10 月 14 日(水)、株式会社ビジネス・フォーラム事務局と株式会社セールスフォース・ドットコムの共催で Executive Business Seminar「変革のリーダーシップと実行力~変化の時代を勝ち抜くリーダーの役割と考え方」が開催されました。本稿ではセミナーの目玉企画、1992 年にトリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長に就任し、以来 2006 年の退任までにトリンプ・インターナショナル・ジャパンの成長を牽引した吉越浩一郎氏の講演内容を、ダイジェスト版にてお届けいたします。
人生を仕事だけで終わらせず、もっと積極的に楽しめるものにするために、組織として業務効率化を徹底して計り残業ゼロを実現することが重要と語る吉越氏。この簡単ではない課題に、いったいどのように取り組んでいったのでしょうか。
仕事と私生活の折り合いをつける、いわゆるワークライフバランスの取り方は多くの働く人にとって共通の悩みです。仕事に意識を向けすぎたばかりに自分の体をいたわることができなかったり、家庭のケアが十分にできなかったりして、プライベートに悪影響が出ているという方も多いのではないでしょうか。
吉越氏は、仕事は人生の“ほんの”一部であり、人生を楽しむことが本来重要だが、日本人は驚くほどこの意識が低いと指摘します。例えばヨーロッパ人に「仕事の対極は何か?」と質問すると多くの人が「遊び」と答えるのに対し、日本人の多くは「休み」と返します。どちらがより人生を楽しもうという姿勢を持っているかは、火を見るよりも明らかでしょう。
では、なぜこのような認識の違いが起きるのでしょうか。日本人は日々の残業時間が長い傾向があり、これが平日の私生活の時間、並びに睡眠の時間を削っていきます。平日にたまった肉体的な疲れを癒すために、休日の多くの時間を休息に充てざるを得なくなります。対してヨーロッパ人は残業する人は少数派で、平日にも私生活の時間と睡眠への時間をしっかり取ることができます。平日に休息の時間を取り、肉体的な疲れを残していないために、休日には仕事で疲れた“頭”を癒すための遊びの時間を確保することができるのです。
このように、残業時間を減らすことが人生を楽しむマインドセットを持つための第一歩となります。では、残業文化が根強く存在する日本社会の中で、組織のリーダーとしてどのように業務効率化を図れば良いのでしょうか。
当然ながら、残業ゼロを目指すからといって業務に支障をきたしてはいけません。プロフェッショナルとして、求められる以上の成果を出しつつ、人生を楽しむ時間を確保しなければなりませんので、越えなければならないハードルは相当高いものです。
吉越氏は、この難解な問題に取り組む出発点として「残業をせずに時間通りに仕事を終わらすことが出発点」と話します。明確なポリシーを作って残業を禁止しなければ、そもそも残業ゼロに向けた業務の効率化への意識は育まれません。
組織全体がキビキビ行動しなければ残業ゼロは達成できません。完璧な判断を下すために必要な情報を 100% とした時、比較的労力をかけずに集められる6割の決断を素早く繰り返すことで、結果的に早く質の良いアウトプットを出すことができます。この、トップダウンによる判断のスピードを早くすることが、労働時間の圧縮に寄与することに繋がります。
そして、それを支えるのが「部下に権限を与えること」だと言います。
吉越氏はマイクロマネジメントにつながるホウレンソウ(報告・連絡・相談)を廃止し、部下に仕事を任せることが大事と語ります。仕事を任せるためには、徹底して情報を共有化し、組織内で同じ情報レベルを保たなければなりません。また、業務達成のプロセスは部下に任せ、デッドラインを設けて進捗を確認するというマネジメント方法が、部下の成長を促しながらもスピードのある判断をするための情報を得るキーポイントになる、と言います。
トップダウンとは逆に、現場からのボトムアップの力を育てることも業務効率向上に重要な役割を果たします。その力を育てるためには、明確な仕事・責任の分担をし、部下に当事者意識を持って仕事をしてもらうことが重要です。また明確な業務分担は不要な会議をなくし、仕事のスピードアップを促進することもできます。
オフィスに仕事への集中を妨げる要素があれば、それを排除する必要があります。また仕事への集中が続くような仕組み、例えばトリンプ社では「がんばるタイム」という徹底的に仕事に集中する時間を設け、この時間内はお喋りや不要な離席を禁止するなどして集中力を高める施策を実施しました。
また、残業ゼロにつながる業務効率化に対して、IT 化、マニュアル化も大きく貢献できるといいます。会社の業務効率を良くしていくためには、仕事のレベルをあげていき、徹底度を高めることが重要と吉越氏は説きます。IT 化、マニュアル化により、意図を持ってプロセスを変えていくことが必要なのです。
そして IT 化、マニュアル化できることと、そうでないことが仕事の中にはあります。いわゆる「暗黙知」と呼ばれる部分で、これは教育できることではありません。これを育てるためには、部下に仕事を任せて、自らの力で気付かせる機会(吉越氏はこれを「習育(しゅういく)」と呼んでいます)を与えることが重要なのです。
人生を楽しむための残業ゼロ実現への道は、決して平坦なものではありません。しかしトリンプ・インターナショナル・ジャパンのように、残業ゼロの取り組みを進めながら売り上げを伸ばし続けるという偉業を達成した企業が実在します。吉越氏はセミナーの締めくくりとして、セミナーを聞いて終わりにはせずに、ぜひその内容を自社内で活用してほしいと熱く語っていました。読者の皆様も、本稿を参考にしながら自社流の「人生を楽しむマネジメント」を開拓していってください。