日本の労働生産性は、OECD加盟国34カ国中21位*1――昨今流れたこのニュースに、衝撃を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。労働生産性が低いということは、生産性が高い国と同じ量のアウトプットを出そうとするならば、より多くの時間を労働に費やさなくてはならないということを意味します。すでに日々忙しくされている方からすると、休みも取らずに懸命に仕事しているのに、世界に追いつくためにはさらに働けと言うのか……と、憂鬱な気持ちになっても仕方のないことかも知れません。

しかし、日本の労働生産性はすべての産業において低いのでしょうか。データを分析していくなかで、他国に勝る生産性を誇る分野と、生産性向上に向けた取り組みが期待される分野とが見えてきました。

産業別の労働生産性 アメリカを上回る2つの産業とは

経済産業省が作成した2013年の通商白書*2では、アメリカを対象として各産業の労働生産性が比較されています。これによると、製造業、金融・保険の分野においては、アメリカとそん色のない生産性を発揮しているばかりか、一般機械、化学分野においては2割以上も高い生産性を発揮していることが分かりました。


出所:平成25年通商白書概要(2013年6月)

対照的に、運輸・倉庫、卸売・小売、飲食・宿泊に関しては、生産性向上のためにまだまだ打てる手が多そうです。

労働生産性を向上させる4大要因とは

では、労働生産性が高い企業が行っている施策とは、どのようなものなのでしょうか。企業の広義の技術進歩の割合を示す相対TFPという値を用いた回帰分析によると、「輸出を積極的に行っている」「海外出資を積極的に行っている」「研究開発を積極的に行っている」「IT投資を積極的に行っている」という4つの要素が生産性に大きく関与することが分かりました。この中で「研究開発」と「IT投資」は比較的納得感のある要素ですが、前者のふたつ「輸出」と「海外出資」は、なぜ企業の生産性に寄与するのでしょうか。

理由のひとつに「輸出の学習効果」と呼ばれるものがあります。輸出企業の中には、激化する海外市場でのシェア拡大を狙い、技術・品質向上への取り組みをより一層高いレベルで行った企業も多いことでしょう。この取り組みを通じて企業の競争力が高まり、結果として労働生産性が高くなったことが考えられます。また海外市場を経験することで、国内市場では得られない新しい知見が企業の中に溜まっていきます。これも企業の競争力向上に寄与すると考えられます。これらの効果を総称して「輸出の学習効果」と呼んでいるのです。

実際に、輸出開始からTFPの経年変化を追った調査においては、輸出からの年数が経つほどTFPの値が増加することが分かりました。海外マーケットにおける経験値が高まるにつれて、労働生産性も高まっていくのです。ただし、この輸出の学習効果にも限界があることが分かっています。具体的には、TFPの値の上昇が統計的に有意に観察されるのは3~4年目までで、それ以降は大きな変化は見込めないことが多いようです。

とは言え、輸出や海外出資による生産性向上は結果論であり、生産性向上のために輸出や海外出資を行う訳にはいかないでしょう。生産性向上を狙う企業にとっては、研究開発への投資とITへの投資、このどちらかに注力することが現実的です。直近で製品やサービスの輸出を検討している企業や、すでに海外に進出した企業においては、輸出後3年間というゴールデンタイムにどれだけ生産性を向上できるか、意識的に取り組むことが重要でしょう。

老舗小売企業における生産性向上の施策例

労働生産性の産業別比較においては、卸売・小売などの業種が苦戦している様子が見られましたが、実際、一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会の調査*3においても、流通業の売上高に対するIT投資額の割合は、他の業界と比べても低いことが分かりました。ITへの投資は生産性向上の大きなカギを握るファクターであり、卸売・小売業におけるIT投資への意識改革は喫緊の課題と言えそうです。

しかし、明るい材料も少なくありません。IT投資とは少し縁遠いイメージの老舗企業においても、クラウドシステムの導入が多く見られており、業務改革に力強く取り組んでいる企業があります。創業100年の老舗漬物店であり、漬物専門フランチャイズチェーンの丸越も、そのひとつです。全国180店舗展開するフランチャイズ店からの商品発注は、これまでは電話とFAXで管理されていたため、漏れやミスによる生産性の低下が問題視されていました。またデータ集計にも時間がかかり、本部では現場の声をタイムリーに聞く仕組みが整っていませんでした。

そこで丸越では、各店舗からの発注の仕組みをSalesforce上に構築。全国の店舗に配布したタブレット端末から発注を行えるようにしました。これにより発注漏れやミスが格段に減ったばかりか、キャンペーンや売れ筋などの情報提供による発注作業を効率的に行えるようになりました。お客様の生の声もリアルタイムに確認できるようになり、キャンペーンの成功の可否もより迅速に判断できるようになりました。Salesforceの導入により、生産性が大きく向上したのです。

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人口減少に入っている日本においては、生産性向上は企業の競争力向上の要です。生産性向上においてITは重要な役割を果たしており、Salesforceは先進機能と導入のしやすさで、あらゆる企業の生産性を大きく向上させます。詳しくは下記eBookをご覧ください。

参考文献:

*1:日本の生産性の動向 2015 年版(公益財団法人 日本生産性本部 2015年12月18日)

*2:平成25年通商白書「世界経済のダイナミズムを取り込んで実現する生産性向上と経済成長」(経済産業省 2013年6月)

*3:第21回 企業IT動向調査2015(14年度調査)~データで探るユーザー企業のIT動向~(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会 2015年4月15日)