効果的なデジタルマーケティング施策をどのように立案していくかは、多くのマーケターに共通する悩みの1つだと言えます。例えば、Webサイトのトップページに何を掲載するかだけでも多様な選択肢があり、どの方法が最も効果的なのかは実際にやってみて結果を計測しない限り、なかなかわかりません。他にも、どのような内容のサンクスメールやメルマガを制作すべきなのか、それらをどのようなタイミングで配信すべきなのか、あるいは顧客誘導のためにブログやメディア運営を行うべきか否かなど、考えるべきことは数多くあります。
このような悩みに対して「実はすでに効果が立証された『勝ちパターン』が存在するにも関わらず、多くのマーケターはそのことを知らず、自分の手で正解を見つけようとします」と語るのは、株式会社WACUL(ワカル)で取締役CIOを務める垣内 勇威氏。マーケターが立案したデジタルマーケティング施策のほとんどは、『車輪の再発明』だと言うのです。『車輪の再発明』とは、すでに確立されている技術や解決方法を、それとは知らずに、再び一から作ることを意味します。ソフトウェア開発の世界では『時間の無駄遣い』という良くないニュアンスで使われることの多い言葉なのです。
なぜデジタルマーケティングでは『車輪の再発明』が横行しやすいのでしょうか。その理由について垣内氏は「本来、デジタルマーケティングの担当者には深い知見と経験が必要ですが、多くの企業のデジタルマーケティングの現場では、異動や退職が頻繁に発生し、そのたびにそれまでの知見が振り出しに戻されるから」だと説明します。また異動の少ない企業でも、Web専任のマーケターは数が少なく、そもそも知見が蓄積しにくいという問題も存在すると指摘します。
知見の少ない『初心者』とも言えるマーケターは、まず何から着手するのでしょうか。それは世の中にあるインターネットや様々なメディアから情報を集めることでしょう。そこにはベンダーやコンサルタント会社が仕掛ける数多くの『バズワード』が存在し、夢のような成果がすぐにでも入手できるような錯覚を起こさせます。
多くの『初心者』マーケターはこのバズワードに翻弄され、流行のツールやメソッドを導入、結局は使いこなせずに失敗することになります。その後、地道にPDCAを回していくことで次第に成功へと近づくことができますが、そのために膨大な時間を費やすことになり、その後担当が異動してしまうとそれまで培った知見も失われてしまうのです。
ではこのように語る垣内氏やWACULは、どのような経験を元にこのセオリーを見出したのでしょうか。ここで簡単にご紹介したいと思います。
垣内氏は東京大学を卒業後、株式会社ビービットに入社し、コンサルタントとして多数のWebプロジェクトに参画してきました。その後、WACULにコンサルタントとして入社、後に取締役CIOに就任し、現在に至ります。2020年9月には初の著書「デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?」も発売されました。この書籍では、今まで垣内氏が培ってきた知見をもとに、「車輪の再発明」に終止符を打つべく、「やるべきこと」「やるべきでないこと」が具体的に記されています。デジタル活用に悩む方は必読の一冊です。
垣内氏が取締役を務める株式会社WACULは、2010年に設立されたWebコンサルティング会社です。2011年には、Web業界では他に類を見ない『成果コミット型Webコンサルティング』の提供を開始。書籍の買い取り・販売を行う『ブックオフインライン』のCV率を120%以上、歯のホワイトニング・クリーニングなどの歯科サービスを全国展開する『ホワイトエッセンス』のCV率200%以上向上させるなど、目覚ましい成果を挙げています。
2015年には、それまで蓄積してきた知見や、作成してきた社内ツールをベースに、松尾豊東京大学教授の研究室と共に共同研究するなど、マーケティング知見とテクノロジーを組み合わせることで、Webマーケティングのデータ分析と改善方法の提案そして成果の測定まで、PDCAを自動化する『AIアナリスト』の提供を開始。その後3年間で2万を超えるサイトを分析し、そこから『勝ちパターン』を抽出、これを用いたコンサルティングサービスも展開しています。
「AIアナリストとは、Googleアナリティクスなどのデータを自動で解析し、自社サイトの改善点を提案、その施策実行後の成果測定まで、マーケターのPDCAを自動支援するサービスです」と垣内氏。Webサイトの現状を評価した上で、抱えている課題まで報告すると説明します。「従来の手作業による集計では専門家でも5日以上かかるアウトプットを、即座に自動で出力できます」。
2020年9月までの累計導入サイトは約3.4万サイトに上っており、広告宣伝費上位100社のうち5割の会社が名を連ねています。その効果は驚くべきもので、AIアナリストの分析にもとづいて立案された施策の73%は何らかの成果を生み出しており、その成果の内容も「65%が1.5倍以上の伸び」という結果になっているのです。
「業種を問わず、ゴールが明確に決められたサイトであれば、極めて高い確率で成果を創出できます。これまでの事例では、CV率を9倍以上にしたケースも複数存在します」(垣内氏)。
さらに、研究所として『WACULテクノロジー&マーケティングラボ』も設立しており、ここで膨大なデータを解析し、勝ちパターンを蓄積。この研究所には垣内氏の他、東京大学や京都大学の教授、明治大学大学院 先端数理科学研究科の准教授、元本田技研工業のWebマスター、EC企業やマーケティング企業の執行役員も参画しており、アカデミズムとビジネスのナレッジを融合した形での研究が進められています。
このような取り組みは産業界でも高く評価されており、2015年にはJAFCO、2017年には電通グループ、2018年にはリコーやマイナビ、TIS、みずほキャピタルが資本参加しています。WACULはまさにデジタルマーケティングの最先端を走る企業であり、その牽引役の一人が垣内氏なのです。
これまで当社が主催するイベントにもこれまで複数回にわたってご登壇いただき、WACULが見つけ出した『勝ちパターン』について、ご紹介いただきました。その内容は、初めて聞く方にとっては文字通り『目からウロコが落ちる』ような内容であり、イベント参加者からもご好評をいただいています。
それではデジタルマーケティングの『勝ちパターン』とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。これについては後編でご紹介したいと思います。