イギリス発――ソーシャルネットワーキングの快進撃には衰える気配すら見られない。 Facebook は今や 9 億 1000 万人(※ 2012年4月21日 時点) を超えるアクティブユーザを擁しているし、その半数は毎日のようにログインしている。コンシューマ (一般消費者) の間で火が付いたこの現象は、現在、ビジネスの世界で急速に勢いを増している。
国際的にワークスペースサービスを展開するリージャス社の最近の調査によると、米国の企業の 43% がソーシャルネットワーキングを利用して新規顧客の獲得に成功を収めており、その割合は前年度の調査より 8% 増加しているという。その他の重要な調査結果として、米国企業のうち推定 50% が Twitter を利用して既存顧客と交流し、繋がりを持ち、情報を提供しているという事実が述べられている。
そのレポートによれば、ソーシャルメディアがマーケティング戦略において果たす役割が大きくなっているということを米国国内企業の 69%、グローバル企業の 74% が認めており、ソーシャルネットワーキングは、「あると便利なもの」から「必要不可欠なもの」へと完全に変化しているという。
ソーシャルメディアのテクノロジーを最も熱心に導入しているのは米国国内の中小企業であり、その増加率は加速している。 MerchantCircle による 2011 年度第 1 四半期の中小企業業況判断指数 (Merchant Confidence Index) では、米国国内の中小企業のうち、現在 Facebook でプロモートを行っている企業は 70% に上ることが明らかになった。
英国国内の中小企業は急速にそれを追い上げている。セールスフォース・ドットコムが最近行った調査では、中小企業の 47% がすでにソーシャルネットワークやソーシャルメディアを利用して見込み客や顧客と交流を持っているという。それを取り入れることがビジネスにおいて喫緊の 課題で、さもないと取り残されてしまうという意識が急速に広がりつつあるのだ。
また、「触らぬ神に祟りなし」的文化は英国の中小企業コミュニティから消えつつある。ソーシャルネットワークを全面的に禁じている中小企業はわずか 15%、そして 37% はいかなる制限も設けていないと述べている。
中小企業のほとんどは、ソーシャルメディアが顧客や見込み客に訴えかけ、ビジネスに抱く情熱を共有し、オンラインの評判や他者とのかかわりを構築す る大きな機会であることを認識している。それと同時に「押し売り」的営業はしていないことをはっきりさせる必要がある。そんな企業は、たちまち「友達リス ト」から外されてしまうのが常だ。
中小企業の中には、同じオーディエンスに同じセールスメッセージを何度も繰り返すという過ちを犯すところもある。個人でも企業でも、そのようなことをすればすぐに飽きられてしまい、そのオーディエンスを効果的に遠ざけてしまうことになる。
また、どのメッセージをオフラインにしておくべきかについて敏感でなければならない。B2 Business Hub のプログラムディレクター、Dave Sumner Smith は「企業は対話のすべてを公開するべきではありません」と言う。「セールス案件が具体的に進みはじめたら、企業はそれをメールや電話で、あるいは直接会っ て、フェイストゥフェイスの対話に持っていくべきです。つまり、ある程度の臨機応変さが必要だということです。一般的には、一定のガイドラインは設けなけ ればなりませんが、中小企業はスタッフに、顧客の問題にはソーシャルメディアツールを通じて対応することを奨励したほうがいいでしょう」。
全責任がマーケティング部門に残るなら、会社の同意が必要になるため、メッセージは不可避的に即時性を欠いてしまうだろうし、ソーシャルメディアネットワークには不可欠な「新鮮さ」を失いかねない。
そしてまた、ソーシャルネットワークは巨大なリスニングプラットフォームでもある。業界のトレンドについてだけでなく、さらに重要な、競合他社や自 社についての評判も、速く簡単に知ることができる。Twitter の検索ひとつで驚くような見識ある意見を見つけることもできる。ただし、セールスの「広告塔」ではなく、あくまでリスニングのツールとして使えばの話だ が。
Capital Business Media のマネージングディレクター、Richard Alvin は、「マーケティングやプロモーションのためにソーシャルメディアツールを利用することを重視する人はいくらでもいますが、顧客や見込み客と交流し彼らの 意見を聞くことを重視する人はあまりに少ないのです。Twitter が、時として対話による双方向的な交流の手段としてではなく、広告ツールとして使用されています」と指摘している。
ソーシャルメディアを採用する中小企業は、時としてビジネス戦略もソーシャルメディア任せでよいのではないかという誘惑に駆られることがある。それ は大きな誤りだ。ビジネス戦略は常に最初に来るものだ。組織はソーシャルメディアを、市場における信用を構築し、セールスを生み、よりよいカスタマーサー ビスを提供するのを手助けしてくれる、ビジネス戦略を遂行する手段として利用するべきなのだ。
Alvin はこうも言っている。「ソーシャルメディアネットワーキングやそのサイトは、マーケティングツールとして使われるにせよ、知名度を上げたり顧客と交流した りする手段として使われるにせよ、結局は使う者の知識や自覚や技能に依存するものです。ソーシャルメディアの導入の割合は高く、急速に上昇してはいます が、ソーシャルメディアの戦略や戦術にまだまだ改良の余地を残している企業も少なくありません」。
ソーシャルメディアへ移行する前に、企業は基本的なマーケティングの原則に立ち返る必要がある。自分たちのブランドや伝えようとしているメッセージを理解する必要がある。そして、必ずそのメッセージを首尾一貫したものにしなければならない。
さらに、自分たちがターゲットにしているオーディエンスは誰なのか、目標とするマーケットは何なのか、そのために現在どのようなツールを用いているのかということをはっきりさせておく必要がある。
これらの重要な要素を用いて戦略を決定しなければならない。そうすれば、ソーシャルメディアは、逆に、それを遂行するためのツールとなりうる。
ビジネスで優位に立つには、特定のソーシャルメディアサイトにアカウントを作成するだけでは不十分だ。まずはあなたの企業にとってふさわしいメディアを選び、そしてただフォローがついてくれるよう期待するのではなく、フォローを作るよう努力しなければならない。
Sumner Smith は指摘する。「企業間での取引 (B2B) をしていてソーシャルメディアの予備知識をあまり持たない企業は、LinkedIn のアカウントを取り、フォロワーを獲得することから始めるのがよいでしょう。自社の製品、ブランド、ビジネスのグループやファンページを開設したり運営し たりして、コンタクトたちとアンケートや投票の結果をシェアすることで、このサイトは中小企業に多くの恩恵をもたらすでしょう」。
ロンドンで HRM Coaching Ltd のマネージングディレクターと SME Academy のディレクターを務める Hannah McNamara はこう言う。「例えば、専門サービスを持つ組織が見込み客にコンサルタントの複合パッケージを売ろうとするなら、1 ツイート 140 字という制限がある Twitter では不十分かもしれません。ですが、宣伝が比較的率直な、セールス重視の組織にとっては、 Twitter はおそらくもっともうってつけのメディアなのです。結局、どのメディアがいいかはコンテクスト次第としかいいようがありません」。
企業は、特に B2B で取引をしているときは、自分たちが活動している特定のネットワークの力に意識的でなければならない。自分たちのオーディエンスにふさわしいサイトを選ば なければならない。たとえば Facebook でコミュニケーションを取っているなら、オーディエンスが Facebook をプライベートな場としてよりもビジネスコミュニケーションのメディアと見なしているという前提が必要である。
Sumner Smith は LinkedIn で関連グループやサブグループをいくつも作り、関連のあるソースからのコンテンツを提供し、双方向性のツールを追加することによって、1 年で 1 万人のコミュニティを作り上げることに成功したと報告している。
役に立つテクニックはまだある。Facebook をあなたの企業の Web サイトに統合すれば、訪問者はそこからあなたの企業をフォロー/ライク (「いいね!」) することができる。Web サイトに訪問者用の入力フォームを設けているなら、そこで Twitter ID も記入してもらい、彼らをフォローすることができる。結局、コミュニケーションのアプローチにおいて受身でいるよりも先を見越した行動を取れば、あなたの オンラインビジネスコミュニティは繁盛するということだ。
ソーシャルメディアを使った双方向性の対話に関して中小企業が得るもっとも大きな利益は、中小企業はコミュニケーションにおいてより身軽になれると いうことだ。中小企業はソーシャルメディアをよりクリエイティブな方法で利用することが可能だ。中小企業は、より機敏に決断を下すことができるし、同業の 大企業よりも迅速にコンテンツの承認を得ることができるので、ソーシャルメディアをよりクリエイティブな方法で利用し、ビジネスの中で実際にソーシャルセ リングカルチャーを育てることができるからだ。
だから大企業が Twitter のようなツールを限定的なオファーのプロモートに利用しがちなのに対して、中小企業はより機敏にトピックベースのニュースの一覧にリンクすることができ る。たとえば中小企業ならその日のニュースに即座にオファーのリンクを張って、サイトの閲覧を促し、セールスにつなげることができる。これが大企業になる と、ステークホルダーの承認を得るまでに多くの関門をくぐり抜けなければならならないため、そのようなことは困難だろう。
ニュースに便乗できるこの対応の速さこそが中小企業の利点であり、それは顧客にとっても同じことだ。企業はまた開催中のイベントをブログで紹介する こともできるし、ブログを利用することで最新のホットなトピックや問題を正確に把握し、自社をその分野のエキスパートとして確立することもできる。
McNamara はこう指摘する。「オンライン上で個人性を生かしたブランドアイデンティティを発展させる工夫をするにも、中小企業のほうが有利です。どんなコミュニケー ションにも個人の双方向的側面が不可欠です。人々は Twitter で、企業のロゴが入ったページよりもずっと、担当者の写真が掲載されたページと交流を持ちたがるものです」。
一方、従業員がブログやつぶやきやコメントを投稿する前に会社の判断を仰がなければならないなら、個人の批評的感覚はあまりにも薄められ、当り障りのないものになってしまうだろう。
中小企業にとって、ソーシャルメディアは大きな利益をもたらしうる反面、そこには軽率な企業にとって数多くの落とし穴が存在することも忘れてはなら ない。市場には無数のデマが飛び交っている。「ソーシャルメディアのエキスパートとか権威者を自称する輩は大勢います」と Sumner Smith は言う。「そういう連中からは距離を置くべきです。市場はあまりに速く変化しているので、この分野で正真正銘のエキスパートと呼べる人間はそうたくさんは いません」。
中小企業は、このような自称スペシャリストの言うことを聞くよりは、米国の同業他社がソーシャルメディアからさまざまな恩恵を得るために用いた戦術を研究するべきだ。
最近の研究によると、英国企業はソーシャルメディアの受け入れという点で米国の企業に後れを取っているという。事実、調査会社の Meltwater と Loudhouse Research が『Communicate Magazine』誌上で発表した研究では、ソーシャルメディアを「毛嫌い」しているとされる会社は、米国ではわずか 5% なのに対し、英国では 24% に上り、多くの課題が残されていることを物語っている。
今日のビジネスに見られるもっとも重要なトレンドのひとつは、CRM システムが次第に「ソーシャル化」し、企業がソーシャルネットワーク上で見込み客や顧客と交流を持つことが容易になっていることだ。もしあなたがたがコン タクトデータベースを持つ中小企業なら、次の一歩はそれをソーシャルネットワーク上の関連データと結び付けることだ。そのことが回りまわって、企業がコラ ボレートしたり書類をシェアしたりさまざまなプロジェクトで協力したりといったことの助けになるだろう。
かつて中小企業のマネージャーは、重要なセールス案件のための特別セールスチームを結成するのに、専門知識や特殊技能を持つ人材を探し求めて貴重な 時間を浪費していたものだ。だが現在、連絡先や業績、専門分野、職歴が書かれた従業員のビジネスプロファイルを利用することで、このプロセスは非常に簡単 になった。
また、状況をアップデートすれば、リアルタイムのアラートにより、重要なタスクや業務に関する情報が同僚に自動で通知され、結果として二度手間を防 ぐことができる。これらの機能を使いファイルをシェアしつながりあうことで、プロジェクト周辺の補足的な背景、商談やカスタマーサポートの実例を提供し合 うこともできる。
このようなすぐ利用できるようカスタマイズされたアプローチを使って、ソーシャルメディアの機能を既存のインフラにまとめることが、中小企業にとってさらに容易になっており、このことは、より小規模な企業のあいだにもこのアプローチの導入を促すのに役立っている。
これまでソーシャルメディア導入を妨げてきた主要な障壁のひとつは、企業がセールスやマーケティングのキャンペーン、プロモーションの計画などの成 功を測定できる明確な指標がないということだった。フォロワーやライクやコメントの数はどれもわかりやすい方法だが、ソーシャルで一定数のフォロワーを獲 得するまでには時間がかかることもある。
より慎重な組織は、Radian6 のようなツールを使い毎日何億もの書き込みを取得して「シェア・オブ・ボイス (SVC)」を測定している。その情報をもとに、ある特定のトピックについての会話のレベルやいま話題になっている企業を測定するのだ。
今日、ソーシャルメディアは中小企業にとって非常に重要なものになっている。商談を円滑にし、顧客との親密な関係構築 (カスタマーエンゲージメント) を推進するそのポテンシャルに惹かれ、中小企業は次第にこのテクノロジーを導入するようになっている。見識ある中小企業はソーシャルメディアを利用して同 業の大企業と同じ土俵で立派に張り合っている。中小企業はいま、リアルタイムの全社コラボレーションを推進する、独自のソーシャルメディアのツールを発展 させつつある。
しかし、まだ課題は多い。中小企業がソーシャルメディアのポテンシャルを最大限引き出そうとすれば、その使用は首尾一貫したビジネス戦略に基づいた ものでなければならない。効果的なソーシャルメディアは、セールスメッセージを広めるための単なる道具ではなく、エンゲージメントに至る道でなければなら ない。
それでも、私たちはいま、ソーシャルメディアに対する中小企業の態度が革命的に変化するのを目の当たりにしている。それらの企業はソーシャルメディ アが持つ潜在能力に注目し始めている。この取り組みが勢いを増せば、ますます多くの中小企業がこの新しいアプローチに方向転換し、その成果を得ることだろ う。対話をリードしたければ、上記7項目の提案に従ってみることはよい出発点になるのではないだろうか。
B2 Business Hub プログラムディレクター
Dave Sumner Smith は現在 B2 Business Hub のプログラムディレクター。同時に WordZone Ltd. のオーナーでもある。彼は中小企業 32 万 5000 社からなる B2 Business Hub の中心人物だ。The Sunday Times Enterprise Network と Telegraph Business Club の中小企業部門で 14 年の経験を持つ。
Capital Business Media マネージングディレクター
Richard Alvin はロンドンとニューヨークにオフィスを持ち、ビジネスメディア、出版、リサーチ事業を展開する企業、Capital Business Media のマネージングディレクター。
同社は英国を代表する月刊ビジネス雑誌『Business Matters』、国際的なファンド・マネージメントのマルチメディア雑誌『Fund Manager Today』および『Angels』を擁し、個人ベンチャー投資に興味を持つ個人富裕層向けに投資を楽しむライフスタイルを提案している。
HRM Coaching Ltd マネージングディレクター、SME Academy ディレクター
Hannah McNamara はセールスおよびマーケティングに、国内外企業での上級管理職を含む 15 年以上の経験を持つ。クライアント側とエージェンシー側両方での勤務経験を有する。公認マーケット担当者。英国公認マーケティング協会会員。優れたマーケ ティング指導者として各種展示会やイベントで講演活動を行う。
現在 Accountancy Age、TrainingZone、STV の Web サイトに寄稿しているほか『Marketing』誌の特集記事に取り上げられ、BBC からもインタビューを受けている。
翻訳: 辻村永樹 (Eiju Tsujimura)