戦後の焼け野原から高度経済成長を達成し、物の豊かさを求めてきた「昭和」の時代から、平成そして令和へと時代は移り変わり、物質的なことよりも、心の豊かさや優れた体験に価値を見出す人たちが増えています。

商品よりも体験を、性能よりも満足度を求めるようになった今、ビジネスにはカスタマーエクスペリエンスが欠かせないものとなりました。

では、カスタマーエクスペリエンスとはどういうことなのでしょうか。また、カスタマーエクスペリエンスを向上させるにはどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。

 

「カスタマーエクスペリエンス」とは?

カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、消費者が企業の商品を購入したり、サービスを利用したりすることを通して得た「体験」や生じた「感情」、「価値観」のことを指すビジネス用語です。

良質な体験は商品やサービスの価値を向上させる力を持ちます。たとえばお店でコーヒーを買うときに、コーヒーがおいしいということに加えてコーヒーを提供した店舗や店員の雰囲気がよく、その店舗で過ごすことに満足感を得たとします。

その体験や様子を写真や動画で撮影し、SNSなどに投稿してシェアするような楽しみがあれば、仮にそのコーヒーが1杯1,000円だったとしてもファンになった消費者はきっと喜んでお金を出すでしょう。

これがカスタマーエクスペリエンスの持つ力です。

 

カスタマーエクスペリエンスの目的と意義

次に、カスタマーエクスペリエンスが持つ意義について詳しく説明します。

 

・ライバルと差別化を図るための付加価値をつける

カスタマーエクスペリエンスは、競合他社との差別化を図る上で欠かせません。

消費者の価値観が多様化した今、価格競争にわずかの差で勝って商品やサービスを売り込もうとしても、少しのきっかけで競合他社に差を付けられたり類似商品の中に埋もれてしまう恐れがあります。

だからこそ、自分たちだけが持つ「特別感」、例えば店舗の雰囲気や接客、商品・サービスのコンセプトに共感や感動を覚えてもらい、顧客満足度を向上させる必要があるのです。

・自社の商品・ブランドのファンをつくる

顧客満足度が高い消費者は「Tシャツを買うならあの店」「コーヒーを飲むならこの店」というように定着化し、自社の商品やサービスのファンになってくれる可能性が高くなります。

ファンの増加は安定的な売り上げに貢献するだけでなく、「人気ブランド」「愛される企業」というイメージを社会に広めて、長期的に企業価値を高めてくれるでしょう。

・売上増加につなげる

カスタマーエクスペリエンスを意識することは、売上の増加にもつながります。

たとえば、高級ホテルのラウンジで提供されるオレンジジュースは自動販売機で販売されるオレンジジュースの10倍近い価格で売られていますが、多くの消費者は納得したうえで商品を購入します。それは、この価格に高級ホテルのラウンジでしか提供されない「リッチな雰囲気」や「特別な体験」も含まれているからです。

つまり、たとえ商品としては高額であってもその商品が持つ付加価値に対して納得感があれば、十分に販売が可能だということです。この付加価値を上手に演出してカスタマーエクスペリエンスを向上させることが重要になってきます。

 

カスタマーエクスペリエンスを向上させるためには


それでは、一体どうすればカスタマーエクスペリエンスを向上させることができるのでしょうか。

 

・企業内にミッションを浸透させる

どのような価値を提供していきたいのか、根幹の部分が曖昧なままではブレが生じやすくなります。まずは、企業の経営理念、共有すべき価値観や果たすべき使命を明確にし、行動指針として具体化しましょう。

それを社内に浸透させることが、企業やブランドのイメージ、提供される商品やサービスに対する消費者の愛着や信頼を獲得する足がかりとなります。

・顧客の目線に立ち商品を提供する

カスタマーエクスペリエンスの向上は、消費者目線で商品を提供できているかどうかが大切です。どのような商品・サービスであれば満足してもらえるのかを考えるのと同時に、アプローチすべき消費者のプロファイルも作成するようにしましょう。

そうすることで、消費者のニーズや情報発信のタイミングがより明確になります。

・目標を設定する

「どのようなカスタマーエクスペリエンスを提供するのか」が明確になったら、次は達成すべき目標を定めます。

売上達成のために、各段階での数値達成度の評価であるKPIを設定すると、ゴールまでに「今何をすべきか」ということが明確になります。

・カスタマージャーニーマップを作成する

アプローチしたい消費者を想定する際に、過去の消費者データやユーザーインタビューなどを活用してペルソナを設定します。消費者をリアルな人物像として可視化することができたら、そこからカスタマージャーニーマップの作成に移ります。

消費者は商品やサービスにコンタクトする際に、認知→興味→検討→購入というプロセスを辿りますが、それにひもづいた感情・思考・不満など内面の動きを時系列順に整理したものがカスタマージャーニーマップです。

顧客行動と内面の全体像を可視化することで、新しい消費者へのアプローチ方法が浮かび上がってきます。

・データを解析し課題点を洗い出す

戦略を立て、それをもとに施策を打ったら、消費者へのアプローチが適切だったかどうかを検証しましょう。

データを解析することで効果を分析し、課題点を洗い直し、改善を図ります。その際、どのようなタイミングでアクセス数や購買率が低下したのかに注目しましょう。

・課題解決のための有効な施策を行う

カスタマーエクスペリエンスの向上は、PDCAを回していくことが重要になります。その際はデータの解析による評価だけでなく、企業が顧客から集めるフィードバックも評価基準として活用していきましょう。

データ解析とフィードバックを組み合わせて、よりよいカスタマーエクスペリエンスの提供となるよう再検討し、目標と現実のギャップを埋めていきます。こうして「商品やサービスにとっての最適解」を導き出していくことになります。

一朝一夕にとはいきませんが、ユーザーとどのようにコミュニケーションしてどのような体験をしてほしいかの追及は、きっとビジネスに良い影響を与えてくれるはずです。

 

カスタマーエクスペリエンスの成功事例

カスタマーエクスペリエンス向上を成功させた企業の取り組みを見て見ましょう。ここでは代表的な2社を紹介します。

 

・コーヒーチェーン大手のスターバックス

スターバックスは、「人々の心を豊かで活力あるものにするために ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションを打ち出しています。

「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」で始まる心地よい接客、軽快なBGMが響く落ち着いた環境作り、季節限定の商品やデザイン性の高いパッケージなど、「スターバックスでしか味わえない体験」を提供しています。

ここに共感や感動を覚えた人たちがリピーターとなり、連日、どの店舗も大盛況となっています。

・超一流ホテルのリッツカールトン

リッツカールトンが提供しているのは「感動を生むサービス」。スタッフ全員が「クレド」と呼ばれる行動指針と使命を記したカードを携帯し、利用者の希望を叶えるために、スタッフ一人ひとりが最適なサービスを提供する努力をしています。

こうした姿勢が“ファン”を増やし、口コミで新規顧客を獲得しています。また、料金帯は高めであってもそこに納得感を生み出しているといえるでしょう。

 

カスタマーエクスペリエンスに関するセミナーもチェック

カスタマーエクスペリエンスをビジネスに生かすため、多くのコンサルティング会社がイベントやセミナーを開催し、事例やデモなどを紹介しています。

セミナーには、有名企業で優秀な成績を納めていた元トップセールスマネジャーらが登壇し、どのように戦略を立て、実行してきたかを説明します。イベントでは、参加者との質疑応答も行います。

新型コロナウイルスの影響でイベントが開催しにくい状況になっていますが、こうした事情を考慮してウェブで対応するイベントや企業も増えています。興味のある方は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

 

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