10月19日に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「Retail Connect Tokyo」。今回ご紹介するのは、「SalesforceのECとMarketingソリューションのマルチ活用における成功事例」として登壇されたクロックス・ジャパン合同会社のイーコマースディレクター木村 真紀氏のセッションです。徹底的に活用し、着実に成果を挙げているその具体的な手法を公開します。(ちなみに、Retail Connect Tokyo 基調講演レポートはこちら)
アイコニックなサンダルで人気のクロックスは、2002年アメリカで創業、現在世界90ヶ国500地域で展開し、12のECサイトを運営しています。日本のECサイトにCommerce Cloud、Marketing Cloudを同時に導入したのは2013年2月。3つのチームが運営に携わっています。1つは、Commerce Cloudを利用してサイト内のプロモーション企画の立案・運用と実行を行うチーム。もう1つは、Marketing Cloudを活用してサイトへのトラフィックを確保するデジタルマーケティングチーム。そして、いわゆる商品部、顧客の属性に応じたアソートメントを構築するチームです。
Salesforceの導入に至った経緯は、「タイミングが合ったから」と木村氏は言います。「それまで日本はアメリカ本社の基幹システムとも連携しない独自のスタンドアローンのシステムを使っていました。その上、納期も遅く、機能拡張もできないという課題があったところに、Commerce Cloudを利用中のアメリカ本社で日本と連携できるような準備が整ってきたので移行の決断をしました」。
Commerce Cloudは木村氏曰く“日本のユニークな支払い方法”である代引きにも対応でき、各種キャンペーン機能も充実していたこと。さらに、アメリカ本社の基幹システムと連携できることで顧客体験価値の向上にもつながるなど、いくつかの要件が揃っていたことも大きかったと語ります。
クロックスは、春夏で400スタイル、秋冬で400スタイル、合計年間で800スタイルの商品を擁します。さらに成人男女、子ども向けとその商品点数は膨大な数にのぼります。木村氏は、「いかにモバイルECサイトから商品を見つけ出してもらえるかがポイント。お客様が欲しいなと思った商品がすぐ見つけられることが重要」と説明します。その解が、「Shoe Finder」です。顧客がお店で商品を選んでいるような感覚で楽しみながら、自分が欲しい商品を探し出せるツールを提供することで、コンバージョンが上がると確信していた木村氏。「この効果は、明らかだった」と改めて断言します。
「他の日本のファッションサイトも同様だと思いますが、アメリカと日本を比べると日本では圧倒的にモバイル比率が高くなっています。欧米はデスクトップやタブレットが多く、世界的に見ても日本と韓国が高い。だから、私たち日本ではモバイルファーストが必須だと考えています」。
ところが、2014年の実績では、モバイルサイトにはvisitsが50%、revenueが26%という結果。木村氏は、この数値のギャップを「日本の顧客に対して、より良い顧客体験を与えられていないから、コンバージョンが低い」と捉えました。そこで、アメリカ本社にデザイン変更の依頼をしたり、着用したイメージがわかるツールの導入をしたりと、さまざまな施策を実施し、モバイルサイトでも決済が完了できるようにするなど、顧客体験づくりに2年がかりで注力。その結果、2017年には、ようやくvisits75%、revenue67%という数値を達成できたのです。
クロックスで活躍しているのは、Commerce Cloudで簡単に追加導入できる「Olapic」というツールです。顧客がインスタグラムやツイッターなどSNSに投稿したコンテンツを、ハッシュタグにクロックスを入れるだけで、自社のECサイトに掲載することができる機能。たとえば、自社のサイトにお客様のインスタグラムの写真を並べることも、すでにお客様に許諾を得ているので、LINEのバナーとして二次利用することもできます。
「今、Olapicを使ってクロックスで実験しているのは、メーカー側で用意した写真とお客様のインスタグラムの写真と、どちらのバナーからのコンバージョンが高いかを計測するABテスト。まだ明確な結果は出ていませんが、肌感覚では、インスタライクな写真の方が、コンバージョン率は高いということが見えてきている」と木村氏は手応えを感じています。
もう1つ、木村氏がユニークだと感じているのは、その投稿された写真を見て商品を購入したケースの合計額も知ることができる点。「とてもおすすめのツール」と木村氏からご紹介いただきました。
「私が大好きなプロモーション」と木村氏が話すのが、Commerce Cloudの無料で利用できるABテスト機能です。クロックスでは、適正な送料の額を知るために年2回必ず実施しています。
具体的には、「何円以上購入すると送料無料」というシステムは通販では一般的ですが、その送料が無料になる適正価格のラインがどこにあるか。表中のコントロールグループとはオリジナルの価格設定、そこに3,500円以上、4,000円以上、5,000円以上と3パターンの購入金額を設定して、どれがもっとも効果的かを調べます。結果を読み間違えないために、すべてのインディケータでチェック、最終的にはvisitsあたりのrevenuesで判断。クロックスでは、春夏と秋冬で靴の単価が変わるので、年2回必ず送料のテストは実施しています。
クロックスでは、Marketing Cloudを活用して、メルマガ会員に一斉配信する“マスメール”と、顧客の誕生日などに個別発信する“トリガーメール”と2パターンを実施しています。
ブルーがマスメール、オレンジがトリガーメール
注目すべきはトリガーメールの結果だと木村氏。マスメールで売れる量は季節に応じて増減があるのは当然のこと、ある意味安定しています。
「トリガーメールの場合は、シナリオを追加すればするほど、さらに成功するキングとも呼べるシナリオが見つかれば、さらなる売上増を見込むことができます。グラフ内でトリガーメールの売上がグンと上がっている4月と5月は、その成功するシナリオが見つかったから」。
さらに、クロックスは顧客とのタッチポイントとして、2016年からLINEにも取り組みはじめました。最初は、経費的にも比較的安価なLINE@から。14万人の顧客がつき、なんと1年でサイト内の売上約10%を占めるようになりました。その実績から、2017年には公式LINEにアップグレード。なんと今度はサイト内売上比率が20%に一気に上昇しました。
「公式LINEでスタンプを配布したことで、現在友だちは540万人に。商品の売れ行きやプロモーションの反応から、増えたのは通販にアクティブな30代以上の女性だというのは明らか。やってよかったと実感しています」。
今後の展望について、「LINEは継続的に注力します。Commerce Cloudは機能の追加や拡張を止めると、より良い顧客体験を提供できないことがわかっています。ここは引き続きモバイルファーストで進めていきます。LINEを導入したことで、通販初心者の方が増えたという感覚もあるので、モバイルでも簡単にeコマースができるように、後払い決済システムを導入して、クレジットカードをお財布からわざわざ出して入力しなくても済むような顧客体験を提供したいと思っています」と木村氏。徹底したSalesforceの活用で、ECサイトのさらなる飛躍が期待されます。
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