Excel による案件管理は限界?

営業活動の中で、案件の進捗を管理するためにExcelなどの表計算ソフトを使っている企業は多いでしょう。しかし、 表計算ソフトによる管理で、目標予算の達成や効率化は思ったとおりに実現できているでしょうか。一時的に数字はまとまるものの、入力が煩雑だったり、滞っ たり、集計のための残業で営業活動に支障が出たりなど、営業チームにとって逆にやっかいな存在になっているのではないでしょうか。

こうした営業活動における情報の管理・共有においては、汎用的な表計算ソフトではなく、顧客情報の管理や案件の管理専用に作られ、より高い価値を生 み出すことができるCRM(Customer Relationship Management)を使うのがベターです。ここでは、その中でも「案件管理」に焦点をあてて解説します。

CRMが提供するもの

企業の成長を目指すには営業活動の強化は欠かせません。成長のためには「新規顧客を獲得すること」と「既存顧客内でのシェアを拡大すること」の両方 が必要であり、それぞれにバランスの取れた施策が必要です。そのためには既存顧客、見込み客を含めた顧客の管理と、売上につながるまでのプロセスを効率化 する必要があります。こうした目的に対応するシステムが、顧客管理(CRM)です。CRMによって、以下の情報を効率良く管理し、適切な営業活動につなげ ることができます。

図1:CRMが管理する情報と価値

図1:CRM が管理する情報と価値

案件管理とはそもそもどういうものか

見込み客や顧客の情報から、個々の案件の情報、顧客からの問い合わせや対応についての情報まで、営業活動に関するあらゆる情報を管理して社内で共有 し、さまざまな切り口で可視化するのがCRMです。これらが組み合わさって、営業活動の強化や高度化を可能にします。この中で重要な要素の一つが「案件管 理」です。

案件管理の主な管理項目は以下です。これらの項目を随時更新し、営業チームの目標を達成するために注力すべき案件を判断します。受注までの期間を短 縮する活動や競合対策、追加の提案活動を行うなど、最新の情報を基にした打ち手の選択は、大きな案件を追ううえで必ず行わなければならない営業活動の基本 です。

  • 顧客情報:年間投資予算、自社とのこれまでの取り引き、今期のポテンシャル
  • 案件の概要:顧客の課題、解決策、パートナー
  • 商品、金額:商品数、納期、金額、利益
  • 進捗、ターゲット日:進捗段階(フェーズ)、受注目標日
  • キーマン:顧客担当者、決定者、エンドユーザー
  • 社内の協力者:上司、エンジニア、管理部門

案件管理では、案件にまつわるさまざまな情報を集約し、常に最新の状態に保つようにします。それによって、進捗状況を適切に管理して精度の高い売り上げ予測を立てたり、失注リスクを事前に把握しチームで対策を講じて成約率を高める、といったことが可能となります。

案件の進捗を知るために上で、もう一つ重要な観点があります。それは「活動管理」です。それぞれの案件の段階(フェーズ)を把握することはもちろん ですが、その案件に対して誰がどのような活動を行ったのか、またそのとき顧客に提示した内容や顧客の反応はどうだったかといった「活動」に関する管理が重 要になります。活動管理は、担当者自身が感じている手応えとは別の観点から進捗を判断する材料となり、より客観的な経過分析を可能にします。客観的な経過 分析は、精度の高い受注見込みやリスク把握を可能にするもので、営業活動の高度化において不可欠なものと言えます。

ここで注意しなければならないことは、案件は、一顧客に複数存在することが一般的で、案件ごとに活動管理が必要になるということです。Excelの ような表計算ソフトでは一案件ごとの管理はできるかもしれませんが、リスト形式の管理のため、各案件・活動の関連性がわかりにくく、顧客という視点での管 理には限界があります。

図2:案件は一顧客でも複数存在。案件ごとに活動管理も複数発生

図2:案件は一顧客でも複数存在。案件ごとに活動管理も複数発生

一般的に、案件の進捗管理によって個々の案件の可視化ができ、結果的に売り上げ見込みの精度が向上すると言われていますが、具体的な効果を出すためにはどのように進捗管理をすればよいのでしょうか。

Excelの案件管理とCRMの案件管理の違い

Excelによる案件管理での進捗報告は、営業担当者による自己申告がほとんどです。精度を高めるために必要な複数の関係者による評価は行われにく く、行おうとすると適切なタイミングでの評価・アドバイスは別ツールを使う必要があります。適切なタイミングで適切な営業活動を行うには、案件フェーズと 活動の両方から判断されるべきものにもかかわらず、次の営業活動も担当者の感覚に依存するしかありません。
例えば、大型案件にもかかわらず顧客役員との面談もないまま見積書を提出し、フェーズだけ進めたとしても、案件が進んでいると判断するのは危険ということになります。

図3:進捗は、案件のフェーズ管理と活動管理から判断されるべき

図3:進捗は、案件のフェーズ管理と活動管理から判断されるべき

こうした複雑に絡み合う情報を、果たして表計算ソフトで管理できるでしょうか。案件のフェーズに関する情報や、担当者の簡単なコメント程度であれば 可能かもしれません。しかし活動管理には、訪問だけでなく、電話、電子メールなど、さまざまな情報を随時登録し、整理していく必要があります。それらの情 報を共有し、管理職は適切なアドバイスを行う必要があるのです。縦と横のマトリックスで表現をする表計算ソフトは、シンプルなまとめをつくるのには適して いますが、複雑な情報を整理するのには適していません。結果的に表計算ソフトでは情報を集約することに時間がかかり、タイムリーな判断ができないケースが 発生するでしょう。

また、表計算ソフトでの管理では、情報の更新も課題となります。いったん帰社し更新するか、同僚などに連絡して代理で記入してもらうか、いずれにせ よ客先を出て“すぐに”というわけにはいきません。結果として、常に最新の情報が登録されていないということになります。試合が終わってからサインを出す 監督がいないように、営業管理者も対策が可能なうちに手を打てる仕組みが必要です。 最後に案件管理に表計算ソフトを使う場合に発生する問題を列挙してみましょう。しかし、これもいたしかたないことです。なにしろ、表計算ソフトはCRMの ために作られたソフトではないのですから。

Excelによる案件管理の課題

  • 案件情報の全社共有が難しい
  • 顧客視点での複数案件の管理が難しい
  • 案件情報のリアルタイム更新が難しい
  • 案件情報の一元性の保持が難しい
  • 案件情報の精度の維持が難しい

図4:Excelで案件管理を行う場合発生する主な問題点

図4:Excel で案件管理を行う場合発生する主な問題点

なぜCRMを使った案件管理に価値があるのか

それでは、CRMを活用した本来の案件管理とはどういうものでしょうか。案件情報には、実際にはどんな情報を管理すべきなのでしょうか。それを示したのが図5です。

図5:案件情報として求められる多様な内容

図5:案件情報として求められる多様な内容

この図を見ると、表計算ソフトでは管理しきれないことが一目瞭然です。情報の精度、粒度が多様な情報を取り扱うのが営業活動であり、規模の大きい案件を受注できる優秀な営業担当者は、頭の中でこれを整理することができる人でした。

リアルタイムに情報をアップデートができることは、非常に重要です。ビジネスは常に動いており、日々活発に営業活動を展開していく中で、新規の顧客 が追加されたり、案件が追加されたり、既存案件の状況も常に更新されていきます。そのたびにPCの前に座ってソフトを開いて情報を登録・更新していくと いった作業は、忙しい営業担当者にとっては苦痛でしかありません。そしてもちろん、こうした作業は負担となるばかりか、実際の顧客対応などに費やすべき時 間を削ってしまうことにもつながります。

営業活動は難しい仕事です。影響しあう多様で複雑な情報を自動的に整理し、タイムリーに更新し、社内外からの協力を得なければなりません。ビジネス に寄与する案件管理は、こういった要件を満たすものでなければなりません。表計算ソフトは手軽に表を作成できるツールとして、特に日本のビジネスの現場で は広く用いられています。しかし、案件にまつわる多種多様な情報を高度に管理するには、荷が重すぎるのです。