2018年4月25日に開催された東洋経済主催のセミナー。ここでは営業改革をテーマに、さまざまな角度から講演が行われました。このセミナーの内容を4回連載のダイジェストで紹介していきます。最終回である今回は、NTTコミュニケーションズの営業改革の現場で実際に何が行われたのかについて、パネルディスカッションの内容をお伝えします。
このパネルディスカッションには、NTTコミュニケーションズで営業改革に参画した4名の方に参加していただきました。営業部門の企画担当課長として営業改革のフェーズ1から参画してきた吉田 武彦氏、営業推進部門でデジタルマーケティングを担当する大宅 左恵氏、受注分析を担当する澤井 邦記氏、営業戦略と人材戦略を担当する徳田 泰幸氏です。今回は少し長くなりますが、臨場感のあるパネルディスカッションの内容を会話形式で再現します。なおモデレーターはセールスフォース・ドットコムの山下 貴宏が担当しました。(文中では敬称を略させていただきます)
NTTコミュニケーションズにおけるSalesforce活用については、以下動画にて確認いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=a7tBrur76-A
-- プロジェクトメンバーの皆様に、実際現場では何が起こっていたのかお話を伺っていきます。SFAから始まってデジタルマーケティング、インサイドセールス、Enablementに至るまで取り組んでいる生々しい事例は、おそらく日本ではまだ他にないと思います。まずは営業改革の初期の段階で、現場ではどのように受け止められていたのかについてお教えください。
吉田 トップの方針が出たことで、新しい法人営業のスタイルを作るんだということは漠然とわかっていましたが、実際に自分たちが何をやればいいのかについては、モヤっとした感じがありました。例えば営業プロセスを分業するために新たな組織を作ったわけですが、当初はそれがまったく機能しておらず、営業も仕事が回らずもどかしい思いもありました。
-- 実際にムーブメントを作っていくのはたいへんだと思うのですが、現場ではそれをどう作り出しましたか。
吉田 みんなが同じ方向に踏み出すために、重要な役割を果たしたのは、やはりトップメッセージだったと思います。営業には活動量を上げることと商談単価を上げることが求められましたが、それだけ言っても、その意図はなかなか伝わりません。そこでトップがシンプルでわかりやすいメッセージに変換して伝えることにしました。例えば活動量は1人1日1件以上訪問、新規の商談単価に具体的な下限額を定める、といった感じです。これが、実際にどうやれば実現できるのかという、議論の起点になりました。
澤井 活動量の内訳も最初はわからなかったのですが、1年実践してできちんと見える化したことで、次のアクションも見出せました。
-- 活動内容はどの程度の細かさで記録していますか。また入力で工夫したことはありますか。
吉田 基本的にはお客様訪問毎にその履歴を入れています。しかし以前は営業日報すら書いたことがないという状況で、共有・見える化するために情報を入力するという習慣がまったくありませんでした。つまり粒度の問題以前に、日々入力するというところから始まったわけです。入力を強制するため、営業部門長が「客先訪問したとしてもその内容を入力しない限り認めない」という姿勢を徹底した結果、1年後には全員が入力するようになりました。トップのメッセージだけではなく、ミドルマネジメントがどれだけ徹底できるかも鍵になると思います。
-- マーケティングとインサイドセールス、そして営業という分業スタイルへの移行したときには、現場ではどのような反応がありましたか。
大宅 まず受け入れられるまでに苦労しました。営業経験が長い人ほど「こういう取り組みは必要ない」という反応だったのです。しかし1人の営業が担当するお客様数は非常に多く、新規顧客獲得のためのリスト営業は疲弊につながるので、分業をうまく活用していこうという営業も出てきました。
-- 以前はイベントなどからのリードへのフォローも営業がやっていたのですか。
大宅 そうです。しかし営業は眼の前の案件で手一杯なので、マーケティングから出したリードへの対応は後回しになっていました。このような課題感もあったので、2年前にインサイドセールスを立ち上げ、潜在ニーズが顕在化するまで持っていくとか、クロージングまで時間がかかっているお客様はインサイドセールスでフォローする、といったことを行っています。営業に渡した後の商談についてもSalesforceで追跡しており、停滞している案件はインサイドセールスからもプッシュしています。
-- インサイドセールスの立ち上げはどのように行いましたか。
大宅 立ち上げメンバーは全員営業の人間だったため、とにかく勉強しながら進んでいく、といった感じでした。しかし営業出身だからこそ、お客様との話の進め方がわかっており、営業と戦略を練っていくという面でも経験を活かせました。
-- 次にEnablementですが、これに対してどのようなテーマを掲げて取り組みましたか。
徳田 現場でスキルが活かせるという実感が持てるプログラムを創るというのがテーマでした。営業が外部研修に行くと、帰ってきたその日は行動が変わりますが、その後それがどう使われているのかがよくわからない。お客様のニーズに合わせて事業の柱が変わっていく中で、必要なスキルを身につけて継続して成長するためプログラムを作りたいと考えたのが、ことの発端です。
-- Enablementのためのデータ分析は、どのように行っていますか。
澤井 複雑なソリューションを提供してお客様に付加価値を提供する、というのが我々の新しい戦略になっていますが、そのために推進すべき商談はどれか、誰がハイパフォーマーなのか、といった観点で分析を進めています。また商談をクロージングさせるまでにどのような活動を行ったのかといったことも把握し、それをシェアするという取り組みも行っています。
徳田 根本にあるのは、何が売れ筋商品なのか、それを売るにはどのようなスキルが必要なのか、実際の受注はどのようにして行われたのか、を見ることです。売れ筋商品は時間の経過とともに変化します。事業トレンドに合わせて営業の活動分析を行うことが必要です。例えば小さな商談でも、それが次の時代の売れ筋になるのであれば、積極的に評価すべきです。そこで営業がどのようにチャレンジしたのか、蓄積しているスキルは何か、といったことが重要なのです。
-- Enablementの設計段階で気をつけたことは何かありますか。
徳田 しっかり決めていこうとすると、すごく時間がかかってしまうだろうなという懸念があり、まずはできるところからトライしようと思い、最初にコンテンツをいくつか作成して組織内で盛り上げていく、ということを行いました。例えばシェアリングサクセスについても、まずは「面白そうなことをやっているな」と思ってもらい、全体的なコンテンツの整備はその次のステップで行えばいいと考えています。
-- 現場の協力も必要になりますね。どのようにして協力してもらっていますか。
澤井 サービスを作っている部隊と営業担当者はけっこうつながりがあり、そこでの情報共有は行われているのですが、横にいる営業担当者がどのように受注してきたのかについては、意外と共有されていません。ノウハウやノウフーを共有したいという思いは現場でも強かったため、現場からの協力も得られやすかったと思います。現場でもこのような取り組みにメリットがある、と感じてくれたわけです。
-- シェアリングサクセスを行うことで、変わったことはありますか。
澤井 以前は製品や市場動向などのスタディは行っていましたが、営業スキルを学ぶという発想はありませんでした。それが今は大きく変わり始めています。
徳田 事例共有会などは以前からやっていたのですが、シェアリングサクセスはこれとはまったく異なっています。以前は商談や提案内容について共有することを目的にしていましたが、シェアリングサクセスではそのようなことは行わず、お客様にどのように話をしたのか、どのように巻き込んでいったのか、提示されたRFPに対してどのように提案内容を考えていったのか、他社はどのような提案をすると思ったか、といったことを話してもらうようにしています。これによって、お客様へのアプローチ方法を検討するスキルを培うことを狙っています。その結果「またやってほしい」という声が数多く上がっており、開催毎に参加人数が増えています。
吉田 営業としては「また事例共有会か」と思っていたが、ただの勉強会とはまったく違うという印象を受けました。いまではシェアリングサクセスといえば「ああいう面白い話が聞けるぞ」と考える営業が多いと思います。
-- シェアリングサクセスの発表者はどのように決めていますか。
徳田 1回目はシェアリングサクセスの宣伝も行う必要があったので、目立っていてインパクトのある人、周りからも優秀だと思われている人を選びました。しかし2回目は方針を変えて、ハイパフォーマーではないけれど成功商談を経験している人、目立たないけどすごい人にスポットライトを当てるようにしました。このようにバランスを考えながら、毎回人選を変えています。
澤井 2回目の人は若いメンバーでしたが、周りを巻き込んで協力を取り付けるスキルに優れていました。ハイパフォーマーだけでは幅が広がりません。さまざまなスキルが存在するということを意識し、人選することが重要だと考えています。
-- 最後に、営業改革の最大の成果は何だと思いますか。またこれから始める方へのメッセージはありますか。
吉田 大きく変わったのは、データをもとに課題設定し、議論する文化が営業の中にできたことです。こういう変革は、やはり大きなチャレンジです。そのことを意識しながら取り組まれるといいと思います。
大宅 通常であれば営業と接点のないところから受注できるようになったことが、1つの成果だと感じています。複雑なソリューションの販売では分業スタイルが必須になるのではないでしょうか。しかしチーム間で区切りをつけるのではなく、マーケティングも営業も同じ思いで日々の活動を行う必要があると思います。
澤井 我々の取り組みはまだ道半ばではありますが、これは働き方改革や事業改革につながるものだと思います。ぜひ我々のお客様にも紹介していきたいと考えています。その一方で、社内にはSFAに格納されていない情報がまだ数多く存在します。これらを1つのデータベースに集めていくという取り組みも進めていきたいと思います。
徳田 成果として挙げたいのは、自発的に学習する文化が浸透しつつあることです。暗黙知をどのようにして引っ張り上げていくかが、Enablementのミソになるのではないかと思っています。
このような「現場のナマの声」は、これから営業改革に取り組みたいと考える企業にとって、大いに参考になるのではないでしょうか。
NTTコミュニケーションズの営業改革の取り組みで取り入れた“Sales Enablement”のアプローチ手法について、以下よりダウンロードください