JAPAN CMO CLUBは、「日本のマーケターの集合知をつくる」ことを目的に2014年11月より活動を続けています。日本のマーケターは欧米に比べて他社のマーケターと知り合う機会が少なく、十分なディスカッションを行う機会も少ないことから、マーケター同士の横のつながりをつくる場として発足しました。
これまでに10回以上の研究会を実施し、50社を超えるCMOが参加してディスカッションを重ねてきたなかで、業種やブランドを超えて見えてきた新たな方向性。それは、「スマート化」、「コモディティ化」、「人口減少」という3つの変化を要因とした、競争のルールの変化です。
では、この3つの変化について具体的に見ていきましょう。
スマートフォンをはじめとしたデジタルデバイスが普及したことによって、顧客の生活パターンは大きく変わりました。従来足を運んで買い物をしていたものが、オンラインショッピングで簡単に済むようになりました。初めて店舗を利用する際にも、スマートフォンで店舗を検索して地図アプリで場所を確認ができます。このように検索、決済、動画の視聴、ニュースの閲覧などの行為を通じて、個人の行動はすべてがスマートフォンで完結するようになったのです。
さらに、身の回りの様々なモノとインターネットがつながるIoT(Internet of Things)が広がりを見せており、今後はスマホに加えて、車や家電、住宅、交通や公共サービスといった、あらゆるモノやサービスがインターネットを介してつながる時代(スマート化)になっていきます。
このようなスマート化によって、企業と消費者の接点の数は飛躍的に増大します。その一方で、限られる顧客の時間と接点=「つながり」を企業が奪い合う競争が起こっています。これが第一の変化です。
コモディティ化とは、機能性での差異化がしづらく、結果、他の競合品と代替可能になってしまう状態のこと。従来は、食品や日用品のような製品を示唆する言葉でしたが、テレビやパソコンといった比較的高価格帯の製品から、様々なサービスにもコモディティ化する現象が起きています。大規模な投資のもと新製品開発を行っても、製品のサイクルが短命化した昨今では、投資に対する回収期間が大幅に短くなっています。競合他社のみならず、場合によっては業種の壁を越えて新規参入してくることもあり得るのです。
コモディティ化に対抗するには、商品の機能性以外の部分で価値を創造し、他社との差異化をはかることが重要になります。カルビーのフルグラが、「ヨーグルトの友達」として朝食と競合しない位置づけを見つけて、大ヒットにつながったアプローチなどは好例でしょう。第2の変化として、商品の「質」を高め合う競争の在り方も変わりました。
日本の人口は減少を続け、2048年には1億人を割ることが予測されています。人口の減少によって需要が減退すれば、市場のパイそのものが縮小することになります。さらに、人口比率も変化を続け、今後は少子高齢化がいっそう進んでいくことになります。若年層の減少にともなって労働力の減少が起き、日本全体の購買力が低下するなど消費行動に大きな影響を与えることが予測されます。
この状況に対しては、少子高齢化のライフスタイルに合わせた新たな市場を創り出す方法や、より幅広い層に訴求して顧客のパイが縮小しない方法などが考えられます。すでに業界2位のコンビニエンスストア ”ローソン”では、高齢者が買いやすいお店を目指して戦略の舵を切っています。減り続ける顧客の「量」を獲得する競争はすでに始まっています。
前述したように、「スマート化」、「コモディティ化」、「人口減少」という3つの変化を端的に表現すると、「つながり」「質」「量」の観点で、企業は同時に異なる競争に直面していることがわかります。従来のような画一的なマス広告だけでは効果的な広告ができなくなった今、顧客との関係を意識して価値を提供していく「カスタマージャーニー」という顧客を中心に据えた視点を持つことが、課題を突破する鍵になります。カスタマージャーニーとは、顧客がブランドや商品を認知、購買、再購入する段階での一連の顧客体験を、カスタマーが旅をする姿に見立てて、カスタマージャーニーと呼ばれています。
魅力ある顧客体験を提供するためには、カスタマージャーニーを包括的にとらえて顧客視点のマーケティングを実践できるリーダーの存在が必要です。そして、顧客と日々接しているマーケターにこそ、このリーダーの役割が求められているのではないでしょうか。マーケターが牽引役となり、自社の組織や環境に合わせたかたちでの顧客視点を持ったマーケティングの実現をめざすことが必要なのです。
変化する市場の状況や、それに対応するためにカスタマージャーニーをどのように活用していくかについて、さらに詳しく知りたい場合におすすめの書籍が『The Customer Journey 「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説』です。
本書では、「スマート化」や「コモディティ化」、「人口減少」の変化にカスタマージャーニーの視点で対応している30社の実例が紹介されており、これからのマーケティングに何が求められているのかを具体的に知ることができます。どの参加企業にも共通するのは、「顧客視点のマーケティングコンセプト」を持っている点。その各社の顧客視点コンセプトをシンプルに解説しているので、自社のマーケティングの今後の方向性を検討するうえでも大いなるヒントとなるはずです。
出典:
The Customer Journey 「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説 加藤希尊 宣伝会議(2016年4月)