B2Cマーケティングは大きな変革期を迎えています。それはマーケティング手法の変化だけでなく、消費者や消費者を取り巻く環境の変化によってもたらされたと言えるでしょう。エクスペリエンスや、よりパーソナライズ化されたエンゲージメントが求められる中、マーケターに必要となるのはどんなことでしょうか。

顧客との新たな関係性構築を支援するインテリジェントマーケティング

米セールスフォース・ドットコム ジョン・スアレス・デイビス

2018年7月26日、東京都内でセールスフォース・ドットコムが主催した「Salesforce B2C CRM カンファレンス」が開催されました。この記事ではカンファレンスのOpening Keynoteで展開されたセッションの内容をダイジェストでお届けします。

世界はいま“第4次産業革命”の時代に突入したといえます。さまざまな最新テクノロジーが生まれる中、企業と消費者の新しい関係性が生まれ、マーケティング改革が必要とされています。インテリジェントマーケティングの時代となった現在、IoTやAIといった技術を通じて、我々マーケターは消費者の行動をより深く理解して、必要とされているブランド体験を顧客に提供していくことが可能となってきました。

同時に、消費者も変化しています。スマートフォンはもちろん、スマートスピーカーのようなAI搭載デバイスや、各種IoTデバイスを使いこなしている顧客は少なくありません。こういう状況において、あらゆるモノがつながっていると捉えた上で、マーケターは消費者との関係性の構築形式を抜本的に改革する必要があるのです。

消費者のほぼ8割が、企業が提供する体験は商品やサービスと同じぐらい重要だと考えているというデータがあります。質の高いエクスペリエンスを提供するために、顧客との関係を築く方法にも変化が必要な段階に突入しています。顧客との新たな関係構築を支援するのがインテリジェントマーケティングだというわけです。

インテリジェントマーケティングを実現するための3つのステップ

インテリジェントマーケティングを実現するには3つのステップがあります。第1のステップは「データを活用して顧客の情報を収集し、深く理解すること」、第2のステップは「その情報と信頼をベースとして、顧客との接点をパーソナライズすること」、そして第3のステップは「ジャーニーを通じて顧客とつながる(エンゲージメントする)こと」。これらは簡単なフレームワークのように見えますが、実現するのは容易ではありません。その問題解決を支援するのがSalesforceプラットフォームです。

まず消費者のデータの収集について。一般的に顧客のデータは広く細分化されてしまっていて、なかなか必要なデータにアクセスできず、お客様の全体像を把握できないという声も聞こえてきます。Salesforceでは、マーケティングデータ、デバイスとWebのデータ、イベントデータ、その他の外部データなど、細分化されたデータを集約して管理されています。大量のデータが日々保存され、そのデータは企業とお客様との関係性の構築に役立っています。しかしながら、データを取得し、管理するだけでは活かしきることは難しいものです。そこで、そのキーとなるのがAIであるEinsteinです。

Einsteinは複数のソースからデータを収集して分析し、すべての接点においてお客様向けにパーソナライズすることが可能です。収集したデータをEinsteinで分析したら、すべてのお客様のジャーニーを通じてエンゲージメントを行います。ここで必要になるのが、広告やメッセージのような「ブランド主導型のコミュニケーション」と、ユーザーが生成する「顧客主導型のコンテンツ」の溝を埋めることです。インテリジェントマーケティングを実現するためには、両者を統合し、お客様を中心に置いた状態で、本当の意味でお客様のエンゲージメントを手に入れることが必要なのです。

Google アナリティクス 360 や MuleSoft Anypoint Platformとの連携が可能に

この1年でSalesforceには大きな2つのイノベーションがありました。その1つが「Salesforce Marketing CloudとGoogle アナリティクス 360 」の連携です。Google アナリティクス 360 のデータをそのままSalesforce Marketing Cloudで参照することが可能になりました。クロスチャネルのジャーニーをスタートできるほか、お客様のWebエクスペリエンスをパーソナライズすることもできます。この連携によって、包括的なアトリビューションによる分析とWebページの最適化、さらにオーディエンスの活性化(Audience Activation)といったことが可能になります。

もう1つはMuleSoftの買収です。「MuleSoft Anypoint Platform」は、業務アプリケーションをAPI経由で連携するミドルウェアであり、これによってパブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミス、デバイスなどに存在するデータソースを横断して自社のあらゆるデータを関連付けてSalesforceプラットフォームで活用することが可能になりました。

これらの新しいテクノロジーでSalesforceプラットフォームはより強力で魅力あるものになります。Salesforceはこれらのテクノロジーを駆使して、第4次産業革命においてSalesforceプラットフォームとともにインテリジェントマーケティングを成功へ導く人物、企業である“Trailblazers”を強力に支援します。

Trailblazerとして顧客の感情を動かすマーケティングを展開したい

WILLER カスタマーマーケティングDiv. 磯田 真理子氏

Trailblazerとしてインテリジェントマーケティングに取り組んでいるマーケターのひとりが、WLLER株式会社の磯田真理子氏です。WILLER社は高速路線バスサービスを提供する企業で、年間約240万人の利用者を誇っています。近年ではバス事業以外にも、鉄道事業やシェアライド事業などを展開し、世界展開を見据えた事業を進めています。同社のマーケティング担当である磯田氏は「市場のニーズをつかんで顧客分析を行い、マーケティングオートメーションツールを活用して顧客の旅を支えるOne to Oneマーケティングを行っています」と話します。

同社が顧客に提供しているモノは、物理的に目に見えない「移動」というもの。そこで磯田氏は、「顧客がどのような感情と共に移動しようとしているのか」ということにしっかり耳を傾けてマーケティングすることを心掛けているといいます。

磯田氏は、Marketing Cloudを使って顧客に対して出発1週間前と出発前日にLINEメッセージで出発のご案内を送っていますが、2種類のメッセージで顧客の反応が異なると言います。

出発前日に送ったメッセージに対する顧客の反応は冷静なことが多く、これはすでに「旅モード」に入っているからと磯田氏は分析します。逆に1週間前のメッセージに対しては「WILLERからメッセージが来た! あと1週間頑張れば大好きな人に会える」「あと1週間でコンサート! 楽しみ」というような前向きな反応がSNSに投稿されるといい、1週間前のメッセージが旅を前にして冷静に日々を過ごしている顧客の感情を喚起させていると分析。まさに顧客のインサイトを捉えたメッセージ配信が実現できていると言えるでしょう。磯田氏は、そういった「顧客の感情」を1つ1つ把握してマーケティングを展開していくことを大事にしていると話します。

一方で磯田氏は、今後マーケティングオートメーションツールが発展して便利になっていくことで人の介在する部分が少なくなるのではないかと危惧してもいます。バスに自動運転車が増えていって便利になるような状況でも、磯田氏は「人の感情を動かすようなマーケティングを心掛けていきたい」と言います。また同時に、その意識を社内に浸透させていきたいとも考えていて、マーケティング以外の現場にも積極的に顔を出してそこで「大切なのは顧客の感情」ということを啓蒙し続け、磯田氏しか把握していない「顧客の感情」も社内に広めていきたいと考えています。
「価格競争が激しい業界ですが、価格で選ばれるのではなくサービスでWILLERを選ぶと言ってもらえるようなものを築きあげる先駆者になりたいと思っています」(磯田氏)

Trailblazerとして顧客の感情を動かすマーケティングを展開したい

WILLER カスタマーマーケティングDiv. 磯田 真理子氏

いかにテクノロジーが優れていても、それを使うのは「人」です。つまりは、製品を扱うマーケターこそが、顧客に最も優れた体験を届けるために重要な存在になるのです。 Salesforceは、これからもインテリジェントマーケティングを支える “Trailblazers” を支援し続けます。