人材の流動化が進むにつれて、企業における中途採用がより一般的になりつつあります。2016年のリクルートワークス研究所の調査によると、2015年度と比較し2016年度の中途採用を増やすと回答した企業は14.1%と、減らすとした3.7%を大きく上回っています。また中途採用者の比率は、大企業と比べて中小企業の方が高い傾向にあります。総務省が実施した2007年の調査では、300人以上の中途採用率3割程度に対して、従業員規模20~49人の事業所においては中途採用率が6割弱にも達します。

中途採用者への期待と言えば、やはり前職での経験を活かした即戦力化でしょう。しかし、いかに優秀な人材を採用できたとしても、入社後のケアがおろそかになると、期待通りの成果を上げてくれないばかりか、苦労して採用した人が会社を去ってしまうかも知れません。中途採用者の即戦力化を早め、投資対効果を高めるためには、会社側にどんな対応が求められるのでしょうか。

中途採用者の戦力化を阻む壁とは

総合人材サービスを展開しているエン・ジャパン株式会社が、同社の採用支援サービスを利用した会社に対して行った調査を見ると、中途採用者の即戦力化の糸口が見えてきます。「活躍をしていない中途採用者がいる場合、その主な理由は何か」という問いに対して、「仕事に対する熱意・向上心が発揮できなかった」がトップで27%、「仕事で求められるコミュニケーション力に満たない」が20%、「仕事で求められる専門スキルを持っていない」が14%という結果になりました。さらに、従業員規模が小さくなるほど「配属先での教育・フォローが不十分」という回答が目立っています。また残念ながら退職してしまう中途採用者の主な理由としては、やはり1位は「仕事に対する熱意・向上心が発揮できなかった」の13%となりました。次に続くのが「社風(理念や文化)が合わなかった」が12%、「仕事で求められるコミュニケーション力に満たなかった」が同じく12%という結果となりました。

中途採用者と会社とのミスマッチを防ぐためには、採用面接時に求められるスキルを身に着けているかどうかをチェックすることはもちろん重要です。しかしそれ以上に、入社してから「熱意を持って仕事にあたってもらう」ための仕組み作りを行えるかが肝となると言えるでしょう。

衛生要因たる情報インフラと、動機付け要因を満たす責任感

では、中途社員の心に火をつけるためには、どうすればいいのでしょうか。アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグによると、仕事に対するモチベーションは、給与や職場環境などから成る衛生要因と、仕事内容・達成感・承認・責任といった要素から成る動機付け要因とに分かれているとされています。従業員にモチベーション高く働いてもらうためには、衛生要因はもちろんのこと、動機付け要因をいかに満足させるかが重要です。

一般的に衛生要因は給与などを指すことが多いのですが、昨今の情報化社会の中では、会社が蓄積してきた情報にアクセスできるかどうかもこの一種に含まれるのではないでしょうか。これまでの案件の情報が、分かりやすい場所に十分な量保管してある。それが、中途社員含めて誰でもアクセスすることができる。中途社員にとって、このようなインフラが整っているかいないかは、ストレスなく仕事を行うための分かれ道となるでしょう。

これに加えて、どのように動機付け要因を満足させるかを考えることが重要です。人は誰しも、適度な責任を背負うことでモチベーションがわき、情熱をもって仕事に取り組むことができます。中途社員が入ってきた際の引き継ぎはもちろん重要ですが、それにばかり時間をかけてしまい、中途社員自身が「自分で責任を背負って仕事している」と早いうちに感じられなければ、入社時に持っていたであろう情熱が時とともにしぼんでしまうかも知れません。過去の案件の情報をしっかり蓄積することで中途社員の立ち上げにかかる時間を最小限にし、後は中途社員自身が自分の裁量で仕事をできるよう環境を整えてあげれば、中途社員は高い情熱を保ったまま仕事を続けていくことができるでしょう。

3年かかる立ち上げ期間を劇的に短縮

アルミ販売問屋を半世紀にわたって営むニッカル商工株式会社では、長い間顧客管理をExcelと紙に頼ってきました。そのため、会社の資産とも言える顧客情報は十分活用されていないばかりか、過去の情報を見返す社員はほとんどいなかったそうです。このような環境に有望な中途社員が入社してきたとしても、どこにどんな情報があるかが分からず、日々フラストレーションをため込んでいっても無理はないことでしょう。

団塊の世代の一斉退職という2007年問題を機に、同社は一念発起してSalesforceを導入。代表取締役社長松下氏の強力な後押しにより社員の活用度合いは日に日に高まり、トップ営業マンの知識やノウハウがどんどん蓄積されるようになってきました。その結果、入社後3年かかると言われる立ち上げ期間が、劇的に短縮されたことが実感できるようになったのです。「Salesforceを見れば、すべての情報が入っている」という事実は、中途社員にとっては非常に大きな武器になることは間違いありません。

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能力ある有望な中途社員に早期に活躍してもらうことは、会社運営にとって非常に大切なことです。しかし、武器となる情報が整備されていなければ、中途社員はフラストレーションを感じるかも知れません。また立ち上げ時間が長くなることは、会社にとってもコストになるだけでなく、中途社員の仕事への情熱を奪う結果にもなりかねません。Salesforceの導入は、中途社員がストレスなく、情熱をもって仕事に取り組める環境を作るための第一歩になるでしょう。

参考文献:

  • 中途採用の「現状」(日本の人事部 2016年7月15日)
  • 中途採用者の活躍・定着について考える(エン・ジャパン株式会社 2011年4月6日)
  • 中小企業白書2009年版 中小企業を巡る人材の流動性(中小企業庁 2009年4月24日)
  • 衛生要因・動機付け要因(日本の人事部 2008年8月18日)