「カスタマージャーニー」という言葉をご存知でしょうか?顧客視点に立って製品・サービスを提供することが重要視される中で、マーケティング関係者では重要なキーワードとして認識されています。
カスタマージャーニーとは顧客の一連のブランド体験を旅に例え、顧客がブランドを認知、購買、再購入する段階でブランドが提供する接点を行き来する一連のプロセスを指します。文字だけでプロセスを共有することが難しいため、実際にはこの顧客視点の旅を理解する上で、このプロセスを可視化して、戦略の「打ち手」を考えるための資料を作成します。これが「カスタマージャーニーマップ*」と呼ばれるものです。
*カスタマージャーニーマップ:顧客のブランド体験を時系列で「行動」「感情」「接点」などを可視化したもの(出典:加藤希尊 ザ・カスタマージャーニー 宣伝会議 P.230−231)
個々の企業の顧客および戦略が異なるため、カスタマージャーニーは企業によって大きく異なります。しかし概念は良く知られているものの、実際に作るとなるとどのように作成したらよいかが分からないという声が多く聞かれます。そこで、マーケティングオートメーションをはじめとしたソリューションを提供しているSalesforceでは、企業の皆様のマーケティング活動を支援するため、カスタマージャーニー作成のためのキットを独自開発して、ワークショップを通じてユーザー企業様にご活用いただいています。
今回はそのワークショップに普段はマーケティングを教えている立場のグロービスの皆様にご参加いただき、カスタマージャーニーマップ作成に挑んでいただきました。
この日は、セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 マーケティング ディレクターの加藤希尊がファシリテーターを務め、2時間かけてワークショップを開催しました。グロービスでは多くの講座や企業向け研修を開催しており、目的や対象者も様々。この日は内定者向け学習サービス「モバイル ミニMBA for Freshers」(詳細はグロービスのページをご覧ください)と呼ばれるスマホで行うeラーニングに対して、対象となるペルソナ*を仮決めして、ワークショップを行いました。
*ペルソナ:企業が製品やサービスを提供する際の象徴的なユーザー像のこと。
ファシリテーターの加藤からは、「特定のペルソナの状態を、望ましい状態に導くための道筋を見える化していきます。そして仮説を立て、それに対して足りているものや足りていないものを考えながら、最終的には有効な打ち手を見つけていきます。これがカスタマージャーニーマップの意義や意味、役割になります」と説明がありました。
この日は、グロービスのテーマは大きくは次のような内容で進められました。
ジャーニーのゴール:
「企業から採用の内定を受け、学生時代にグロービスの『モバイル ミニMBA for Freshers』を受講したペルソナが、将来的に*経営に関する知識に興味を持つようになること」
(*ワークショップでは、年数を具体的に設定)
ペルソナ:
「大手飲料会社への就職が内定した22歳の大学4年生の女性、さおりさん(仮名)。さおりさんは自宅暮らしで商学部に所属し、マーケティングのゼミに参加。」
実際には上記より細かいゴールやペルソナを設定がなされました。ゴールやペルソナが決まったら、時間を区切って加藤から様々なお題が投げかけられます。
通常このようなワークショップでは、
「顧客視点を全体的に見ることは考えていなかった」
「業務がサイロ化されているため、他の業務とのつながりが分からない」
などの言葉が参加者から聞こえてくるものですが、マーケティングのプロフェッショナルであるグロービスの皆様からは、途切れることなく様々なアイデアが飛び出しました。
「本人もまだ気づいていないが、実は学ぶ意欲にあふれる人」
「入社してしばらく経つと将来に不安を感じるようになり、海外留学やワーキングホリデーを志向するようになる」
などの、多くの意見が飛び交い、架空のペルソナがみるみるうちに立体的に人格をまとっていく過程が見えました。
ある程度ペルソナの行動や感情、接点が洗い出された後に、再びファシリテーターが登場しました。今回のセッションでは、議論をより白熱させるためのポイントとして、「ワイルドカード」と呼ばれる、新たなビジネス課題が追加で問われました。
今回は「製品の感想をクチコミで広めてもらうには、何をしたらいいですか?」という内容です。この質問に対して、通常の会議では出ないようなクリエイティビティあふれるアイディアがたくさん考え出されました。
最後に、セールスフォース・ドットコムの加藤氏から「今日のワークショップで考え出したもののうち、モバイルミニMBA for Freshersを受講する方のために必ず実行できるものはなんでしょうか?」という問いが投げかけられ、
などの打ち手が話し合われ、2時間のワークショップは和やかに終了しました。
参加された皆様からは、改めて仲間と協力してワークできた、紙のマップや付箋を使ったワークショップのアナログな楽しさを実感した、仕事を忘れて没頭できたという感想をいただきました。
その上でワークショップを実践的に活かすために、株式会社グロービス デジタル・プラットフォーム マネージング・ディレクターの井上陽介氏は、
「今回改めて実感したのは、カスタマージャーニーマップを作る前に、マーケティングの基礎を知っておくことが必要だということです。それがあってはじめて、いい議論ができるのだと思います。例えばターゲティングやセグメンテーションなどといったマーケティングの基本的な知識があって議論するのと、そうでないのとでは大きな差が生じるでしょう」と述べました。
また、グロービス経営大学院 准教授の武井涼子氏は、「こういったワークショップを行うためには、右脳的になんでも発想したり思いついたりできればいいと考える人が多いかもしれませんが、発想は、あくまでも、データを読み込んだ左脳の論理的思考の上に乗っているものです。そもそも、マーケティングを行う上でどういった課題があるのかを把握できていないと、何をマップに載せるべきか、載せる必要がないかという判断自体もできません。カスタマージャーニーマップを作ることを楽しめたのは、マーケティングの基礎的な知識を備えていたからだとも言えます」と、カスタマージャーニーに取り組む上での大切な点を付け加えました。
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参考文献
加藤希尊(2016年)『The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説』宣伝会議
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