スマートフォンの普及により爆発的に市場規模を拡大し続けているEC市場。全世界に数多あるECサイトのなかで、成功しているECサイトの戦略はどこが違うのか、それを支える最新イノベーションの活用方法とともに紹介します。今回は、セールスフォース・ドットコムでは初開催となるeコマースに特化したイベント「Retail Connect Tokyo」の中から、基調講演の概要をレポートします。
冒頭でセールスフォース・ドットコム 執行役員の笹 俊文が挨拶をした後、「クラウドとモバイルの登場で、破壊的なイノベーションが起こっています」とビジネス環境の変化を説明しました。続いて登壇した米国セールスフォース・ドットコム シニアディレクターで、小売業界を担当する、ドワイト ムーアも、EC戦略において特に優れているAmazonの事例を紹介しながら「今こそリテール革命を起こすとき」と強調しました。
続いて、セールスフォース・ドットコムのセールスエンジニアリングディレクター増田 拓也から、総合スポーツ用品メーカーのミズノ株式会社の事例を紹介。ミズノは「デジタル変革を決める」というコンセプトのもと、Commerce Cloud、Service Cloud、Marketing Cloudを採用し、海外展開を開始。その第一歩として、タイ向けのECサイトをオープン。さらに、多様化する顧客とのタッチポイントに対応するため、AIエンジン「Einstein」を活用。世界中の顧客のつぶやきや画像を識別分析し、40億ものデバイスとつながり、一人ひとりに合う商品のレコメンドなどより良い顧客体験を提供しています。
基調講演の後半は、いち早くSalesforceのCommerce Cloudを採用した株式会社TSIホールディングス(以下、TSI)の執行役員 柏木 又浩氏をゲストに迎え、セールスフォース・ドットコムの執行役員 竹内 賢佑とのセッションです。実際の効果など数値をまじえ柏木氏に伺いました。
写真:TSIホールディングス柏木氏
TSIは、ナノ・ユニバースをはじめとする34ブランドを展開する総合アパレルメーカー。直近5年間でEC売上は190%の伸びを達成しました。Commerce Cloud採用の背景には、いくつかの自社ブランドを分析したところ、リアル店舗とECサイトの両方を利用するオムニチャネル顧客が、一方だけを利用する顧客に比べ3〜4倍の売上をもたらすという結果が出たことでオムニチャネルECサイトを短期間にラッシュリリースしなければならなかったことがあります。
「当時採用していたベンダーでは開発スピードが追いつかず、そこで新たなECプラットフォームを探すことになったのです」と柏木氏は採用に至った経緯を語ります。「Commerce Cloudを選んだ理由は3つ。1ヶ月に1サイトのローンチを実現する開発速度、端末に関係ないシームレスな機能拡張性。そして今後、日本の人口減少からビジネスのグルーバル化は必須、それに対応できるかどうかという点でした」。
すでに22ブランドのECサイトがオープンしています。そして直近、リアル店舗に先駆けて9月14日にオープンしたのが、「mastermind」の、いわゆる越境ECサイトです。「mastermindは、Tシャツ1着が6万円というラグジュアリーブランドです。通常は、アメリカでの売上は日本の1%程度ですが、すでにオープン1ヶ月でアメリカでのコンバージョン率が35.8%を達成しているのは、私自身もよい結果が出たなと感じています」。
多くのアパレルメーカーは、自社ECサイトと他社ECサイトの両方で商品を取扱います。その比率は一般的には50:50。ただし営業利益向上のためには、やはり自社ECサイトの売上比率を上げることが重要だと柏木氏は説明します。
「自社EC比率を上げるために、オムニチャネル化は必須です。そして、先ほど申し上げたオムニチャネル化がもたらしたロイヤルカスタマーの売上向上は最重要になります。そこで今期、私たちの掲げている3つのEC戦略の中で、Commerce CloudとMarketing Cloudを最大限に活用して取り組みたいのは、パーソナライズ戦略です。eコマースでもっとも売上に貢献するのはメールですから、パーソナライズドメールがベースになります」。
さらにモバイル対応が重要と考えるTSIは、ECサイトのアプリ化を推進。そこで、Salesforce連携のクラウド型アプリ運営プラットフォームの「Yappli」を使いました。
その結果、モバイルアプリ経由のEC売上比率は、半期で6.1%から14.2%まで伸びました。直近の2017年9月末時点では18%という数字を達成。柏木氏は「顧客とのタッチポイントをモバイルに集中した成果は確実に現れてきている」と見ています。「すべての動作が速くなればコンバージョンが上がるというのは明白」だとも柏木氏は断言。Salesforceのプラットフォームを徹底的に活用しています。
次の展開についても、TSIはすでに準備を始めています。「今後はメールだけでなく、アプリやLINEのコミュニケーションにもマーケティングオートメーションの活用を準備しています。最終的にはAIを使い、LINEが最適なお客様にはLINE、アプリが使いやすいお客様にはアプリとお客様にとって最適なコミュニケーションを最適化していきたいですね」。
「日本の企業にとって、仕事を進めていく上での苦労は、お客様に対してよりも社内調整にかかる部分が多いことではないか」と感じるという柏木氏に、当社の竹内は「ベンダーを選ぶコツは何かありますか」という質問を投げかけました。
「アメリカが合理的だなと思うのは、顧客にとってもっとも良いものを選んでいくという視点です。日本は、どうしてもサービスがtoo muchになってしまいます。生活の中では“断捨離”という言葉が普通に使われていますが、機能の断捨離も必要ではないでしょうか。つまり顧客にとって大切なのは何か?もっとも便利なこと、もっとも必要なことは何か?を求めていくことです。
そのように考えると、グローバル製品の方が顧客視点でできていると思いますね。ソリューションを選択する際には、それが重要だと思います。サービスとはいえ、やはり必要ない機能もありますから。大事なのは顧客視点、顧客体験。そのために必要なものをセレクトするというのがポイントでしょうか。私自身は、顧客にとって、より合理性が高いのは米国のデジタルサービスかなと思っています」。
TSIはアーリーアダプターとして、AIやさまざまな米国のソリューションを使っています。その理由を柏木氏はこう明かします。「ファッション業界だけでなく一般的な小売業の立場で言うと、アメリカはリテールテックにおいて日本より3年先を進んでいます。だからこそ、3年後の私たちの姿を理解するために、アメリカの小売にかかわるデジタル化について状況を知っておくべきなんですね。もちろん私たちが日本で扱う場合にはローカライズが必要になります。でも、まず未来を見なければならない。それを予測するという意味でも、グローバル企業と共にやることが重要なのだと思います」。柏木氏の力強い言葉で、基調講演は締めくくられました。
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