「Salesforce Summer 2016」開催2日目には、マーケティングに特化した基調講演が開催された。この日は、米国セールスフォース・ドットコムのMarketing Cloud CEO、スコット・マッコークルが参加。最新の海外事例に加え、ソニーマーケティング株式会社、株式会社サンリオ、三井住友カード株式会社が登壇し、自社事例を紹介した。最新の成功事例を数多く聴ける機会とあって、「満員御礼」の会場は熱気に包まれた。(1日目の基調講演の様子はこちら。開発者を対象に開催されたSalesforce for Developers 基調講演の様子はこちら)
セッションでは初めにスコットが登壇。「クラウド、モバイル、ソーシャル、データサイエンス、IoTなどの5つのデジタルシフトにより、現在未曾有の変化が市場に起こっている。」と述べ、「一貫性のある形で顧客とのあらゆるタッチポイントを融合・統合し、組織が一丸となって顧客体験を最初から最後まで管理することが重要」と語った。
さらにスコットは、Marketing Cloudでは、次の5つに対応しており、理想的なマーケティングを支援可能であると説明した。
購入後の有益なコミュニケーションこそがカスタマージャーニーの重要点
次に、ソニーマーケティング 代表取締役社長の河野弘氏が登壇し、Marketing Cloudの活用例を紹介した。同社はソニー製品のセールス、マーケティング、サービスを業務とする企業で、ミッションは「お客様と継続的な関係性を構築し、“ソニーファン”を創造すること」と説明。Marketing Cloudを採用した理由として「お客様とつながり続けるカスタマーマーケティングの実践を考えて、検討した結果、Marketing Cloudが最もフィットしたから」と述べた。
同社のカスタマージャーニーのプロセスは、まずは、メールやレコメンデーション、WEB広告を通じて「認知」を獲得し、自社ウェブブサイトに誘引。次に製品の体験を提供することで「興味・検討」のレベルに導く。こうしてエンゲージメントを深めていった客をeコマースサイトに導く、あるいは実店舗に足を運んでもらって「購入」につなげている。
河野氏は、「お客様に製品を使い続けていただく、あるいは使いこなしていただくためのノウハウ提供など、購入後の有益なコミュニケーションをデザインすることが、カスタマージャーニーの重要点」と力説した。
具体的には、Email Studioの活用例を挙げた。同システムによって、顧客が製品サイトを訪れて興味を示すと、その製品カテゴリーに関連する情報メールがその顧客に配信される。
「この自動メールの開封率は約60%、リンクのクリック率は約40%と驚くべき高さを示している。これはEmail Studio導入後の目立った成果」と河野氏は述べた。
さらにEmail Studioが成果につながった理由について2つの要因を挙げた。1つ目は、メールに対する客の反応を絶えずウォッチして分析を続けることで、メッセージ内容や送信タイミングなどのメールのクオリティを常に改善できること。2つ目は、メール送信などのアクションは、顧客の製品サイトへのアクセス時など、常に顧客の行動軸に寄り添って自動配信でき、決して“送り手都合のアクション”にはならないこと。
「素早くPDCAサイクルを回し、お客様の気持ちが“熱い”タイミングで情報を配信できる。Email Studioは、今ではソニーマーケティングにとって不可欠のツールであり、さらなる活用法にチャレンジするステージに入っています」と、河野氏は述べた。
続いて登壇したのが、セールスフォース・ドットコムの常務執行役員 ジェネラルマネージャーの笹俊文。笹は、海外のMarketing Cloud導入の成功事例として、スポーツウエアのeコマースサイトを運営する米国ファナティクス社を紹介。
同社は約30のブランドを扱い、顧客に対して年間40億通ものメールを配信、約27,000種類ものキャンペーンを運用している。この業務をコントロールしているマーケッターはわずか5人で、その“離れ業”を可能にしているのがEmail Studioの優れた機能だと言う。
笹は同社が毎年実施している「カレッジバスケットリーグのキャンペーン」を例に説明。このリーグは3ヶ月もの間、64チームが32試合行うものだという。その中でEmail Studioは、
などが同ツールにより実現できると説明した。
「Email Studioを使えば『プロパティ定義』『コンテンツ選択』『プレビューテスト』という3つの自動化されたプロセスのみでメールを作成できる。モバイルでも操作が可能なので、担当者は休みの日でもコントロール可能。これが“5人で40億通ものメール”をコントロールできている秘密」と笹は語った。
続けてEmail Studioの高度な使い方についても言及。「送り先の属性に合わせたルールベースの動的コンテンツや、予想エンジンを使ってユーザーの行動履歴から商品などを自動的に推奨するシステムも構築可能。Marketing Cloud内にスクリプトエンジンを持っているので、HTMLで定義したスクリプトをマッピングすることで、さらに複雑なパーソナライゼイションも可能」とデモンストレーションを行った。
続いて壇上にはサンリオの人気キャラクターのキティちゃんが登場し、会場からは大きな拍手が湧き上がった。キティちゃんからバトンタッチされ、同社のMarketing Cloud活用事例の報告を託されたのは、サンリオ・メディア部ジェネラルマネージャーの田口歩氏。
同社は「世界中のすべての人々に“仲良し”の輪を広める」というポリシーでギフトビジネスを中心に展開している。この“ソーシャル・コミュニケーション・ビジネス”の中で、田口氏はオウンドメディア、SNS、ウェブなどで、キャラクターの魅力を伝える業務に携わっている。
田口氏は「サンリオはギフトの卸・小売、ライセンス管理、出版ビジネス、テーマパーク運営など多チャンネルで事業を拡大。その過程で、顧客接点が細分化し、顧客体験のあり方を早急に再構築しなければならないという危機感が募った。そこで最適だったのが、Marketing Cloudだった」と導入の背景に触れた。
それまで同社は、メールマガジンで一律にキャラクターの魅力を発信していた。それがキャラクターの数が増えるにつれ、多種多様な魅力を色々な好みを持つファンに向けて同じように伝えることに、限界が生じてきた。
「当社のキャラクターは“3世代キャラクター”と言われます。『お子様』『お母様』『おばあさま』という、長い人生の中でそれぞれキャラクターとの付き合い方が変わってくる。Marketing Cloudを使えば、それぞれの顧客特性に応じて最適のタイミングで最適の情報を発信できる。それによって狙い通りの“カスタマージャーニー”が生み出されるようになりました」と語った。
「Marketing Keynote」の終盤では、金融業界でのMarketing Cloudの活用事例が紹介された。再び登壇した笹は、米地銀大手Capital Oneの事例を紹介。Advertising Studioで構築した「既存顧客のデータを新規顧客獲得に結びつける仕組み」について解説した。
同社はAdvertising Studioを使って、データベースから「同社と2年間取引がある中小企業の経営者・従業員」を抽出。そして類似オーディエンス機能を使って、「既存顧客」と属性が似通った対象者を選び出し、彼らがフェイスブックなどのSNSを利用するタイミングに合わせて、自動的に“見せたい広告”を表示するシステムを構築。対象者が興味を示してリードが獲得されれば、情報はMarketing Cloudを通じてマーケティング部門から営業担当者にシームレスに引き継がれる。営業担当者は対象者の行動履歴などを確認しながら、商談を進めることができる。
「通常は商談成立でプロセスが終わるが、Advertising Studioでは成立後に新しい顧客を『除外オーディエンス』として自動登録する。これによって、顧客は『すでに購入した商品・サービスの広告を見せられる』という煩わしさから解放される。ここまで行うことで、カスタマージャーニーをさらに充実化できる」と述べた。
最後に、同じく金融業界の事例として、三井住友カード ネットビジネス事業部長の佐々木丈也氏が登壇。佐々木氏は取扱高約11兆円、利用者2千4百万人を誇る同社事業で、「ウェブでの新規顧客獲得」「既存顧客との関係強化」の業務を担当する。
佐々木氏は、同社がMarketing Cloudを採用した背景として「自分たちの視点で“送りたい情報”を発信し続ける中、お客様側のデジタルに関する知見が進み、関係がどんどん乖離していった。メールの受け取りを拒否されることが多くなってしまい、早急にお客様との接し方やコミュニケーションのあり方を再構築する必要に迫られた」と説明した。
同社はMarketing Cloudの導入によって、現状を大幅に刷新。佐々木氏は「今は短期的な収益を追うのではなく、お客様の気持ちにどこまで寄り添え、つながりをどこまで深められるかを重視している。様々なチャネルであっても、コミュニケーションに一貫したストーリーを持たせ、お客様に『三井住友カードを持っていて良かった』と感じてもらえるコミュニケーションを目指したい」と締めくくった。