ここまでマーケティングオートメーションについての基本的理解を深めるために市場背景と国内トップベンダー2社の考え方をまとめてきた本連載。(第一回はこちら)今回は、国内外の主要ツールの保有機能を比較し、導入にあたっての選定ポイントについてまとめた。
まず、一覧にした搭載機能の項目を説明するとともに、各ツールの対応状況について整理をしておこう。ここで挙げた機能を理解することで、選定時にどこをポイントとして見るべきか自社の状況に応じて判断する一助になればと思う。なお、以下の文中で色付き表示している機能名は、本ページ掲載の簡易比較表の元となっている詳細比較表(PDFファイル)の中で用いられている機能名となっている。ぜひ、PDFファイルもお手元に開いて同時に参照しながら読み進めていただければと思う。
獲得したコミュニケーションの対象となるリード情報を管理する機能で、これこそがマーケティングオートメーションの1つの核となる。会社名、氏名、 Eメールアドレスなどの管理に加え、必要に応じて管理項目を自由に追加する機能も含まれる。それら管理されている項目を条件としてセグメンテーションする機能、また、その区分条件に対してその時点で該当するリードを抽出する動的セグメンテーション機能についても、今回対象としたすべてのツールに搭載されている。
また、リードに対して管理項目やコミュニケーションへのレスポンスなどを条件として動的に評価付けを行うリードスコアリング/グレーディング機能については、シャノンが近日対応予定とのことだが、これも各社対応している状況だ。ただ、今回詳細は記載していないが、評価軸が単数なのか複数持てるのかについては各社の考え方や実装方法によって差が出ている。
サイト閲覧行動トラッキングは、タグを入れたWebページの管理リード による閲覧を可視化する機能だが、これもすべてのツールに搭載されている。この閲覧履歴をベースに前述の動的セグメンテーションやスコアリングを行い、そ れをトリガーにメール送信を行うなど、まさに、マーケティングオートメーションの要となる機能の1つと言えるだろう。
今回の比較表においてはいくつかの機能をオンラインマーケティングと括って整理をした。まず、リードジェネレーションの入口、また、リードナーチャリングのコミュニケーションパスとして必須となるランディングページ/フォームページの 制作/設置機能。これはページの作りやすさやデザイン自由度の差はあれど各社対応している。1つ導入時に確認すべき点としてはモバイルへの対応だ。これに ついては、PC用とモバイル用とを分けて対応するタイプとレスポンシブデザインになっているものなどがあるが、各社、対応状況はまちまちとなっている。
ページに来訪した相手に応じてコンテンツを動的に出し分けるダイナミックコンテンツに ついても各社の対応が充実してきている。HubSpotがこの夏のイベントで当機能をコンテンツ・オプティマイゼーション・システムとして新たに発表を行 うなど、これまで実装の難易度からEメールに偏ることの多かったコンテンツのパーソナライゼーションが大きく進歩してきている。
複数パターンのコンテンツを出し分けて効果検証を行うA/Bテスト機能については、標準機能での対応については、国内勢が国外勢に少し出遅れている感じだ。
オンラインマーケティング機能群の中では、SEO機能とPPC広告管理機 能について、各社の対応に差が出た。導入の際には、統合管理される必要があるかについてしっかりと見極めたい。ただ、PPCなどのオンライン広告への対応 については、標準機能として無かったとしても、そこからの流入用フォームを別に用意することで、ツール内で見分けるなどの対応は各社可能となっている。
マーケッターにとってマーケティングコミュニケーションの中核を担うのはやはりEメールとなる。今回比較項目として取り上げた5つの機能については各社対応状況に大きな差はなかった。
認識しておきたいポイントとして1つあげておくと、Eメール配信の専用ツールだと、トリガーベース自動送信の 実現に手間がかかるという点。Eメールに対するレスポンスをトリガーにした自動配信は当然可能だが、それ以外の、サイトの閲覧、フォームでのコンバージョ ン、データ項目の更新などを起点としてメールを自動的に送信できることはマーケティングオートメーションの大きなメリットと言える。
この機能によってより相手に即したコミュニケーションの実現が図られる。
ソーシャルメディア関連の機能については国内外で大きく差が出た。登録したキーワードでソーシャルメディアの投稿を検索して一覧化するソーシャルリスニング機能では国内勢0社、リスニングしたポストへの応対も含めたソーシャルメディア投稿機能では国内勢1社のみが現時点で対応しているという状況だ。ただし、海外勢についても投稿できるソーシャルメディアは各社で違いがあり、導入時には自社の見込客/顧客が利用しているメディアへの対応状況や対応予定について確認をする必要がある。
ツールを通じて制作/設置するWebページにTweetボタンやいいね!ボタンを簡単に設置できるソーシャルシェアリング機能については対応しているツールが多い。また、そこでどれだけの数がポスト/シェアされたのかまでレポートできる機能も大半のツールに付属している。
上記3つの機能以上に、マーケティングオートメーションとして統合されていることでメリットが大きいのが、ソーシャルメディア上で公開されているプロフィールや投稿を、管理しているリードと一体的に管理できるソーシャルプロファイリングの 機能だ。機能の統合が進んでいるものでは、ソーシャルへのポストをトリガーにしたメール送信が可能なツールもある。マルチチャネルでのコミュニケーション の1つにソーシャルが完全に組み込まれた状態だ。自社の顧客層のソーシャル浸透度によっては大きなメリットとなるだろう。
マーケティング施策を管理するキャンペーン管理機能については、各社がキャンペーンというものをどのように捉えているかでその機能に差が出ている。MarketoやSynergy360では、各キャンペーンに投入した予算管理まで出来る機能も搭載されており、統合ツールとしての利便性を高める工夫をしている。
マーケティングオートメーションが、統合環境となっていることで得られる大きなメリットの1つに、分析/レポーティングが各種施策やコミュニケー ションチャネルを超えて横断的に行えることがある。別々のツールを使って各種施策を実施/管理している場合、各々からExcelにデータをエクスポートし て、それらを結合させて、グラフにしてPowerPointに貼り付けて・・・と非常に手間の掛かる工程をいつでもパッと確認が出来る環境が手に入るの だ。レポートから得られた示唆をすぐに実行中の施策や次の施策に反映することで、PDCAサイクルをクイックに回す。この効果は大きい。
基本的なレポーティング機能は当然のことながらすべてのツールで対応している。見せ方などは好みによる部分もあるが、各社ともにグラフィカルな表示など工夫をしている。また、後工程である商談管理と連携して、計上された売上との対比でROI分析をする機能を備えたツールもある。
今回比較対象としたツールは日本語でのページ制作やEメール送信についてはすべて対応しているが、操作画面のユーザーインターフェイスの日本語対応状況については差が出た。国内勢はもちろんだが、海外勢では1社Act-Onだけが日本語UIを用意している状況だ。ただ、おそらくこの先、日本でのユーザー拡大に合わせて対応してくるツールは増えるだろう。
リードのアクションや項目変更などをトリガーにしてツール内で他のアクションを自動起動できるワークフロー/アラート機 能についても対応しているツールが多い。これは例えば、"一定のスコアを超えたリードが出た場合に営業担当者に対して「状況確認の電話を入れろ」とのア ラートを配信する"、"あるページを閲覧したリードについて特定のセグメンテーションに加える"などの利用がある。いずれもオートメーションと呼ぶに相応 しい機能である。導入した際にどう活かすかをイメージして選定にあたって欲しいと思う。
ユーザー管理については、ツール利用者に対して使える機能に制限を付け るものだが、これは各社とも対応している。Eメール等の自動送信設定を出来るのは限られた人だけにすることや、社外のデザイナーやライターにコンテンツ制 作の権限だけを付与するといった使い方がある。自社で想定されるユーザーに付与したい権限区分に対応しているかどうかは確認しておきたい。
マーケティングオートメーションは統合環境とは言え、使い方と使い道によっては不足する機能などが出てくる。そんな時にAPI提供が なされているかどうかは重要なポイントになる。もちろんAPIが提供されていても、実際に他のツールと連携して使うためには一定の開発が必要になることは 頭に入れておくべきだろう。このAPIを使って連携できるツールを提供するマーケットプレイスを用意しているベンダーも増えてきた。また、APIを用いた 開発なしに後工程であるCRMインテグレーション標準対応が自社で利用中の環境と統合できるかも大きな確認ポイントになろう。
導入選定をする上で費用というのは1つの大きなポイントになってくる。今回比較表の中では、初期費用と年間利用料とを整理した。まず、初期費用につ いてだが、表に書かれたツールとしての費用の他に社内で利用するための準備、具体的には、社内での役割分担、マーケティング施策展開プロセスの策定、ツー ル利用方法のレクチャーなどを外部の支援のもとで行うのであればその分の費用は必要になってくる。場合によるが、数十万円から数百万円というのが相場だろ う。
また、利用料については、課金体系が各社異なるが、基本は、ツール内で管理するリード数がベースになっていることが多い。リード数が増えると共に利 用料金が上がっていく形だ。これに加えて、利用できる機能によって料金が変わるものも多い。その中で、ミニマムの構成で利用した際の料金を記載した。また 合わせて、2万件のリードを管理して基本的な機能を使う場合の金額をモデル価格として掲載した。リード数が増えると1件あたりの単価が下がるツールもある ため一概には言えないが、各社の金額感についてはこれで大凡つかんでもらえるかと思う。
なお、導入と活用に際しては、ツール以外にかかる費用についても考えておきたい。例えば、ツールとしての初期費用はかからずとも、社内にツールを導 入して利用できるようにするための準備や社内での取り決めなどに工数がかかる。また、環境が整っても使いこなすためにはアドバイスやガイドが必要になるだ ろう。ツールを提供している各社やそれらの代理店などが、付帯サービスとして、これらの導入と活用支援サービスを提供しているので、社内プロセスが安定す るまでは、外部の力を借りるというのもいい選択肢だろう。
今回の比較対象は市場で一定のシェアを持ち自らをマーケティングオートメーションのプレイヤーと位置付けているところから選定した。当然、他にもプ レイヤーはたくさんいる。例えば大手では、IBMとAdobeがいる。この2社は外部から買収した製品群を統廃合して自社の製品群としてラインナップして いる。価格帯としては今回とりあげたものよりも高額だ。
また、自社製品をマーケティングオートメーションとはうたっていないが、統合的なマーケティング環境を提供しているプレイヤーは国内にもまだいる。例え ば、トライコーンのKriselやパイプドビッツのSpiralなどだ。他にも、今回とりあげたSynergy!LEADのようにSalesforceの 機能を使いながら不足機能を補うというアプローチをしているツールとして、Potential UnitedのPotential Finder! などもある。
今回取り上げたツールも含め自社のニーズに適合しているという観点と、進化していくマーケティングの手法や考え方を先行して機能として取り入れユーザーである自社を導いてくれるという観点の両面で評価検討をすることをお奨めしたい。
なお、今回一覧表に記載した内容については、2013年8月時点で、各社のWebサイト等に公開されている情報、各社への調査/聞き取り等を通じて 収集されたことをベースにしている。調査に協力いただいた各社にこの場を借りて御礼申し上げるとともに、内容に不備などある場合には筆者宛にご連絡をいた だきたくお願い申し上げる。
[追記 2013年9月13日]
記事公開時に一部不適切な内容が含まれていたため記事内容の一部を削除/変更いたしました。関係各位にご迷惑をお掛けしましたことお詫びいたします