「Salesforce Summer 2016」では、マーケティング基調講演に加え、マーケティングに関する多彩な講演を行った。その中で、今回は「実践! 金融業における新しいカスタマージャーニー」と題して、三井住友カード株式会社、日本生命保険相互会社、アクサ損害保険株式会社が登壇したスペシャルセッションの模様をダイジェストでお届けする。

同セッションでは、はじめにモデレーターを務める、セールスフォース・ドットコム マーケティングクラウド本部リージョナルセールスディレクターの伊奈憲一郎が登場。

  • 「スマートフォン利用者の拡大」
  • 「モバイルバンキングの利用拡大」
  •  「モバイルによる資料請求の増加」
  • 「ユーザー主導のコミュニケーション」

という変化が調査結果から推察される反面、多くの金融機関側では、コミュニケーションチャネルも別々で一元管理もできていないという現状に言及。

「顧客のニーズに応えるためには、金融業でもOne to Oneのエンゲージメントを確立する必要がある。このコミュニケーションを支援するのが、SalesforceのマーケティングオートメーションツールであるMarketing Cloud。世界で2万5000社もの金融機関が利用し、日本でもこの2年間で20社が導入している」と述べた。

“おもてなしコミュニケーション”を掲げ、顧客とのコミュニケーションを再設計

顧客事例として三井住友カード株式会社 ネットビジネス事業部副部長の辻本卓也氏が登壇。「ウェブを通じた会員獲得と会員との関係強化」が同部署のミッションだという。

Marketing Cloudの導入背景として「社内のそれぞれの部署が“企業視点”のプロモーションを様々なチャンネルで繰り広げてきた結果、 “誰に”、“いつ”、“どんな情報”を送っているのかを一元的に把握できない状況となり、最終的にはメール配信に同意いただける会員数がの減少などが引き起こってしまった」と語った。

さらに、社内でプロモーションメールを交通整理しようにも、「そのためのポリシーを各部署に定量的に示すことができなかった」と当時の状況を説明した。そこでこの状況を打開するために、お客様の興味関心あるコンテンツを、お客様のタイミングで受け取れるように、「おもてなしコミュニケーション」というコンセプトを掲げ、さらにそれを支援するツールとしてMarketing Cloudを導入した。

  • 「メールを中心としたプッシュ・プロモーション機能の強みと実績」
  • 「簡易的な操作性」
  • 「金融機関として厳しく要求される高いセキュリティ水準」

が決め手となった。

本格的な運用は始まったばかりだが、辻本氏は「点ではなく、一連の接点で捉えてコミュニケーション・マップを設計したい。一例でいうと新規カード申し込みして、お客様が不在でカードの受け取りできなかった場合、自社にカードが返却になった情報(イベント)をキャッチして、その情報をトリガーに、再配達することをお客様に通知することで、受け取りしやすい環境をつくることなどを考えている」と今後の活用プランについて言及した。

“対面”のように温かいOne to Oneコミュニケーションを目指す

次に日本生命保険相互会社 個人保険システム部デジタルソリューション開発課長の江口晃代氏が登壇。同社におけるデジタルの役割は、営業力を上げていく、またその営業力のコアとなる5万人に及ぶ営業職員の活動を同社におけるデジタルの役割は、営業力を上げていく、またその営業力のコアとなる5万人に及ぶ営業職員の活動を支援していくことにある。

Marketing Cloudを採用するに至った一番の理由は「高いセキュリティ」。江口氏はMarketing Cloudの直近での利用方法として、郵送物が届かない場合の住所変更手続きのメール通知や、ポイントシステムのマイル消滅期限の案内などに着手し、「気づいて良かった」と思ってもらえるような体験をデジタルで増やしていくことだという。その上で、「将来的には営業職員が展開しているFace to Faceのコミュニケーションのように、温かみがあるOne to Oneコミュニケーションをウェブやメールでも展開していきたい」と語った。

“コンシェルジュ”のようなデジタル・プラットフォームを構築したい

最後に登壇したアクサ損害保険株式会社 セールス&マーケティング本部CRM部長の斎藤博隆氏は、同社の顧客エンゲージメント全般を担当。

今年5月から、同社が開始した「フリック見積®」という、スマートフォン上に表示される選択カードをフリック(指で軽くはじく動作)することで見積もりができるサービスを紹介。「差別化が難しい自動車保険という商品において、デジタルの分野でマーケターが使える“武器”を作ることは大きな課題」と話した。

また同社のCRM部では、従来から積極的にターゲット分析を実施。一般にタッチポイントから、資料請求、そして成約に至るまで2-3週間平均で掛かっている。この期間にこれらの顧客にどうジャーニーを描いて、アプローチしていくのかが要諦となる。同社では、まずタッチポイント別(テレビ広告、代理店経由、比較サイト、自社サイト)に分けた属性に応じて、メールコンテンツを出し分けしている。さらに送付したメール内容に対して、どのように顧客が反応したかに応じてメッセージ内容を変化させている。

「例えばメールを開封した人、開封しなかった人を分けてアプローチ。また契約に至るログインの行動が見られなかった人には、補償内容の情報やコールセンターへの誘導メッセージを送るなどしている」と斎藤氏は説明した。Marketing Cloud導入後の効果として、見積もりを取った顧客に対して送付する初回メール開封率が、「40%から60%」にアップしたという。

「今後もお客様ごとに最適なコミュニケーションを図り、おもてなしをする “コンシェルジュ”のようなデジタル・プラットフォームを構築していきたい※1」と斎藤氏は締めくくった。

※1「Salesforce Marketing Cloud」を活用して、同社が進めている「コンシェルジュ的コミュニケーション」の詳細はこちらをご覧ください。

新しいテクノロジー導入のための社内交渉術とは?

講演の最後には、質疑応答の時間が設けられた。モデレーターの伊奈が、「マーケティングオートメーションツール導入に関して、どのように社内の合意形成を進めたか」という質問を紹介した。

三井住友カードの辻本氏は「導入のきっかけは、まずは現場の人間でした。私たちのような現場の人間が必要性を実感し、ボトムアップであげていくことにした。こういった内容のプロジェクトは、総論としてはOKだが、各論で話すとNGになることが多い。そこで1つ上のレイヤーである事業部のキーマンとさらに上の決定権のある役員の1人を巻き込み、現場を含めた3つの階層を押えたうえで説得を試み、社内合意を導いた」と話した。

日本生命の江口氏は「ツールの機能性の素晴らしさを強調して説得しようとしてもうまく伝わらない。そこで作戦を変更し、様々な部署に接して、実際の業務で困っていることを一つずつ整理。『マーケティングオートメーション導入によって、それらがなぜ改善されるのか』を説明することからスタートしました」と、合意に至った経緯を振り返った。