ミレニアル世代といえば、1980年頃~2000年初めに生まれ、幼い頃からインターネットを身近なものとして育ってきた若者たちのこと。デジタルネイティブとも呼ばれるこの世代は、大人になってからインターネットの常時接続やスマートフォンなどのデバイスと接するようになった世代とは異なり、新しい環境やデバイスに囲まれるのが普通であり、ネットを通して人とつながり、オンライン上のサービスを使うことを「当たり前」として育ってきました。そのため、ネットに接続する時間が、他の世代と比べると約30%多い傾向が見られます。
また、ネットへの接続時間が長いだけでなく、インターネットの便利さもよく知っています。それもミレニアル世代の大きな特徴の1つで、その消費行動もデジタルの影響を存分に受けています。たとえば、リアルな店舗に買い物に行く前に、何かしらの情報をデジタルで入手しており、商品についてある程度理解した上で購買行動に移っています。そのようにオンラインでもオフラインでも、デジタルの影響を受けつつ普段の生活を送っているのです。
ひと昔前は「これまでの常識とは異なる、新しい考え方を持つ若者世代」として、上の世代からは特別視されていましたが、すでにミレニアル世代も「若者」とはいえず、「大人」として社会を構成する一員になって久しいといえます。いまや世界人口の約3割を占め、世代別では「最大勢力」ともなり、15~64歳の労働人口で見ると5割弱に達しています。そして2025年には、グローバルでは全労働人口における割合が75%に達するという試算データも存在します。
ミレニアル世代の比率が高まるということはつまり、ミレニアル世代の消費者も増えるということです。そのミレニアル世代に対して、デジタルコマースを取り巻く環境も対応せざるを得ません。では、具体的にどのように対応していけばよいのでしょうか。
Salesforceの調査によると、「より良い顧客体験を受けるためならより多くのお金を払っても良い 」 と考えている回答者は86%に達しています。これは、今までなら「いいブランドである」「商品が良い」のであれば購入していた消費者が多かったのに対し、「カスタマーエクスペリエンスが高くなければ、商品やサービスを買わない」という消費者が増えてきていることを示しています。もはや、顧客体験全体がブランドと認識されると言っても過言ではないでしょう。
同じ調査では「パーソナライズされたコミュニケーションが提供されない場合、ブランドの変更を検討する」という回答者は52%と過半数に達しています。これは、パーソナライズされたコミュニケーションが、消費者にとってもはや当たり前の存在になっていることにほかなりません。
このようなミレニアル世代に対応するためには、商品やサービスを提供する側は、優れた商品やサービスを開発するだけでなく、カスタマーエクスペリエンスやパーソナライズされたコミュニケーションをも改善していかなくてはならないということです。
また、消費者の購買行動にも変化が見られます。2018年のSalesforceの調査では、50%以上のオーダーがモバイル端末から行われており、ソーシャル経由での購買は前年度比で69%増、AIベースのレコメンデーションを通じた購買比率は26%にも及んでいました。
その要因は、モバイル端末やモバイル向けのサービスの充実が挙げられるでしょう。6、7年前のスマートフォンではエクスペリエンスが十分でなかったり、コンテンツやサービスを提供する側が用意するエクスペリエンスが不十分だったりしました。それが強化された今、消費者は、モバイル端末からの購買を主としつつあるのです。
ソーシャルやAIベースのレコメンデーションを使った購買が増えているのも同様です。ショッピングサイトなどで商品を見ていると、画面下部にレコメンデーションによって別の商品が紹介されることがよくあります。それによってソーシャルで誰かがすすめている商品、あるいはAIによってすすめられた商品の購入が増えているのです。
一方、リアルな店舗では、店員が来店客の表情や態度を見てコミュニケーションを取りながら、その人の好みなどを想像して、いろいろな商品をすすめることできます。それと同様のことが、インターネットのサービスでも可能になってきているのです。
これらの変化は、マーケターなど現場の方だけでなく、エグゼクティブ層の方にも理解しておいていただきたいことになります。このような変化を知ることが、これからの顧客を知ることにほかならないからです。
Eコマースとデジタルコマース。この二つは似てはいますが、明確に区別すべきでしょう。購買の窓口がデジタルになる「Eコマース」はもはや特別なものではなく、行っていて当たり前の時代といえます。それに対して「デジタルコマース」はインターフェースを含めたすべてがデジタルになるということです。具体的には、昨今、多くのデジタルテクノロジーが取り入れられた、新しいタイプのリアル店舗が現れています。キオスク端末が置かれていたり、スマートフォン決済ができたり、中には無人店舗まで登場していています。インターフェースが多様化、高度化し、決済手段も多様化している。それがデジタルコマースです。
それでは、このようにデジタルコマースへと向かう流れの中で、消費者はどのように変化してきたのでしょうか。最近の消費行動の特徴には、次のような6つのパターンが挙げられます。
■ Wishlist Shoppers (回遊不買者)
■ Prescriptive Perfection (推奨享受者)
■ Editor’s Pick (類友信頼者)
■ Stopwatch Shopping (効率購買者)
■ Buying Influence (友人口コミ重視者)
■ Private Channels (会話重視者)
このような変化の中で、重要になるのが前述のデジタルコマースの考え方です。インターネットで商品を売る場合、まず消費者をECサイトに呼び込み初回接触が起こります。そして初回購買があり顧客化、継続的なファンへと育てていくことが重要になります。
これまでのEコマースにおけるカスタマージャーニーで重視していたのは「顧客化」でした。しかしデジタルコマースでは、顧客化の「前と後」も重要になります。顧客化だけを重視していては、新しい消費者に対応できないのです。
とはいえまず顧客化以前に集客施策を施して、消費者を集めないと始まりません。そして特に重要になるのは、顧客化してからファン化までの流れです。「一回きりの買い物」にせずに、「長い時間をかけて、いろいろな商品を買ってくれるファン」になってもらう必要があるからです。
前述のSalesforceの調査では、
という結果が出ています。ここから、カスタマーエクスペリエンスを真剣に検討しない企業には厳しい道が待っていることが読み取れます。
では、顧客体験を高めるには何をすればいいのでしょうか。それを紐解くためのキーワードが「顧客接点の多様化」「マスからのシフト」の2つです。
まず「顧客接点の多様化」とは、端的にいえば、「モバイルをどう位置付けるか」に尽きます。ミレニアル世代はスマートフォンを駆使して、いろいろな便利で快適な体験を享受しています。そのような世代が、快適なモバイルエクスペリエンスを期待していないはずがありません。サイト閲覧が少しでも遅くなれば、コンバージョンやページビュー数は下がり、顧客満足度も低下してしまいます。
とはいえ、単純にEコマースサイトをモバイル向けに快適にすればよいということでもありません。よりよい顧客体験を提供するには、デジタルコマースのみならず、店舗スタッフの応対にも変化が必要となります。Salesforceが2017年に行った、消費者が店舗スタッフに求めることについての調査では、次のような結果が得られました。
意外と思われるのが「モバイル端末を利用して必要に応じて商品情報を案内できること」という声が58%もあることです。消費者は、自分でスマートフォンを操作して情報を調べるのではなく、店舗スタッフが自分に変わって調べて案内してくれることを望んでいるのです。「顧客のプロファイル情報(例:過去の購入履歴)を把握し、より良いカスタマーサービスを提供すること」が24%あるのも目を引きます。約4分の1の消費者は、店舗スタッフにリコメンドしてもらうことも望んでいるのです。
そしてもう一つ、「マスからのシフト」とは、効果的なパーソナライズにほかなりません。単に「性別、教授家、家族構成、資産」などの個人情報を集めただけでは効果的なパーソナライズはできず、真のパーソナライズを実現するには、一人ひとりの「行動の文脈」を捉えることが必要不可欠なのです。
Salesforceでは「カスタマーサクセス」をキーワードに掲げた、「カスタマーサクセスチーム」を設置しています。よく似た言葉に「カスタマーサポート」がありますが、カスタマーサポートが顧客の問題解決を目的とするのに対し、カスタマーサクセスという言葉には、顧客のビジネスの成功を支援する、という意味が込められています。
Commerce Cloudのカスタマーサクセスチームでは、IT部門に対してECサイト構築の支援、技術面でのサポートのほか、ビジネス部門に対してビジネス目的達成に向けた支援を行うなど、「売上を伸ばす」「ビジネスを成功させる」という視点でお客様を支える体制を整えています。
では具体的にカスタマーサクセスチームはどのような支援をするのでしょうか。Eコマースのサイトのプロセスでは一般的に、トップページからカテゴリーページへ、あるいは検索行為を通して検索結果ページに訪れます。そして商品詳細ページに移り、カートページ、チェックアウトへと進み、購入に至ります。その後は、ニュースレター配信などで定着を図っていきます。
では、この一連のプロセスの中で売上を伸ばすには、どのようなKPIを設定し、どのような体制で、どのような頻度で何をすればいいのでしょうか。
アパレルなどの数多くのブランドを展開している株式会社TSIホールディングスは、Commerce Cloudを活用している企業の1つです。TSIホールディングスでは、カート投入率を上げるための機能であるCommerce Cloudの検索ナビゲーションレポートを活用し、全ブランドとしてカート投入率11.6%の向上に成功し、その結果、売上前年度比+52.0%という成長率に寄与しました。
TSIホールディングスが行ったのは、サイト訪問者のサイト内検索キーワードの分析です。消費者が検索した際、「No Result」となり結果が見つからないケースもあります。それでは単なる機会損失に終わってしまいますが、代わりに、同じ意味を持つ別の言葉での検索結果を表示すれば、「No Result」を避けることができます。また、色などの属性での検索結果も表示することも可能です。それでも検索結果が見つからない場合には、関連する商品をリコメンドして表示できます。このようにして、実際に検索された検索ワードを分析してチューニングしていきました。さらにTSIホールディングスでは検索のデータから消費者のニーズを探り、新しい商品開発にも活用しています。
TSIホールディングスが取り組んだもう一つの施策が、AIであるEinsteinによる商品レコメンデーションの最適化と注文率の向上です。以前からEinsteinを活用はしていたものの、設定やトラッキングが不明確で効果が見えないという課題を抱えていました。それに対応するために、トップページやカテゴリーページ、カート、チェックアウトページのそれぞれに適したレコメンデーション戦略を設定することに取り組みました。
たとえばトップページでは、消費者個人の過去のデータだけでなく、すべての顧客のデータをもとにベストな商品を表示し、カテゴリーページでは当該カテゴリの中でのベストな商品を表示します。ユニークなのは、404エラー(存在しないページのURLを開こうとしたときのエラー)を表示するページでもレコメンデーションして商品を紹介したことで、実際そこから売上も生まれています。
さらに、サイトローンチ後に対しては、カスタマーサクセスチームのもう一つの機能であるサクセスマネージャーを用意しています。サクセスマネージャーは、顧客のビジネス成長のため、中長期的な戦略をもとにした改善点や新しい機能追加などの相談に対応します。
その強みにはグローバルなベンチマークが挙げられます。Salesforceのプラットフォームは北米、ヨーロッパ、アジアを中心として全世界のさまざまな企業が利用しています。自社でEコマースサイトを運用している企業では、そこから得られるデータを利用できますが、Salesforceでは全世界から得られるデータを活用できます。たとえば「直近3ヶ月のアジア地区におけるファッション業界の売上成長率」といったデータを取ることも可能です。このようなベンチマークのデータをもとに、Salesforceのカスタマーサクセスチームが、顧客ごとにベストプラクティスを提供します。
今後は、ミレニアル世代が社会の主役として活躍するだけでなく、やがてはさらに新しいZ世代と呼ばれる若者層が社会を担うようになります。Z世代はこれまで以上にデジタルを駆使して生活し、消費行動もますます目まぐるしく変化していくでしょう。
そのように大きく変化していくであろう消費者の購買活動に合わせ、企業も進化を続けなければなりません。それには将来現れる消費活動の変化や新しいデジタルテクノロジーにもスピーディに対応する必要があります。しかし、1企業内にある情報だけで対処するのは容易ではありません。さまざまな業種、多くの国や地域での実績を持ち、そのデータをもとにしたベンチマークを活用できるSalesforce、そしてCommerce Cloudは、カスタマーサクセスの観点から、顧客のビジネスの成功を支援してまいります。