現在では、メタバースが現実のものになっています。「メタバース」という言葉は 1990 年代の SF 小説で初めて登場しましたが、現在は 2024 年までに 8000 億ドル(英語)という市場規模に成長することが予想されています。メタバース市場により、これまでの常識が大きく変わる可能性があります。すでに多くの企業が、この新しいデジタル分野での地位を確立するための取り組みを始めています。
メタバースにおけるEコマースビジネスはどのようなものになるのでしょうか。企業はこの革新的な変化にどのように対応すればよいのでしょうか。この記事では、いくつかのアイデアを紹介します。
デジタルファーストの取り組みにより、ヘルスケア、製造業、小売業など、さまざまな業界で変化が起きています。その結果、これまでデジタル空間と物理空間を分けていた境界線があいまいなものになっています。リモートワークの増加(英語)に伴い、Zoom や Slack などのツールを使用する社員が増えています。実質的に、これらのツールによる仮想空間が「業務用メタバース」になりつつあります。
デジタルツールの普及により、安全で柔軟な方法で簡単にコラボレーションできるようになり、場所に関係なく仕事ができるようになりました。米国における昨年のソーシャルメディアの平均利用時間は 1,300 時間(英語)でした。子供たちは、対面ではできないゲームをオンラインでプレイ(英語)できるようになりました。メタバースの登場により、物理空間とデジタル空間との関係がより緊密なものになっていくことが予想されます。これからは「フィジタル」の時代です。
"メタバースの登場により、物理空間とデジタル空間との関係がより緊密なものになっていくことが予想されます。これからは「フィジタル」の時代です"
メタバースにおけるEコマースビジネスの最も分かりやすい事例は、ファッションのデジタル化です。すでに多くの企業が、バーチャル試着室(英語)などの VR ショッピングエクスペリエンスを活用して、コンバージョン率の向上と返品率の低下に取り組んでいます。また、デジタルスキン(オンラインゲーム内のアバターで使用するバーチャルな衣服、アクセサリー、化粧品のアドオンのこと)の年間売上額は 400 億ドル(英語)になると見られています。
現在はデジタルファッションがゲーム以外の分野にも広がっているため、多くの人がデジタルファッションをきっかけとしてメタバースに足を踏み入れることが予想されます。カジュアルな T シャツやジーンズから高級衣料品まで、どのような衣服でも簡単にバーチャルグッズに変換することができます。アバターにも衣服が必要になります。多くの人が、どのような場所でも自分自身を表現したいと考えています。その場所がメタバースであっても同じです。メタバースに参加する人は、自分のアバターに個性的なバーチャルウェアを着せてアバターをカスタマイズするようになります。
マスマーケット企業とラグジュアリーマーケット企業の両方が、すでにメタバース分野に参入しています。昨年は、若者向け衣料品ブランドの Pacsun 社(英語) が Roblox プラットフォームを活用してメタバース分野に参入し、Z 世代へのアプローチを開始しました。Pacsun 社は現在、Roblox アバターマーケットプレイスでデジタルアイテムの販売を行っています。また、最近になってゲーム開発スタジオの MELON とパートナーシップを締結し、ソーシャルエクスペリエンスやミニゲームの開発にも取り組んでいます。
"ファッション業界は、世界で最も大きな業界の 1 つです。そのため、さまざまなアパレルブランドがメタバース分野に参入した場合、それに伴って多くの消費者がメタバースを利用するようになることは間違いありません。"
ハイファッション市場も、メタバースの普及を促進しています。3D のバーチャルワールド「Decentraland」が、3月末に初めてのメタバースファッションウィークを開催しました。バーチャルなショー、ストア、イベントで構成されています。ファッション業界は、世界でも最も大きな業界の 1 つです。そのため、さまざまなアパレルブランドがメタバース分野に参入した場合、それに伴って多くの消費者がメタバースを利用するようになることは間違いありません。
メタバースは、単に小売企業がデジタル商品を販売する場所というだけではありません。メタバースは、カスタマーエンゲージメントを促進し、物理的な製品を補完する没入型エクスペリエンスを作り出す方法でもあります。すでに多くの企業が、VR ショッピング体験で今後のコマースビジネスを促進する方法を模索しています。
Acura 社は自動車メーカーとしては初めて、2022年3月にメタバース内にバーチャルショールーム(英語)をオープンしました。このショールームでは新型インテグラが展示され、レーシングゲームをプレイしたり、アーティストの Wannerstedt 氏による新しいアパレルコレクションを楽しんだりすることができます。このようにメタバースは、魅力的なショッピング体験を新しい方法で消費者に提供するための機会に満ちています。
"既成概念にとらわれない企業は、自社の価値をデジタル技術で表現することによって競争力を高めていきます。"
80% の消費者が、「企業が提供するエクスペリエンスは、製品やサービスと同じくらいに重要である」と回答しています。メタバースの普及に伴い、消費者が求める新しいエクスペリエンスを提供する必要性も高くなります。ここで重要なのは、「既成概念にとらわれない」ということです。既成概念にとらわれない企業は、自社の価値をデジタル技術で表現することによって競争力を高めていきます。
メタバースは、自宅にいながら VR ヘッドセットやパソコンを使用して買い物をするだけの手段ではありません。これからの小売企業は、実店舗でメタバースをお客様に提供することになります。革新的な企業は、NFT 展示会(英語)などの方法により、実店舗内で AR(拡張現実)体験を試験的に提供しています。
メタバースはまだ始まったばかリです。この新しい分野に参入する企業は、「テストと学習」という考え方を理解する必要があります。靴が 1 足売れるたびに靴を 1 足寄付するという取り組みを行っているアパレルブランドの TOMS 社は、店内仮想現実(英語)という方法で、自社の価値観をお客様にアピールしています。来店者は VR と 360 度の映像を通じてペルーに移動し、「仮想寄付旅行」に参加することができます。
メタバース戦略を成功させる鍵は、革新的な新しい方法でお客様との長期的な関係を構築し、お客様に提供する価値を高めることです。お客様を最優先しながら、メタバースを活用してコミュニティを育成する企業は、大きな成功を収めることができます。
Gary Brandeleer は、Salesforce のプロダクトシニアディレクターとして Web3 に関する取り組みを行っています。以前は、Salesforce Field Service という急成長製品に関する業務を担当し、Johnson Controls 社では、戦略的な取り組みを中心にさまざまなポジションを経験しました。