国内ベンダーに聞く 株式会社シャノン

マーケティングコミュニケーションを行うチャネルが非常に多岐に渡ってきている現在、それらを統合的に管理するために もマーケティングオートメーションが注目されている。そんな中で、マーケティングオートメーションについての理解を深めることを意図した本連載。第三回目 となる今回は、マーケティングの統合プラットフォーム製品を提供している株式会社シャノンの中村社長に話しを聞いた。

ツールの選択ではなくマーケティングとして何をすべきかを考えて欲しい

自社のツールをマーケティングオートメーションと宣言している株式会社シャノン。彼らが提供するSHANON MARKETING PLATFORMは、機能が充実した統合型のマーケティング環境となっている。創業当初からセミナーやイベントの管理に特化したツールを提供し、その分野 ではトップの座を持っていたが、創立10周年の節目であった2010年に現在の統合型フルスイートへの移行を発表。それ以降、着実に機能を追加し、顧客数 も増やしている。そんな同社の代表取締役最高経営責任者 中村健一郎氏に話しを聞いた。

尾花)中村さんにとってマーケティングオートメーションの定義とはなんですか?

中村)マーケティングオートメーションといえば、 Eloqua*1とかMarketo*2が世界標準で代表格です。彼らのツールには、いろいろなメソッドやプロセスを自動的に流すような、まさにオート メーションと呼べる機能がきちんと入っている。あえて定義するなら、それらの自動化機能が入った統合型マーケティング環境とでも言いましょうか。

ただ、日本の場合は、そういったトリガーベースで自動的に動く機能が搭載されているツールは少ないというのが現状です。そもそも、日本でマーケティ ングをやっている人たち自体が、オートメーションというところにまで仕組みやプロセスを落とし込めていないし、実際にやりたいと思っている人も、今の時点 では多いわけではない。

マーケティングオートメーションによって実現可能なことをお話すると興味を示してくださる方もいらっしゃるのですが、そこまで皆さんピンときていないというのが現実だと感じています。

*1 Eloqua:米オラクル社に買収された元マーケティングオートメーション専業ベンダー

*2 Marketo:NY市場に上場しているマーケティングオートメーション専業ベンダー

尾花)しかしそんな中で御社は、自社の製品を「マーケティングオートメーション」と明確にうたわれていますよね。その意図はどこにあるのでしょうか。

中村)明確にそう言っているのは国内では弊社ぐらいだと自覚しています。我々はマーケティングオートメーション推進というスタンスを変えず、これをひとつのジャンルとして仕上げていこうという方向性を持っています。

日本では複数のファンクションを横断的に作ろうとしているマーケティングツールベンダーがあまりなく、メールやソーシャルの個別ツールベンダーが多 いと感じています。しかし、お客様側に立って見ると、あれこれツールを使い分けるというのは非常に難しい状態です。日本は、デジカメにしろ、携帯電話にし ろ、オールインワン製品が多いですよね。それなのにマーケティングツールはオールインワンになっていない。マーケティング用のツールもオールインワン化し て、日本で受け入れやすくする努力を我々がしないといけない。

お客様には、どのツールを選ぶかではなく、マーケティングとして何をするかということを課題の中心に据えていただき、我々も一緒に考えていく。これを実現するために、我々はベンダーとしてマーケティングオートメーションを追いかけています。

ツールごとの個別最適ではコミュニケーションの成果が損なわれる

尾花)統合環境が大事だということですよね。今、何かマーケティ ング施策をやりたいと思った時、やることによって相談するベンダーの選択肢がほぼ決まってくる。それはベンダー側がマーケティング手法ごとに縦割りで専業 化しているから。そこが提唱する手法を用いて、そこが持っているツールを使って施策を実行することになる。これに対して、一番下のツールやシステムといっ た部分が統合されるようになると、いろいろと変わってくるでしょうね。

中村)結局、手法ごとにツールを提供して、ツールごとに最適化さ れているんです。マーケティングはコミュニケーションなので、本来はそれぞれのやり方でバラバラにやっていたら相乗効果は生まれにくい。ごく一部のお客様 は「各論ばかりになってしまっているのはだめだよね」っておしゃっていますが、それに気付きにくいのが現在の環境なんです。こうした現状を、何とかしたい と考えています。

バラバラのツールでは、データだって活用しづらい。例えば、「イベントやセミナーで接点があり、直近3ヶ月のメールをクリックし、且つウェブサイト でこの新製品のページを何秒か見てくれている人をリストアップして、連絡してみましょう」とか、言うだけは簡単ですけれど、皆さんとてもそんなことはでき ないんですよね。なので、総当たり的に電話をしたり、メールも一律だったり、となってしまい狙った成果が出しづらい。

尾花)例えば、営業担当者がお客様を訪問した際に、どのお客様に 対しても同じことしか言わないかといったら、そんなはずは絶対に無いわけです。ただ新人の営業担当だとお客様が何を振って来ても似たような話しかできな い。仮に、メールで全ての相手に対して一律な内容を送信しているとしたら、新人のようなコミュニケーションになっていますね、と。

中村)おっしゃるように、営業が行う個別対応になるべく近づける というか、いくつかの、明らかな成功パターンには少なくとも対応していく、という方向だと思っています。コミュニケーションはきめ細かい方がいいに決まっ ていますから。ある程度セグメントしたターゲットにコミュニケーションをとったことがあるマーケティングの担当者であれば、データの活用をした方がいい と、分かっていらっしゃると思います。

マーケティングにはヒトやカネといったリソースが必要だとの認識が乏しい

尾花)では何故そこに行けないのでしょう。やろうと思っても出来ないのか、やろうとしていないのか。

中村)やろうとはされているのではないでしょうか。けれど、大き くは踏み出せないでいる。マーケティング的なことに取り組もうと思って体制を作り、とりあえず2、3人を配置したものの、大きな予算はつけられない。何が できるかも分からない中で「まずはとにかくやってみろ」となっている。

例えば、「予算は無いのですが何とかしてください」みたいな相談もあります。そういう場合には、我々がお客様の上層部に直に掛け合って説明をし、予 算を捻出していただくんです。その点では、企業規模感がある会社さんの方がその他の予算を少し削っただけでも、ある程度の予算額ができやすいので、取り組 みやすいということはありますね。小さな会社さんの場合だと、100万円の予算では難しすぎますし、1000万円でもまるごとやろうとしたら結構大変なの で。今、やるにはまだしんどいかなという気はします。

尾花)マーケティングはツールがあっても、ツールの費用に乗っかってくるヒト・モノ・カネのリソースが社内外いずれにしても必要で、しかもある程度大きいですからね。

中村)そう、そこが相当大きいわけです。それなのに、お金をかけ なくてはいけないということをあまり分かってもらえていないケースはまだ多いと感じています。結果、現場としては苦しみながらも妥協的なやり方をすること になり、成果につながらない、故にお金もかけられないという悪循環に陥る。

お客様からの相談で成果が出ないと言うので、どのような状態か見てみると、メールであれば読んでいる人は全然楽しくないような内容であることも多 い。相手のためでなく、「自分たちが言いたいことを言っているだけ」という内容になっている。「相手のことを考えてちゃんとやろう」と、簡単に言えばそれ だけの話なんです。手間暇やお金を惜しまずに、きちんとやれば一定の結果は必ず出るんです。

「株式会社シャノン 代表取締役社長 最高経営責任者 中村 健一郎氏」

「株式会社シャノン 代表取締役社長 最高経営責任者 中村 健一郎氏」

営業の持つ商談数を安定させるためのニーズが高まるとの読み

尾花)中村さんが今のマーケティングオートメーションという方向感を持たれたきっかけというのはあったのでしょうか。

中村)私は、SFA、CRMが広がってきたからこそ、そのプロセ スの前段階としてマーケティング的な話が出てきていると考えています。営業プロセスが管理される中で、マーケティングもコントロールしていかないと営業の 商談数が安定しないということが多くの企業で理解されるだろうと。

こういうことは、我々としては2006~2007年ぐらいからイメージしていました。ただ、外向けに発信するには早すぎると思ったので、社内だけで 将来像を共有していました。そして世の中で注目される頃には、平然と「以前からやっていました」と言える状態を作っておこうと。

後発であった我々は戦略として、特定分野で一番をとることが重要だと考えていました。そこで、外向きのメッセージとしては、セミナー・イベントの リーディングカンパニーをアピールしていこうとしました。ただ、社内では「セミナー・イベントの専門家として定着してしまったら身動きがとれなくなるので はないか」など賛否両論ありました。でも私たち自身が自らのマーケティング戦略を描き、それを実現していこうと思っていました。

尾花)ここ直近の1年を振り返って御社の新規顧客を分類する場合、セミナー管理用に導入する企業と、リード管理やマーケティング管理の統合環境が欲しいといった企業、両者の比率はどうですか。

中村)狙い通りに後者が多くなっています。ただ、オートメーションツールとしての全体整備はまだまだ十分ではないので、今も頑張って開発を行っている状況です。

マーケティングオートメーションの機能を拡充していく過程では、世界的に見ても現在は無い様な特徴をもったマーケティングオートメーションを実現していきたいと思っています。誰もやらないからこそ、この分野をやるべきだと思っています。

尾花)セミナーを主軸としていた時代に貴社製品を導入した企業は、今どれくらいセミナー管理以外の機能を使っている、もしくは使えるようになってきているのでしょうか。

中村)そうですね、いい質問ですね(笑)。まだ半分もいかないと思います。順番にセミナー以外の活用方法をご案内している段階ですね。ただ最近新しく増えているお客様は、最初からセミナーだけではない方が多くなっています。

尾花)新しいユーザーの事例が従来からのユーザーの意識を変えていくような流れが出てくるかもしれないですね。

中村)そうですね。ただ統合環境として使ってもらうためには、弊 社の営業や、その他のスタッフも、もっとマーケティング全体を把握している人間が増えていかなければいけないと考えています。面白い事例はいっぱいあるの ですが、今は公開するのを控えています。会社全体でその水準を期待されると、なかなかお応えできないこともあるので。特定のお客様にご提供しています。

マーケティングオートメーションの本格普及は2015年

尾花)最後に伺いたいのですが、マーケティングオートメーションが本格普及する時期についてはどうお考えですか。

中村)2015年位には、当たり前になってくるんじゃないかと 思っています。今は「やっている会社ってどこにあるの?」という感じですけれど、その頃には「結構やっている会社ってあるけど、うちはどうする?」と現実 的な検討をしている会社が増えているのではないかと思います。もしくは、ある程度の会社では「この部分は導入しているけど、別の部分ではまだなんだよね」 くらい。

コミュニケーションは、チャネルごとだと思うので。例えば一番やりやすいウェブでは入れているけど、代理店や店舗系チャネルはまだ、といったことは あるかも知れない。同じように発展していったクラウドの現在のように、より多くの選択肢が広がってくるのはもう少し先かもしれませんが。

尾花)そんな2015年、SHANON MARKETING PLATFORMの導入企業数はどれくらいになっているんでしょう。

中村)導入企業数ですか。1000社程度ではないでしょうか。

尾花)現状の倍ぐらい……シャノンが倍にしかなっていないのに、日本がそんな(当たり前の)状態になりますかね。

中村)(笑)我々のお客様は大企業様が多く目立つ企業様が多いと 思っていますので、そこが「やっていますよ!」というと、一般的にトレンドさをうみだせると思います。そう考える根拠として、お客様からこれまでにはな かったタイプの引き合いや相談が自然発生的に出ているという現状があって、それは大きく変わって来たかなと感じています。今までですと、向こうからそんな 話題が出るのは、よっぽど精通している方くらいしかありえないことでしたが、最近では現実的に「こういうことができるらしいって聞いたんですけど」という のが時々あって、本格的に普及に向かっている雰囲気は出てきている気がしています。

ただ、「マーケティングオートメーションをやる」って腹をくくっているベンダーが日本にはあまりいないので、どちらかというとベンダー側が心折れずにやり続けることが大事だと私は信じています。提供する側がきちんと継続して、水準をあげていくことが大事だろうと!

対談を終えて―

マーケティングオートメーションが必要とされる時期は必ず来ると考え、そこに先行するために、まずは誰もやっていないセミナー管理でイチバンをとっ ておく――マーケティングサービスベンダーとして自社のマーケティング戦略について自信を持って話しを出来ることは利用する企業からしても1つの選択材料 になるだろう。セミナー管理ツールの会社から本格的なマーケティングオートメーションベンダーへの挑戦はこれからが本番になるだろう。日本のマーケティング業界の発展のためにも更なる成長を期待したい。