新たな営業のあり方として注目される「インサイト営業」をご存知でしょうか。IKEA(イケア)やフォルクス・ワーゲンといった世界的な有名企業も、このインサイト営業を用いて顧客満足度を劇的に高めることに成功しています。
ここでは、従来型の営業とインサイト営業の違い、メリット・デメリットや成功事例について紹介します。
インサイト営業とは、顧客自身が気付いていない「顧客の隠れた課題」を発見し、その課題を顧客に認識させたうえで製品・サービスのセールスを行う手法です。
従来型の営業であるソリューション営業は、自らの課題を認識している顧客にセールスを働きかけ、製品・サービスを売り込む手法です。つまり、インサイト営業は顧客の「潜在的な悩み」を解決し、ソリューション営業は顧客の「顕在化された悩み」を解決するという違いがあります。
以前はソリューション営業こそ営業の基本とされていましたが、インターネットを用いた高度な情報収集が可能となった今、顧客は自らその課題を認識し自分自身で解決することができるようになりました。そのため、顕在化された課題を解決する方向性で営業を試みても成果は得づらくなってきており、ソリューション営業は廃れつつあるといっても過言ではありません。
一方、顧客自身が気付いていない悩みは、どれだけインターネット検索が便利になっても探し当てることは非常に困難です。そのため、ソリューション営業に変わる方法としてインサイト営業が必要とされるようになってきているのです。
では、インサイト営業のメリットは具体的にどんなところにあるのでしょうか。
インサイト営業では、顧客の隠れた課題を的確に洗い出すことができればできるほど「代替不可能な存在」として顧客から重宝されるため、価格競争が起こりづらい傾向にあります。
もしあらかじめ課題が明らかになっているなら、顧客はできる限り費用対効果の良い解決策を模索するでしょう。インターネットで最安値の製品・サービスを調べたり、類似商品の相見積もりを取ったりして、価格に納得感のある選択肢のうち特に安価なものを選ぶはずです。
一方、インサイト営業のターゲットとなる顧客は、まだ課題を認識できていないため当然解決策が分からず、自ら費用対効果の優れた選択肢を探すことができません。
この時顧客は、安さではなく、まだ知らない課題を見つけてくれることにバリューを感じます。そのため、解決策を提案する営業側が顧客にとって替えの効かない存在になれば、価格の競争は起こりにくくなります。
顕在化された領域にアプローチするソリューション営業の市場は、すでに競合が似たような提案を無数に繰り出している「レッドオーシャン」である場合がほとんどです。対して、インサイト営業によって洗い出された課題は、いまだ世間に認知されていないからこそ顧客自らが気付けていなかったものです。
そのため、インサイト営業により顕在化した課題をもとに新たな製品・サービスを開発すれば、これまでになかった市場を開拓できる可能性があります。
インサイト営業は、顧客が自覚できていない課題を発見し、その解決策を提示することが求められるため、営業側には課題を探り当てる能力が求められます。
当事者である顧客自身も気付いていないニーズを見つけるためには、優れたヒアリング力(傾聴力)はもちろん、聞き取りを進める中で出てくる数多くの情報を仕分け問題の本質部分を探り当てる、洞察力ともいえる能力が不可欠です。
こうしたスキルは営業においてかなり高度なものであるため、人材の確保や育成において労力を要する点がデメリットとなる可能性があります。
次に、実際にインサイト営業によって大きな成果を挙げた事例を4つ紹介します。
IKEAでは、男性客の来店を促すために男性が自由に過ごせるスペース「MANLAND」を店内に設置しました。MANLANDには、ピンボールやスポーツ観戦が可能なテレビなど、男性の興味を満たすものが置かれています。
これにより、買い物に長い時間を費やすことを退屈に感じる男性の不満を解消。訪問客数の増加につなげることに成功しました。
アメリカの牛乳加工業者は1990年代、落ち込みつつあった牛乳の消費量を改善するために消費者がどういうときに牛乳を欲するのかについて調査したところ、甘いお菓子と一緒に飲みたいと考える人が多いことがわかりました。
そこで、スーパーマーケットのお菓子コーナーに「Got Milk?(牛乳はある?)」と書かれたポップを設置したところ、牛乳の消費量は上昇。牛乳加工業者の売上の大幅改善に結びつきました。
大戸屋では、女性客を取り込むために飲食店を利用する女性のインサイトを分析。女性客の潜在ニーズを「一人で定食屋に入るところを見られたくない」ことだと定義し、女性でも一人で気兼ねなく入店できるよう建物の2階以上、あるいは地下に店舗を構えるようにしました。
インサイトの分析結果は見事的中し、女性客の集客に成功しています。
1950~1960年代のアメリカでは大型車が流行し、コンパクトさが魅力だったフォルクス・ワーゲンは苦境に立たされていました。そこで、「Think small(小さいことはいいこと)」という、当時の世間における価値観とは真逆のキャッチコピーを打ち出します。
この広告は、世の中に潜んでいた「小さな自動車が便利な状況もある」といったニーズにスポットを当てることとなり、同社のビートルは一気に人気の定番車種となりました。
競合の多い市場で顧客を取りあうことで価格競争に悩まされやすいソリューション営業とは異なり、インサイト営業は「隠れたニーズの発見」が営業の第一歩であるため、提供する製品・サービスに付加価値が生まれやすく、自社の売上はもちろん顧客満足度やリピート率の向上につながります。
ただし、インサイト営業にのみ注力していては顧客の評価を最大化できません。営業力があったとしてもサービス体制が整っていなければ、リピーターとなるはずだった顧客を逃してしまうのです。
そこで今回、営業とサービスの連携・結合について解説したeBook「営業とサービスの連携 - 顧客を中心に考える」をご用意しました。顧客からの評価に直接つながる領域について解説したeBookです。ぜひ本記事とあわせてご覧ください。