこれだけでは人は動きません。この段階では左脳が理解したレベルであり、動いてもらうには右脳を刺激し、ワクワクさせることが必要であり、それがDesireなのだと伊藤氏は語ります。
「人がワクワクするにはイメージが重要な役割を果たします。写真や絵、動画を活用してイメージを伝えることで、人は勝手に考え始めるようになります。そして最も重要なのはたとえ話です。結論を紐づく根拠それぞれに対して、いくつかの事実を並べていく。このようなピラミッドを考えることで、説得力のあるパッケージができあがります。すでに頭に材料があるテーマであれば、10分程度で作れるはずです」。
ワクワクしてもらったら、それを忘れないように記憶にとどめておいてもらう必要があります。それがMemoryです。ここで重要になるのがキーワードです。「覚えやすい言葉で」「その主張のポイントを」「一言で表現する」のです。今回の伊藤氏の講演では『AIDMA』がそのキーワードになると説明します。
そして最後がActionです。「人間は正しいことを言うだけでは動いてくれません」と伊藤氏。そこで必要になるのが『情熱と自信』なのだと言います。
では情熱とは何でしょうか。それは自分が手掛けているサービスやプロダクトを、自分が一番好きなのだということです。マーケター自身が商品を好きでなかったら、顧客がついてくるはずはありません。
また、自信をつけるにはどうすればいいのでしょうか。それはとことん準備することです。「私が孫 正義さんにプレゼンした時には、5分のプレゼンを300回練習しました。そこまでいかなくとも、10回、20回と練習することで、自信を持って伝えきることが可能になるはずです」。
このような極意はメール配信でも同じだと伊藤氏は指摘します。メールは会話のようにその場で質問できないため、まず結論から先に書くこと、なぜこのメールを送っているのかの根拠を丁寧に記すこと、そして次に行ってほしいアクションを明確にすることが、特に重要になると言います。
さらにマーケターが営業に同行する際の極意についても言及。それはこちらからばかり話すのではなく、お客様に話してもらうことであり、そのためにはテンションを上げる返事をすること、相手から話を引き出す質問のパターンを押さえておくことが重要なのだと語ります。
「R25の記事*によれば、家入一真さんのチャットの返答パターンは『おおおおお!』『すごい!』『やばい!』『いいね!』『やろう!』の5パターンしかないそうです。常に相手のテンションを上げることを意識していることがわかります。また、質問のパターンとしては、『他には?』といった話を広げるパターン、『もう少し言うと?』のように話を深めるパターン、『つまり?』のように抽象化するパターンの3パターンがあります。これらを覚えておくことで、お客様に話をしていただきやすくなるはずです」。
伊藤氏にご教示いただいたコミュニケーションの極意は、まさにマーケターが知っておくべき内容でした。皆さまも明日から1つでも実践してみてはいかがでしょうか。
※情報は2020年10月13日当時のものです
*「チャットの発言パターンは5つだけ」家入一真が明かす“人に期待しない”マネジメント術 (新R25/2019.04.17公開)