これまで、中小企業が銀行と取引をする際には、手間のかかる書類の作成や提出が欠かせませんでした。営業支援や売り上げのための販売管理システムに蓄積されたデータを、融資に活用する事例が出てきています。従来の決算書を作成するには、手間とコストがかかる上、過去のビジネス履歴として参照することはできますが、刻々と動くビジネス状況にあわせることは不可能です。
この点、営業支援システムは、見込み客や受注状況、今後の売上見通しがリアルタイムで表示され、特別な手間もいらないため、このようなデータを活用する動きが出ています。このような傾向は、今後企業間取引に大きな革命をもたらすかもしれません。
成長過程にある企業にとって、必要なときにスピーディーに融資を受けられるかどうかは、その後の業績にも影響する大きな問題です。しかし、従来の銀行による融資の場合、過去の決算書をはじめとした大量の書類を作成して提出する必要があり、審査の完了までにも時間がかかりました。それを解決するために大手ECモールが実施しているのが、デジタルデータにもとづいた融資です。
ECモールには、出店者の売上高や成長率、顧客からの評価といったデータが集約されており、業績がすぐに分かります。つまり、決算書を見るまでもなく、データをそのまま与信判断に利用できるのです。さらに、決算書が過去の情報をまとめたものであるのに対して、この方法はリアルタイムのデータを確認できるというメリットもあります。
このように、オンラインで取得したデータから融資額や利率を自動計算するしくみを用意することによって、早ければ即日というスピーディーな融資を可能にしたのです。さらに、事前審査を実施して融資可能と判断された出店者に対して融資額や利率を通知するサービスを行うサービスもあります。
オンラインショップでは特に、メディアで取り上げられた商品を大量に仕入れて需要の増加に対応するといったニーズも多く、いかに早く融資を受けられるかが重要になります。このようなときに、審査に1か月近くかかるような融資では対応できないため、すぐに融資を受けられるこれらのサービスは大きな意味を持つのです。
また、クラウド会計ソフト「freee」と銀行が提携して開始した融資サービスでも、データをもとにした与信判断を行っています。「freee」のデータベースに蓄積された利用企業の会計データを銀行が取得し、その業績に応じて融資の提案を行うしくみです。会計データを利用することによって決算書をはじめとした紙資料の作成や提出が不要になることに加えて、決算書だけでは判断できない日常的な企業の情報も確認できる点も大きなメリットとなります。
決算情報をもとにした場合、企業が決算書を提出するタイミングで融資の提案が行われていましたが、リアルタイムで会計データを取得することによって、企業の業績に応じたより適切なタイミングでの提案も可能になりました。そのため、成長過程にある企業が最適なタイミングで融資を受け、スピーディーに事業を拡大することができるのです。さらに、企業が財務データを銀行と共有することは、融資だけでなく創業支援や経営再建にも役立つものとして期待されています。
なお同社のビジネスプロセスを支えるテクノロジーとして、CRMとしてSalesforceのSales Cloudが、情報連携のためのプラットフォームとしてForce.comが活用されています。
新築やリフォーム、住宅の修繕といった幅広い建築サービスを提供する流体計画(事例はこちら)は、Salesforceを導入し、営業支援システムとして活用するほかに、毎月1回の銀行担当者による会計資料のチェックの際にもそのデータを活用しています。
住宅の契約をした顧客の支払い予定や過去の実績を入力しておき、月初めの銀行残高データと突き合わせることによって、毎月の資金繰り表が作成でき、さらに受注の見込み表や、受注残額、資金繰り表といった資料もリアルタイムのデータにもとづいて出すことができます。過去のデータから資料を作成する場合に比べてより透明性が担保されることが大きな利点です。
また、建築業では大規模なプロジェクトを進めるときに金額の大きな立替金が発生する場合がありますが、資金繰りのデータを使うことで、どのタイミングで資金が必要になるのかが明確になり、適切なタイミングで融資を受けることが可能になります。さらに、これまでは担当者個人の感覚に頼っていた下請けへの発注や原材料の注文を、提出見積金額の承認をSalesforce上で行うことにより可視化することにも成功しました。
データが役立つのは資金管理の面だけではありません。営業からプランニング、見積もり、契約、施工というプロセスを一元的に管理して、各自の売り上げや目標を可視化することで、従業員のモチベーション向上につながるといった効果も出ています。
これらの取り組みによって社内のワークフローを再構築した結果、下請け業務が全体の約70%を占めていた状態から元請け業務が98%を占める企業に転換し、受注額の大幅アップにもつながりました。
企業活動や生活におけるさまざまなシーンでIT技術が利用され、それにともなって多くのデータが蓄積されるようになった今、そのデータをいかに有効に活用するかは非常に重要な課題です。今回ご紹介したオンライン融資サービスでは、従来のように人の手によって書類を作成して提出し、時間をかけて審査するというプロセスをデータによる審査に置き換えることで、融資までのスピードを大幅に向上させています。
フィンテックによって、これまでは融資を受けるのが難しかった企業が資金調達できるようになったり、審査完了までのスピードがあがることですぐに資金を必要とする企業のニーズに応えたりと、従来の融資のスタイルを覆す変化が起きています。
もちろん融資のためだけでなく、企業内においてもこれらのデータの活用には価値があります。金銭の流れや業績といったデータが可視化されれば、その企業の現状を把握しやすくなり、社員それぞれのモチベーションアップにつなげることもできるでしょう。
フィンテックサービスに見られるようなデータの活用は、これからの時代に企業が成長していくにあたり、非常に重要なものとなるのです。
参照:
FinTechの正体 週刊ダイヤモンド(2016年3月12日)
freeeが三菱東京UFJ銀行などと協業、新融資サービスの開発を目指す ITpro(2015年12月14日)