2018年4月25日に開催された東洋経済主催のセミナー。ここでは営業改革をテーマに、さまざまな角度から講演が行われました。このセミナーの内容を4回連載のダイジェストで紹介していきます。3回目である今回は、NTTコミュニケーションズが取り組んでいる営業改革を紹介いたします。
営業改革を実際にどのように進めていくべきか、NTTコミュニケーションズ 取締役 第二営業本部長の菅原 英宗氏が登壇し、ご自身の部門における営業改革について紹介しました。
「NTTコミュニケーションズは2011年に組織を大きく変革し、それまでお付き合いをしていたお客様への営業に加え、新規開拓営業組織として第二営業本部を設置しました。しかし当時は新規開拓の始め方さえわからない状態であり、手当たり次第にアプローチを行い、時間だけを費やしていたのです。しかし営業改革に取り組むことで、6年で営業生産性が3倍になりました」。
それでは具体的にどのような取り組みが行われてきたのでしょうか。菅原氏は「大きく2つのフェーズに分けられます」と説明。まずは2011~2014年にかけて第1フェーズに取り組み、ベースを固めてきたと振り返ります。
「最初に感じていた課題は、新規開拓対象のお客様のことを把握できていないということと、お客様のニーズの変化に営業力が追いついていないということでした。これらの課題を解決するには、営業活動量を増やすこと、顧客との接点を増やすこと、顧客ニーズを満たす提案を行うこと、そして活動を分析することが必要です。しかし当時の営業チームは個人商店の集まりであり、一連のバリューチェーンを各人で行っていました。これでは当然ながら効率が悪いため、まずはチームセリングへとシフトすると共に、SFAを導入して情報共有を進めることにしました」。
チームセリングへのシフトでは、契約事務やオーダー、管理事務を集約。これによって顧客訪問件数を増大させていきました。これと同時に顧客との接点を増やすため、名刺情報のDB化や人脈活用、トップセールスなどを推進。提案シナリオも標準化し、提案書ライブラリとしてSalesforce上で共有化していきました。営業担当者育成の一環として、実在の営業担当者のサクセスストーリーを紹介する漫画も制作。そしてチーム戦略ミーティングやチーム横断ミーティング、顧客のICT利用状況や課題などの「軒下情報」の共有、活動量分析なども、Salesforceの中でできるようにしていったと語ります。
「もちろん定着するまでは大変でした。そこで、データ投入の義務付け、提案支援部隊への支援依頼をSFA経由で行える仕組みづくり、さまざまな情報を投入してくれた営業担当者をトップが積極的に褒めるといった、アメとムチの組み合わせで定着を推進していきました」。
2014年にはこの活動が功を奏し、営業改革のベースを確立。次の第2フェーズが始まります。
「この頃には、モノ売りからコト売りへのシフトが求められるようになり、社会的なトレンドもオンプレからクラウドへとシフト、お客様の購買行動も大きく変化してきました。またICT活用の主体がIT部門から事業部門へと移りつつあり、IT部門以外のニーズも把握する必要が生じていました」。
これらの課題に対応するため着手したのがABM(Account Based Marketing)の導入です。これによってさまざまな部門の潜在ニーズを先回りして発見する、新たな営業プロセスの確立が目指されたのです。
まずセミナー担当者が、デジタルとリアルとをつなぐ場を作り、まだ出会えていない顧客とのビジネスチャンスを生み出します。次にWebコンテンツ担当者が、顧客の関心の高い記事を企画して情報発信し、顧客の潜在ニーズのアンテナ役を果たします。これらの活動で発見された潜在的なニーズはインサイドセールスに渡され、顧客とコミュケーションを行いながら、さらに課題を深掘りしていきます。そしてここで作り出されたリードがフィールド営業に渡され、顧客にとって価値のある訪問提案を実現しています。
「潜在顧客を知るために『Bizコンパス』というデジタルメディアも立ち上げており、現時点で会員数38万人、月間PV数38万というメディアに育っています。企業サイトではなくメディアから情報発信しているのは、受信者が情報を選択できるようにするためです。ここでどの情報を選んでいるのかを把握すれば、潜在的なニーズも知ることができます。またBizコンパス会員を対象にしたプライベートセミナーも開催しており、ターゲティングした上でお声がけすることで、高い申込み率を実現しています」。
さらに、このようなABMを実現するため、Salesforceに加えて2つのシステムを組み合わせているとも説明。これらが活動の根幹となっており、筋肉質な営業組織を支えていると語ります。
そして現在では、新たな取り組みも始まっているといいます。
「最近ではお客様に求められることがさらに変化しています。お客様はデジタル変革(DX)の実現を目指しており、そのご支援が求められるようになっているのです。そのためには、よりお客様の立場に立った提案と、B2B2Xという協創ビジネスモデルを支える、新たなセールススキルが必要なのです」。
そのために現在では、新分野へのチャレンジに必要な組織機能の構築と、その根幹を支える人財育成に取り組んでいると菅原氏。新たな組織機能としては、事業企画、お客様コンサル、PoCを含む事業化を挙げ、これらを支える能力としては、デザイン思考やUXアプローチ、ビジネス企画、パートナー開拓があると語ります。
これを実現する遊撃部隊として、新たにDigital Innovation Teamも設置。従来の技術カットのアプローチではなく、経営や人に着目し「End-X」を意識した、UXアプローチによる価値創造型の営業を行っています。Bizコンパスでも協創を意識したイベント・セミナーを企画しており、講演形式に加え双方向のワークショップも開催。さらにセールスフォース・ドットコムなどとのパートナリングも積極的に活用し、事業拡大につなげています。
このような活動の根幹を支える人財育成では、営業数字に直結する能力を伸ばすという「1軸のアプローチ」から、「スキルの幅を広げる」「スキルを伸ばす」という「2軸でのアプローチ」へとシフト。そのためのチームを各部門からメンバーをピックアップすることで編成し、Sales Enablementに取り組んでいます。育成プログラムとしては、提案書ライブラリや外部からの知見吸収に加え、ハイパフォーマーへのインタビューや受注分析も行い、そこからインサイトを抽出・蓄積。これをもとに、「Sharing Success」や「Design Thinking」、「Value/Vision Selling」などを行っているといいます。
「なかでも重要なのが、Sharing Successの場を作り、そこでインサイトを共有することです。この場で話すことが名誉になるよう、格好いいポスターも作っています」。
将来の目標は「社会的課題解決型営業」の実現だと菅原氏。さらなる成長に向け、社会課題を解決する新規ビジネスを、顧客と共に生み出すことを目指していると締めくくります。
NTTコミュニケーションズの取り組みから感じられるのは、営業に求められる機能やスキルは、時代と共に変化していくということです。この変化にいかにしてキャッチアップし、顧客の要求に対応していくか。これこそが営業改革の本質であり、だからこそ継続的な取り組みが求められるのだといえるでしょう。
NTTコミュニケーションズのデジタルマーケティングの取り組みは、こちらより確認いただけます。そして、営業改革に参画した4名の現場の声を伝える第4回の連載も近日公開予定ですので、ご期待ください。
NTTコミュニケーションズの営業改革の取り組みで取り入れた“Sales Enablement”のアプローチ手法について、以下よりダウンロードください