日本における導入が急速に伸び、Sales Cloudとシームレスに連携するMAとして、重要な役割を果たすようになったSalesforce Pardot。Pardotをご利用いただいているお客様100社にお集まりいただき、「Pardotお客さま感謝祭」を2018年7月18日に開催しました。その中で「クロスオーバーから探るB2Bマーケティングの新たな可能性」と題するスペシャルセッションが展開されました。今回はその第二部として活発で刺激的な議論がされたパネルディスカッションの様子をお届けします。第一部の庭山一郎氏の基調講演についてはこちらからご覧ください。

パネリストとして参加したのは、株式会社スタートトゥデイ(2018年10月に「株式会社ZOZO」に社名変更予定) コミュニケーションデザイン室長の田端 信太郎氏、Sansan株式会社 コネクタ/Eightエバンジェリスト・名刺総研 所長の日比谷 尚武氏、toBeマーケティング株式会社 代表取締役の小池 智和氏です。モデレーターは、セールスフォース・ドットコム 常務執行役員の道下 和良が担当しました。
(なお本文中の敬称は一部省略させていただきます)

まずは自己紹介も兼ねて近況のお尋ねから…

モデレーター 道下(以下、--) このトークセッションでは、既存の枠組みを超えてご活躍のお三方にご登壇頂いています。そこで得られた経験、磨かれた感性などについてのお話いただき、枠組みを超えたそれぞれの視点の交差から、B2Bマーケティングの新たな可能性について一緒に探って行きたいと思います。

まず自己紹介からお願いします。田端さんは最近「ブランド人になれ!」という本を出されましたが、B2Cの広告やメディア、マーケティングに関する鋭い知見をお持ちで、メディアでもかなり切り込んだ発言をされています。また前職LINEでは法人ビジネス担当上級執行役員としてB2Bビジネスの責任者でもありました。現在はZOZOに移っていますが、最近はいかがお過ごしですか?

田端 2018年3月に移っていま3~4か月経ったところですが、皆さまの期待を裏切らず、いろんなことがありました(笑)。水玉模様のZOZOスーツへの切り替えやビジネススーツの発表など、もう入社してから2~3年は経ったのではないかという感覚です。そこで感じているのは、SalesforceさんのMAツールのお客さまの集まりであるこういう場で言うのも何なんですがHOWの話よりも、WHATとWHYとWHO、誰が何のために何を言っているのか、こういうことの方が大事なのではないかということです。
もう少し格調高く言うと、これは「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」です。つまり「この人は客である我々よりも、世の中の先が見えているのではないか」、あるいは「もっと大きな枠組みで世の中を見ているのではないか」と思わせられるかどうか。これによってアポのとりやすさやメールの開封率など、全て変わってくるのではないでしょうか。私個人に関して言えば、いろいろ転職を重ねたり本を書かせていただいたことも含めて、ある種のソートリーダーシップ、「こいつの考えていることは話を聞くに値するだろう」というパーセプションがあるというのが、決定的に大事ではないかと感じています。そういうことがない中で、「いかにタイミングよく当てていくか」ということばかり考えてMAのパラメーターを調整しても、けっこうきついですよね。私からのキーワードとしては、このソートリーダーシップというのをピックアップさせていただきたいと思います。

-- 次は日比谷さん、Sansanでマーケティング・広報機能を立ち上げ、皆さんご存知のあのCMを作り、さらにB2Cビジネス「Eight」などの新基軸をリードしてきた方です。そして今は会社の枠組みを超えて「コネクタ」という生き方、働き方を実践し、ロックバーも経営しています。

日比谷 ご説明いただいたとおりですが、なぜ私がここにいるかという背景を説明すると、B2Bのクラウドソリューションを提供するSansanでマーケティングをやり、そこから広報部を立ち上げて、庭山さんにも出会っていろいろなこと教わってきたからです。B2Bクラウドソリューションの先輩であるSalesforceさんのプロセスも教えていただきました。Sansanではマーケティングから広報、渉外担当や外交官と立場がどんどん変わり、外の世界を見たらそこが面白くなってしまい、今に至っています。そこで私が言えることは、マーケティングだけではなく広報の観点も持ちながら、全体の戦略を考えなければいけないということです。また田端さんのおっしゃるソートリーダーシップのように、自分が表に立って発言することで得られることも多く、それがアセットとして積み重なっていくということや、マーケティングの方はタコツボにハマっているケースが多いので、もっと外の世界を見たらいいよ、といったこともお話できたらいいなと思います。

-- マーケティング機能と広報機能を両方同時に立ち上げたことが良かった、という話もお聞きしましたが。

日比谷 すごく良かったですね。

-- それはなぜ、どの辺りが良かったのですか。

日比谷 第一部の庭山さんの基調講演にあったデマンドウォーターフォールのように、最初に広報的にメディアを使って認知をとっていくところから入り、だんだんリードを作っていき、刈り取ってクロージングしていくということを考えると、広報的なアプローチが必要な、マーケティングの考え方だけでは対応できない部分がどうしても出てくるからです。期せずしてメディアに露出した場合、MAをチューニングしているより効果がある、といったことは少なくありません。しかしマーケティングの人は広報と分断されていることが多いような気がします。もちろん田端さんのように自ら炎上を引き受けてやるというのはなかなか真似できませんが(笑)、もう少し手前のところはできると思います。

-- やはりソートリーダーシップに通じるところがあるわけですね。最後は小池さん。小池さんはPardotとお客様を知り尽くした第一人者であり、2014年8月にB2Bマーケティング専業エージェンシーである2BCの設立に参画、さらにそこからtoBeマーケティングを起業し代表取締役となっています。2BC設立前は弊社でアライアンスを担当していましたが、どのようなお考えからSalesforceという会社の枠組みを超えて、起業することになったのでしょうか。

小池 庭山さんの講演で「MAの屍」の話がありましたが、単にITツールを入れても成果を上げることは難しいだろうなと感じました。そこを少しでも後方支援するために独立してやりたいと考え、起業することにしました。

B2Bマーケティングに新たに加えるべきもの

-- それでは実際のセッションに入っていきましょう。まずはB2Bマーケティングにおける顧客エンゲージメントに、新しいエッセンスを加えるとしたらどのようなものが考えられるのかをお伺いしていきます。

田端 メディアの立ち上げをしながら思っていたのですが、新しいメディアが出てくると、まずコンシューマーが先に使い始めます。スマートフォンがその典型ですが、最初の2~3年はコンシューマーには普及する一方で、企業のマーケティングにはなかなか使われません。そのタイムラグは短くて2年、長いと5~6年あります。B2Cの方が反応が早いのは、自分一人で決められるからです。B2Bでは合議で物事が決まるので、一部の人が反対すると進みません。そこをどう突いていくかというのはB2Bマーケティングの醍醐味でもあるのですが、そこで重要になるのが情報発信です。

Twitterや書籍で情報発信を行っていると、営業先に行っても「田端さんのTwitter見ています」「本読みました」ということになり、一気に距離を縮められます。最初に会った時の関係性が著者と読者であれば、出入り業者が手もみして営業するのとは、まったく扱いが違ってくるのです。逆にお客様から来て欲しいと言われることもあります。B2Bマーケティングでは合議で物事が決まるため、客観性を重視するあまり個人のキャラクターを封印しているケースが多いようですが、「私はこう思います」ということを脇に置いてしまっているのであれば、もったいない話です。マーケティングは100%のサイエンスにはなりえません。だとしたら、その人らしさをぶつけた方が面白いし、働く人にとっても楽しいのではないかと思います。

日比谷 私が広報をやっていて感じたのは、多くのマーケターはファネルの設計をやりすぎてしまって、その外側に出られなくなっているのではないかということです。

-- 日比谷さんはファネルの外に飛び出したわけですが、そのキッカケは何だったのですか。

日比谷 飽きたからです。皆さんの前でこんなことを言うのは申し訳ないのですが、堪え性がないのでショートカットしたくなるんです。私はもともとマーケターではなく、以前もベンチャーでいろいろなことをやっていたのですが、Sansanに入った時にたまたまWebサービスの経験があったためホームページ立ち上げを任され、マーケティングもやることになりました。しかしマーケティングのプロになりたかったわけではありません。細かい数字を追いかけてチューニングを行うことにも興味がなく、大きな流れを作れればいいと考えていました。マーケティングといった1つのことを煮詰める人ももちろん必要ですが、会社全体から見た場合には、どんどん新しいことを取り入れていかなければなりません。

小池 私がB2Bで意外と重要だと思うのは、リアルのつながりであるコミュニティです。すでに皆さんもやられているとは思いますが、Webやイベントからリードを獲得してナーチャリングしていくのも大事ですが、何かを始める時の勉強会やコミュニティから、新たな商談が生まれることも少なくありません。このような取り組みは短期間でKPIを測るのが難しいのですが、その重要性はB2Bならではだと感じています。

-- その取り組みは、営業とマーケティングのどちらの仕事だと思いますか。どちらも短期間のKPIを求められることを考えると手を出しづらい取り組みになりますが。

日比谷 それは柔軟に考えるべきではないでしょうか。誰でもいいので、とにかくやってみることが重要だと思います。

Salesforceのマーケティングへの評価

-- ではここで、議論の一つの叩き台としてSalesforceのセールス&マーケティングプロセスについて、どう感じているのかお聞きします。弊社の営業が提案時にお話する場合、このようなプロセスモデルを自社事例としてお話をするので、本日会場のお客様は一度は目にしたことがあると思います。弊社では長年このプロセスモデルのSalesforce利用を通じた実践を強みとしてビジネス拡大を続けてきているのですが、個人的にはまだまだ進化できる余地があると思っています。日比谷さんはどうお感じですか。

日比谷 私は広報としてSalesforceに相談したことがありますが、「ザ・広報」というエバンジェリスト的な社員が出てくるケースが少ないように感じています。これはやはり、ユーザーをヒーローにするというポリシーなのでしょうか。それにしても、もっと戦略的にソートリーダーとして社員を出していけばいいのにと思います。

-- 確かに日比谷さんがおっしゃる通りで、その背景として弊社は企業変革を推進するTrailblazer(先駆者)であるお客様にスポットライトを当てたいという考えがあります。また、社員の露出の件に関しては、創業者のマーク・ベニオフ自身が最大のソートリーダーとしてSalesforceを代表していることもあるでしょうか。

田端 それは決して悪いことではありません。同じようにZOZOには前澤がいるわけですが、ファウンダーで筆頭株主でいまだに社長という人がいる場合には、その人にとってはプロダクト開発からアフターサポートまで、すべてがある種のマーケティングであり、これこそが理想的なマーケティングなのだと思います。Salesforceの場合は20年前からソートリーダーシップがあり、そのスタンスにも一貫性があります。B2Bのマーケティングでは、キーとなるクライアントをどう落としていくかが重要であり、あとはドミノ倒しです。つまり最初の数社を倒すために何でも使うという、総合格闘技のようなものです。特にB2Bのスタートアップではトップ営業が決定的に重要であり、この1段目のロケットが点火しないとダメだといえます。

-- 小池さんはSalesforceの中にもいて、その後は外から見ているわけですが、その立場からはどう感じますか。

小池 なかなかコメントしづらいですね(笑)。ただこのプロセスの見方について指摘したいことがあります。それは、プロセスの流れは左から始まっているのですが、構造的には右側から順に決まっていくということです。まず目標となる受注額を決めるところからスタートし、受注率から考えてどれだけリードが必要なのかが決まるわけです。私自身は左から説明するのには違和感があります。営業の数字こそが最も重要だからです。

B2Bマーケターのキャリアパスへの提言

-- 最後に、B2Bマーケターが歩むべき生き方や働き方、キャリアについてお聞きしたいと思います。

小池 マーケティングを極めた上で、私どものようなエージェンシーのところにきて、多くの企業様を手伝うのも1つのキャリアかもしれません。しかしマーケティングの役割を突き詰めていくと、結局は経営そのものであり、売上を上げていくことです。そういう意味では、ぜひその会社のトップ、社長になって欲しいと思います。会社の社長は一番のマーケターであるべきです。マーケターがトップを目指すというのは、素晴らしいキャリアパスではないでしょうか。

日比谷 言いたいことが2つあります。まず1つは広報の役割についてです。メディアにどれだけ掲載されたかというのは、狭義の広報に過ぎません。広報というのは正しくはパブリック・リレーションズであり、世の中といい関係を作ることが目的です。そしてその手法や発想には、マーケティングに持ち込めるものが多いのです。マーケターはぜひ広報の勉強をするべきです。PRの資格もあるので、その試験を受ける必要はありませんが、そこで何を学べるのかを見ておくといいでしょう。もう1つは、B2Bのノウハウを学ぶ時には、表面のHOWだけ見てはダメだということです。ついHOWだけ真似したくなりますが、誰に何を伝えるのか、その裏には何があるのか、しっかり理解した上でやるべきです。

田端 私は転職を繰り返しており、ZOZOで6社目になるのですが、会社選びで大事なことは、自分がその会社の背景にある思想や哲学に共感できるかだと考えています。その人がその会社の考え方を信じきれているかどうかは、必ず表に出てきます。そもそも自分が信じ抜けないものを、他人に薦められるのでしょうか。マーケターとして自分が信じ抜けないものを薦めているときは営業もお客様もそれを見抜きます。なぜその会社で働いたのか、その意義を年老いた時に孫に伝えられるのか。これこそが重要なことであり、売上やインセンティブなどはどうでもいいと、あえて言わせてもらいます。

-- 皆さん、かなり魂のこもったお話になりましたね。

田端 まったくテクノロジーの話にはなりませんでしたね。精神論のような(笑)

-- でもそれが大事なわけですね。このセッションの中から、何か一つでも気づきを得ていただければ嬉しいです。田端さん、日比谷さん、小池さん、ありがとうございました。