セールスフォース・ドットコムのプリンシパルサクセススペシャリストのフロラン・ブノワのセッション内容を紹介します。テーマは、サイトから集めたデータをいかに活用するか。世界中で2,500のサイトがSalesforceを活用して運営されていますが、今回は、日本で運用されているサイトの実際の数値を例にとりあげながら解説をします。
2014年〜2016年にかけて世界中でモバイル利用数は増えていますが、この傾向は特に日本で顕著です。日本は韓国についで、アジア地域で2番目にモバイル利用率が高いというデータがあります。今後、生体認証での決済は増える傾向にあり、iPhoneなど指紋だけでなく顔認証も可能になれば、さらに伸び続けるだろうとブノワは予測します。つまり、モバイルへの注力が必要不可欠になってくるのです。
モバイルでのカート投入率を見た場合、ヘルス&ビューティ業界においては増加傾向にありますが、まだ遅れている業界もあることがわかります。ということは、まだ最適化が可能だということ。さらに、モバイルでの平均コンバージョン率自体は業界によって差はありますが増えています。ところが、平均注文額は実は減少傾向。ブノワは、「バスケットが小さくなっている。つまり、アップセル、クロスセルのチャンスは、おおいにある!」と断言します。
チェックアウトあたりの注文数を見ると、この数年伸びており、反対に放棄率は減少していることから、チェックアウトファネルの最適化は行われていることがわかります。特に一般アパレル業界では、チェックアウトの改善に力を入れています。
「多くのブランドで“検索”について見過ごされがち。実は、検索利用は大きな収益源であるのに……」とブノワは嘆きます。日本においては業界を問わず、検索ボックスは3%程度の利用率にとどまっています。たった利用率3%の検索ボックスが、どれくらい大きいか、見やすいかによってコンバージョン率が大きく変わってくるのです。「もし、現状、あなたのサイトの検索利用率が1〜2%だとしたら、それは使いにくいということ」と指摘します。
検索ボックスを使ってもらえさえすれば、コンバージョン率はなんと3〜5倍になると言われています。実際には、20倍になった例もあります。さらに検索は“きちんと結果が返ってくるかどうか”、その反応も重要。顧客自身がスペリングを間違えたりするケースもありますが、検索機能そのものの精度は向上させていくことがコンバージョンへの貢献を考えた場合、得策でしょう。
Google Analyticsに非常によく似た、簡単に使えるレポートツールについてブノワから説明されました。売上・商品・トレンドのトラッキングができ、プロモーションに関してもより多くの先進的なダッシュボードを用意しています。
現状のレポートツールからの改善点は、たとえば、フィルタの高度化を行ったことで、顧客グループやチャネル、デスクトップとモバイルを切り分けたりして、データの絞込みをすることも可能。さらに複数サイトからの結果も取得できます。これまでは、決まった日付の範囲でしかレポートできませんでしたが、日付を自由に指定できるので、プロモーションを実施した期間に限定したレポートも可能になりました。
もっとも面白いのは、“Movers and Shakers”という機能だとブノワ。商品の売れ筋ランキングを視覚的にとらえられます。どの商品が売れているか、反対に売れていないかが一目瞭然になったのです。
どのようにアクションに変えるか、サイトの改善につなげるか。この点において、「ベンチマークがあることが、非常に価値があるんだ」とブノワは言います。Salesforceが3ヶ月ごとにデータ抽出し提供するレポートでは、同業他社サイトのパフォーマンス比較ができます。競合各社と比べて、自社が今どの位置にいるのか、そのギャップを知ることは非常に有効。そこから最適化すべき点が見えてくるからです。このベンチマークを利用すれば、「現状維持のための取り組み」はもちろん、開発を必要とするような「大きな変革」も可能です。
まず、簡単にはじめられるのは「現状維持のための取り組み」。商品の絞込みや並べ替えのルールの最適化です。平均注文額を増やしたい、つまりクロスセルの場合、お客さまに追加の商品をお見せするために、AIを用いたレコメンデーション機能として「Einstein」も実装することで、さまざまな戦略が可能になります。
たった5分程度の設定で、ホームページや商品詳細ページなどサイト内の複数の場所でABテストの実施ができます。もちろん、開発や追加コストも不要。複数のルールを組み合わせることによってアップセルの可能性も高まります。そして、絞込みについても「ベストセラー」「新しさ」「在庫」などの利用可能なルールをABテストをしながら、結果の変化につながる可能性のある要素を特定できるので、最適なルールの組み合わせを見つけることができます。
さらにBusiness Manager上で「何というワードが」「どれだけ」検索されたのかも可視化。たとえば、傘を販売していなくても、「傘」というワードで検索するお客さまが多いことがわかれば、傘を商品化するという戦略も考えられるでしょう。「そんな新たな戦略も考え出せる、それだけ検索は重要」だと繰り返すブノワ。また、「ゼロ」という検索結果は、決して出してはいけないとも言います。検索に合う商品がなかったとしても、なんらかの回答を表示することが重要です。
実際、検索率が1%だったあるお客さまのケースでは、特別な変更ではなく、検索バーを目立たせるように少しデザインを変更したところ利用率にも変化が現れはじめています。
大きな変革をする場合には開発が必要になります。あるサイトでは、カートへの投入率は高いけれど、チェックアウトの放棄率も高いという課題がありました。チェックアウトのファネルに何か原因があると考え、1ページで決済に関するすべての行為が完了するチェックアウトに変更することになりました。その際にも、ベンチマークを活用した、チェックアウトの放棄率が5%下がれば大きな成果があるという裏付けがあったので、十分な投資効果が得られると納得したうえで、大きな変革に取り組めたのです。
セッションの最後に、あらためてブロワは「検索が大事だ」と繰り返しました。世界的にもモバイルの利用率が引き続き増加の方向にあるなか、サイトがモバイルのための最適化がされていないとすれば、いますぐ大きな変更が必要だとも強く言います。顧客がモバイルで、検索をしやすいようにする。検索バーもデフォルトで開くようにする。モバイルでのチェックアウトも最適化が必要。そして、その大きなかつ確実な変革を加えるためにも、テストを繰り返すことは欠かせない。
ブノワはセッションをこんな言葉で締めくくりました。「テストは、考え方を変えてくれるという意味でも、マーケティング的な好奇心を満たす意味でも有効。私からのおすすめは、テスト!テスト!テスト!それ以外にはありません」。