B2CのEコマース市場において、現在世界第4位の規模になる日本では、市場規模では953億ドルもあるものの、成長率に課題があるといえます。中国・米国など規模の大きな市場はもちろん、他の国でも軒並み2桁成長を続けている中で、日本では6%程度の成長にとどまっているのです。
Eコマースを中心に大きな変革の時期を迎えている日本の小売業界において、企業にはどのような対応が求められているのでしょうか。
小売業界は、顧客ニーズやライフスタイル、価値観の変化に即座に適応することが、成長のドライバーになります。日本においては、百貨店の誕生・GMSの台頭・ディスカウントに特化した専門店の出現・コンビニエンスストアの急伸、といった経緯をたどってきました。
そして今では、Eコマースによって、オフラインだけではなくオンラインも含めた顧客ニーズに応えることが重要になっています。
たとえば、株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、長きに渡ってPOS分析を行っていながらも、なかなか個々の顧客像が見えていないという課題を抱えていました。
第4次産業革命に突入した現代、消費者の体験は大きく変化しました。スマートフォンやスマートスピーカーを始めとしたデバイスの登場で、消費者は簡単に快適な環境を作れるようになっています。
あらゆる情報を即座に入手し比較でき、他のデバイスとつながることでさまざまな環境を自分用に最適化できるようになりました。
この、消費者の体験の変化は小売業界においても革命を起こしているといえます。
今までの消費者は、物を買う時には「買いに行く」という行為を必要としていました。しかし今では、店舗だけでなく、モバイルやPCを通じてEコマースで買うこともできるし、スマートスピーカーから注文することもできるようになりました。さらに、SNSに流れてくる商品画像から直接Eコマースへ飛び、購入することもできます。
つまりは、場所だけでなくタイミングも、チャネルも自由に選択できるようになったということです。
購買体験で言えば、今までの「知る」→「欲しくなる」→「買いに行く」→「買う」というステップから、「知る」→「欲しくなる」→「買う」と、ステップが確実に減っています。
これは企業からすると、顧客がいつどこから訪れるのかわからなくなったとも言えて、顧客にとっての「最適な場所、最適なタイミング」を逃すことが商機を逃すことにつながってしまうということになります。
消費者の体験の変化は、購買に関しての変化を生んだだけではありません。
あらゆる情報を即座に入手し、自分用に最適化できるようになった現代では、消費者の企業との関わり方にも変化を及ぼしています。
Salesforce Research の調べによると、消費者は「買い物」という取引ではなく、企業との関係性を重視しているが、55%の消費者が購買体験に一貫性やつながりが感じられないと答えました。
また、64%の消費者は「売り手に自分のことを正しく理解されていないと感じる」と回答しています。
企業にとっては、スマートフォンを中心に消費者は常にデジタルモバイルを持ち歩き、使いこなしている状態というのは、「データの宝庫」であるといえます。しかし、オンライン上の情報収集や買い物と、オフラインでのショッピングとで一貫性のある体験や、消費者の好みに合わせた体験を提供するということが、まだまだ実現できていない状態です。
さらに、消費者は「新しい商品・サービス」をいつも求めています。企業は顧客への体験を整えながらも、新たな体験の設計も必要になるのです。
消費者が現在企業へ求めていることは、「取引」ではなく「関係性」であるということを知ることが、選ばれるブランドになるための第一歩となります。そして、消費者と良好な関係性を作り上げるために、企業は次の3つのことに取り組む必要が出てきます。
関係性を構築するためには、顧客のデータを統合し、あらゆるチャネルでも一貫した顧客体験を提供することが必要です。
従来は、実店舗でもEコマースでも、消費者に「来てもらって」いましたが、現在では消費者がいる場所へ、企業側が「向かう」ことも必要になります。そこで、SNSや、モバイルアプリの利用が台頭してくるということになるのです。
データから顧客のインサイトを把握して、それをもとに実行することが重要になります。そのためには、在庫の管理や消費者の行動の予測が必要です。顧客の行動を把握しておくことで、実店舗においてもリアルタイムに次の行動を予測することが可能になります。
製品や店舗、カスタマーサービスなどまでも含めた顧客が「体験する全てのこと」が、「顧客へのサービス」と考えて、新たなビジネスモデルを検討する必要があります。そのためにも、失敗を恐れずに、より多くの実験をして、学ぶことが重要です。
この、小売業界の革命時代に、顧客と新たな関係性を作り出すためには、顧客の情報を統合して管理できるプラットフォームが必要になります。
インターネット上のブラウジングに始まり、購買行動や商品の提供に関する情報はもちろんですが、マーケティング活動からコマースでの購買体験、カスタマーサービスの利用に至るまでの顧客情報も一元的に管理できることが理想です。
それを実現するのがSalesforce Customer Success Platformです。
マーケティングやコマース、カスタマーサービスなどに渡って顧客情報を共有し、全ての中心に顧客を持ってくることで、360度、あらゆることの解決を図るプラットフォーム。
新たな時代を切り開く先駆者である “Trailblazer(トレイルブレイザー)” は、どのようにしてこれらを活用し、成功を収めているのかを見てみましょう。
50年もの間、グローバルのファッションをリードしてきたラルフローレン。彼らは思い切ったデジタル革命(デジタルトランスフォーメーション)を行っています。周知の通り、アパレルにとって「実店舗」は重要な顧客接点であるものの、ラルフローレンはNY五番街の旗艦店を閉鎖して、デジタルシフトしていこうとしています。
彼らが実施している施策は、たとえば「あらゆる場所から購入できる環境を作る」「B2Bリレーションの改革」「店舗のデジタル化」といったことがあげられます。
「あらゆる場所から購入できる環境を作る」ということは、顧客にとって便利で、ストレスのないEコマース環境を構築することになります。モバイルファーストであることはもちろん、Instagramからも購入できたり、画像での商品検索ができたりするといったことです。実店舗であれば、販売員による接客によって顧客に最適な提案ができますが、Eコマースであっても、もはやパーソナライズによる最適化は顧客体験の向上に必要不可欠なものになっています。ラルフローレンのEコマースサイトでは、検索からレコメンデーション、商品の並べ替えまで全てをCommerce Cloud Einstein というAIによって実現しています。並べ替えのパーソナライズ(Predictive Sort)の効果は著しく、コンバージョンレートを6%も引き上げた成果を出しています。
このような体験は、卸売業者と取引を行うB2Bコマースにおいても重要であると彼らは考えました。昨今のB2B顧客も、ビジネスにおいてデジタルによる便利さを期待するようになっていて、一般顧客と同様のコマース体験を求めている。B2Bのコマースでは、卸値や売値、カスタマイズ、サイズごとに複数購入し、さらに発送先を複数設定するなど、特有の要件があります。それを踏まえて、サイトの見栄えの良さや使いやすさも追求することで、まるでB2Cコマースのような使い勝手で簡単に購入できるようになるのです。
Salesforceでは、B2Bコマースの仕組みも揃え、ラルフローレンはゴルフ商品の分野で利用して、B2Bコマースでの顧客体験向上を図っています。
デジタルトランスフォーメーションが必要なのはEコマースだけではありません。前述の通り、実店舗もアパレルにとって重視するところです。もっとも重要なポイントとしては、Eコマースと実店舗を別々で考えてはならないということ。「店舗のデジタル化」とは、Eコマースでも実店舗でもデータを共有して、顧客体験を分断することなくサービスを提供できるということを指します。Eコマースでのレコメンデーションのように、店舗においてもAIを活用しながら過去の購買履歴などを鑑みてパーソナライズされた接客を実現することで顧客満足度を高めることに成功しているのです。
アメリカの高級ブランド企業であるシャイノラ。チャネルに依存しないデータへのアクセスや1to1ジャーニー、店舗のデジタル化など、まさに顧客情報を核とする「ユニファイドエンゲージメント」の実現を目指しています。
そのための核となるソリューションが、新たにSalesforceファミリーへと加わった「Mulesoft」です。
Mulesoftによって、Marketing CloudやCommerce Cloud、Service Cloudにある顧客の情報はもちろん、3rd Partyの製品であってもデータを統合することが可能になって、POSデータやERPのデータも含めて購入者のプロフィールをどこからでも参照できるようになります。
こうしたインテグレーションによって、シームレスな購入体験の提供が実現されているのです。
また、ロイヤルカスタマーの取り込みの一貫として顧客の情報を統合することで、企業が顧客について知り、パーソナライズし、そしてエンゲージするステージへと進みます。シャイノラはMarketing Cloud の Personalize Shopper Marketingで、的確なマーケティングチャネル、タイミングでのパーソナライズを実現しています。パーソナライズはルールベースではなく、AIによる都度判定で、より多くの顧客に「自分だけ」と感じさせる体験を提供できていすのです。
顧客のエンゲージを高めるために必要なことは、マーケティング分野だけではありません。カスタマーサービスの分野でも企業はあらゆるチャネルで対応することが必要です。
シャイノラはService Cloudを利用して、時間や場所、チャネルを問わないスマートなカスタマーサービスを提供しています。例えば、チャットボットを活用した問い合わせ対応であったり、アプリ対応であったりします。
カスタマーサービス担当者の手の中に顧客のあらゆる情報を収めるだけでなく、カスタマーサービスにおいてもAIを活用して、顧客とのより密接な関係を構築しているのです。
スマートフォンを始めとした技術革新によって、顧客はデジタル機器を多く使いこなすようになりました。それらによって顧客の生活における利便性は遥かに向上し、また取得できる情報も非常に多くなっています。
顧客の生活が変化した今、顧客のニーズによって発展を遂げてきた小売業界にとってデジタル化は避けては通れない道といえます。Salesforce Commerce Cloudを始めとしたリテール向けソリューションが、顧客がブランドと出会う全ての場所において、顧客に対しての「特別な体験」を演出できるのです。
12月に開催したSalesforce World Tour Tokyo 2018 のセッション動画や資料の一部をこちらで公開しています。また基調講演の模様は、ブログでもご紹介しています。ぜひチェックしてみてください。