スマートフォン・タブレット機器は、人々がいつでもどこでもバーチャル世界にアクセスするための窓として急速に発展・普及しました。これらの機器はあくまで窓からバーチャル世界を垣間見せるだけで、完全にバーチャルの世界へ入っていくことはできません。
しかしバーチャルの世界へのドアは、確実に開かれようとしています。それが、AR、VR、SRといった技術です。
これらの技術は、互いにどんな特徴を持っているのでしょうか。そして顧客に新たな体験を享受してもらうために、ビジネス設計においてどのような視点が大切になるのでしょうか。
まず拡張現実とは、現実の世界にバーチャル情報を付け加えたものです。この技術はすでに市場に出回っており、例えばカーナビでは、現実の道路の上にナビゲーション情報を重ねて映し出す仕組みが登場しています。またスマートフォン上でも、特定の物体にカメラを向けると特定のオブジェクトを映し出し、画面上ではあたかも物体とオブジェクトが同時に存在するかのように見せるアプリが多数出回っています。
ARは現実の世界にバーチャルを重ね合わせるのに対し、VRはバーチャルの世界に足を踏み入れて、ユーザーがあたかもバーチャル世界の中にいるかのような体験を提供するものです。
VRの応用分野として最もメジャーなのがゲームです。例えばOculus Riftは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドフォンが一体となったデバイスで、ゲームの世界に飛び込んだような感覚を味わわせてくれます。
自動車業界では、車の購入を検討している顧客に対して、色や内装の変更など、カスタマイズ後の車をリアルにチェックできるようにするVRを用いたサービスを展開しています。
また身近なところでは、YouTubeやFacebookが360度動画として、VRの動画サービスを2015年から提供しています。(関連記事「臨場感のあるコンテンツが楽しめる!話題の360度動画とバイノーラル録音とは?」)
「Substitution」は「代替品」を意味する英単語です。VRやARが目指すところは「いかに素晴らしいバーチャルを見せるか」なのに対し、SRは「現実の代替となるバーチャルを見せる」というのが目標になっています。
まずユーザーは、正面にカメラが取り付けられたヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドフォンをつけます。ユーザーはHMD上のカメラを通じて現在ユーザーの周りで起こっている出来事を見ることができます。ユーザーは最初カメラで映された現実の世界を見ていますが、あるタイミングで過去に同じ部屋で撮られた映像に切り替えると、過去の出来事にも関わらずユーザーは現実の出来事と錯覚します。映像の切り替え方次第では、現実の出来事が実際に起きていないかのように錯覚させることもできるのです。
バーチャルを活用したプロダクトが増えユーザー体験が大きく変化するなかで、ビジネスの設計の仕方もそれに応じて変える必要性があります。ポイントのひとつは、顧客一人一人に向けて顧客体験を設計することです。
これまでの世界では、ユーザー毎に最適化した体験の提供には、物理的な限界やユーザーが負担するコストを大幅に上げる必要がありました。しかしバーチャルの世界では、ユーザー体験のパーソナライズのためのコストは圧倒的に低くなります。例えば現実の部屋では、壁紙を変えて模様替えをしようとすると大変な時間とコストがかかります。しかしバーチャルの世界では、気に入った壁紙を選ぶだけで、一瞬で取り換えることができます。つまり、バーチャルの世界が発達すればするほど、ユーザー個別の体験を提供しやすくなるのです。
企業側がそれぞれのユーザーに最適なサービスを提案するためには、個人の嗜好や購入履歴などのデータを大いに活用して、ユーザー毎にカスタマージャーニーを設計しておく必要があります。AR、VR、SRといった先進のバーチャル技術をフルに活かすためにも、まずはOne to Oneマーケティングの導入を検討されたらいかがでしょうか。
参考文献: