みなさんこんにちは。セールスフォース・ドットコムでSales Cloudのプロダクトマーケティングをしている田崎と申します。今回のブログは私から営業の歴史についてご紹介させていただきます。
営業という仕事は日々さまざまなタスクに追われる仕事でもあります。お客様のニーズの把握、自社製品の勉強、見積作成、請求や入金の確認、提案やプレゼンテーション、売上予測の更新、在庫の確保、関係部署との調整、納品の立会いなど、お客様に関わるものすべてが営業のタスクになっている企業もあるでしょう。
私たちは日々のタスクに追われているとどうしても視野が狭くなり、自身の経験だけをもとにした判断を行いがちになります。しかし、先人の多くの失敗談やそこから得られた洞察は記録として残っています。私たちは他者の経験や歴史から学ぶことで視野を広げ、同じ失敗を繰り返さず、未来を予測することができます。
少子高齢化や人手不足などの社会的な構造変化や、AI(人工知能)などの新しいテクノロジーが次々と生み出され、それに呼応するように生まれた新しいビジネスモデルで成長する企業が活躍する中では、これまで当たり前のように存在していた「営業」という職種も役割や仕事内容を変えていかなければなりません。
営業の未来の姿を予測するために、少しだけ営業の歴史を振り返ってみましょう。
営業の起源をたどるには、交易の始まりまで遡らなければなりません。
狩猟採集で生きてきた人類は、物と物を交換することで、さらに豊かな生活を手に入れることができることに気づきました。物々交換が広まると、より効率的に行うために市場に人が集まるようになりました。そしてその市場には売り手と買い手が存在し、自身が持つ商品がいかに良質で安いかをアピールする必要が出てきました。この時代はまだ貨幣経済は発達していませんでしたが、まさにこれが「営業活動」の始まりであったわけです。
その後、貨幣や国というシステム、輸送手段の発達など、経済インフラに関わる大きな変化が起きました。貿易の中心は形のある商品であったわけですが、同時に宗教や哲学など形のない思想を人に売り込む活動も活発になってきました。
さらに芸術や文化が発展すると、それに伴う価値をどのように伝えるかが重要になってきます。美術品や音楽などの価値は受け手によって大きく異なります。貴族などの特権階級は経済的に余裕があるため、芸術品の価値は彼らの社会的地位や財力の誇示のために利用されるようになりました。
15世紀の印刷機の発明、そして大航海時代の始まりにより、情報や物は多くの人々にこれまでにないスピードで広まるようになりました。18世紀には産業革命が起き、資本主義社会の中で生産性は一気に高まりました。大量に製品が作られるようになり、生産・流通・販売の流れは大きく加速し始めたのです。
そして、19世紀末、NCR創業者ジョン・ヘンリー・パターソンのパターソンメソッド、1912年にはデール・カーネギートレーニングが生み出されました。生産性が高まり多くの製品が生み出されるようになると、それと連動する販売もまた重要になったのです。訪問販売といった新しい販売スタイルや、強引な売り込みのような営業活動に関連する問題も大きくなっていきました。
二つの世界大戦を経て、大量消費の時代に入り、1980年代になるとコンピューターやインターネットが生まれました。買い手がより多くの情報に触れることができるようになると、営業手法にもそれに対応する必要があります。顧客との関係構築がより重要になり、ソリューションセールス、コンサルティングセールス、ストラテジックセールスなどの新しい営業手法も生まれました。
そして、スマートフォン、ソーシャルメディアが当たり前の時代になると、顧客との関係構築だけでなく、その固定観念を打破する手法が必要となりました。それが「チャレンジャー・セールス・モデル」です。
セールスフォース・ドットコム米国本社と深いかかわりのあるCEB社のマシュー・ディクソンとブレント・アダムソンの共著である「チャレンジャー・セールス・モデル」では、不況期においても、大型で複雑な営業でも、常に結果を残す営業が行なっている「指導」「適応」「支配」について詳しく解説されています。
その序文では、営業を学んだ経験のあるかたであれば必ず知っている「SPIN」のニール・ラッカム氏が、営業に関する直近100年の「大躍進」を紹介しています。
1つ目の大躍進は、100年ほど前の「ハンター・ファーマー・モデル」の発明です。それまでは、保険の販売と保険料の徴収という2つの役割を持っていた営業は、既存顧客が100人を超えると料金の徴収だけで手いっぱいになり、新規顧客の獲得どころではなくなっていました。これを分け、経験の多い営業が契約を獲得し、経験の少ない営業が既存顧客を育て、料金を徴収するという役割分担を行うようにすることで営業効率が大きく改善されました。
2つ目の大躍進は1925年のE.K.ストロングの「The psychology of selling and advertising」により「営業にはテクニックがある」ということが世に知らされたことです。この本ではオブジェクションハンドリングやクロージング、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンなど「営業のスキル」が解説され、営業研修という新しい産業が生まれました。
3つ目の大躍進はニール・ラッカム氏自身の「SPIN」です。小さな商談と大型商談では、成功するテクニックやスキルが違うという考え方で、コンサルティングセールススタイルに必要な高度なモデルが示されました。
そして4つ目の大躍進の可能性として「チャレンジャー・セールス・モデル」があるとコメントしています。この中では、顧客にとってより複雑でわかりにくくなったソリューションを販売することができるのは、顧客を導くことのできるチャレンジャー型の営業であると結論付け、その特徴を詳細に解説しています。
ここまで世界における営業の歴史についてみてきましたが、日本においてはまた独特の進化を遂げている部分もあります。
17世紀ごろから始まったとされる富山藩の薬売りでは、医薬品を前もって家庭に預け、利用した後に代金を受け取る「先用後利」という独特の販売戦略によって、当時はなかなか常備できなかった医薬品を庶民に届けることを可能にしました。
この販売方式では、医薬品預け先の管理が欠かせません。懸場帳(かけばちょう)と呼ばれるこの顧客管理台帳には、預け先の顧客情報だけでなく、販売された医薬品の情報や家族構成、在庫、かかりやすい病気などさまざまな情報が管理されていました。いまでいうCRM(顧客管理)やSFA(営業支援システム)そのものです。懸場帳を利用することで、健康に関するあらゆるアドバイスが可能になり、またどの薬がどれくらいのペースで利用されそうかの需要予測にも利用することができました。
懸場帳は営業活動に必要な情報が顧客ごとに管理されており、それだけで今後のビジネスが予測できるため、懸場帳自体が価値を持つようになり、行商人の間で売買されたとまで言われています。当時も今も、顧客情報を参考にして営業活動は行われていたわけです。
経済や技術の発展の歴史の中で、営業は時代に合わせて必要なスキルを磨いてきました。天賦の才や経済状況、経験と根性に左右されるのではなく、「人はなぜ買うのか」を考え続けることでスキルを磨き、自社の売上と利益に責任を持つ中心的存在であるのが現代の営業です。
そしてこれからはAI(人工知能)によって営業の効率性は一層高まるでしょう。これまで個人の経験に収まっていたものが、データをもとに体系化され、活動優先順位のアドバイス、営業プロセスや顧客のタイプに合わせた情報をタイミングよく入手できるようになります。
私たちは営業という太古からの営みの軌跡を振り返り、このeBookにまとめました。それぞれの時代に何が起こり、どのような人物がいて、営業の「これまで」と「これから」にどのような影響を及ぼしてきたのか?――過去をひもとくことで、今後向かう先と、この仕事に携わる皆さんの未来が見えてくるでしょう。
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