ソーシャルメディアは、今やマーケティングミックスには不可欠の要素となっていますが、お粗末なキャンペーンを展開すると、大きな失敗を招く可能性があります。 ソーシャルメディアに取り組むのであれば、デジタルな世界での企業の顔にふさわしい、人当たりが良く、熱意を持ったメンバーを集めてチームを編成する必要があります。
このチームは企業の顔として機能します。メンバーの選定は慎重に行う必要があります。 重要な点は、「チームとして機能する」ことです。緊密で一体感のあるチームは、個人プレーに走るスター選手を集めたチームよりも、常に高い成果を上げるものです。 企業は、事業の成長のために試行錯誤を重ねることになりますが、その一方で、成果の出ない取り組みにリソースを浪費することは避けなくてはなりません。
では、具体的にはどう手を付ければよいのか。順を追って見ていきましょう。
旅行に出かけるとき、どこに行きたいかが決まっていなければ話は始まりません。 ソーシャルメディアへの取り組みもこれと同じです。 ソーシャルメディアチームには、企業のニーズを反映した目標、目的が必要です。
ソーシャルメディアチームによって何を実現したいのかを見きわめます。 セールスファネルの上層にあたる潜在顧客に企業をアピールしたいのでしょうか? 広告を使って売上の増加を図りたいのでしょうか? たとえば ASOS 社のファッション通販サイトでは、Twitter や Facebook を活用して、お勧めのファッションを紹介したり、フォロワーが特定の時間帯に特定の商品を購入した場合に割引を適用したりして、セールスを強化しています。
ソーシャルメディアを活用して、カスタマーサービスをすばやく提供したり、顧客どうしが製品やサービスについて語り合うための場を設けたりすることもできます。 たとえば、Dell 社では、複数の Facebook アプリケーションを使って先進的な取り組みを進めています。 同社の Facebook ページでは、顧客は Dell 製品を評価したり、技術的な質問に答えてもらったりすることができ、幅広く Dell ブランドに触れられるようになっています。
比較的規模の小さな企業も、ソーシャルメディアを使ったキャンペーンで大きな成果を上げています。その一例が Moonfruit 社です。 同社では Dell 社と同じように、Twitter や Facebook をカスタマーサービスのチャネルとして活用していますが、 設立 10 周年の際に、MacBook Pro 10 台をプレゼントするというキャンペーンを Twitter 上で開催しました。 ユーザは Twitter で同社のアカウントをフォローし、#moonfruit というハッシュタグを付けてツイートすることで参加資格を得られます。 結果、同社はトレンドトピックのランキングで第 1 位を獲得し、エントリーは 1 日で 20 万件に達しました。
もし、ソーシャルメディアチームによって何を達成したいのかが明確になっていなかったなら、今紹介した 3 社は、これほどの成果を上げられなかったでしょう。 さて、目標や目的が決まったら、次はポリシーを定める番です。
ソーシャルメディアチームが活動を開始する前に、ソーシャルメディアに関する企業ポリシーを策定する必要があります。 ポリシーを策定すべき第一の理由は、ソーシャルメディアでの PR の不祥事を防ぐということです。たとえば、良識を欠いた社員が強い不快感を与えるツイートを行うことなどが懸念されます。 また、それほど重大とは言えなくとも、ソーシャルメディアポリシーを策定すべき理由はほかにも数多く存在します。
社員には、ソーシャルメディアのチャネルで取り上げる話題として何が適切で何が適切でないかをきちんと理解してもらう必要があります。 不快感を与える投稿は当然禁止すべきでしょうが、ほかにも、ライバル企業の不幸をあげつらうコメントを禁止する、業界関連の話題についてソーシャルメディアチームのメンバーが個人的な意見を述べることを認める、といった規定が必要になるかもしれません。 あるいは、政治的な問題について個人の見解を表明するのはご法度だが、今食べている自社のフローズンヨーグルトについてツイートするのは大歓迎といった指針を示すことが求められるかもしれません。 禁止する話題と認める話題を具体的に明示する必要があります。常識がガイドラインとして機能しない場合もしばしばあるからです。
ソーシャルメディアチームが投稿で使う文体や言葉づかいについての指針も示しておくとよいでしょう。 たとえばファッションブランドでは、すぐれたものを表現するときに「ヤバい」「イケてる」といった言葉を使うことが効果的な場合もありますが、その一方で、軽薄だとみなされる場合もあります。
中小企業などでは、ソーシャルメディアチームのメンバーに各自のふだんの言葉づかいで投稿することを認める場合もありえます。社員を身近に感じてもらうことで、小さな会社ならではの心のこもったサービスを提供しているという点をアピールできます。 一方、ソーシャルメディアキャンペーンの文体やメッセージに一貫性を持たせたい場合は、スタイルを決めておくとよいでしょう。 どちらの路線を採用するにせよ、混乱を避けるうえで、ポリシーを設けておくことは必要です。
盛り込む内容を検討する際には、Web 上のリソースも参考にしてください。ソーシャルメディアポリシーで取り上げるべきポイントや、ポリシーの実例などが公開されています。
最後に、もう 1 つ忘れないでいただきたい点は、ソーシャルメディアポリシーは生きた文書であるということです。 一度作成したらそのまま放置するのではなく、テクノロジーの変化などに応じて必要な修正を加え、常に最新の状況が反映されているようにしてください。
目的が明確になり、ソーシャルメディアポリシーの策定が完了したら、次はいよいよチームの編成です。
ナイル・ハービソン氏
"社会性があって相手のことを理解できる人物を求めます。データを把握して分析する力も重視します。"
もっとも大切なのは、チームのメンバーがソーシャルメディアに情熱を抱き、かつ、愛社精神を持っていることです。 また、社内で進行中のビジネスプロセスと緊密な連携を図りながら行動できる人物である必要があります。何らかの課題が発生した場合に、それが前向きなものであれ招かれざるものであれ、適切な部署でただちに対処できるようにするためです。
このあとは、ソーシャルメディアチームで通常必要とされる役割をご紹介します。なお、1 人の社員が複数の役割をこなせる場合もあります。 また、すべての役割が必要かどうかは、目標や目的に応じて変わってきます。
リサ・バローン氏
"情熱とやる気にあふれた人材を探してほしいと思います。必ずしも、経験が豊富で資格をたくさん持っている人物が適任ということはありません。 情熱は、周囲に伝わっていくものです。"
「デジタルネイティブ」世代の社員
おそらく、デジタルネイティブを社内で見つけるのは簡単でしょう。 彼らは、さまざまなソーシャルメディアに参加し、たいていはブログも持っています。フォロワーを見つけたり増やしたりする方法や、ほかのユーザとの接し方を心得ていますし、ソーシャルメディアがもたらすメリットもその限界もわかっています。 自分が楽しんでいる活動を通じて企業のプロモーションに貢献できるのですから、ソーシャルメディアチームでもっとも積極的なメンバーになるでしょう。
こうした人物はあらゆる部門で見つかる可能性がありますが、人当たりがよく話し好きな人が多いはずなので、マーケティング、広報、IT、Web などの担当者をあたってみるのがよいでしょう。
選定のポイント
- Twitter、Facebook、LinkedIn などのソーシャルメディアを積極的に利用している
- Digg、Reddit などのソーシャルニュースサイトを愛用している
- 個人のブログを開設している
コーディネーター
コーディネーターは、ソーシャルメディアに関する活動が事業の方針に適合しているかを把握する役割を担います。 質問、会話、リード情報、問題点などを、しかるべき部門にできるかぎり速やかに伝えることが求められます。 各部門の代表アドレスにメールを送るのではなく、ベストの対応を行える担当者に直接話を持ちかけることができなくてはなりません。そのため、組織の状況をすみずみまで理解している必要があります。
質問を誰に伝えればよいかは後から学べるため、この点をクリアしているかどうかは選定の条件にはなりません。 重要なのは、オーガナイザーとして卓越したスキルを持っていることです。コーディネーターは、課題が生じたらただちに対応し、問題が未解決のまま放置されることがないようにしなくてはいけません。また、ソーシャルメディアの活動に関与しつつ、日々の業務もこなしていく必要があります。
選定のポイント
- 社内の各部門で、多くの社員の状況に通じている
- 任せた業務は確実に遂行するという評価を得ている
- 組織的な調整を図りながらプロジェクトを進める力がある
コミュニケーター
コミュニケーターは、顧客やユーザとのコミュニケーションを担当します。 ファンやフォロワーとチャットする機会は、おそらくチームのどのメンバーも持つはずですが、コミュニケーターは、企業として伝えるべきメッセージを把握し、それらをうまくまとめて適切なタイミングで伝えられなければなりません。 コミュニケーションのプロフェッショナルとして、親しみやすくオープンで、落ち着きのある態度が求められます。特に、相手が感情的になっている場合などにそうした資質が重要になります。
お客様窓口や広報の担当者の中から、常に落ち着いて対応ができ、伝えるべきことを確実に伝えられる能力を持った人材を探します。
選定のポイント
- 文章によるコミュニケーションスキルが高い
- 顧客に質の高いサービスを提供することに情熱を持っている
- 困難な状況の中でも落ち着いて対応できる
製品担当者
製品担当者は、顧客からの問い合わせに迅速かつスムーズに回答するうえで重要な役割を担います。 多くの顧客は、質問やクレームを企業に伝えたいときにソーシャルメディアサイトを利用します。企業の顔であるページに、製品の質問が未回答のまま放置されているのは由々しき事態です。 本来、顧客と接する機会を持つ社員は、自社の製品について詳細に理解しているべきですが、 現実にはそれを徹底させるのは難しく、そこで、さまざまな問い合わせに答えられる人材が必要になります。
製造、販売をともに手がけている企業の場合は、製品開発チームから適任者を探します。そのほかの場合は、お客様窓口など、顧客対応を行っている部門の担当者をあたります。
選定のポイント
- 自社が販売する製品、サービスを熟知している
- 問題解決のスキルに長けている
アナリスト
アナリストは、データの追跡、分析、統計についての知識を持った人物です。 ソーシャルメディアに関する取り組みの ROI を示すために追跡すべきデータを把握し、チームの目標の達成状況を Web 解析の結果にもとづいて提示できなくてはなりません。 アナリストは、達成状況の追跡の前提となるベースラインと指標の決定に携わるため、チーム立ち上げの段階に不可欠な役割であると言えます。しかし、そこで終わりではありません。 戦略や手法の有効性は、データを追跡して評価することによって検証されます。したがって、他のメンバー同様、ソーシャルメディアチームの成功に向けて積極的に関与します。
クリスティ・ボルシンガー氏
"データがなくては評価のしようがありません。 分析、評価の担当者がチームにいれば、目標を常に意識しながら計画を進めることが可能になりますし、チームの活動の価値も証明できます。"
アナリストは、財務やマーケティングなど、事業の金銭的価値を評価することに精通している部門から登用するとよいでしょう。
選定のポイント
- 分析のスキルに長けている
- 具体的なデータにもとづいて判断を行える
以上の役割は、特定の役職に就いている特定の人物でないと務まらないということはありません。 人材は、社内のさまざまな部門から見つかる可能性があります。 ソーシャルメディアチームのメンバーとしての役割を任せられる適任者は、その役割と類似性の高い職務を担っているケースが多いはずですが、選定にあたって、所属部門の職務との対応をあらかじめ考慮する必要はありません。
ランド・フィッシュキン氏
"多くの場合、ソーシャルに長けた人物は、広報、コンテンツ、マーケティングなどの部門で既存の企業カルチャーにもとづいて仕事をしてきた他のメンバーに学びながら、ソーシャルチャネルを効率的に運用して発展させていくことができます。"
とはいえ、ソーシャルメディアとの関係が特に深い部門はいくつか存在します。そうした部門の動きは、ソーシャルメディアチームの活動にダイレクトに反映させることが必要です。 この後は、ソーシャルメディアチームに担当者を参加させることが望ましいと考えられる部門について取り上げます。
多くの企業がソーシャルメディアへの取り組みを通じて目指しているのは、売上を増やし、社内にソーシャルセリングのカルチャーを確立するということです。 ソーシャルメディアに取り組む目的は企業によってさまざまで、潜在顧客に企業をアピールする、自社のすぐれた製品やサービスを知らしめる、ブランドの愛用者が交流するための場を提供するなど、多岐にわたります。しかし、ソーシャルメディアで収益を上げるという最終的な目標はすべての企業に共通しています。 したがって、営業部門の人材をソーシャルメディアチームに加えるのは理にかなった判断だと言えるでしょう。
営業部門からチームに参加するメンバーには、自分の仕事は売り込みのツイートを四六時中投稿することではないという点を理解してもらう必要があります。 ソーシャルメディアで大切なのは人と人との交流です。相手のことには触れもせず、自分たちの会社やブランドがどれだけすばらしいかをひたすら語り続けるようでは、見向きもされません。 彼らの役割は、ソーシャルメディアからセールスに関する問い合わせが寄せられたときにきちんと対応することです。
ソーシャルメディアのファンやフォロワーには、企業が今取り組んでいることや、新しい製品やサービスに関する情報を随時伝えることが必要です。これにより、顧客のことを気にかけているという印象を与えられます。 こうしたソーシャルなカスタマーエクスペリエンスを提供するにあたっては、マーケティング部門、広報部門、カスタマーサービス部門などで展開しているそのほかの活動との間にギャップが生じないように目を配る必要があります。
さらに重要なのはスピーディーな対応です。多くの顧客は、カスタマーサービスに問い合わせたいことが出てきたときや、特定の事柄に対する企業の見解を知りたいと思ったときには、まずソーシャルメディアを利用します。 ここで対応が遅れると、「無視された」、「裏切られた」という印象を抱かれてしまうことになりかねません。
ブログ、フォーラム、高機能な Facebook アプリなど、ソーシャルメディアのプラットフォームの中には、成果を最大化したり問題点を修正したりするうえで IT 部門のサポートが必要になるものがあります。 IT 部門からの人材がチームに参加していれば、こうした対応もスムーズです。ソーシャル分析やソーシャルメディア戦略の実装に役立つ適切なツールを選択してセットアップしたり、更新をすばやく実施したり、技術的な問題を解決したりすることが可能になります。
前に取り上げたポリシーの場合と同様に、ソーシャルメディアチームの編成で考慮すべき点についても、多くの有益なリソースが公開されています。
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